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【五ノ章】納涼祭
第一〇二話 雪花の決意
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──にぃに。
ユキは未だ目を覚ます気配の無いクロトの顔を窺い、ぐっと拳を握り締める。
自らの行いが招いた結果をむざむざと見せつけられる罪悪感。
何かが出来る訳でもなく、ただただ嘆いているだけの無力感。
時間が経つにつれて突きつけられる現実はユキの心を強く痛めつけていた。肌が白むほど力んだ手から、じわりと血が滲む。
『キュ、キュイ……!』
打ちひしがれるユキの傍で召喚陣が浮かび、ソラが飛び出してきた。
召喚士と召喚獣は見えない力で深く繋がっている。恐らくクロトの異常を察知したのだろう。健気に、小さな身体でクロトを揺すっている。
そうして反応の無いクロトから離れたかと思えば、胸元に潜り込んで何かを取り出した。
それはユキ達がクロトの為を想って贈った笛だ。
召喚獣の聴覚にのみ作用する特殊な笛。風属性の魔法陣へ突き刺すように、器用な手つきで持ち構えたソラは魔法を発動させる。
遠く、遠く、遠く。笛を通して出る風は音を乗せ、再開発区画を越えて響いていく。
眠り続けるクロトにも、吹いた所で人の耳には届かないそれを、懸命に。
きっとソラは諦めたくないのだと、ユキは理解する。
どうにかしてクロトの目を覚まさせたくて、でも自分に出来る事は少ないから。何がきっかけになるかもわからなくて、考えつく限りの手を尽くしている。
……心のどこかで、自身と比べてしまうのも無理はないだろう。
──ほんとは、わかってた。
偽物の空の下で出会った時からずっと助けられていた。
焼き払われた《ディスカード》からの脱出、学園への入学、獣化の件も。
ありとあらゆる事柄の起点はクロトで、些細な悩みも苦しみも取り払ってくれるように動いてくれた。
ルーザーによって意識を奪われている間も、怪我をさせないように手を抜いていたことも。
そして。
──あの夜も、にぃには助けてくれた。
魔科の国の《デミウル》本社ビル。
その屋上で、月夜に照らされた二人の影が重なっていた。仮面を付けた黒衣の者と人型の獣と称すべき者。
凄烈な戦いの痕跡として広がる血溜まりの上で獣から人へ、灰へと崩れていく男は確かに、ユキを視ていた。
酷く柔らかく、愛おしそうに頬を緩めて。
最期に取り戻した人の心で、願うように。
『──ユキ……を、たの……む……』
言葉は風に流され、人影は消えていく。
取り残された仮面の男が応えるように、静かに頭を垂れた。
『……ユキ』
傷ついた手で優しく抱えられ、浮ついた思考と揺蕩う意識の中で。
断絶と接続の連続でツギハギになった記憶に残る、その情景を覚えていた。
──忘れちゃダメだ。
魔力を使い尽くし、召喚陣の中へ消えていくソラを一撫でしたユキは、俯いた顔を上げる。。
助けられ、与えられ、教えられて。そうして今も、生きている。
魔物とも人とも取れる不可思議な存在だとしても、受け入れてくれた人達を。
当たり前のような幸せを願い、未来を望み、希望を抱かせてくれた彼らを。
奪われたくない。失いたくない。踏み躙らせてはならない。
折れかけた精神に宿った、凍土の如く揺るがない盤石の決意。
首に下げた、お守りとして貰った指輪のペンダントを握り締めて……眼差しに、光が灯る。
──今度はユキが、守る番だ。
◆◇◆◇◆
「うっ……いってぇ」
「頭が、割れそう……」
