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【五ノ章】納涼祭
第一一一話 それぞれの裏側
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クロトが気を失い、シルフィとオルレスによって再び救護所へ叩き込まれた後の話だ。
エリック達はクロトへの心配も程々に、呼び出される前に担当していた居住区の復興作業に戻っていった。
抜け出すタイミングを完全に見失ったルシアも同じく、身内の不始末を片付けなくては……という持ち前の善良さが招いた罪悪感から参加している。
なお、実情を知らない彼らから見ればルシアは“完全に巻き込まれた無関係の一般人かつ知り合い”だ。なのに、親身になって行動してくれる彼女に心苦しさや感謝の視線を向けている。
クロトが居なければ繋がるはずもない関係性から生まれた憐憫にも似た感情に、彼女はそこはかとない居心地の悪さを感じていた。
アカツキ荘とフレン、シュメルを巻き込み、芝居を打った張本人であるエルノール。
冒険者ギルド、商会と提携しているクラン、野良で活動している錬金術師。
それらを総動員し、暴動事件に使われた薬物の中和と除染を最速で推し進め、負傷者は出しても死者をゼロにする偉業を成し遂げた傑物。
クロトの行動も彼がもたらした情報によって発生したものであり、彼が居なければ、この程度の人的被害では済まなかっただろう。
そんなエルノールだが、早速ジャンの尋問を始めようとウキウキな面持ちで自警団本部の地下牢に向かった。
これまでの事件の調査で散々、辛酸を舐めさせられた経験からかその反動が現れているらしい。国が国なら外患誘致からの内乱罪で死刑もありえるジャンの身が無事である事を祈ろう。
ナラタは以前、構内新聞で教師と生徒の不正やら不当な教育的指導──実はガルドの件もナラタが関係していた──を衆目に晒すという大暴れっぷりで話題になり、そこへフレンから目を付けられた。
情報の正確さと真実を求める執念強さ、何より強烈な反骨精神を買われ、学園や街の内情を生徒目線から調査、及び監査する目的で特務団員として任命。
当初は、報道クラブの活動と何が違うのか、と。
素朴な疑問を抱きつつも変わらず日々を過ごしていた所、不審な行動を見せる学生に張り込みを行った。
そう、クロトである。既に“麗しの花園”と関わりを持ち、依頼を通してとはいえ頻繁に歓楽街に出向いている姿を目撃してしまったのだ。
同時期に違法薬物の被害が多発しており、クロト本人にかなりアウトロー寄りの噂が流れていた事も重なって、関係性があると仮定して身辺調査を実行。
結果、何度も自身の身を危険に晒す事になったが、クロトとアカツキ荘の面々に付き合っていく程に判明していく善性と責任感の強さ。
──そして、正義ではなく誰かの味方であろうとする姿勢に感化され、今回の芝居に応じて学園長とシュメルが参上するまでの時間を稼いだのだ。
彼女は眼の上のたんこぶとも言えるジャンと決別し、気分が晴れたのか。
自主的に学園長へ進言し新聞社に赴き、協同して事件の概要をまとめる編集作業に勤しんでいる。
突発的かつ緊急を要する案件に対し、彼女が保有する情報の山は業界において垂涎モノ。学園での実績と自警団の後ろ盾を得た無敵の女を、ただの学生と侮ってはならない。
怪訝そうな視線を向けてきた社員を持ち込んだ情報と、特務団員の腕章で黙らせて。
ナラタは漲るやる気と覇気を纏わせたまま、正規社員を凌駕する速度でペンを走らせ校正を整えていた。
学園長はエルノールと共にシュメルから呼び出され、クロトとの関係性を明かされた。
クロトの生活を間近で見ていたからこそ感じていた疑惑の正体を知り、合点がいったと頷いた直後に天を仰いだ。エルノールも同様に。
学生でありながら水商売関連の店舗が立ち並ぶ歓楽街に足を運び、しかも地区のトップと交流があるなどスキャンダルの的なのだ。
しかも、クロトは特待生。実績も薄く、宙吊りな立場な彼の内情が広まれば、非難や批判が集まるのは想像に難くない。
もっとも、シュメルが事情を打ち明けたのは別件で必要だった為なのだが、今は割愛しよう。
そうして知り得た情報をどう扱うか頭を捻らせ、ひとまず保留で……と解散した矢先に暴動事件が発生。
