自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

文字の大きさ
上 下
132 / 249
【五ノ章】納涼祭

第八十七話 学園最強《後編》

しおりを挟む
 ──楽しいなぁ。
 幾度となく重ねた剣戟けんげきを想起し、胸中に湧いた感情に頬が緩む。
 生徒会長、学園最強などとはやし立てられ、大仰な呼び名に恥じない実力を身に着けていると自負している。
 故に孤独だった。最強は言い換えれば、単なる暴力装置とも言えるからだ。
 持った力をどこへ向けるかにかかわらず、ただそこに居るだけで忌避の目を向けられ敬遠される。

 ボクの場合はそれが顕著だった。見た目は普通の……まあ、割と美少女寄りのボクが片手間に強力な魔物モンスターを屠る様は、他者からすれば異様に見えるのだろう。
 なんせ五、六人のパーティーを組んで作戦を立て、半日も掛けて討伐するような魔物を一時間ほどで倒しているのだ。
 最初こそにこやかに受け入れてくれた依頼人が顔を引きつらせて報酬を渡して、逃げるように立ち去る行為を何度も目にしてきた。

 学園でこそ生徒会のメンバーや教師はそういった対応はしないが、本心をはかり知ることは出来ない。
 ボクのことを噂程度でも耳にした生徒からは羨望・尊敬の眼差しを受けるが、それは表面上でしか知らないから。
 誰も裏側を知ろうとは思わないし、知りたいと思う者はいないんだ。
 誰にも頼れず、けれど頼られてばかりで。対面の良い当たり障りのない言葉を掛けられる。

 そんな生活を変えられず、毎日をせわしなく消費していくしかなかった──クロトくんと出会うまでは。
 正直、彼と初めて言葉を交わした時は怪しさ満点で信用なんて得られないと思っていた。急ぎすぎたし、見ず知らずの相手から“敵じゃない”とか言われても困惑しかない。
 ボクだって頼りになるのおかげで、多少強引だとしても接触に踏み切ったのだ。いくら悪感情や疑いの目を向けられてもやるべきだと背中を押されて。

「ちゃんと寝てるの? めちゃくちゃ顔色悪いけど……保健室で寝てきたら?」

 だけど彼は顔を合わせるたびに純粋な眼差しでこちらを心配してきた。まるでその対応が当たり前と言わんばかりに……思わず目が点になった。
 大丈夫? 唐突に君の前に現れた怪しい女だよ? もっと聞きたい事とかあるでしょ? なんでいきなりほがらかな会話を始められるの?

 ある意味、彼のことを恐れながら中間実技試験後のことを聞けば“突拍子もない事態におちいるのは慣れてる”と遠い目をして語っていた。何があったの……?
 その後は依頼のせいで学園にいないことも多く、出会う機会は極端に少なくなってしまったが、それでも彼の人となりを察するくらいはできた。

 学園の一生徒として見ると、彼は良い人だ。
 生徒会に送られる陳情の一部を受け持ってくれたり、先輩後輩教師問わず大勢の頼み事もこなしている。
 特待生だから、なんて使命感とか義務で動いている訳じゃない。多くの人が彼の人のさに助けられ、彼もまた誰かに助けられている。

 それにどんなことにだって真剣に取り組んでくれる。現に、ボク以上に理不尽な理由で模擬戦をやらされているはずなのに、苛立ちは見せても文句は言わない。
 こうして剣を重ねて競い合う中で、ボクの実力を目の当たりにして心が折れる人もいる。そもそもボクと決闘や模擬戦をやってくれる人なんてほとんどいない。負けが確定した勝負なんてつまらないからね。

「ふしゃーッ!」
『キュアーッ!』

 でも、違うんだ。目の前で召喚獣と共にこちらを威嚇してくる彼は、本気で戦っている。自分の持てる全てを使って、どこまでもボクを追い詰めようとしているんだ。
 話題性と興味本位で集まった観客も、見世物にしようと画策したであろう来賓も、ただこの場を盛り上げようとしている解説も──もう建前なんて関係ない。

 純粋に、愚直に、ボクに勝とうとしている。その姿がたまらなく嬉しかった。きっと十本目もこれまで以上に策を講じて、手段を尽くして向かってくるんだよね?
 だから、応えたいと思う。君の全力に、ボクも全力で迎え撃とう。

『……適合者』
「悪いけど、付き合ってもらえる?」
『それが貴女あなたの意志であるなら、私は尊重しますよ』

 握り締めた魔剣の明滅が強まる。白い灯火が揺らいだ。
 その奥では全てを見通すような強い眼で見抜いてくる彼がいた。
 もはや声を掛ける必要はない。ただ、アカツキ・クロトという存在と戦うだけ。
 さあ──始めよう!

