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【五ノ章】納涼祭
第九十八話 闘う者達《後篇》
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「あっ、ミィナ先生いたーっ!」
「……ノエルさん?」
冒険者学園のグラウンドで、生徒や住民の避難誘導をしていたシルフィの下へ、ノエルはぶんぶんと大きく手を振って走り寄ってくる。
「どうかしましたか?」
「いやぁ、さっきまで生徒会の皆と教師陣の補助に動いてたんだけど、ある程度終わったらやる事なくなっちゃって」
「暇になったから私の所へ来た、と?」
「それもあるけど……先生、クロトくんの所に行きたいんじゃないの?」
無邪気にも思える気軽さの問い掛けは、シルフィの口を噤ませた。
「ちらっと二年七組の方を見てきたら彼の姿が無かったんで、何か問題でもあったのかなーなんて思ったんです。噂を聞く限り、意図せず面倒事に巻き込まれてる印象が強かったから、もしかして今も……」
「……そうですね。こちらの仕事が終わり次第向かうつもりでした」
「やっぱりかー……どの辺に居るとか分かってるんですか?」
シルフィはデバイスを取り出すフリをして術式魔法を発動。銀の瞳に魔力が宿った。
個人が持つ魔力の波長を視覚化する術式魔法でクロトを探知し、方角と距離から場所を推測する。
「この位置は──再開発区画ですね」
「よりにもよってあそこかぁ……厄介だね」
「ですが、急がなければいけません。こうしている間にも、彼らの身に危険が迫っているかもしれません」
「彼ら? クロトくんだけじゃなく、他の誰かも巻き込まれてるんですか?」
隠しておく必要は無いが、情報量が多くても混乱するだけだろう。
そう判断したシルフィはあくまで簡潔に、現状でやるべき事をノエルに説明した。
「なるほど、そういう訳か」
違法薬物により発生した暴動の鎮圧、攫われた子ども達の救出、一連の騒動を引き起こした元凶の捕縛。
何の関係も無いノエルにとっては寝耳に水。聞き入れる余地などありはしない。
幾度も頷き、眉を寄せて思案したかと思えば、納得がいったように手を叩く。
「──先生、もしよければボクにも手伝わせてくれません?」
「……人手はいくらあっても足りませんし、申し出は非常にありがたいのですが、何故です?」
「先生やクロトくんの仲間も既に知っていると思うけど、彼とボクは同じだ。今回の件に関してもおおよその見当はついてる」
ノエルの言い分にシルフィは目を見開く。
「時間が取れなくて話す機会が無かったから警戒させてしまったかもしれない。けれど前にも言った通り、ボクは味方だ。協力できると思うよ」
「それは、とても助かりますが……」
「まあ、妙に上からな目線になったけど本心を打ち明けるとすれば……うん、彼が困ってそうだから助けたいってだけ」
深い理由は無い。
ただ、納涼祭を共に楽しんだ仲として放ってはおけない。
「何よりボクは生徒会長だからね、一生徒と言えど見捨てる訳にはいかないのです! で、どうです? 学園最強の力、使いませんか?」
「……わかりました。手を貸していただけるというのであれば、喜んでその手を取りましょう」
差し出された手を握り返し、ノエルは笑みを浮かべる。
交わしたやり取りにどこかクロトの面影を感じ、苦笑を溢しながら。
シルフィ達は再開発区画へと向かった。
◆◇◆◇◆
「オマエ、変わったな」
「……? どうしたの急に?」
魅惑の魔眼による魔物同士の削り合い。その輪から外れた討ち漏らしを仕留めるルシアの横でシオンがぼそりと呟く。
不意の発言に彼女は首を傾げつつも手を止めず、降りかかる灰を払いのけた。
「普段のテメェなら眼を使おうだなんて提案はしねェ。そもそも話題に挙げる事すら毛嫌いしてただろうが。どういう心変わりだ?」
「……手数が必要だったから、利用してやろうと思っただけ」
咄嗟に出た言い訳だが半分は本音だ。
しかしもう半分は、クロトの後押しが理由だった。迷いも戸惑いも根付いてはいるが、少しでも前向きになろうと行動を起こしただけ。
だが、それで納得するほどシオンは間抜けではない。
「下手なウソついてんじゃねェぞ。まさかクロトに変な事でも吹き込まれたんじゃねェだろうな? 野郎はオレらの敵だ、腹の底で何を考えてるのかわかったもんじゃねェ」
野生の獣を思わせる荒々しくも直感的な言動の多い彼だが、カラミティ幹部“ナンバーズ”の一員。
当時のファーストを単純な戦闘能力のみならず様々な手腕で黙らせ、後に正式なコードネームとして与えられたのだ。
