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【五ノ章】納涼祭
第一一四話 ささやかな褒賞
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地獄耳なエルノールさんのツッコミを無視して、ルシアに手を引かれグループの輪から外れると、そのまま近場の天幕の陰に移動。
周囲に人目や気配が無い事を確認してから、彼女は力を抜くように息を吐いた。
「ずっと働き詰めだったし、昼間は大変だったし……これでようやく落ち着ける」
「ごめんね、様子を見に行けなくて。でも馴染んでるみたいでよかったよ」
「前にも言ったでしょ? こちらが既に面倒を押し付けてるのに、これ以上の迷惑は掛けられないから」
密談を交わした夜から変わらないスタンスを貫き続ける彼女に感心する。ほんと律儀だなぁ。
今回の件も、彼女本人にも事情があるとしても、暗部組織に身を置いてるとは思えないほどの誠実さとまともな感性だ。
だからこそ特殊な環境に置かれていた《ディスカード》で問題なく過ごせていたんだろうな。
「それで? 助けてくれただけじゃなくて、話があってあの場を離れたんでしょ?」
「うん。色々と報告があるんだけど、簡潔に。一つ目は行方を眩ませていた先行組の一人について」
「シオンが捜索してたよね。何か情報を掴んだ? っていうか、アイツなら既に身柄を捕らえていてもおかしくな──」
「率直に言うと、再開発区画の片隅で死んでたらしい。見つけた時には既に」
「んん!?」
本日二度目となる思いもしない言葉だった。
「魔物の襲撃を捌き切れなかったとか……? カラミティの幹部ともあろう人材が?」
「戦闘が不得意な幹部だっているよ。……発見時の状態、聞いておく? こんな賑やかな場で打ち明けるには心苦しい内容なんだけど」
「一応。でも、ルシアがそこまで言うなんてそんなに凄惨だったの?」
「私が直接見たわけではないし、あくまでシオンから聞いた話だけど。──全身が骨と皮になるまで干からびていた上に、上半身と下半身が引き千切られていたそうよ。血痕すら残さずに」
「惨殺怪死体やんけ」
想像よりも酷い状態だった。ミステリ小説でも中々聞かない死に様だぞ。
しかし干からびて胴体が切られてた、か。妙な殺され方だな。でも俺が知らないだけで、そういう捕食方法を取る魔物がいないとは限らないか。
「もしかしたら、ルーザーが独断で事件を起こしたせいで巻き込まれたのかしれないな。控えめに言って地獄みたいな空間だったし、アイツならやりかねないし」
「……そうだね、ありえる話だと思う。結局、目標だった先行組の生け捕りは叶わなかったし、もう一本の持ち出された魔剣は死体に残ってなかった」
でしょうね、貴女の前にいる男が隠し持ってるので。
「シオンが夜通し探してたけど、自警団の手が回り始めたせいで中断せざるを得なかったみたい」
「異能が使われているならともかく、魔剣だけを探知することは出来ないからね。どうするんだ?」
「さすがに、これ以上ニルヴァーナに居座るのは都合が悪い。シオンも私も顔が割れてるし、特にシオンと因縁のある学園最強……ノエルと再び接触するのはマズい。撤退も視野に入れているけど、かと言って魔剣を放置はできない。だから──」
顔を伏せたルシアが自身の懐へ手を入れて、見覚えのある布の塊を取り出した。
それはカラミティの外套であり、包みを解き、中にある紫色に明滅する細身の魔剣を晒して。
「ルーザーが所持していた魔剣を、君に譲渡する。これが二つ目の報告」
「っ!? なっ、ど、どういう流れで!?」
思わずどもるほど驚いてしまった。いやでも、マジでなんで!? カラミティにとって魔剣を手放すのはかなりの痛手なはずだろ!
困惑する俺を気にも留めず、ルシアは事前に用意していたのであろう鞘に魔剣を納め、手渡してきた。
感じる魔剣の重みとルシアの間で視線を泳がせていると、動揺を察した彼女が今度はデバイスを操作して差し出してくる。
頭に疑問符を浮かばせながらも受け取って、耳に宛がうようにジェスチャーされ、大人しく従えば。
『やあ、久しぶりだねネームレス。いや、クロトと呼んだ方がいいかな』
通話口から聞こえてきたのはカラミティのトップ、ジンの声。
友人と話すような声音と気軽さに、非常に不本意だが一瞬だけ安心感を抱いた。
同時にコイツの悪知恵が原因か……と湧いてきた怒りで通話をぶつ切りしようか迷ったが、ひとまずため息を吐いてから応える。
「呼び方はなんでもいいよ。で、どういう理由で魔剣を俺に?」
『今回の件に関しての謝罪とお詫びを含めた褒賞、といっても過言ではないかな。僕が焚きつけたとはいえルーザーの行動は予想を悪い意味で上回っていた』
「そのせいでロクでもない目に遭ったぞ」
『悪かったよ。……君も聞いているだろうが、ニルヴァーナを機能不全にするのはこちらにとっても本意ではない。密かにファーストとセカンドを送り込み、事態の収束を狙った訳だが……まさか君を協力者にするとは思わなかった』
口調とは裏腹に、今にも笑い出しそうな雰囲気に眉を潜める。
その様子を見たルシアが申し訳なさそうに視線を逸らした。大丈夫、君に対しては怒っていない。
『報告を聞く限り、そちらの迅速な対応によって街の被害も最小限で事件は解決。晴れて大団円……といきたいところだが、こちら側に過失がある以上そう上手い話は無い。君も納得していないだろう?』
「当たり前だ。部下の面倒はちゃんと見ておけよ」
『独断で動かれてしまっては手の付けようが無かったのさ。そんな先行組の三人は亡くなり、挙句に一本の魔剣を喪失。分不相応な行いの果てと言えど、それなりの損失ではある。……僕の判断ミスが招いた結果でコレだよ? まったくやってられないよね』
「言葉の割には嬉しそうだな?」
『順調に進むゲームほど、つまらない物はないさ』
相変わらず、人を消費できる道具としてしか見てない発言だ。
『そこで、だ。せっかく取り戻した魔剣だが、協力者である君への報酬にしようと考えた訳だ。手っ取り早く用意が可能で、功労者への称賛としても十分な代物だからね。金銭で解決しようとも思ったが、些か軽薄に過ぎる……違うかい?』
「闇組織から渡される金なんて怖くて手が付けられないよ」
『真っ当な意見をどうも。後は──カラミティが何故、魔剣を集まているのかも教えておくよ。伝えておかないと公平じゃないからね』
正直なところ今更? と思わなくもないが、純粋に抱いていた疑問が解けそうな情報だ。
気が変わらないように刺激せず、ジンの言葉を待つ。
『魔剣が持つ特殊な能力、異能は人や地形をいとも容易く変えてしまえるほどの力を持っている。しかし実感しているだろうが、単体では程度が知れているし対策が取れれば脅威ではない。真なる価値は、この世界に散在する十二本の魔剣を揃えた時に発揮される』
「真なる価値、十二本の魔剣……」
『その内の六本をカラミティは保有している。いや、現在は四本に減ってしまったか。とにかく全ての魔剣を集める理由としてはそんなところだ。いったいどんな現象が起きるかは……さすがに教えられないな。ネタ晴らしは程々にしておこう』
「肝心なところが何も分からないんだけど?」
『カハハッ!』
コイツ、ゴールが見えていて到着してもタイムが分からないマラソンみたいな表現しやがって。
カラカラと耳障りな笑い声を響かせるデバイスを握り潰したくなる。その衝動を、しかし待て、これはルシアの私物であると言い聞かせ、平静を装う。
「まあ、大体の理由は分かった。疑問に感じてた部分も幾分か解消されたし──結果はどうであれ、お前らに集めさせたらマズい事も、魔剣を失くしたところで支障は起きないって事も理解した」
『ん~、やはり君の推理力は素晴らしいっ! お互いに敵対する立場でなければ常に力を借りたいと思うほどに!』
恍惚とした表情を幻視するほどに喧しい声を遠ざける。
腹立たしい事に、ジンは降って湧いたような幸運を自分の元へ引き込むのが非常に上手いんだな。
復讐に目が眩んでいなければ、ルーザーという拾い物は最高の人材ではあった。豊富な医療知識を持ち、尚且つ適合者なのだから。複雑な事情が絡んで今回の事件を引き起こしてしまったが。
加えて俺と違って“組織の力”を持つジンにとって、魔剣といえど失った所でいくらでも別の補填が効く。人だろうと物だろうと、なんでも。
それに以前から意味深な発言を繰り返しているジンの事だ。俺の持つ特異性──複数の魔剣を扱えることに勘づいている恐れがある。
事実、魔科の国で初めて会った時から頭の回転は早く、察しも良かった。
ルシア達に気取られないように、ゴートどころかレオも使わないように心がけてはいた。しかしアイツは既に把握していて、だからこそ紫の魔剣を提供するなんて判断を下せたのかもしれない。
身内に持たせて変にバラつかせるよりは、奪いやすい一つの点にまとめていた方が楽だし。……俺を脅威の存在と認識してないみたいでムカつくな。
掴みどころの無い飄々とした奴だからこそ、対面での会話でないと裏側を読み取るのは難しいが……そんなところだろう。愉快犯の可能性? それはまあ、捨てきれない。
熟考していると、心配そうにルシアが覗き込んできた。大丈夫、ちょっと機嫌が悪いだけだから気にしないで。
「はあ……ともかく、くれるなら紫の魔剣はありがたく貰っとくよ」
『うむ、ぜひ活用してくれ。……そうだ、ファースト達はもう撤退させるから、行方不明となったもう一本の魔剣も君が探して手に入れればいいよ。もし本当に、紛失しているならね』
含みのある言い方だな。俺がゴートを手に入れていると半ば確信してやがるだろコイツ。
『では、そろそろ失礼するとしよう。あまり時間を取らせては不審がられるからね。──改めて、今回の協力に感謝する』
「はいはい、じゃあな」
迂闊に口を滑らせて情報を取られたくない為、おざなりに言い返して通話を切る。
そして、深呼吸してから暗がりに沈んでいく空を見上げて。
「なんか、アイツと話すの疲れるな……頭が痛くなる」
「すごく分かる」
首を縦に振り共感を示すルシアにデバイスを返し、紫の魔剣を制服の裏ポケットに入れる。
ひとまず伝えておきたい話はもうないらしく、全身に感じる倦怠感を引きずりながら俺達は元のグループの輪に戻った。
「そういやシオンは今なにしてんの?」
「死ぬほど疲れたって通話で言い残した後、音沙汰が無いから隠れ家で爆睡してるんじゃない?」
「偶に顔合わせはしてたけど、ほぼ単独で働きっぱなしだったからなぁ……仕方ないね」
周囲に人目や気配が無い事を確認してから、彼女は力を抜くように息を吐いた。
「ずっと働き詰めだったし、昼間は大変だったし……これでようやく落ち着ける」
「ごめんね、様子を見に行けなくて。でも馴染んでるみたいでよかったよ」
「前にも言ったでしょ? こちらが既に面倒を押し付けてるのに、これ以上の迷惑は掛けられないから」
密談を交わした夜から変わらないスタンスを貫き続ける彼女に感心する。ほんと律儀だなぁ。
今回の件も、彼女本人にも事情があるとしても、暗部組織に身を置いてるとは思えないほどの誠実さとまともな感性だ。
だからこそ特殊な環境に置かれていた《ディスカード》で問題なく過ごせていたんだろうな。
「それで? 助けてくれただけじゃなくて、話があってあの場を離れたんでしょ?」
「うん。色々と報告があるんだけど、簡潔に。一つ目は行方を眩ませていた先行組の一人について」
「シオンが捜索してたよね。何か情報を掴んだ? っていうか、アイツなら既に身柄を捕らえていてもおかしくな──」
「率直に言うと、再開発区画の片隅で死んでたらしい。見つけた時には既に」
「んん!?」
本日二度目となる思いもしない言葉だった。
「魔物の襲撃を捌き切れなかったとか……? カラミティの幹部ともあろう人材が?」
「戦闘が不得意な幹部だっているよ。……発見時の状態、聞いておく? こんな賑やかな場で打ち明けるには心苦しい内容なんだけど」
「一応。でも、ルシアがそこまで言うなんてそんなに凄惨だったの?」
「私が直接見たわけではないし、あくまでシオンから聞いた話だけど。──全身が骨と皮になるまで干からびていた上に、上半身と下半身が引き千切られていたそうよ。血痕すら残さずに」
「惨殺怪死体やんけ」
想像よりも酷い状態だった。ミステリ小説でも中々聞かない死に様だぞ。
しかし干からびて胴体が切られてた、か。妙な殺され方だな。でも俺が知らないだけで、そういう捕食方法を取る魔物がいないとは限らないか。
「もしかしたら、ルーザーが独断で事件を起こしたせいで巻き込まれたのかしれないな。控えめに言って地獄みたいな空間だったし、アイツならやりかねないし」
「……そうだね、ありえる話だと思う。結局、目標だった先行組の生け捕りは叶わなかったし、もう一本の持ち出された魔剣は死体に残ってなかった」
でしょうね、貴女の前にいる男が隠し持ってるので。
「シオンが夜通し探してたけど、自警団の手が回り始めたせいで中断せざるを得なかったみたい」
「異能が使われているならともかく、魔剣だけを探知することは出来ないからね。どうするんだ?」
「さすがに、これ以上ニルヴァーナに居座るのは都合が悪い。シオンも私も顔が割れてるし、特にシオンと因縁のある学園最強……ノエルと再び接触するのはマズい。撤退も視野に入れているけど、かと言って魔剣を放置はできない。だから──」
顔を伏せたルシアが自身の懐へ手を入れて、見覚えのある布の塊を取り出した。
それはカラミティの外套であり、包みを解き、中にある紫色に明滅する細身の魔剣を晒して。
「ルーザーが所持していた魔剣を、君に譲渡する。これが二つ目の報告」
「っ!? なっ、ど、どういう流れで!?」
思わずどもるほど驚いてしまった。いやでも、マジでなんで!? カラミティにとって魔剣を手放すのはかなりの痛手なはずだろ!
困惑する俺を気にも留めず、ルシアは事前に用意していたのであろう鞘に魔剣を納め、手渡してきた。
感じる魔剣の重みとルシアの間で視線を泳がせていると、動揺を察した彼女が今度はデバイスを操作して差し出してくる。
頭に疑問符を浮かばせながらも受け取って、耳に宛がうようにジェスチャーされ、大人しく従えば。
『やあ、久しぶりだねネームレス。いや、クロトと呼んだ方がいいかな』
通話口から聞こえてきたのはカラミティのトップ、ジンの声。
友人と話すような声音と気軽さに、非常に不本意だが一瞬だけ安心感を抱いた。
同時にコイツの悪知恵が原因か……と湧いてきた怒りで通話をぶつ切りしようか迷ったが、ひとまずため息を吐いてから応える。
「呼び方はなんでもいいよ。で、どういう理由で魔剣を俺に?」
『今回の件に関しての謝罪とお詫びを含めた褒賞、といっても過言ではないかな。僕が焚きつけたとはいえルーザーの行動は予想を悪い意味で上回っていた』
「そのせいでロクでもない目に遭ったぞ」
『悪かったよ。……君も聞いているだろうが、ニルヴァーナを機能不全にするのはこちらにとっても本意ではない。密かにファーストとセカンドを送り込み、事態の収束を狙った訳だが……まさか君を協力者にするとは思わなかった』
口調とは裏腹に、今にも笑い出しそうな雰囲気に眉を潜める。
その様子を見たルシアが申し訳なさそうに視線を逸らした。大丈夫、君に対しては怒っていない。
『報告を聞く限り、そちらの迅速な対応によって街の被害も最小限で事件は解決。晴れて大団円……といきたいところだが、こちら側に過失がある以上そう上手い話は無い。君も納得していないだろう?』
「当たり前だ。部下の面倒はちゃんと見ておけよ」
『独断で動かれてしまっては手の付けようが無かったのさ。そんな先行組の三人は亡くなり、挙句に一本の魔剣を喪失。分不相応な行いの果てと言えど、それなりの損失ではある。……僕の判断ミスが招いた結果でコレだよ? まったくやってられないよね』
「言葉の割には嬉しそうだな?」