 ◆◇◆◇◆

 十本目が始まるまでの休憩時間。
 暴れすぎて凸凹でこぼこまみれの惨状になったステージが整備されていく中、煙が出そうな頭を抱えてアカツキ荘の面々の所へ。

「ふしゅるるるるる……!」
「クロト、落ち着けって。せめて人としての感情を取り戻してくれ」
「俺は正常だよ……ッ!」
「どこを見てもそうとは思えませんが」

 エリック、カグヤの呆れた声に応えながら周りに目を向ける。
 解説は意気揚々と観客を沸かせる為に盛り上げていて、来賓に囲まれた学園長は変わらず顔が溶けそうだった。
 先生は少しホッとした表情を浮かべて解説に振られた話題をさばいていて、次いでステージの中心で笑みをばら撒く憎きあんちきしょう生徒会長を睨む。

 まだまだ元気いっぱい、やる気十分な姿が恨めしい。魔剣一本とちょっとした光属性の魔法だけで蹂躙され過ぎだろ。こちとらどんだけリソース使われたと思ってんだ。
 アブソーブボトルは残り四本、それ以外は充填中。失った爆薬とポーションの本数が脳裏にチラつく。
 ソラは魔力を使い過ぎて、頑張れば上級魔法を一発撃てるかどうかといったところ。俺自身、身体強化に回せば数分ほど持つとは思うが《コンセントレート》は使わない方がいいだろう。
 総じて魔力以外、大赤字なんだよちくしょうめ。

「くそったれ~、惜しい場面は何度もあったのに詰めの甘さが出ちまったなぁ。もうちょい時間を伸ばせたかもしれないのに」
「詰めが甘いっていうか、アレじゃどうすることもできないだろ。アタシがクロトの立場だったらもっと早く瞬殺されそう……ってか消耗した爆薬とポーション類の補充はしないのかい?」
「納涼祭の準備もあって生産してないからな、備蓄も無いし手持ちの物でなんとかするしかない」
「なるほど……」

 納得したセリスから貰った果実水を一気に飲み干す。熱を持った身体に爽やかな酸味が染み渡る。

「で? 勝算はあるのか?」
「レオ達にも言われたけど、無いよそんなの。皆と一緒ならともかく、俺だけじゃあまず勝てない。あっちは攻撃用のスキルもあって補助スキルも俺の上位互換だから敵わないし、正攻法は絶対無理」
「ですが、そのまま負けるつもりはないんですよね?」
「もちろん。まだ見せてない技も罠も作戦もあるからね、良い線はイケると思う。ボトルも残量は十分……だけど、魔導剣だけじゃあ武器が足りないな」
「つってもなぁ、俺らは持ってきてないから貸せないぞ? 自由に狙い撃てアルシェトリアで使う武器でも借りるか?」
「遠距離武器しか置いてないから要らない。うーん…………」

 顎に手を当てて、少し考える。
 血液魔法で代用できるけど魔剣の切れ味に耐えられる物……そうでなくとも一瞬の隙を作れる奇策の材料か。

「──よし。キオ、ヨムル!」
「「んぇ?」」

 出店で買ってきた串焼肉を頬張る年長組を呼び寄せる。

「二人とも、悪いけど“トリック・マギア”を貸してくれるか。後でちゃんとメンテナンスして返すから」
「別にいいけど……二つもいる?」
「もちろん。あるのとないのとじゃあ戦略の幅が全く変わってくるからな、十本目は今まで以上に見応えのある戦闘になると思うよ」

 不思議そうに首を傾げた二人を横目で見ながら、トリック・マギアの動作を確認。
 刀身の放出部、設定出力、魔力結晶マナ・クリスタの残量、……問題なし。

「それじゃ、行ってくる。大怪我しないで帰って来れるよう祈っててくれよな!」
「大なり小なり負傷するのは確定なのかい?」
「既に擦り傷と切り傷、アザだらけでいろんなとこの骨が異常に痛いし、ほぼ満身創痍だぞ。ポーションも無くて回復できないからこのままやるしかない」
「障壁ありでそこまで追い詰められてんのかよ、限界ギリギリじゃねぇか。ほんとに大丈夫か?」
「……たぶんな!」
「不安しか感じません……」

 冷や汗を垂らすカグヤに心配しないよう手を振って、生徒会長の待つステージの中央に戻る。

『しかし珍しいな、汝がそこまでやる気になるのは』
『そうなのか? 付き合いが浅いため理解が深いわけではないが、普段からこうではないと?』
『うむ。お主も知っているだろうが適合者は仲間と共に競い合い、高め合うことこそ好ましく思うが降りかかる理不尽には怒り、それによって生じる害を凄まじく嫌う。今回の件ももれなく条件に噛み合っていると判断したが……』
『懸念している感情の揺らぎなどが見られない、ということか。確かに謎だ……君の行動にはいったいどんな意図があるんだ?』
『別に、そんな深い理由はないよ』

 脳内会議を聞き流しつつ、トリック・マギアを制服の裏に仕舞いながら。

『学園最強なんて大層な肩書きを持ってるから絶対に勝てない? そんな奴に無様に負ける姿が見たいって? バカみたいな思考回路してる外野の言葉はわずらわしいね、ノイズでしかないよ。人をクソ雑魚みたいに言いやがって……しかも他の視点から見れば、生徒会長をまるで怪物だとでも言いたげじゃあないか』
『お、おう』
『だから示すんだよ。お前らが頼り切ってる生徒会長だって一人の人間でしかないって。パッとしない一生徒が学園最強を打ち負かす可能性を見せて、凝り固まった思考を頭ごとカチ割ってやるんだ』
『……そうか。語気は荒いが、納得はした』
『あと、俺は必死なのに向こうが終始余裕な雰囲気を醸し出してるのが気に入らない。度肝を抜いてやるよへっへっへ……』
『『…………』』

 言葉を失った様子の二人を無視し、改めて生徒会長と見合う。
 魔剣を両手で握り締め、その奥で見据える瞳はまっすぐで、何やら覚悟を決めたようなご様子。
 いいだろう──さあ、かかってこいやぁ!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

処理中です...