シルフィとセリスが大穴に跳び込んでから数分と経たずに響き渡った大咆哮。
地表に居たキオ達にも襲い掛かった音圧と衝撃。獣人の優れた聴覚を狂わすそれは、決して小さくないダメージを負わせていた。
幸運にも安全確保の為にクロトを背負い、多少なりとも大穴から距離を離していたおかげで地盤変動には巻き込まれなかった。
しかし、あまりにも大音量の咆哮はキオ達の身体を硬直させてしまう。
耳ごと激痛が苛む頭を押さえて、焦点の合わない視界に映ったのは、
「──キオ、ヨムル。だいじょうぶ?」
崩れ落ちてきた廃墟の瓦礫の前に立つユキの背中だった。
ハッとして、しっかりと聴き取れた声に顔を向けたキオは、その小さな身体で瓦礫を豪快に退かしたユキの姿を目撃する。
「お、おいおい……! お前こそ平気なのかよ!?」
「うん、こんなのどうってことないよ」
キオが狼狽えるのも無理はない。気丈な振る舞いとは裏腹に、振り向いた顔や晒された肌は痛々しいアザと擦過傷だらけだ。
落下する瓦礫を受け止めた事で無防備になったユキの身体は、咆哮によって飛散した岩の破片で傷つき、キオ達以上に負傷していた。
「それよりも、気づいてる? あそこにいるイヤな感じのヤツ」
「え……なんだアレ!?」
「魔物、なの? 大きすぎる……!」
視線を向けた先。地盤変動によって底がせり上がった大穴の中央。
立ち込める土煙に佇む、魔力結晶に照らされた巨大な影。
赤い双眸の輝きが揺らぎ、けれども確実に、キオ達を視た。直後にやってくるのは通常の魔物とも迷宮主とも違う強烈な威圧感。
あんな奴が穴の底に居たのか?
だとしたら先に戦っていたエリック達や、助けに行ったシルフィ先生はどうなったんだ?
まさか、やられた……?
経験したことの無い感覚に、沸々と浮かび上がる嫌な想像にキオとヨムルは身を震わせ──ユキだけが、動じなかった。
他の獣人に比べて格段に優れた嗅覚で人の匂いを、敏感な聴覚で微かな息遣いを捉える。
一人、二人と冷静に、人数の欠けがない事を確認したユキは巨大な影の方へ歩いていく。
「ユキ!? なにする気だ!?」
「二人はにぃにと一緒に居て。ユキ、兄ちゃん達を助けてくる」
「で、でも、そんな危ないことしなくたって……」
「やらなきゃいけないんだよ。アイツには、もう見つかってるんだから」
いつもと違う、冷ややかな物言いのユキにキオ達がたじろぐ。
それでも止めなくてはならない。明らかな死地へ赴く身内を放置するなんて真似ができるほど、彼らは非情ではない。
震える身体を抑えて、手を伸ばし、肩を掴もうとして。
「──ごめんね」
諭すような優しい声の後、冷たい風が首を撫でた。
夏場にそぐわない冷気。不審に思った瞬間、分厚い氷の壁がそびえ立つ。ユキの魔法だ。
氷の壁はそのままキオ達を包囲していき、完全にユキとの接触を遮断する。彼らの身を守る為に、後を追ってこれないように。
必死に壁を叩いて呼び掛けるキオとヨムルを後ろ目で見やり、しかしすぐに前を向き、ユキは荒れ果てた地面を踏み締めて駆け出した。
◆◇◆◇◆
ドレッドノートが放った特大の咆哮。大穴という迷宮に干渉し、地盤を持ち上げるほどの号砲。
それは絶対的な守護の象徴たる《イグニート・ディバイン》を貫通し、エリック達を戦闘不能にするだけでなく、シルフィが張り直した障壁すら損傷させていた。
空を割る幾条もの白い線が奔り、障壁を構成していた魔力の欠片がこぼれ落ちる。
荒廃した空間に氷雪のように溶けていく欠片。
退廃的で幻想的な情景を一瞥するまでもなく、全てを蹴散らしたドレッドノートは歩みを止めない。
自らに備わった永久機関を知覚し、糧とした上で、本能が訴えているのだ。
