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【五ノ章】納涼祭
短編 護国に捧ぐ金色の風《本編 第三話》
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「──以上が先刻発生した強盗事件の概要になります。強盗犯は身柄を捕らえて、現在は地下牢に繋げていますのでご安心を。……ああ、こちらが尋問して得た情報をまとめた書類になります。ご確認よろしくお願いします」
冒険者ギルドの事務室。上長や班長といった幹部級の役職に就いた方々に緊急で集まってもらい、その前で自警団の人員として淡々と報告。
犯人、被害者、日時、場所、その後の対応。どれも文句の付け所が無いのか、誰も彼もが首を縦に動かし納得しているようだった。
「拝見します。…………なるほど、犯人は以前にも問題行為で摘発された事例を持つ冒険者だった、と」
「ぬぅ……強盗犯の顔に見覚えがあるぞ。確かギルドの厚生支援制度を受けていた者ではなかったか?」
「何ヶ月か前、話題に上がっていた気がしますね。課題や指導を真面目にこなした為、異例の速度で冒険者業に復帰した、と。……結果がコレでは、報われませんね」
手渡された書類を回し読みしながら、口々に残念そうな反応を見せる職員たち。
強盗犯が前歴持ちだというのは周知の事実だったらしい。だが、当人の口から魔が差したという発言が出た辺り、心の根底には仄暗い部分が残っていたのだろう。
罪を一度清算した上で、再犯してしまった以上厳罰は免れない。野放しにすることでまた被害者を増やすくらいなら、いっそのこと切り捨てて然るべき所へ放逐する……その判断を下せないほど、冒険者ギルドは軟弱ではない。
「俺に出来るのはここまでです。後はお任せしても?」
「うむ。そちらとこちら、双方が納得できるように取り計らおう。感謝するぞ、少年」
「恐縮です。では、失礼します」
臨時団員としての立場で長居するには座りが悪い。顔見知りの職員がいないし、居るだけ邪魔になってしまう。
治安と秩序を守る為に提携しているとはいえ地元の勢力と外部の勢力に変わりはないから、妙な目で見られることも多い。
表立った華やかさもあれば、裏に隠していたい淀みもある。例えばギルドであれば、人員不足による超過密過労確定の業務形態とか指摘されると痛い部分だ。
色んな目線から色んな組織を見ていく内に、自然と対応も決まっていく。不確定で不安定、何を見知って何を言い出すか分からない存在を警戒するのは当然。
そんな俺のような複雑で入り組んだ立ち位置の奴が何人もいるとは思えないが……とにかく、今日はこれが最適だ。
けれども、だからこそエルノールさんは俺に事件の調査を依頼したのだろう。
『まあ、堅苦しい時間は終わったんだし、ここからは俺なりにやらせてもらうか。ってかあの人、情報の共有とか何もしてくれなかったんだけど? マジで断片的な話から捜査しろってこと? 泣けるぜ……』
『多忙ゆえ、忘れていたのかもしれんな。もしくは汝を信用しているからこその判断、という可能性もある。もしくは先入観を持たせない為に、か』
『真っ白なジグソーパズルを枠組み無しで、一つのピースだけ与えるから残りは探して完成させろって言われてるようなものだよ? そりゃあ、聞かなかった俺も悪いけどさ……安請け合いしちゃったかなぁ』
張り詰めた空間から脱出できたこともあってか気が緩み、ため息を吐いてレオに愚痴る。
西へ傾いた日差しが入る通路を進み、ギルドのエントランスへ出れば、出迎えるのは冒険者たちの喧騒。
『調べるべきは違法武具に関して。どんな性能や見た目をしているのか、副作用や反動による被害はどれほどか……押収物でも見れば一発でアタリはつく。だけど……俺にはまだ親方ほどの正確さは無い。漠然と、浮ついたイメージ程度しか読み取れない』
『そこは専門知識と研鑽の目利きを持つ汝の師に任せればよい』
『うん、そうだね。となると、次に目を付けるのは──被害者の関連性。……加速度的に発見件数が上がってきていても、ギルド職員の間にそういった話が出回っているようには思えなかった』
