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【五ノ章】納涼祭
第八十七話 学園最強《後編》
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──楽しいなぁ。
幾度となく重ねた剣戟を想起し、胸中に湧いた感情に頬が緩む。
生徒会長、学園最強などと囃し立てられ、大仰な呼び名に恥じない実力を身に着けていると自負している。
故に孤独だった。最強は言い換えれば、単なる暴力装置とも言えるからだ。
持った力をどこへ向けるかにかかわらず、ただそこに居るだけで忌避の目を向けられ敬遠される。
ボクの場合はそれが顕著だった。見た目は普通の……まあ、割と美少女寄りのボクが片手間に強力な魔物を屠る様は、他者からすれば異様に見えるのだろう。
なんせ五、六人のパーティーを組んで作戦を立て、半日も掛けて討伐するような魔物を一時間ほどで倒しているのだ。
最初こそにこやかに受け入れてくれた依頼人が顔を引きつらせて報酬を渡して、逃げるように立ち去る行為を何度も目にしてきた。
学園でこそ生徒会のメンバーや教師はそういった対応はしないが、本心を図り知ることは出来ない。
ボクのことを噂程度でも耳にした生徒からは羨望・尊敬の眼差しを受けるが、それは表面上でしか知らないから。
誰も裏側を知ろうとは思わないし、知りたいと思う者はいないんだ。
誰にも頼れず、けれど頼られてばかりで。対面の良い当たり障りのない言葉を掛けられる。
そんな生活を変えられず、毎日を忙しなく消費していくしかなかった──クロトくんと出会うまでは。
正直、彼と初めて言葉を交わした時は怪しさ満点で信用なんて得られないと思っていた。急ぎすぎたし、見ず知らずの相手から“敵じゃない”とか言われても困惑しかない。
ボクだって頼りになる相談役のおかげで、多少強引だとしても接触に踏み切ったのだ。いくら悪感情や疑いの目を向けられてもやるべきだと背中を押されて。
「ちゃんと寝てるの? めちゃくちゃ顔色悪いけど……保健室で寝てきたら?」
だけど彼は顔を合わせる度に純粋な眼差しでこちらを心配してきた。まるでその対応が当たり前と言わんばかりに……思わず目が点になった。
大丈夫? 唐突に君の前に現れた怪しい女だよ? もっと聞きたい事とかあるでしょ? なんでいきなり朗らかな会話を始められるの?
ある意味、彼のことを恐れながら中間実技試験後のことを聞けば“突拍子もない事態に陥るのは慣れてる”と遠い目をして語っていた。何があったの……?
その後は依頼のせいで学園にいないことも多く、出会う機会は極端に少なくなってしまったが、それでも彼の人となりを察するくらいはできた。
学園の一生徒として見ると、彼は良い人だ。
生徒会に送られる陳情の一部を受け持ってくれたり、先輩後輩教師問わず大勢の頼み事も熟している。
特待生だから、なんて使命感とか義務で動いている訳じゃない。多くの人が彼の人の好さに助けられ、彼もまた誰かに助けられている。
それにどんなことにだって真剣に取り組んでくれる。現に、ボク以上に理不尽な理由で模擬戦をやらされているはずなのに、苛立ちは見せても文句は言わない。
こうして剣を重ねて競い合う中で、ボクの実力を目の当たりにして心が折れる人もいる。そもそもボクと決闘や模擬戦をやってくれる人なんてほとんどいない。負けが確定した勝負なんてつまらないからね。
「ふしゃーッ!」
『キュアーッ!』
でも、違うんだ。目の前で召喚獣と共にこちらを威嚇してくる彼は、本気で戦っている。自分の持てる全てを使って、どこまでもボクを追い詰めようとしているんだ。
話題性と興味本位で集まった観客も、見世物にしようと画策したであろう来賓も、ただこの場を盛り上げようとしている解説も──もう建前なんて関係ない。
純粋に、愚直に、ボクに勝とうとしている。その姿がたまらなく嬉しかった。きっと十本目もこれまで以上に策を講じて、手段を尽くして向かってくるんだよね?