巻き込まれた可能性が高いと思い、即座に連絡を取ったものの繋がらないアカツキ荘の面子。
生徒の避難誘導を終えた後、“救助しに行きます”の一言を残して消えたシルフィとノエル。
一部の区画から響く爆音の咆哮が沈まったかと思えば、ボロボロで血まみれな上記の連中が学園に返ってくるなど。
早すぎる事態の終結と想定外なデスマーチを叩き込まれ、徹夜であれやこれやと手を回して。
ひとまず南西区画の状況を把握するため、シュメルを学園に呼び出していた時にジャンが荒らし行為を実行。
クソ面倒なことしやがって……などと血管が切れそうなほど青筋を立てたフレンへ、報告に来ていたエルノールから吉報がもたらされる。
エリック達が持ち込んできた証拠品の中に犯人を特定するものがある──その愉悦の種は憤死寸前な頭の熱を鎮め、心の底から悪い笑みを芽生えさせた。
その場にいた大人がニルヴァーナでもトップレベルで権力を持ち、かつ人心掌握に長けた者しかいなかったせいでもあるが……ジャンが喧嘩を売ったのは、そういう者達なのだ。
綺麗事で世の中は回らない。表面上は善良に見えても、裏では権謀術数を張り巡らせるものだ。
特にフレン、シュメル、エルノールの三人はニルヴァーナを愛し、守りたいと本心から願っているが故に、舐めた態度を見せる輩に対しての容赦が一切ない。たとえそれが、身内から出た錆だとしても。
だからこそ、悪い大人の悪巧みによってジャンは公衆の面前で恥をかかされ、真相を暴かれるという仕打ちを受けたのだ。
いくつもの思惑や仕込みが絡み合った結果、辿り着いた最善の結果。
複雑な様相を完全に知る者はごく少数に絞られるが、昨日よりも今日、今日よりも明日の平穏を望む大衆にとっては些末なもの。
騒動によって負った傷は癒され、ニルヴァーナはいつもの日常を取り戻していく。
──災厄の鐘はようやく鳴り止んだ。
◆◇◆◇◆
そうして、怒涛の展開を迎えていた三日目の納涼祭も終わる頃。
クロトが気絶している間も着々と復興は進み、ひと段落したという事で。
尽力してくれた者達を労う宴会が学園のグラウンドを中心に、街の各所で開かれていた。
夕暮れ空の下、復興に協力してくれた商会が提供する食材が運び込まれ、学園食堂の職員によって調理されている。
手の込んだ料理は難しいがバーベキュー形式で出来上がった物が山盛りに、仮設されたテーブルに並べられていく様は圧巻の一言。
学園長曰く、納涼祭が進行通りであれば慰労と交友を目的とした後夜祭が行われていた為、その代わりに宴会を、との事だった。
学園の敷地内であるため酒類の提供こそしていないものの、各々が騒動で負った苦労話やこれからの事に談笑し、会話に花を咲かせている。
その中に、一際異彩を放つ集団がいた。
人で構成されておらず、動物に近い姿を持ちながら身体にある特徴を持つ生物……召喚獣の群れだ。
触れ合い体験広場の召喚獣に限った話ではないが、彼らは賢く、人の言葉を理解している。故に、事件が起きた際は周囲の人間の声を聴き取り、刺激しないように身を潜めていた。
それでも暴徒化した住民の暴走に巻き込まれたが、人より優れた能力を持つ彼らに手も足も出せるはずがなく。
クロトと関わった事で学習した手加減と拘束で自発的に無力化し、学園内の安全確保に一役買っていた。
保護施設の職員はそこまで把握していなかった為、様子を見に来たら連携を取って暴徒を鎮圧していた彼らに驚愕していた。
そんな召喚獣たちは現在、人混みに混じって食事を楽しんだり、疲れを取ろうと休んでいたり、宴会場となった学園を練り歩いていたりと自由に行動している。
そして保護施設の長たるケットシーは何体か召喚獣を引き連れて、触れ合い広場に向かって先頭を歩いていた。
「……目が覚めたらケットシーに抱っこされていた……なんで?」
──何故か、救護所で眠っていたクロトを拉致して。
エリック達はクロトへの心配も程々に、呼び出される前に担当していた居住区の復興作業に戻っていった。
抜け出すタイミングを完全に見失ったルシアも同じく、身内の不始末を片付けなくては……という持ち前の善良さが招いた罪悪感から参加している。
なお、実情を知らない彼らから見ればルシアは“完全に巻き込まれた無関係の一般人かつ知り合い”だ。なのに、親身になって行動してくれる彼女に心苦しさや感謝の視線を向けている。