併設された酒場がもたらす饗宴を流し見て、自警団の腕章を外す。
元々自警団のパトロールは午前中で終わる予定だった。突発的にエルノールさんの暴挙に巻き込まれたせいで長引いてしまったが。
『依頼の受注対応をしてる受付係ならまだしも、内々で事務作業ばかりしてる幹部連中には知る術も興味も無いんだろうね』
『世知辛いものだな。所詮は他人事、という訳か』
『だけど、逆説的に言えば幹部連中の耳にすら届かない、届かせる必要のない些事だとも捉えられる。つまりは、話題にも上がらない程度の怪我や損傷……ありふれた普遍的な被害なんだ』
腕章をポケットに仕舞い、カウンター席に近づく。察して注文を取りに来たウェイトレスの一人に果実水を頼む。
にこやかに笑みを浮かべ、厨房へ消えていく後ろ姿を見送り、カウンターを背もたれにして酒場を俯瞰的に観察する。
『特別な症状でないとするなら、探るのは厳しいのではないか? ごく日常のものだと流されて終わりだ』
『どうかな。違法武具の大体は当人に足りない能力を補完する為に魔力へ干渉し、身体に障害を引き起こす。過剰な魔力供給だったり命に関わる魔力欠乏……それらが招く魔力回路の暴走は、はっきりと目に分かる。何せ本人の意志に関係なく励起し、発光するからな』
『……そうか。些細な引っ掛かりさえあれば、そこから情報を得られるのか。自警団の網から漏れ出た被害者がいるかもしれん。ハズレだとしても、紐づいた秘密の一端を知ることが出来る』
納得したレオの言葉を聞き流し、意識を、感覚を拡げる。
屋内の反響。水面のように広がる音の羅列。目と耳、視覚と聴覚に押し寄せる膨大な情報量。
綺羅星や深華月のように。流れてくる荒波の中心に立ち、ただ向かってくる事象を見つめる。
日々の愚痴を漏らす冒険者の荒々しい声。グラスを振り被った腕や身体に異常は無い。
遠巻きに眺めながら近づかないようにするギルド職員。ため息混じりの雑談は日常的な物だ。
依頼を受けに来た同学年の学生冒険者のパーティ。希望に満ち溢れた表情が曇らないように願う。
どれもこれもが有象無象だ。気に掛けるようなものでは──おや、あれは?
拡大した意識と感覚が一点に収束する。
ギルドに入る扉。そこから来た若い見た目、新品同様の装備を身に着けた男性冒険者。
周りの目を気にしつつ腕を隠しながら歩く姿は不審そのもの。加えて、わずかに覗かせた光芒は魔力回路によるものだ。
その足で右往左往している彼は近場にいたギルド職員……クラス適性鑑定士の下へ。
恐らく直近で親身にされ、頼りにするべき人だと思ったのだろう。冒険者になったばかりの者なら必ずお世話になる相手だからだ。
しかし、かなり深刻そうな顔で話をしているな……助け船を出すか。注文していた果実水を受け取り、代金とチップを支払ってから向かう。
「すみません、ちょっとお話を伺ってもいいですか?」
「えっ、誰……?」
「っ、クロトさん!?」
冒険者の方は当然の困惑を見せ、顔見知りであるシエラさんは驚きの声を上げる。
ひとまず二人を落ち着かせて詳しい内容を……聞く前に、まずは治療しておこうか。
◆◇◆◇◆
「す、すげぇ。あんなに酷かったケガが治った!?」
「すみません、クロトさん。お手数をお掛けしてしまって」
「気にしないでください。偶々仕事も終わって休憩していた所なので……それより、魔力回路の励起が治まらないなんて珍しいね。何かあったのか?」
「いやぁ……自分、見て分かる通りぺーぺーの冒険者なんすけど、あんまり戦闘が得意じゃなくって。一応クラスは《ファイター》っつう近接担当なんすけどね。んで、いっつも身体能力を魔力で補強してるんすけど……」
「長時間強化し過ぎて戻らなくなった、とか? 俺、魔力量が低いから分からないんですけど、そんなことあるんですか?」
「《ファイター》などの近接クラスは魔力の扱いが不得手になる事例はありますが、ここまで露骨には現れませんよ」
「やっ、違うんすよ。最近、魔力の流れを補助する装身具ってのが流行ってて、それ使えば強化の恩恵をもっと得られるんすよ。腕輪みたいな形で物自体は結構高くて、迂闊に手が出せなかったんですけど仲間内でカネ出し合って買って……」
