146 / 265
【五ノ章】納涼祭
第九十八話 闘う者達《前編》
しおりを挟む
冒険者学園から少し離れた居住区で。
アカツキ荘の面々は凶暴化した住民で溢れ返る路地を進んでいた。
「っ、エリック! クロトから連絡が来た!」
「マジか! 場所は……再開発区画だァ? とんでもねぇ場所に連れてかれてんなアイツら!」
二人の声を聞き流しながらカグヤは暴徒となった住民を無力化し、クロトが工房内に保管していた鎮静爆薬を一つ、火を点けて上空へ放り投げる。
音を立てて弾けた爆薬は風に乗って広がり、辺りへ散布された。
荒い呼吸を繰り返す住民は次第に落ち着きを取り戻し、血走った目が元に戻る。
「この辺りはこれで問題ないと思います。それより再開発区画でしたか? クロトさんを待たせると一人で助けに行きそうですし、早く向かいま──」
どこから嗅ぎつけてきたのか。言い終えるよりも早く、路地から暴徒の集団が現れる。
身に着けた衣服、装備、武器の類から冒険者だと判断し、柄にも無くカグヤの口から深いため息がこぼれた。
身を屈んだかと思えば矢の如く跳び出したカグヤは腰に佩いた刀──“菊姫”の柄に手を掛ける。
「シノノメ流舞踊剣術外伝──《薊》」
すうっと息を吸い、影に潜行。
呼吸の隙間、意識の途切れを縫って音も無く集団の背後に回ったカグヤは、抜刀した漆黒を纏う刀身を翻し、
「混成接続・一拍──《紅要》」
色を変えた。
初伝である《楓》を発展させた紅の斬撃は集団の脚を払い、返す刃で放つ二撃目が、
「混成接続・二拍──《雪月花》」
軌道を変え、季節外れの冷気を伴って振り下ろされた。
輝きが地面を走り、耳朶に響く凍みた逆さ氷柱が集団の手足を拘束し、氷の彫像として縛りつける。
ふぅーっ、と。肌を撫でる冷気に首を竦めてカグヤは“菊姫”を納刀した。
カグヤが使う剣術の原型は花の型といい、日輪の国において奉納演武である神楽舞の一種。祀られる神にその年の豊穣と感謝、次年の繁栄を願う為に送るものだ。
呼吸による魔素の供給で身体能力を強化し肉体への負担を軽減。その上で魔素を刀身に流入させる事で様々な効果を発揮する。
闇属性であれば《薊》のように。
火属性であれば《紅要》のように。
水属性であれば《雪月花》のように。
見た目にも鮮やかで流麗な舞を延々と繰り返すのだ。
──つまり舞踊剣術も同じく、途切れること無く技を繰り出す事が可能なのでは?
クロトの前で花の型を披露した際に呟かれた素朴な疑問から天啓を得た。
舞踊から武術へ転化し行使しているとはいえ、シノノメ流が持つ元々の性質は舞い踊ること。
第三者の目線による指導。そして自身の感覚を頼りに、スキルの硬直が発生するまでの間に再びスキルを発動させて連撃を放つ。
今までカグヤ自身も気づかなかった新たな境地。
シノノメ流という自由度の高い流派スキルだからこそ成せる唯一無二の技術。
それが混成接続──本来の神楽舞としての機能に近づいた新たな力だ。
「おおっ、すげぇ。日に日に強くなってんなぁ……」
「手間取っている場合ではないというのに……先を急ぎましょう」
「そうだね。クロトも待ってるだろうし」
カグヤによる暴徒集団の鎮圧を見届け、エリック達は走り出した。
◆◇◆◇◆
再開発区画を駆け巡る人影が背中を合わせた。ルシアとシオンだ。
先行組を探す傍ら既に何十体もの魔物を灰に変えた二人は、ユニークと小型迷宮主を引き連れて合流。
単独で相手取るには厳しい魔物でも、連携して対応すれば問題ないと判断しての行動だった。
だが。
「数が多い……!」
「ったく、よくもまあこんな爆弾を抱えて機能してんな、この国は!」
質はさほど高くはないがとにかく量が多い。
管理下に置かれていない、もしくは封印処理されていない迷宮からはずっと魔物が溢れ出てくる。
