自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【五ノ章】納涼祭

第一〇七話 波朧の彼方で

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 立っているのか、座っているのか、横になっているのか。
 どちらとも分からない、全身を包む浮ついた感触。ふとした拍子で揺さぶられたら消えてしまいそうな感覚は、精神空間で感じる事の多い特有の物だ。
 証拠にうっすらと瞼を開けば、星が瞬く黄昏れの空と地平まで続く鏡のような水面が寝ぼけた視界に映る。

 レオに背中を押されて変化した……いや、違うか。見ようとしなかっただけで、この空間は元から俺の世界とか言ってたっけ。
 確かに、自覚してからは悩みや不安が払拭ふっしょくされたかのような、むしろ吹っ切れたと言うべき清々しい気持ちが溢れてくる。
 こうして心情の変化を目で見て、肌で感じられるというのは新鮮な感覚だ。

(しかし、妙だな)

 現実世界の俺は糸が切れたように気絶したはずだ。この空間に来ようとは微塵も思っていなかったのに、何故?
 完全同調フルシンクロの反動でダウンしたレオと、悪気は無かったものの巻き込まれてしまったゴートの気配を感じない。つまり彼らが呼び出した訳ではないのだ。

 他に心当たりがあると言えばイレーネぐらいなものだが……アイツのいる空間は真っ白で何もない。
 最近は忙しいのか、国外遠征以降は呼び出される事も無くなった。ちょっと寂しいが、人と神では基準も価値も何もかもかけ離れているし、そういうものだと納得している。

 となると考えられるのは……無意識の内に来てしまった、か。レオとの異能特訓で精神空間を頻繁に利用していた弊害が出てしまったのだろう。
 身体に疲れが残らないとはいえ、睡眠を取った気にならないのだ。だから特訓の時間は制限をつけて、終わったら起きるまで爆睡という流れを取っている。誰だって、俺だって眠い時は寝ていたい。












『──ふふっ。相変わらず、君は頑張り屋さんだね』
(……は?)

 この癖を矯正するのはまたいずれ──などと呑気に考えていた最中さなかに、どこからともなく声が聴こえた。
 子どものように幼く、けれど凛とした女性の声。
 だが、ここは俺の精神空間のはずだ。聴こえるはずのない、身に覚えのない声で一気に目が覚める。

『求めても、願っても、望んでも……己の信念を貫き、生きていく道を選んだ。その決断は高潔な精神がもたらした、何物にも代えがたい成長の証』
(……誰だ?)

 改めて開いた目で捉えた景色は水彩画の如くぼんやりとしており、不定形で、絶えず流動していた。
 寝ぼけていたんじゃあない。元からここは上下や左右に波打った世界なんだ。不安定に見えて確かに存在している世界の中心に、俺はいる。
 異常、の一言で片づけられる現象ではない。明らかに何者かの干渉を受けている。

『結果として人並み以上に無茶をして、まで落ちてきちゃうなんて……それも君らしいとは思うけどね』
(……これは)

 ロクに動かせない身体で警戒を強める俺に、どこからか響く声は構う事なく語りかけてくる。
 初めて耳にしているはずなのに懐かしさを感じる声。
 親しみを持たせるような、暖かく慈しむような…………そうだ、

 頭の片隅に引っかかっていた違和感の正体。俺は確かにこの声を耳にした事がある。
 魔科の国グリモワールで初めてカラミティの襲撃を受けた後、この世界と似た夕焼け空の下で。
 幻聴なんかじゃあない。小さくとも同じ声を聴いたのだ。

『とりあえず、今回は事故みたいなものだから。君を元の世界に戻さないとね』

 訳の分からないまま声だけの正体不明なナニカに退場させられる雰囲気……! 
 なんとか首だけでも動かせないものかと健闘するも空しく、視界が端から徐々に黒ずんでいく。現実世界に戻る兆候だ。
 ち、ちくしょう! 俺はなんでこんなにも意味不明な状況におちいる機会が多いんだ! ただ寝ていただけなのに!

『安心して。ここで起きた出来事は記憶に残らないから、混乱する事はないよ』

 暗転していく世界。まとまらない思考。
 無我夢中なままに、意識を保たせようとしながら。

『お互い、出会うにはまだ早過ぎたんだ。だけど、この地に至るまでの軌跡は既に示されている。そう遠くない未来で、きっとまた出会えるよ』

 消えゆく視界に散らばったを見納めて。

『……不安がらせないようにこれだけは言っておこうかな。──私たちは決して裏切らない。いつでも、いつまでも君を見守っているよ』

 その言葉を最後に、俺の意識は再び暗闇に落ちた。
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