だから、応えたいと思う。君の全力に、ボクも全力で迎え撃とう。
『……適合者』
「悪いけど、付き合ってもらえる?」
『それが貴女の意志であるなら、私は尊重しますよ』
握り締めた魔剣の明滅が強まる。白い灯火が揺らいだ。
その奥では全てを見通すような強い眼で見抜いてくる彼がいた。
もはや声を掛ける必要はない。ただ、アカツキ・クロトという存在と戦うだけ。
さあ──始めよう!
◆◇◆◇◆
十本目が始まるまでの休憩時間。
暴れすぎて凸凹塗れの惨状になったステージが整備されていく中、煙が出そうな頭を抱えてアカツキ荘の面々の所へ。
「ふしゅるるるるる……!」
「クロト、落ち着けって。せめて人としての感情を取り戻してくれ」
「俺は正常だよ……ッ!」
「どこを見てもそうとは思えませんが」
エリック、カグヤの呆れた声に応えながら周りに目を向ける。
解説は意気揚々と観客を沸かせる為に盛り上げていて、来賓に囲まれた学園長は変わらず顔が溶けそうだった。
先生は少しホッとした表情を浮かべて解説に振られた話題を捌いていて、次いでステージの中心で笑みをばら撒く憎きあんちきしょうを睨む。
まだまだ元気いっぱい、やる気十分な姿が恨めしい。魔剣一本とちょっとした光属性の魔法だけで蹂躙され過ぎだろ。こちとらどんだけリソース使われたと思ってんだ。
アブソーブボトルは残り四本、それ以外は充填中。失った爆薬とポーションの本数が脳裏にチラつく。
ソラは魔力を使い過ぎて、頑張れば上級魔法を一発撃てるかどうかといったところ。俺自身、身体強化に回せば数分ほど持つとは思うが《コンセントレート》は使わない方がいいだろう。
総じて魔力以外、大赤字なんだよちくしょうめ。
「くそったれ~、惜しい場面は何度もあったのに詰めの甘さが出ちまったなぁ。もうちょい時間を伸ばせたかもしれないのに」
「詰めが甘いっていうか、アレじゃどうすることもできないだろ。アタシがクロトの立場だったらもっと早く瞬殺されそう……ってか消耗した爆薬とポーション類の補充はしないのかい?」
「納涼祭の準備もあって生産してないからな、備蓄も無いし手持ちの物でなんとかするしかない」
「なるほど……」
納得したセリスから貰った果実水を一気に飲み干す。熱を持った身体に爽やかな酸味が染み渡る。
「で? 勝算はあるのか?」
「レオ達にも言われたけど、無いよそんなの。皆と一緒ならともかく、俺だけじゃあまず勝てない。あっちは攻撃用のスキルもあって補助スキルも俺の上位互換だから敵わないし、正攻法は絶対無理」
「ですが、そのまま負けるつもりはないんですよね?」
「もちろん。まだ見せてない技も罠も作戦もあるからね、良い線はイケると思う。ボトルも残量は十分……だけど、魔導剣だけじゃあ武器が足りないな」
「つってもなぁ、俺らは持ってきてないから貸せないぞ? 自由に狙い撃てで使う武器でも借りるか?」
「遠距離武器しか置いてないから要らない。うーん…………」
顎に手を当てて、少し考える。
血液魔法で代用できるけど魔剣の切れ味に耐えられる物……そうでなくとも一瞬の隙を作れる奇策の材料か。
「──よし。キオ、ヨムル!」
「「んぇ?」」
出店で買ってきた串焼肉を頬張る年長組を呼び寄せる。
「二人とも、悪いけど“トリック・マギア”を貸してくれるか。後でちゃんとメンテナンスして返すから」
「別にいいけど……二つもいる?」
「もちろん。あるのとないのとじゃあ戦略の幅が全く変わってくるからな、十本目は今まで以上に見応えのある戦闘になると思うよ」
不思議そうに首を傾げた二人を横目で見ながら、トリック・マギアの動作を確認。
刀身の放出部、設定出力、魔力結晶の残量、連結機構……問題なし。
「それじゃ、行ってくる。大怪我しないで帰って来れるよう祈っててくれよな!」
「大なり小なり負傷するのは確定なのかい?」
「既に擦り傷と切り傷、アザだらけでいろんなとこの骨が異常に痛いし、ほぼ満身創痍だぞ。ポーションも無くて回復できないからこのままやるしかない」