己の飢餓に従い、格下を捕食し、共食いを経て力を得たユニーク。
生れ落ちた時から、迷宮という縄張りの頂点に君臨する迷宮主。
野性的な闘争本能と生存能力。並の魔物を凌駕する練度を身につけた奴らはただ一点、再開発区画に紛れ込んだ極上の餌を求めて殺到する。
「こんな所で手間取ってる場合じゃないのに……」
魔物の首に突き立てた大振りのナイフを引き抜き、血を払いながら。ルシアの脳裏に過るのはクロトの姿。
先ほど耳にした穏やかな声音とは裏腹に、刃物のような冷めた雰囲気を纏う彼に気圧された。
──元から不思議な人だとは思っていた。
敵でありながら味方のような、お互いの立場を理解していながら寄り添おうとする。
本当に、複雑な感情を抱かせてくる……そんな人だ。それはきっと他者を尊重する心の表われだと、ルシアは考えている。
自分の事なんて二の次で、誰かを大切に想っているからこその言動なのだ、と。
──でも、あの姿は、とても。
善性や優しさとはかけ離れた冷徹な目は、いざとなれば殺人すら厭わない覚悟を感じさせた。
身近な人に危険が及んだともなればそうなってもおかしくはない。ルシアも似通った経験があるから理解できる。
だとしても、怒りに呑まれているようには見えなかった。努めて冷静になろうとしていただけかもしれないが。
──むしろアレは、怯えている。
何に? いや、何を? それを察するにはクロトの事を知らない。
ルシアの悩みに対して真摯に考え、滲み出た心の靄を、少しでも晴らしてくれた恩人の心情を知らないのだ。
こちらの事情を笠に着て、いいように利用し迷惑を掛け続けていながら……厚かましいにも程がある。
カラミティの側でありながらこんな風に考えるのもおかしな話だが、そんな自分が居ることに、なんだか無性に腹が立つ。
「つーか、こんだけ暴れてんのに気づかねェのかあの野郎!? ドコほっつき回ってんだ!」
だから、出来る最善を成そう。
今こそ、目を背けたい自身の一部と向き合う時だ。
「シオン」
「ァアッ!? ンだよ、さっきまで黙ってたくせに」
「眼を使う。離れておいて」
数秒にも満たない受け答え。しかしルシアが伝えた言葉の意味を理解できないシオンではない。
一瞬だけルシアの方へ意識を向けた直後、片方の魔剣を遠くへ放り投げた。魔剣の異能を使って姿を消した事を確認し、彼女は眼帯に手を掛ける。
視界を遮る──物理的に遮っていても透過する琥珀の瞳が晒された。
魅惑の魔眼。規則正しい紋様が描かれた、宝石のような瞳。彼女にとっては、忌々しい記憶を持つ罪の形。
呼吸が乱れる、鼓動が速まる。
恐れはある、不安もある。
だけど、逃げないと決めたから。
ルシアの決意に呼応するように、虹彩が仄かに光を放つ。
『ガァアアアアアアッ!』
立ち止まり、集中していたルシアの下へ。雄叫びを上げた人身牛頭のユニーク魔物、ミノタウロスどもが押し寄せる。
大口を開いて剥き出しになった牙を突き立てるべく、見下ろすような形になった奴らに対して。
ルシアは静かに顔を上げ、目線を合わせ──
「“止まれ”」
『──ッ』
たった一言。
あまりにも小さく、僅かな物音で掻き消されそうな静止の一声。それだけでミノタウロスの動きに変化が生まれた。
剥き出しになった敵意をどこへ置き去ったのか。先頭に立つ一体がピタリと動きを止めて、項垂れて従うような姿勢を取った。その目はどこか虚ろで焦点がズレている。
人であれば問答無用に魅了させる魔眼。しかし魔物であれば結果は変化し、意識が掌握される。
抗う術を持たないミノタウロスは突如として現れた上位者の命令に従うしかない。
姿勢が低くなり嫌でも視認せざるを得なくなった後続のミノタウロスも、次々と支配下に置かれていく。
王に跪く騎士のように。ただ一人の下に、個から群と成った彼らは忠実に、愚直なまでに付き従う。