「装身具──それを貴方が使ってた?」
「うっす。んで、迷宮探索が終わってしばらくしたら装身具がいきなり壊れたんすよ。バキッとかいって土みたいに砕けて! 折角買ったのに!? なんて残念に思ってたら着けてた腕の魔力回路が急に燃えるように熱を持ち始めて! ポーション飲んでも治らねぇし金欠だから病院も行けねぇし……」
「結果、どうすりゃいいか分からんくなって冒険者ギルドに来た、と。命拾いしたね、放っておいたら魔力が暴走して腕が破裂してたよ」
「うへぇ、怖過ぎる……! 危なかったぁ……」
「というか、そんな不良品どこで売ってたんだ? 正規の商会や武具店で取り扱ってる物なのか?」
「それが……青空市場の露店で商売してたヤツに売ってもらったんで、仕入れ先がはっきりしてないんすよ。俺が出会ったのも相当珍しかったみたいだし、顔とか声も覚えてないし……」
「ははぁ、なるほど。文句を言いたくても会えない輩って訳だ……体の良い金の成る木だとでも思われたのかもね」
「そうなんすかねぇ……とにかく、マジで助かりました! あの、お礼とか何をしたら……?」
「いいよ、そんなに深く考えなくて……運が良かったと思えばいい。でもまあ、あえて言うなら、その装身具とやらに頼らない戦法を考えた方がいいかもね。強力だろうと反動が酷すぎて、今後の冒険者活動に支障が出る」
「冷静に、着実に。一歩ずつ前に進んでいくように、力をつけていくのが最善ですよ。降って湧いたような力で胸を張っても、本当に自分の実力とは言えませんから」
「だよなぁ……うし、分かった! 今日の出来事を反省して次に活かすよ! 仲間に謝らねぇといけないし、今日は帰るっす。ほんとにありがとうございましたぁ!」
「はい、お大事に。…………そんな装身具が流行ってるんだ。シエラさんはご存じでした?」
「何やら近頃、新人冒険者を中心にそういった装備が着けている人が目立つとは思っていました。ですが、あそこまで副作用がある装身具……正規の物とは考えにくいですね」
「ちょっと怖いですね……って、もうこんな時間か。朝から働きっぱなしで疲れたし、俺もそろそろ帰ります。シエラさん、お仕事頑張ってください」
「はい。貴方も気をつけて帰ってくださいね」
『アタリだったね』
『ああ。全てがそうとは限らないが、違法武具の一つは間違いなく腕輪。主に魔力回路の補助と性能を向上させているらしい』
『そして最低限の安全弁とでも言うべきか、証拠隠滅の為にか。使用者もしくは違法武具の限界に到達した途端、自壊するように細工されてる。……エルノールさんが調査してるにも関わらず、著しく進展が悪い理由の一つかもね』
『恐るべきは、成り立ての冒険者間で流通している兆しが見られることか。甘言に流されやすい彼らの性根を利用した悪辣な手法を取っているようだ』
『彼自身、嘘をついているようには見えなかった。青空市場で手に入れたというのは間違いないんだろうが……珍しい割に、普及してるってのは妙な話だ』
『露店市の特性を利用し場所を変え、販売する度に変装しているか、はたまた複数人の体制で取り組んでいるかは不明だな。──次に調査するべきはそこか?』
『ああ。その辺に関して頼れる伝手があるから学園に行こう。確か午後から授業を受けに来るって言ってたし』
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罪を一度清算した上で、再犯してしまった以上厳罰は免れない。野放しにすることでまた被害者を増やすくらいなら、いっそのこと切り捨てて然るべき所へ放逐する……その判断を下せないほど、冒険者ギルドは軟弱ではない。
「俺に出来るのはここまでです。後はお任せしても?」
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臨時団員としての立場で長居するには座りが悪い。顔見知りの職員がいないし、居るだけ邪魔になってしまう。
治安と秩序を守る為に提携しているとはいえ地元の勢力と外部の勢力に変わりはないから、妙な目で見られることも多い。