決して伊達ではなく、知謀を練るのはそれなりに得意としている。
「そうだとしても今は味方だし、これは私の問題。貴方にとやかく言われる筋合いは無い」
「ハッ、随分と偉そうに言いやがるじゃねェか! 同族のよしみで心配してやってんのによォ!」
「余計な世話を焼かないで。目の前のことに集中して」
時期は違うがルシアもまた、シオンと似たような経緯でセカンドに任命された為、よく二人一組で派遣される。
その度に聞かされる嫌味には飽き飽きしており、茶化されるのも日常茶飯事、まともに相手をするだけ無駄と理解しているからこそ話半分に聞き流す。
だから正直な所、シオンの発言を容赦なく切り捨てるクロトの豪胆さには感謝を覚えていた。ああ、私が相手をしなくていいんだ……と。
そうでなくとも、ルシアにとってコレはいつもと変わらないやり取りだった。
「……そうかよ」
「っ?」
いつもならもっと喧しく噛みついてくるのに、あっさりと引いたな、と。
不自然に思ったルシアは彼の方へ目を向けて──わずかにだが、口角を上げて微笑んでいることに気づいた。
「ッ!?!?」
喉奥から突いて出そうになった驚きを呑み込んで、思わず自身の目を疑う。
猛禽類を思わせる獰猛な笑みならば見る事はよくあった。だが、先ほどの柔和な笑みは一体なんだ? 何故いきなりあんな顔を?
意図が読めない。気味が悪い。怖っ。
背筋が泡立つ居心地の悪さに身震いしながら黙々と魔物を処理していくと、再開発区画のどこかで爆音が響いた。一度や二度ではなく、そして音は着実に近づいてきている。
脳内を埋めていた思考を切り替えた。
傀儡のミノタウロス達に他の魔物を連れて場を離れるように指示を出し、同様に異変を察知したシオンが魔剣の異能で転移。
魔物か、それとも人か。正体は分からないが、いざとなれば魔眼の行使は厭わないつもりだ。
眼帯に手を掛けて、迫りくる音が途切れた瞬間。
「シノノメ流舞踊剣術初伝──《杜若》」
ちりん、と。
鈴の音を伴う声を聴いた直後、近くの廃墟が切り刻まれる。
「はあ!?」
心臓が跳ねた。ここにいては倒壊に巻き込まれてしまう。
瞬時に飛び退いて距離を取れば、保管庫として機能していたであろうレンガ造りの倉庫は崩れ去り、吹き荒れる突風が辺りの灰を巻き上げた。
「ちょっと待て、人の声がしなかったか?」
「なんかガチギレしてる女の叫びは聞こえたけど」
「こんな人気の無い僻地で……? もしや子ども達を攫った犯人でしょうか」
「……まさか」
視界を遮る土煙の向こうから人影が三つ、ルシアの方へ向かってきた。
胸の内に湧いた疑念を解消する間もなく、構えを解いた彼女の前に現れたのは。
「犯人だとしたら迷わず斬りま……ん?」
「あれ、ルシアじゃね?」
「ホントだ。こんな所で何やってんの?」
それぞれ得意とする武器を担いだアカツキ荘の面々だった。
◆◇◆◇◆
「……なるほど。クロトから連絡を受けて再開発区画に来たけど、姿が見当たらなかったから区画の中にいると判断して入ってきた、と」
「どうせアイツの事だから一人で片付けようとしてんだろうなって」
「とりあえず派手な音を出せば気づいてくれるかと思って」
「私のスキルで人の気配が無い建物をどんどん壊していったんです」
「さっきからしてた爆音の正体はそれか……」
ひとまず安全な位置で情報共有。
おかげで様々な疑問が解消したのは助かるが、あまりに強引な探索方法にルシアの頭がズキリと痛む。思わず手を添えて息を吐いた。
「しっかし驚いたぜ。クロトがルシアと組んで子ども達の捜索をしてたなんて」
「別に知らない仲でもなかったし、困ってる人を簡単に見捨てられるほど私は薄情じゃないよ」
さすがにカラミティ関連の話は出さず、あくまで再開発区画へ向かう途中のクロトに助けを求められ、応じたという体に。
嘘ではないが真実でもない、丁度いい理由だ。不幸中の幸いとでも言うべきか、事前に食卓を囲み交友関係を深めていたのが助け船となり、すんなりと信用を得られた。
ひとまずほっと胸を撫で下ろし、これからの事を話そうと口を開き、
『──』
「「「「っ……」」」」
どこからともなく聴こえた物音に全員が反応した。
「今のは、なんだ?」
「アタシが知るかよ。ただ、直接頭ん中に響いたような感じがしたねぇ」
「ルシアさんも?」
「うん、確かに。……こんなの、初めてだけど」
突然の異常事態に辺りを見渡す四人の内、エリックがおもむろに一方を指差した。
そこはかつて、どこかの企業が保有していたであろう工場倉庫。使われなくなった資材が眠っているだけの、特別珍妙なモノもない廃墟。