「障壁ありでそこまで追い詰められてんのかよ、限界ギリギリじゃねぇか。ほんとに大丈夫か?」
「……たぶんな!」
「不安しか感じません……」
冷や汗を垂らすカグヤに心配しないよう手を振って、生徒会長の待つステージの中央に戻る。
『しかし珍しいな、汝がそこまでやる気になるのは』
『そうなのか? 付き合いが浅いため理解が深いわけではないが、普段からこうではないと?』
『うむ。お主も知っているだろうが適合者は仲間と共に競い合い、高め合うことこそ好ましく思うが降りかかる理不尽には怒り、それによって生じる害を凄まじく嫌う。今回の件ももれなく条件に噛み合っていると判断したが……』
『懸念している感情の揺らぎなどが見られない、ということか。確かに謎だ……君の行動にはいったいどんな意図があるんだ?』
『別に、そんな深い理由はないよ』
脳内会議を聞き流しつつ、トリック・マギアを制服の裏に仕舞いながら。
『学園最強なんて大層な肩書きを持ってるから絶対に勝てない? そんな奴に無様に負ける姿が見たいって? バカみたいな思考回路してる外野の言葉は煩わしいね、ノイズでしかないよ。人をクソ雑魚みたいに言いやがって……しかも他の視点から見れば、生徒会長をまるで怪物だとでも言いたげじゃあないか』
『お、おう』
『だから示すんだよ。お前らが頼り切ってる生徒会長だって一人の人間でしかないって。パッとしない一生徒が学園最強を打ち負かす可能性を見せて、凝り固まった思考を頭ごとカチ割ってやるんだ』
『……そうか。語気は荒いが、納得はした』
『あと、俺は必死なのに向こうが終始余裕な雰囲気を醸し出してるのが気に入らない。度肝を抜いてやるよへっへっへ……』
『『…………』』
言葉を失った様子の二人を無視し、改めて生徒会長と見合う。
魔剣を両手で握り締め、その奥で見据える瞳はまっすぐで、何やら覚悟を決めたようなご様子。
いいだろう──さあ、かかってこいやぁ!
幾度となく重ねた剣戟を想起し、胸中に湧いた感情に頬が緩む。
生徒会長、学園最強などと囃し立てられ、大仰な呼び名に恥じない実力を身に着けていると自負している。
故に孤独だった。最強は言い換えれば、単なる暴力装置とも言えるからだ。
持った力をどこへ向けるかにかかわらず、ただそこに居るだけで忌避の目を向けられ敬遠される。
ボクの場合はそれが顕著だった。見た目は普通の……まあ、割と美少女寄りのボクが片手間に強力な魔物を屠る様は、他者からすれば異様に見えるのだろう。
なんせ五、六人のパーティーを組んで作戦を立て、半日も掛けて討伐するような魔物を一時間ほどで倒しているのだ。
最初こそにこやかに受け入れてくれた依頼人が顔を引きつらせて報酬を渡して、逃げるように立ち去る行為を何度も目にしてきた。
学園でこそ生徒会のメンバーや教師はそういった対応はしないが、本心を図り知ることは出来ない。
ボクのことを噂程度でも耳にした生徒からは羨望・尊敬の眼差しを受けるが、それは表面上でしか知らないから。
誰も裏側を知ろうとは思わないし、知りたいと思う者はいないんだ。
誰にも頼れず、けれど頼られてばかりで。対面の良い当たり障りのない言葉を掛けられる。
そんな生活を変えられず、毎日を忙しなく消費していくしかなかった──クロトくんと出会うまでは。
正直、彼と初めて言葉を交わした時は怪しさ満点で信用なんて得られないと思っていた。急ぎすぎたし、見ず知らずの相手から“敵じゃない”とか言われても困惑しかない。
ボクだって頼りになる相談役のおかげで、多少強引だとしても接触に踏み切ったのだ。いくら悪感情や疑いの目を向けられてもやるべきだと背中を押されて。
「ちゃんと寝てるの? めちゃくちゃ顔色悪いけど……保健室で寝てきたら?」
だけど彼は顔を合わせる度に純粋な眼差しでこちらを心配してきた。まるでその対応が当たり前と言わんばかりに……思わず目が点になった。
大丈夫? 唐突に君の前に現れた怪しい女だよ? もっと聞きたい事とかあるでしょ? なんでいきなり朗らかな会話を始められるの?