狂騒の空間に生まれた静寂を破ったのは一体の魔物。
グレイウルフと呼ばれる四足獣の魔物は脚力を活かし、ルシア目掛けて飛び掛かってきた。
ユニークでもない魔物程度にやられる彼女ではないが、手は下さない。
「“薙ぎ払え”」
『──ガァ!』
代わりに騎士が、強靭なる四肢から繰り出す一撃で王を守る。グレイウルフの顎が粉砕され灰へ帰した。
彼らは己の行為に疑問を抱かない。ただ主の命を遂行するのみ。そこから始まるのは騎士たちによる蹂躙劇だ。
一斉に散らばったミノタウロスはユニーク魔物に相応しい力を発揮し、他の魔物を駆逐し尽くしていく。
鮮血を、灰を敷き詰めて迷宮主でさえもすり潰していく様は、まるで地獄の行進だ。
「……背負って考え続けるのが大切、か」
その光景を生み出した当の本人は眼帯を付け直し、再び駆け出す。
ルシアにとって魔眼は忌み嫌うものだ。これまでの経験から好感情を抱いた覚えなど一切ない。
けれど、こうする事で助けられる人がいるのだとしたら。
どれだけ小さくても一歩ずつ前へ進めるように。
ほんの少しだけでも、この眼を受け入れるかもしれない。
「難しいな……でも、探してみるよ」
呼吸は落ち着き、鼓動は元に戻る。
恐れは薄れ、不安は萎んでいった。
「これまでと向き合う、私なりのやり方を」
だから、と。
ルシアはナイフを強く握り締めて。
「君も守りたいモノの為に、頑張って」
どこかで闘い続ける彼の姿を想いながら。
ミノタウロスの従僕を引き連れて、魔物の群れへと斬り込んだ。
アカツキ荘の面々は凶暴化した住民で溢れ返る路地を進んでいた。
「っ、エリック! クロトから連絡が来た!」
「マジか! 場所は……再開発区画だァ? とんでもねぇ場所に連れてかれてんなアイツら!」
二人の声を聞き流しながらカグヤは暴徒となった住民を無力化し、クロトが工房内に保管していた鎮静爆薬を一つ、火を点けて上空へ放り投げる。
音を立てて弾けた爆薬は風に乗って広がり、辺りへ散布された。
荒い呼吸を繰り返す住民は次第に落ち着きを取り戻し、血走った目が元に戻る。
「この辺りはこれで問題ないと思います。それより再開発区画でしたか? クロトさんを待たせると一人で助けに行きそうですし、早く向かいま──」
どこから嗅ぎつけてきたのか。言い終えるよりも早く、路地から暴徒の集団が現れる。
身に着けた衣服、装備、武器の類から冒険者だと判断し、柄にも無くカグヤの口から深いため息がこぼれた。
身を屈んだかと思えば矢の如く跳び出したカグヤは腰に佩いた刀──“菊姫”の柄に手を掛ける。
「シノノメ流舞踊剣術外伝──《薊》」
すうっと息を吸い、影に潜行。
呼吸の隙間、意識の途切れを縫って音も無く集団の背後に回ったカグヤは、抜刀した漆黒を纏う刀身を翻し、
「混成接続・一拍──《紅要》」
色を変えた。
初伝である《楓》を発展させた紅の斬撃は集団の脚を払い、返す刃で放つ二撃目が、
「混成接続・二拍──《雪月花》」
軌道を変え、季節外れの冷気を伴って振り下ろされた。
輝きが地面を走り、耳朶に響く凍みた逆さ氷柱が集団の手足を拘束し、氷の彫像として縛りつける。
ふぅーっ、と。肌を撫でる冷気に首を竦めてカグヤは“菊姫”を納刀した。
カグヤが使う剣術の原型は花の型といい、日輪の国において奉納演武である神楽舞の一種。祀られる神にその年の豊穣と感謝、次年の繁栄を願う為に送るものだ。
呼吸による魔素の供給で身体能力を強化し肉体への負担を軽減。その上で魔素を刀身に流入させる事で様々な効果を発揮する。
闇属性であれば《薊》のように。
火属性であれば《紅要》のように。
水属性であれば《雪月花》のように。
見た目にも鮮やかで流麗な舞を延々と繰り返すのだ。
──つまり舞踊剣術も同じく、途切れること無く技を繰り出す事が可能なのでは?