他にも原型を保っている廃墟が多く現存している中で、エリックは明確に、その廃墟だけを示していた。
「あそこだ。あそこにクロトがいる」
「えっ? どうしてそんなことを……」
「分からねぇ。分かんねぇけど──胸騒ぎがするんだ」
理解の範疇を越えた現象。常時であれば疑うのもおかしくないというのに、この場にいる全員が、どことなく確信を得ているのだ。
脚を突き動かす衝動のまま向かう先で、彼が闘っている、と。
征く道を阻む魔物は蹴散らした。
ありとあらゆる障害を斬り伏せた。
そうして辿り着いた目的の場所で。
──家族を狙うボロボロの男が視界に入った。
ブチッ、と。
何かの潰れた音を皮切りに、駆け出したエリックの剛剣が。
寸分違わず、男の胴体をへし折った。
「……ノエルさん?」
冒険者学園のグラウンドで、生徒や住民の避難誘導をしていたシルフィの下へ、ノエルはぶんぶんと大きく手を振って走り寄ってくる。
「どうかしましたか?」
「いやぁ、さっきまで生徒会の皆と教師陣の補助に動いてたんだけど、ある程度終わったらやる事なくなっちゃって」
「暇になったから私の所へ来た、と?」
「それもあるけど……先生、クロトくんの所に行きたいんじゃないの?」
無邪気にも思える気軽さの問い掛けは、シルフィの口を噤ませた。
「ちらっと二年七組の方を見てきたら彼の姿が無かったんで、何か問題でもあったのかなーなんて思ったんです。噂を聞く限り、意図せず面倒事に巻き込まれてる印象が強かったから、もしかして今も……」
「……そうですね。こちらの仕事が終わり次第向かうつもりでした」
「やっぱりかー……どの辺に居るとか分かってるんですか?」
シルフィはデバイスを取り出すフリをして術式魔法を発動。銀の瞳に魔力が宿った。
個人が持つ魔力の波長を視覚化する術式魔法でクロトを探知し、方角と距離から場所を推測する。
「この位置は──再開発区画ですね」
「よりにもよってあそこかぁ……厄介だね」
「ですが、急がなければいけません。こうしている間にも、彼らの身に危険が迫っているかもしれません」
「彼ら? クロトくんだけじゃなく、他の誰かも巻き込まれてるんですか?」
隠しておく必要は無いが、情報量が多くても混乱するだけだろう。
そう判断したシルフィはあくまで簡潔に、現状でやるべき事をノエルに説明した。
「なるほど、そういう訳か」
違法薬物により発生した暴動の鎮圧、攫われた子ども達の救出、一連の騒動を引き起こした元凶の捕縛。
何の関係も無いノエルにとっては寝耳に水。聞き入れる余地などありはしない。
幾度も頷き、眉を寄せて思案したかと思えば、納得がいったように手を叩く。
「──先生、もしよければボクにも手伝わせてくれません?」
「……人手はいくらあっても足りませんし、申し出は非常にありがたいのですが、何故です?」
「先生やクロトくんの仲間も既に知っていると思うけど、彼とボクは同じだ。今回の件に関してもおおよその見当はついてる」
ノエルの言い分にシルフィは目を見開く。
「時間が取れなくて話す機会が無かったから警戒させてしまったかもしれない。けれど前にも言った通り、ボクは味方だ。協力できると思うよ」
「それは、とても助かりますが……」
「まあ、妙に上からな目線になったけど本心を打ち明けるとすれば……うん、彼が困ってそうだから助けたいってだけ」
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ただ、納涼祭を共に楽しんだ仲として放ってはおけない。
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交わしたやり取りにどこかクロトの面影を感じ、苦笑を溢しながら。
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「……手数が必要だったから、利用してやろうと思っただけ」
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しかしもう半分は、クロトの後押しが理由だった。迷いも戸惑いも根付いてはいるが、少しでも前向きになろうと行動を起こしただけ。
だが、それで納得するほどシオンは間抜けではない。
「下手なウソついてんじゃねェぞ。まさかクロトに変な事でも吹き込まれたんじゃねェだろうな? 野郎はオレらの敵だ、腹の底で何を考えてるのかわかったもんじゃねェ」
野生の獣を思わせる荒々しくも直感的な言動の多い彼だが、カラミティ幹部“ナンバーズ”の一員。
当時のファーストを単純な戦闘能力のみならず様々な手腕で黙らせ、後に正式なコードネームとして与えられたのだ。