多くの餌を欲し、飢えを満たせ、渇きを潤せ、と。
中々喰えないエリック達よりも、もっと上等な餌が地上にはあるのだ、と。
『──!』
そうしてキオ達の気配を探り当て、脚を進めようとしたドレッドノートの前に小さな影が踊り出る。
ユキだ。駆け出した勢いのまま土煙を裂いて飛び込み、振り被った拳がドレッドノートの顔面を打ち抜く。
ただの子どもの膂力であれば虫に刺された程度の刺激かもしれない。だが、彼女が放つ本気の一撃は違う。
バゴンッ! と。鉄板をへこませるような、細腕から生み出されたとは思えない重厚な音。
肉は潰れ、頬骨が砕かれ、脳を揺さぶられる。反逆の一撃をまともに受けたドレッドノートは体勢を崩して倒れた。
その振動がエリック達の意識を目覚めさせる。
身体の節々に感じる異常を自覚しながらも、彼らは目の前に立つユキの背中を見て、脚に力を入れて立ち上がった。
「ユキ……どうしてここに?」
「みんなが倒れてるのが見えて、居ても立ってもいられなくて助けに来たんだ」
怪訝そうな顔で問うシルフィに、ユキは胸を張って応える。
無謀や蛮勇とは違う。誰に言われるでもなく、彼女がそうしたいと望んだ上で示した行動を咎める者はいなかった。
ほぼほぼ部外者なルシアはともかくとして、口で言っても止まらないという、どこかクロトと似たような雰囲気を感じたシルフィは目頭を押さえていたが。
「助けに来たはずが、まさか助けられちまうなんてね」
「だいぶ参ってたみたいだが、良い顔になったじゃねぇか」
「心配かけてごめんなさい。でも、もう大丈夫!」
セリスとエリックは元の調子を取り戻したユキの隣に立つ。
既にドレッドノートは殴打で陥没していた顔面を修復し、一度は見逃した彼らを再び睨みつけていた。
「正直な所、ユキがいると心強いです。一緒に戦いましょう」
「うん。こいつはここで倒そう!」
小さくも確かな熱を持つユキに奮い立たされた面々は、それぞれの武器を構える。
圧倒的な暴力の権化たるドレッドノートに折れることなく、挫けることなく、戦意を失うことなく。
彼らの胸中に繋がる想いは、薄闇に煌めく一等星の如き眩さとなり──決戦の場であるこの地に、確かな輝きを放った。
ユキは未だ目を覚ます気配の無いクロトの顔を窺い、ぐっと拳を握り締める。
自らの行いが招いた結果をむざむざと見せつけられる罪悪感。
何かが出来る訳でもなく、ただただ嘆いているだけの無力感。
時間が経つにつれて突きつけられる現実はユキの心を強く痛めつけていた。肌が白むほど力んだ手から、じわりと血が滲む。
『キュ、キュイ……!』
打ちひしがれるユキの傍で召喚陣が浮かび、ソラが飛び出してきた。
召喚士と召喚獣は見えない力で深く繋がっている。恐らくクロトの異常を察知したのだろう。健気に、小さな身体でクロトを揺すっている。
そうして反応の無いクロトから離れたかと思えば、胸元に潜り込んで何かを取り出した。
それはユキ達がクロトの為を想って贈った笛だ。
召喚獣の聴覚にのみ作用する特殊な笛。風属性の魔法陣へ突き刺すように、器用な手つきで持ち構えたソラは魔法を発動させる。
遠く、遠く、遠く。笛を通して出る風は音を乗せ、再開発区画を越えて響いていく。
眠り続けるクロトにも、吹いた所で人の耳には届かないそれを、懸命に。
きっとソラは諦めたくないのだと、ユキは理解する。
どうにかしてクロトの目を覚まさせたくて、でも自分に出来る事は少ないから。何がきっかけになるかもわからなくて、考えつく限りの手を尽くしている。
……心のどこかで、自身と比べてしまうのも無理はないだろう。