『順調に進むゲームほど、つまらない物はないさ』
相変わらず、人を消費できる道具としてしか見てない発言だ。
『そこで、だ。せっかく取り戻した魔剣だが、協力者である君への報酬にしようと考えた訳だ。手っ取り早く用意が可能で、功労者への称賛としても十分な代物だからね。金銭で解決しようとも思ったが、些か軽薄に過ぎる……違うかい?』
「闇組織から渡される金なんて怖くて手が付けられないよ」
『真っ当な意見をどうも。後は──カラミティが何故、魔剣を集まているのかも教えておくよ。伝えておかないと公平じゃないからね』
正直なところ今更? と思わなくもないが、純粋に抱いていた疑問が解けそうな情報だ。
気が変わらないように刺激せず、ジンの言葉を待つ。
『魔剣が持つ特殊な能力、異能は人や地形をいとも容易く変えてしまえるほどの力を持っている。しかし実感しているだろうが、単体では程度が知れているし対策が取れれば脅威ではない。真なる価値は、この世界に散在する十二本の魔剣を揃えた時に発揮される』
「真なる価値、十二本の魔剣……」
『その内の六本をカラミティは保有している。いや、現在は四本に減ってしまったか。とにかく全ての魔剣を集める理由としてはそんなところだ。いったいどんな現象が起きるかは……さすがに教えられないな。ネタ晴らしは程々にしておこう』
「肝心なところが何も分からないんだけど?」
『カハハッ!』
コイツ、ゴールが見えていて到着してもタイムが分からないマラソンみたいな表現しやがって。
カラカラと耳障りな笑い声を響かせるデバイスを握り潰したくなる。その衝動を、しかし待て、これはルシアの私物であると言い聞かせ、平静を装う。
「まあ、大体の理由は分かった。疑問に感じてた部分も幾分か解消されたし──結果はどうであれ、お前らに集めさせたらマズい事も、魔剣を失くしたところで支障は起きないって事も理解した」
『ん~、やはり君の推理力は素晴らしいっ! お互いに敵対する立場でなければ常に力を借りたいと思うほどに!』
恍惚とした表情を幻視するほどに喧しい声を遠ざける。
腹立たしい事に、ジンは降って湧いたような幸運を自分の元へ引き込むのが非常に上手いんだな。
復讐に目が眩んでいなければ、ルーザーという拾い物は最高の人材ではあった。豊富な医療知識を持ち、尚且つ適合者なのだから。複雑な事情が絡んで今回の事件を引き起こしてしまったが。
加えて俺と違って“組織の力”を持つジンにとって、魔剣といえど失った所でいくらでも別の補填が効く。人だろうと物だろうと、なんでも。
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ルシア達に気取られないように、ゴートどころかレオも使わないように心がけてはいた。しかしアイツは既に把握していて、だからこそ紫の魔剣を提供するなんて判断を下せたのかもしれない。
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含みのある言い方だな。俺がゴートを手に入れていると半ば確信してやがるだろコイツ。
『では、そろそろ失礼するとしよう。あまり時間を取らせては不審がられるからね。──改めて、今回の協力に感謝する』
「はいはい、じゃあな」
迂闊に口を滑らせて情報を取られたくない為、おざなりに言い返して通話を切る。
そして、深呼吸してから暗がりに沈んでいく空を見上げて。
「なんか、アイツと話すの疲れるな……頭が痛くなる」
「すごく分かる」
首を縦に振り共感を示すルシアにデバイスを返し、紫の魔剣を制服の裏ポケットに入れる。
ひとまず伝えておきたい話はもうないらしく、全身に感じる倦怠感を引きずりながら俺達は元のグループの輪に戻った。
「そういやシオンは今なにしてんの?」
「死ぬほど疲れたって通話で言い残した後、音沙汰が無いから隠れ家で爆睡してるんじゃない?」
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