表立った華やかさもあれば、裏に隠していたい淀みもある。例えばギルドであれば、人員不足による超過密過労確定の業務形態とか指摘されると痛い部分だ。
色んな目線から色んな組織を見ていく内に、自然と対応も決まっていく。不確定で不安定、何を見知って何を言い出すか分からない存在を警戒するのは当然。
そんな俺のような複雑で入り組んだ立ち位置の奴が何人もいるとは思えないが……とにかく、今日はこれが最適だ。
けれども、だからこそエルノールさんは俺に事件の調査を依頼したのだろう。
『まあ、堅苦しい時間は終わったんだし、ここからは俺なりにやらせてもらうか。ってかあの人、情報の共有とか何もしてくれなかったんだけど? マジで断片的な話から捜査しろってこと? 泣けるぜ……』
『多忙ゆえ、忘れていたのかもしれんな。もしくは汝を信用しているからこその判断、という可能性もある。もしくは先入観を持たせない為に、か』
『真っ白なジグソーパズルを枠組み無しで、一つのピースだけ与えるから残りは探して完成させろって言われてるようなものだよ? そりゃあ、聞かなかった俺も悪いけどさ……安請け合いしちゃったかなぁ』
張り詰めた空間から脱出できたこともあってか気が緩み、ため息を吐いてレオに愚痴る。
西へ傾いた日差しが入る通路を進み、ギルドのエントランスへ出れば、出迎えるのは冒険者たちの喧騒。
『調べるべきは違法武具に関して。どんな性能や見た目をしているのか、副作用や反動による被害はどれほどか……押収物でも見れば一発でアタリはつく。だけど……俺にはまだ親方ほどの正確さは無い。漠然と、浮ついたイメージ程度しか読み取れない』
『そこは専門知識と研鑽の目利きを持つ汝の師に任せればよい』
『うん、そうだね。となると、次に目を付けるのは──被害者の関連性。……加速度的に発見件数が上がってきていても、ギルド職員の間にそういった話が出回っているようには思えなかった』
併設された酒場がもたらす饗宴を流し見て、自警団の腕章を外す。
元々自警団のパトロールは午前中で終わる予定だった。突発的にエルノールさんの暴挙に巻き込まれたせいで長引いてしまったが。
『依頼の受注対応をしてる受付係ならまだしも、内々で事務作業ばかりしてる幹部連中には知る術も興味も無いんだろうね』
『世知辛いものだな。所詮は他人事、という訳か』
『だけど、逆説的に言えば幹部連中の耳にすら届かない、届かせる必要のない些事だとも捉えられる。つまりは、話題にも上がらない程度の怪我や損傷……ありふれた普遍的な被害なんだ』
腕章をポケットに仕舞い、カウンター席に近づく。察して注文を取りに来たウェイトレスの一人に果実水を頼む。
にこやかに笑みを浮かべ、厨房へ消えていく後ろ姿を見送り、カウンターを背もたれにして酒場を俯瞰的に観察する。
『特別な症状でないとするなら、探るのは厳しいのではないか? ごく日常のものだと流されて終わりだ』
『どうかな。違法武具の大体は当人に足りない能力を補完する為に魔力へ干渉し、身体に障害を引き起こす。過剰な魔力供給だったり命に関わる魔力欠乏……それらが招く魔力回路の暴走は、はっきりと目に分かる。何せ本人の意志に関係なく励起し、発光するからな』
『……そうか。些細な引っ掛かりさえあれば、そこから情報を得られるのか。自警団の網から漏れ出た被害者がいるかもしれん。ハズレだとしても、紐づいた秘密の一端を知ることが出来る』
納得したレオの言葉を聞き流し、意識を、感覚を拡げる。
屋内の反響。水面のように広がる音の羅列。目と耳、視覚と聴覚に押し寄せる膨大な情報量。
綺羅星や深華月のように。流れてくる荒波の中心に立ち、ただ向かってくる事象を見つめる。
日々の愚痴を漏らす冒険者の荒々しい声。グラスを振り被った腕や身体に異常は無い。
遠巻きに眺めながら近づかないようにするギルド職員。ため息混じりの雑談は日常的な物だ。
依頼を受けに来た同学年の学生冒険者のパーティ。希望に満ち溢れた表情が曇らないように願う。
どれもこれもが有象無象だ。気に掛けるようなものでは──おや、あれは?