──ほんとは、わかってた。
偽物の空の下で出会った時からずっと助けられていた。
焼き払われた《ディスカード》からの脱出、学園への入学、獣化の件も。
ありとあらゆる事柄の起点はクロトで、些細な悩みも苦しみも取り払ってくれるように動いてくれた。
ルーザーによって意識を奪われている間も、怪我をさせないように手を抜いていたことも。
そして。
──あの夜も、にぃには助けてくれた。
魔科の国の《デミウル》本社ビル。
その屋上で、月夜に照らされた二人の影が重なっていた。仮面を付けた黒衣の者と人型の獣と称すべき者。
凄烈な戦いの痕跡として広がる血溜まりの上で獣から人へ、灰へと崩れていく男は確かに、ユキを視ていた。
酷く柔らかく、愛おしそうに頬を緩めて。
最期に取り戻した人の心で、願うように。
『──ユキ……を、たの……む……』
言葉は風に流され、人影は消えていく。
取り残された仮面の男が応えるように、静かに頭を垂れた。
『……ユキ』
傷ついた手で優しく抱えられ、浮ついた思考と揺蕩う意識の中で。
断絶と接続の連続でツギハギになった記憶に残る、その情景を覚えていた。
──忘れちゃダメだ。
魔力を使い尽くし、召喚陣の中へ消えていくソラを一撫でしたユキは、俯いた顔を上げる。。
助けられ、与えられ、教えられて。そうして今も、生きている。
魔物とも人とも取れる不可思議な存在だとしても、受け入れてくれた人達を。
当たり前のような幸せを願い、未来を望み、希望を抱かせてくれた彼らを。
奪われたくない。失いたくない。踏み躙らせてはならない。
折れかけた精神に宿った、凍土の如く揺るがない盤石の決意。
首に下げた、お守りとして貰った指輪のペンダントを握り締めて……眼差しに、光が灯る。
──今度はユキが、守る番だ。
◆◇◆◇◆
「うっ……いってぇ」
「頭が、割れそう……」
シルフィとセリスが大穴に跳び込んでから数分と経たずに響き渡った大咆哮。
地表に居たキオ達にも襲い掛かった音圧と衝撃。獣人の優れた聴覚を狂わすそれは、決して小さくないダメージを負わせていた。
幸運にも安全確保の為にクロトを背負い、多少なりとも大穴から距離を離していたおかげで地盤変動には巻き込まれなかった。
しかし、あまりにも大音量の咆哮はキオ達の身体を硬直させてしまう。
耳ごと激痛が苛む頭を押さえて、焦点の合わない視界に映ったのは、
「──キオ、ヨムル。だいじょうぶ?」
崩れ落ちてきた廃墟の瓦礫の前に立つユキの背中だった。
ハッとして、しっかりと聴き取れた声に顔を向けたキオは、その小さな身体で瓦礫を豪快に退かしたユキの姿を目撃する。
「お、おいおい……! お前こそ平気なのかよ!?」
「うん、こんなのどうってことないよ」
キオが狼狽えるのも無理はない。気丈な振る舞いとは裏腹に、振り向いた顔や晒された肌は痛々しいアザと擦過傷だらけだ。
落下する瓦礫を受け止めた事で無防備になったユキの身体は、咆哮によって飛散した岩の破片で傷つき、キオ達以上に負傷していた。
「それよりも、気づいてる? あそこにいるイヤな感じのヤツ」
「え……なんだアレ!?」
「魔物、なの? 大きすぎる……!」
視線を向けた先。地盤変動によって底がせり上がった大穴の中央。
立ち込める土煙に佇む、魔力結晶に照らされた巨大な影。
赤い双眸の輝きが揺らぎ、けれども確実に、キオ達を視た。直後にやってくるのは通常の魔物とも迷宮主とも違う強烈な威圧感。
あんな奴が穴の底に居たのか?
だとしたら先に戦っていたエリック達や、助けに行ったシルフィ先生はどうなったんだ?
まさか、やられた……?