クロトが居なければ繋がるはずもない関係性から生まれた憐憫にも似た感情に、彼女はそこはかとない居心地の悪さを感じていた。
アカツキ荘とフレン、シュメルを巻き込み、芝居を打った張本人であるエルノール。
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それらを総動員し、暴動事件に使われた薬物の中和と除染を最速で推し進め、負傷者は出しても死者をゼロにする偉業を成し遂げた傑物。
クロトの行動も彼がもたらした情報によって発生したものであり、彼が居なければ、この程度の人的被害では済まなかっただろう。
そんなエルノールだが、早速ジャンの尋問を始めようとウキウキな面持ちで自警団本部の地下牢に向かった。
これまでの事件の調査で散々、辛酸を舐めさせられた経験からかその反動が現れているらしい。国が国なら外患誘致からの内乱罪で死刑もありえるジャンの身が無事である事を祈ろう。
ナラタは以前、構内新聞で教師と生徒の不正やら不当な教育的指導──実はガルドの件もナラタが関係していた──を衆目に晒すという大暴れっぷりで話題になり、そこへフレンから目を付けられた。
情報の正確さと真実を求める執念強さ、何より強烈な反骨精神を買われ、学園や街の内情を生徒目線から調査、及び監査する目的で特務団員として任命。
当初は、報道クラブの活動と何が違うのか、と。
素朴な疑問を抱きつつも変わらず日々を過ごしていた所、不審な行動を見せる学生に張り込みを行った。
そう、クロトである。既に“麗しの花園”と関わりを持ち、依頼を通してとはいえ頻繁に歓楽街に出向いている姿を目撃してしまったのだ。
同時期に違法薬物の被害が多発しており、クロト本人にかなりアウトロー寄りの噂が流れていた事も重なって、関係性があると仮定して身辺調査を実行。
結果、何度も自身の身を危険に晒す事になったが、クロトとアカツキ荘の面々に付き合っていく程に判明していく善性と責任感の強さ。
──そして、正義ではなく誰かの味方であろうとする姿勢に感化され、今回の芝居に応じて学園長とシュメルが参上するまでの時間を稼いだのだ。
彼女は眼の上のたんこぶとも言えるジャンと決別し、気分が晴れたのか。
自主的に学園長へ進言し新聞社に赴き、協同して事件の概要をまとめる編集作業に勤しんでいる。
突発的かつ緊急を要する案件に対し、彼女が保有する情報の山は業界において垂涎モノ。学園での実績と自警団の後ろ盾を得た無敵の女を、ただの学生と侮ってはならない。
怪訝そうな視線を向けてきた社員を持ち込んだ情報と、特務団員の腕章で黙らせて。
ナラタは漲るやる気と覇気を纏わせたまま、正規社員を凌駕する速度でペンを走らせ校正を整えていた。
学園長はエルノールと共にシュメルから呼び出され、クロトとの関係性を明かされた。
クロトの生活を間近で見ていたからこそ感じていた疑惑の正体を知り、合点がいったと頷いた直後に天を仰いだ。エルノールも同様に。
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人で構成されておらず、動物に近い姿を持ちながら身体にある特徴を持つ生物……召喚獣の群れだ。
触れ合い体験広場の召喚獣に限った話ではないが、彼らは賢く、人の言葉を理解している。故に、事件が起きた際は周囲の人間の声を聴き取り、刺激しないように身を潜めていた。
それでも暴徒化した住民の暴走に巻き込まれたが、人より優れた能力を持つ彼らに手も足も出せるはずがなく。
クロトと関わった事で学習した手加減と拘束で自発的に無力化し、学園内の安全確保に一役買っていた。
保護施設の職員はそこまで把握していなかった為、様子を見に来たら連携を取って暴徒を鎮圧していた彼らに驚愕していた。
そんな召喚獣たちは現在、人混みに混じって食事を楽しんだり、疲れを取ろうと休んでいたり、宴会場となった学園を練り歩いていたりと自由に行動している。
そして保護施設の長たるケットシーは何体か召喚獣を引き連れて、触れ合い広場に向かって先頭を歩いていた。
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