ある意味、彼のことを恐れながら中間実技試験後のことを聞けば“突拍子もない事態に陥るのは慣れてる”と遠い目をして語っていた。何があったの……?
その後は依頼のせいで学園にいないことも多く、出会う機会は極端に少なくなってしまったが、それでも彼の人となりを察するくらいはできた。
学園の一生徒として見ると、彼は良い人だ。
生徒会に送られる陳情の一部を受け持ってくれたり、先輩後輩教師問わず大勢の頼み事も熟している。
特待生だから、なんて使命感とか義務で動いている訳じゃない。多くの人が彼の人の好さに助けられ、彼もまた誰かに助けられている。
それにどんなことにだって真剣に取り組んでくれる。現に、ボク以上に理不尽な理由で模擬戦をやらされているはずなのに、苛立ちは見せても文句は言わない。
こうして剣を重ねて競い合う中で、ボクの実力を目の当たりにして心が折れる人もいる。そもそもボクと決闘や模擬戦をやってくれる人なんてほとんどいない。負けが確定した勝負なんてつまらないからね。
「ふしゃーッ!」
『キュアーッ!』
でも、違うんだ。目の前で召喚獣と共にこちらを威嚇してくる彼は、本気で戦っている。自分の持てる全てを使って、どこまでもボクを追い詰めようとしているんだ。
話題性と興味本位で集まった観客も、見世物にしようと画策したであろう来賓も、ただこの場を盛り上げようとしている解説も──もう建前なんて関係ない。
純粋に、愚直に、ボクに勝とうとしている。その姿がたまらなく嬉しかった。きっと十本目もこれまで以上に策を講じて、手段を尽くして向かってくるんだよね?
だから、応えたいと思う。君の全力に、ボクも全力で迎え撃とう。
『……適合者』
「悪いけど、付き合ってもらえる?」
『それが貴女の意志であるなら、私は尊重しますよ』
握り締めた魔剣の明滅が強まる。白い灯火が揺らいだ。
その奥では全てを見通すような強い眼で見抜いてくる彼がいた。
もはや声を掛ける必要はない。ただ、アカツキ・クロトという存在と戦うだけ。
さあ──始めよう!
◆◇◆◇◆
十本目が始まるまでの休憩時間。
暴れすぎて凸凹塗れの惨状になったステージが整備されていく中、煙が出そうな頭を抱えてアカツキ荘の面々の所へ。
「ふしゅるるるるる……!」
「クロト、落ち着けって。せめて人としての感情を取り戻してくれ」
「俺は正常だよ……ッ!」
「どこを見てもそうとは思えませんが」
エリック、カグヤの呆れた声に応えながら周りに目を向ける。
解説は意気揚々と観客を沸かせる為に盛り上げていて、来賓に囲まれた学園長は変わらず顔が溶けそうだった。
先生は少しホッとした表情を浮かべて解説に振られた話題を捌いていて、次いでステージの中心で笑みをばら撒く憎きあんちきしょうを睨む。
まだまだ元気いっぱい、やる気十分な姿が恨めしい。魔剣一本とちょっとした光属性の魔法だけで蹂躙され過ぎだろ。こちとらどんだけリソース使われたと思ってんだ。
アブソーブボトルは残り四本、それ以外は充填中。失った爆薬とポーションの本数が脳裏にチラつく。
ソラは魔力を使い過ぎて、頑張れば上級魔法を一発撃てるかどうかといったところ。俺自身、身体強化に回せば数分ほど持つとは思うが《コンセントレート》は使わない方がいいだろう。
総じて魔力以外、大赤字なんだよちくしょうめ。
「くそったれ~、惜しい場面は何度もあったのに詰めの甘さが出ちまったなぁ。もうちょい時間を伸ばせたかもしれないのに」
「詰めが甘いっていうか、アレじゃどうすることもできないだろ。アタシがクロトの立場だったらもっと早く瞬殺されそう……ってか消耗した爆薬とポーション類の補充はしないのかい?」
「納涼祭の準備もあって生産してないからな、備蓄も無いし手持ちの物でなんとかするしかない」
「なるほど……」