経験したことの無い感覚に、沸々と浮かび上がる嫌な想像にキオとヨムルは身を震わせ──ユキだけが、動じなかった。
他の獣人に比べて格段に優れた嗅覚で人の匂いを、敏感な聴覚で微かな息遣いを捉える。
一人、二人と冷静に、人数の欠けがない事を確認したユキは巨大な影の方へ歩いていく。
「ユキ!? なにする気だ!?」
「二人はにぃにと一緒に居て。ユキ、兄ちゃん達を助けてくる」
「で、でも、そんな危ないことしなくたって……」
「やらなきゃいけないんだよ。アイツには、もう見つかってるんだから」
いつもと違う、冷ややかな物言いのユキにキオ達がたじろぐ。
それでも止めなくてはならない。明らかな死地へ赴く身内を放置するなんて真似ができるほど、彼らは非情ではない。
震える身体を抑えて、手を伸ばし、肩を掴もうとして。
「──ごめんね」
諭すような優しい声の後、冷たい風が首を撫でた。
夏場にそぐわない冷気。不審に思った瞬間、分厚い氷の壁がそびえ立つ。ユキの魔法だ。
氷の壁はそのままキオ達を包囲していき、完全にユキとの接触を遮断する。彼らの身を守る為に、後を追ってこれないように。
必死に壁を叩いて呼び掛けるキオとヨムルを後ろ目で見やり、しかしすぐに前を向き、ユキは荒れ果てた地面を踏み締めて駆け出した。
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ドレッドノートが放った特大の咆哮。大穴という迷宮に干渉し、地盤を持ち上げるほどの号砲。
それは絶対的な守護の象徴たる《イグニート・ディバイン》を貫通し、エリック達を戦闘不能にするだけでなく、シルフィが張り直した障壁すら損傷させていた。
空を割る幾条もの白い線が奔り、障壁を構成していた魔力の欠片がこぼれ落ちる。
荒廃した空間に氷雪のように溶けていく欠片。
退廃的で幻想的な情景を一瞥するまでもなく、全てを蹴散らしたドレッドノートは歩みを止めない。
自らに備わった永久機関を知覚し、糧とした上で、本能が訴えているのだ。
多くの餌を欲し、飢えを満たせ、渇きを潤せ、と。
中々喰えないエリック達よりも、もっと上等な餌が地上にはあるのだ、と。
『──!』
そうしてキオ達の気配を探り当て、脚を進めようとしたドレッドノートの前に小さな影が踊り出る。
ユキだ。駆け出した勢いのまま土煙を裂いて飛び込み、振り被った拳がドレッドノートの顔面を打ち抜く。
ただの子どもの膂力であれば虫に刺された程度の刺激かもしれない。だが、彼女が放つ本気の一撃は違う。
バゴンッ! と。鉄板をへこませるような、細腕から生み出されたとは思えない重厚な音。
肉は潰れ、頬骨が砕かれ、脳を揺さぶられる。反逆の一撃をまともに受けたドレッドノートは体勢を崩して倒れた。
その振動がエリック達の意識を目覚めさせる。
身体の節々に感じる異常を自覚しながらも、彼らは目の前に立つユキの背中を見て、脚に力を入れて立ち上がった。
「ユキ……どうしてここに?」
「みんなが倒れてるのが見えて、居ても立ってもいられなくて助けに来たんだ」
怪訝そうな顔で問うシルフィに、ユキは胸を張って応える。
無謀や蛮勇とは違う。誰に言われるでもなく、彼女がそうしたいと望んだ上で示した行動を咎める者はいなかった。
ほぼほぼ部外者なルシアはともかくとして、口で言っても止まらないという、どこかクロトと似たような雰囲気を感じたシルフィは目頭を押さえていたが。
「助けに来たはずが、まさか助けられちまうなんてね」
「だいぶ参ってたみたいだが、良い顔になったじゃねぇか」
「心配かけてごめんなさい。でも、もう大丈夫!」
セリスとエリックは元の調子を取り戻したユキの隣に立つ。
既にドレッドノートは殴打で陥没していた顔面を修復し、一度は見逃した彼らを再び睨みつけていた。
「正直な所、ユキがいると心強いです。一緒に戦いましょう」
「うん。こいつはここで倒そう!」
小さくも確かな熱を持つユキに奮い立たされた面々は、それぞれの武器を構える。
圧倒的な暴力の権化たるドレッドノートに折れることなく、挫けることなく、戦意を失うことなく。
彼らの胸中に繋がる想いは、薄闇に煌めく一等星の如き眩さとなり──決戦の場であるこの地に、確かな輝きを放った。
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