拡大した意識と感覚が一点に収束する。
ギルドに入る扉。そこから来た若い見た目、新品同様の装備を身に着けた男性冒険者。
周りの目を気にしつつ腕を隠しながら歩く姿は不審そのもの。加えて、わずかに覗かせた光芒は魔力回路によるものだ。
その足で右往左往している彼は近場にいたギルド職員……クラス適性鑑定士の下へ。
恐らく直近で親身にされ、頼りにするべき人だと思ったのだろう。冒険者になったばかりの者なら必ずお世話になる相手だからだ。
しかし、かなり深刻そうな顔で話をしているな……助け船を出すか。注文していた果実水を受け取り、代金とチップを支払ってから向かう。
「すみません、ちょっとお話を伺ってもいいですか?」
「えっ、誰……?」
「っ、クロトさん!?」
冒険者の方は当然の困惑を見せ、顔見知りであるシエラさんは驚きの声を上げる。
ひとまず二人を落ち着かせて詳しい内容を……聞く前に、まずは治療しておこうか。
◆◇◆◇◆
「す、すげぇ。あんなに酷かったケガが治った!?」
「すみません、クロトさん。お手数をお掛けしてしまって」
「気にしないでください。偶々仕事も終わって休憩していた所なので……それより、魔力回路の励起が治まらないなんて珍しいね。何かあったのか?」
「いやぁ……自分、見て分かる通りぺーぺーの冒険者なんすけど、あんまり戦闘が得意じゃなくって。一応クラスは《ファイター》っつう近接担当なんすけどね。んで、いっつも身体能力を魔力で補強してるんすけど……」
「長時間強化し過ぎて戻らなくなった、とか? 俺、魔力量が低いから分からないんですけど、そんなことあるんですか?」
「《ファイター》などの近接クラスは魔力の扱いが不得手になる事例はありますが、ここまで露骨には現れませんよ」
「やっ、違うんすよ。最近、魔力の流れを補助する装身具ってのが流行ってて、それ使えば強化の恩恵をもっと得られるんすよ。腕輪みたいな形で物自体は結構高くて、迂闊に手が出せなかったんですけど仲間内でカネ出し合って買って……」
「装身具──それを貴方が使ってた?」
「うっす。んで、迷宮探索が終わってしばらくしたら装身具がいきなり壊れたんすよ。バキッとかいって土みたいに砕けて! 折角買ったのに!? なんて残念に思ってたら着けてた腕の魔力回路が急に燃えるように熱を持ち始めて! ポーション飲んでも治らねぇし金欠だから病院も行けねぇし……」
「結果、どうすりゃいいか分からんくなって冒険者ギルドに来た、と。命拾いしたね、放っておいたら魔力が暴走して腕が破裂してたよ」
「うへぇ、怖過ぎる……! 危なかったぁ……」
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「ちょっと怖いですね……って、もうこんな時間か。朝から働きっぱなしで疲れたし、俺もそろそろ帰ります。シエラさん、お仕事頑張ってください」
「はい。貴方も気をつけて帰ってくださいね」
『アタリだったね』
『ああ。全てがそうとは限らないが、違法武具の一つは間違いなく腕輪。主に魔力回路の補助と性能を向上させているらしい』
『そして最低限の安全弁とでも言うべきか、証拠隠滅の為にか。使用者もしくは違法武具の限界に到達した途端、自壊するように細工されてる。……エルノールさんが調査してるにも関わらず、著しく進展が悪い理由の一つかもね』
『恐るべきは、成り立ての冒険者間で流通している兆しが見られることか。甘言に流されやすい彼らの性根を利用した悪辣な手法を取っているようだ』
『彼自身、嘘をついているようには見えなかった。青空市場で手に入れたというのは間違いないんだろうが……珍しい割に、普及してるってのは妙な話だ』
『露店市の特性を利用し場所を変え、販売する度に変装しているか、はたまた複数人の体制で取り組んでいるかは不明だな。──次に調査するべきはそこか?』
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Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
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