納得したセリスから貰った果実水を一気に飲み干す。熱を持った身体に爽やかな酸味が染み渡る。
「で? 勝算はあるのか?」
「レオ達にも言われたけど、無いよそんなの。皆と一緒ならともかく、俺だけじゃあまず勝てない。あっちは攻撃用のスキルもあって補助スキルも俺の上位互換だから敵わないし、正攻法は絶対無理」
「ですが、そのまま負けるつもりはないんですよね?」
「もちろん。まだ見せてない技も罠も作戦もあるからね、良い線はイケると思う。ボトルも残量は十分……だけど、魔導剣だけじゃあ武器が足りないな」
「つってもなぁ、俺らは持ってきてないから貸せないぞ? 自由に狙い撃てで使う武器でも借りるか?」
「遠距離武器しか置いてないから要らない。うーん…………」
顎に手を当てて、少し考える。
血液魔法で代用できるけど魔剣の切れ味に耐えられる物……そうでなくとも一瞬の隙を作れる奇策の材料か。
「──よし。キオ、ヨムル!」
「「んぇ?」」
出店で買ってきた串焼肉を頬張る年長組を呼び寄せる。
「二人とも、悪いけど“トリック・マギア”を貸してくれるか。後でちゃんとメンテナンスして返すから」
「別にいいけど……二つもいる?」
「もちろん。あるのとないのとじゃあ戦略の幅が全く変わってくるからな、十本目は今まで以上に見応えのある戦闘になると思うよ」
不思議そうに首を傾げた二人を横目で見ながら、トリック・マギアの動作を確認。
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「それじゃ、行ってくる。大怪我しないで帰って来れるよう祈っててくれよな!」
「大なり小なり負傷するのは確定なのかい?」
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「障壁ありでそこまで追い詰められてんのかよ、限界ギリギリじゃねぇか。ほんとに大丈夫か?」
「……たぶんな!」
「不安しか感じません……」
冷や汗を垂らすカグヤに心配しないよう手を振って、生徒会長の待つステージの中央に戻る。
『しかし珍しいな、汝がそこまでやる気になるのは』
『そうなのか? 付き合いが浅いため理解が深いわけではないが、普段からこうではないと?』
『うむ。お主も知っているだろうが適合者は仲間と共に競い合い、高め合うことこそ好ましく思うが降りかかる理不尽には怒り、それによって生じる害を凄まじく嫌う。今回の件ももれなく条件に噛み合っていると判断したが……』
『懸念している感情の揺らぎなどが見られない、ということか。確かに謎だ……君の行動にはいったいどんな意図があるんだ?』
『別に、そんな深い理由はないよ』
脳内会議を聞き流しつつ、トリック・マギアを制服の裏に仕舞いながら。
『学園最強なんて大層な肩書きを持ってるから絶対に勝てない? そんな奴に無様に負ける姿が見たいって? バカみたいな思考回路してる外野の言葉は煩わしいね、ノイズでしかないよ。人をクソ雑魚みたいに言いやがって……しかも他の視点から見れば、生徒会長をまるで怪物だとでも言いたげじゃあないか』
『お、おう』
『だから示すんだよ。お前らが頼り切ってる生徒会長だって一人の人間でしかないって。パッとしない一生徒が学園最強を打ち負かす可能性を見せて、凝り固まった思考を頭ごとカチ割ってやるんだ』
『……そうか。語気は荒いが、納得はした』
『あと、俺は必死なのに向こうが終始余裕な雰囲気を醸し出してるのが気に入らない。度肝を抜いてやるよへっへっへ……』
『『…………』』
言葉を失った様子の二人を無視し、改めて生徒会長と見合う。
魔剣を両手で握り締め、その奥で見据える瞳はまっすぐで、何やら覚悟を決めたようなご様子。
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