クロトの前で花の型を披露した際に呟かれた素朴な疑問から天啓を得た。
舞踊から武術へ転化し行使しているとはいえ、シノノメ流が持つ元々の性質は舞い踊ること。
第三者の目線による指導。そして自身の感覚を頼りに、スキルの硬直が発生するまでの間に再びスキルを発動させて連撃を放つ。
今までカグヤ自身も気づかなかった新たな境地。
シノノメ流という自由度の高い流派スキルだからこそ成せる唯一無二の技術。
それが混成接続──本来の神楽舞としての機能に近づいた新たな力だ。
「おおっ、すげぇ。日に日に強くなってんなぁ……」
「手間取っている場合ではないというのに……先を急ぎましょう」
「そうだね。クロトも待ってるだろうし」
カグヤによる暴徒集団の鎮圧を見届け、エリック達は走り出した。
◆◇◆◇◆
再開発区画を駆け巡る人影が背中を合わせた。ルシアとシオンだ。
先行組を探す傍ら既に何十体もの魔物を灰に変えた二人は、ユニークと小型迷宮主を引き連れて合流。
単独で相手取るには厳しい魔物でも、連携して対応すれば問題ないと判断しての行動だった。
だが。
「数が多い……!」
「ったく、よくもまあこんな爆弾を抱えて機能してんな、この国は!」
質はさほど高くはないがとにかく量が多い。
管理下に置かれていない、もしくは封印処理されていない迷宮からはずっと魔物が溢れ出てくる。
己の飢餓に従い、格下を捕食し、共食いを経て力を得たユニーク。
生れ落ちた時から、迷宮という縄張りの頂点に君臨する迷宮主。
野性的な闘争本能と生存能力。並の魔物を凌駕する練度を身につけた奴らはただ一点、再開発区画に紛れ込んだ極上の餌を求めて殺到する。
「こんな所で手間取ってる場合じゃないのに……」
魔物の首に突き立てた大振りのナイフを引き抜き、血を払いながら。ルシアの脳裏に過るのはクロトの姿。
先ほど耳にした穏やかな声音とは裏腹に、刃物のような冷めた雰囲気を纏う彼に気圧された。
──元から不思議な人だとは思っていた。
敵でありながら味方のような、お互いの立場を理解していながら寄り添おうとする。
本当に、複雑な感情を抱かせてくる……そんな人だ。それはきっと他者を尊重する心の表われだと、ルシアは考えている。
自分の事なんて二の次で、誰かを大切に想っているからこその言動なのだ、と。
──でも、あの姿は、とても。
善性や優しさとはかけ離れた冷徹な目は、いざとなれば殺人すら厭わない覚悟を感じさせた。
身近な人に危険が及んだともなればそうなってもおかしくはない。ルシアも似通った経験があるから理解できる。
だとしても、怒りに呑まれているようには見えなかった。努めて冷静になろうとしていただけかもしれないが。
──むしろアレは、怯えている。
何に? いや、何を? それを察するにはクロトの事を知らない。
ルシアの悩みに対して真摯に考え、滲み出た心の靄を、少しでも晴らしてくれた恩人の心情を知らないのだ。
こちらの事情を笠に着て、いいように利用し迷惑を掛け続けていながら……厚かましいにも程がある。
カラミティの側でありながらこんな風に考えるのもおかしな話だが、そんな自分が居ることに、なんだか無性に腹が立つ。
「つーか、こんだけ暴れてんのに気づかねェのかあの野郎!? ドコほっつき回ってんだ!」
だから、出来る最善を成そう。
今こそ、目を背けたい自身の一部と向き合う時だ。
「シオン」
「ァアッ!? ンだよ、さっきまで黙ってたくせに」