決して伊達ではなく、知謀を練るのはそれなりに得意としている。
「そうだとしても今は味方だし、これは私の問題。貴方にとやかく言われる筋合いは無い」
「ハッ、随分と偉そうに言いやがるじゃねェか! 同族のよしみで心配してやってんのによォ!」
「余計な世話を焼かないで。目の前のことに集中して」
時期は違うがルシアもまた、シオンと似たような経緯でセカンドに任命された為、よく二人一組で派遣される。
その度に聞かされる嫌味には飽き飽きしており、茶化されるのも日常茶飯事、まともに相手をするだけ無駄と理解しているからこそ話半分に聞き流す。
だから正直な所、シオンの発言を容赦なく切り捨てるクロトの豪胆さには感謝を覚えていた。ああ、私が相手をしなくていいんだ……と。
そうでなくとも、ルシアにとってコレはいつもと変わらないやり取りだった。
「……そうかよ」
「っ?」
いつもならもっと喧しく噛みついてくるのに、あっさりと引いたな、と。
不自然に思ったルシアは彼の方へ目を向けて──わずかにだが、口角を上げて微笑んでいることに気づいた。
「ッ!?!?」
喉奥から突いて出そうになった驚きを呑み込んで、思わず自身の目を疑う。
猛禽類を思わせる獰猛な笑みならば見る事はよくあった。だが、先ほどの柔和な笑みは一体なんだ? 何故いきなりあんな顔を?
意図が読めない。気味が悪い。怖っ。
背筋が泡立つ居心地の悪さに身震いしながら黙々と魔物を処理していくと、再開発区画のどこかで爆音が響いた。一度や二度ではなく、そして音は着実に近づいてきている。
脳内を埋めていた思考を切り替えた。
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魔物か、それとも人か。正体は分からないが、いざとなれば魔眼の行使は厭わないつもりだ。
眼帯に手を掛けて、迫りくる音が途切れた瞬間。
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「……まさか」
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胸の内に湧いた疑念を解消する間もなく、構えを解いた彼女の前に現れたのは。
「犯人だとしたら迷わず斬りま……ん?」
「あれ、ルシアじゃね?」
「ホントだ。こんな所で何やってんの?」
それぞれ得意とする武器を担いだアカツキ荘の面々だった。
◆◇◆◇◆
「……なるほど。クロトから連絡を受けて再開発区画に来たけど、姿が見当たらなかったから区画の中にいると判断して入ってきた、と」
「どうせアイツの事だから一人で片付けようとしてんだろうなって」
「とりあえず派手な音を出せば気づいてくれるかと思って」
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「さっきからしてた爆音の正体はそれか……」
ひとまず安全な位置で情報共有。
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「しっかし驚いたぜ。クロトがルシアと組んで子ども達の捜索をしてたなんて」
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『──』
「「「「っ……」」」」
どこからともなく聴こえた物音に全員が反応した。
「今のは、なんだ?」
「アタシが知るかよ。ただ、直接頭ん中に響いたような感じがしたねぇ」
「ルシアさんも?」
「うん、確かに。……こんなの、初めてだけど」
突然の異常事態に辺りを見渡す四人の内、エリックがおもむろに一方を指差した。
そこはかつて、どこかの企業が保有していたであろう工場倉庫。使われなくなった資材が眠っているだけの、特別珍妙なモノもない廃墟。
他にも原型を保っている廃墟が多く現存している中で、エリックは明確に、その廃墟だけを示していた。
「あそこだ。あそこにクロトがいる」
「えっ? どうしてそんなことを……」
「分からねぇ。分かんねぇけど──胸騒ぎがするんだ」
理解の範疇を越えた現象。常時であれば疑うのもおかしくないというのに、この場にいる全員が、どことなく確信を得ているのだ。
脚を突き動かす衝動のまま向かう先で、彼が闘っている、と。
征く道を阻む魔物は蹴散らした。
ありとあらゆる障害を斬り伏せた。
そうして辿り着いた目的の場所で。
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