「眼を使う。離れておいて」
数秒にも満たない受け答え。しかしルシアが伝えた言葉の意味を理解できないシオンではない。
一瞬だけルシアの方へ意識を向けた直後、片方の魔剣を遠くへ放り投げた。魔剣の異能を使って姿を消した事を確認し、彼女は眼帯に手を掛ける。
視界を遮る──物理的に遮っていても透過する琥珀の瞳が晒された。
魅惑の魔眼。規則正しい紋様が描かれた、宝石のような瞳。彼女にとっては、忌々しい記憶を持つ罪の形。
呼吸が乱れる、鼓動が速まる。
恐れはある、不安もある。
だけど、逃げないと決めたから。
ルシアの決意に呼応するように、虹彩が仄かに光を放つ。
『ガァアアアアアアッ!』
立ち止まり、集中していたルシアの下へ。雄叫びを上げた人身牛頭のユニーク魔物、ミノタウロスどもが押し寄せる。
大口を開いて剥き出しになった牙を突き立てるべく、見下ろすような形になった奴らに対して。
ルシアは静かに顔を上げ、目線を合わせ──
「“止まれ”」
『──ッ』
たった一言。
あまりにも小さく、僅かな物音で掻き消されそうな静止の一声。それだけでミノタウロスの動きに変化が生まれた。
剥き出しになった敵意をどこへ置き去ったのか。先頭に立つ一体がピタリと動きを止めて、項垂れて従うような姿勢を取った。その目はどこか虚ろで焦点がズレている。
人であれば問答無用に魅了させる魔眼。しかし魔物であれば結果は変化し、意識が掌握される。
抗う術を持たないミノタウロスは突如として現れた上位者の命令に従うしかない。
姿勢が低くなり嫌でも視認せざるを得なくなった後続のミノタウロスも、次々と支配下に置かれていく。
王に跪く騎士のように。ただ一人の下に、個から群と成った彼らは忠実に、愚直なまでに付き従う。
狂騒の空間に生まれた静寂を破ったのは一体の魔物。
グレイウルフと呼ばれる四足獣の魔物は脚力を活かし、ルシア目掛けて飛び掛かってきた。
ユニークでもない魔物程度にやられる彼女ではないが、手は下さない。
「“薙ぎ払え”」
『──ガァ!』
代わりに騎士が、強靭なる四肢から繰り出す一撃で王を守る。グレイウルフの顎が粉砕され灰へ帰した。
彼らは己の行為に疑問を抱かない。ただ主の命を遂行するのみ。そこから始まるのは騎士たちによる蹂躙劇だ。
一斉に散らばったミノタウロスはユニーク魔物に相応しい力を発揮し、他の魔物を駆逐し尽くしていく。
鮮血を、灰を敷き詰めて迷宮主でさえもすり潰していく様は、まるで地獄の行進だ。
「……背負って考え続けるのが大切、か」
その光景を生み出した当の本人は眼帯を付け直し、再び駆け出す。
ルシアにとって魔眼は忌み嫌うものだ。これまでの経験から好感情を抱いた覚えなど一切ない。
けれど、こうする事で助けられる人がいるのだとしたら。
どれだけ小さくても一歩ずつ前へ進めるように。
ほんの少しだけでも、この眼を受け入れるかもしれない。
「難しいな……でも、探してみるよ」
呼吸は落ち着き、鼓動は元に戻る。
恐れは薄れ、不安は萎んでいった。
「これまでと向き合う、私なりのやり方を」
だから、と。
ルシアはナイフを強く握り締めて。
「君も守りたいモノの為に、頑張って」
どこかで闘い続ける彼の姿を想いながら。
ミノタウロスの従僕を引き連れて、魔物の群れへと斬り込んだ。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる