自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【五ノ章】納涼祭

第七十九話 アナタと共に歩みたい《前編》

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「おお~……!」

 パンフレットを片手に二年七組のある校舎から離れて、別の棟へ向かった先で。体験型の出し物とやらで構成されているエリアにやってきた。
 将来は生産職に就くべく日夜研究を重ねている鍛冶師スミス錬金術師アルケミスト装飾細工師アクセデザイナーがメインで店を回しているらしい。
 出し物にちなんだ魔力結晶マナ・クリスタを加工した煌びやかな装飾品や、魔物モンスターの素材を活用している物で廊下は彩られていて。
 異世界らしさ全開の景観を見ているだけでもテンションが上がってくる。テーマパークに来たみたいだぜぇ……!

「お試しアクセサリー製作、美味しい迷宮ダンジョンメシの作り方、自分だけの結晶灯を作ろう! か」
『冒険者学園ならではの出店が並んでいるな』
『馴染みの無い者にとっては新鮮なのだろう。特に冒険者と関わりの薄い者や、外部から来た人間が狙いと見える』

 ゴートが言った通りでもあるし、未だ迷宮攻略を許可されていない初等部の生徒にとっては、予行練習も兼ねて楽しめる施設と化しているようだ。
 実際に迷宮攻略を体験する機会が設けられるのは初等部の高学年から。しかも教師に実力を認められた生徒にのみ許可されるくらいだ。
 同じ学び舎の先駆者に経験を教えてもらえる機会があるなら、そりゃ人気も出てくる。心なしか、すれ違う人も大人より子どもの割合が多く見えるし。

『憧れは誰にも止められないものだしねぇ。まあ、ユニークと鉢合わせたら死ぬほどツラいけど』
『最近の事であれば童たちの救出か。凄まじい激戦だったからな』
『うむ、当時の記憶を見させてもらった。率直な感想として…………よく生きていたな?』
『もう二度とやらない、絶対に。……おっ、折り畳み式の簡易ピッケルだ。個人的には趣味じゃないけど、こういう物の方が使われやすいのかな』

 冒険者お気に入りの一品! などと描かれたポップの下に並べられた、迷宮探索に有用な道具の一つを手に取って眺めていると。

「おや、クロトさん?」
「んぇ?」

 背後から声を掛けられる。振り返れば、そこにはバインダーを片手にこちらへ歩み寄って来るシルフィ先生がいた。
 人波に紛れても目をく翡翠の髪に化粧要らずの美貌。いつものスーツ姿なのは変わらないが右腕に“構内見回り中”の腕章を巻いている。
 そういえば教師もシフトを組んで、担当してる教室と構内の警備に回るってフレンが言ってたな。タチの悪い客はどう足掻いても湧いてくるし、生徒が悪ノリで良くない事を仕出かした前例もあったみたいだし。
 爆薬を活用した出し物で一部校舎を破壊したとか、リーク先生じゃないんだからやめなさいよ。

「ああ、やはり……いや、驚きました。執事服、とても似合ってますよ」
「ありがとうございます、先生。自分にはこういうの合わないかなって不安だったけど、先生がそう言ってくれるなら自信が持てます」
「ふふっ、それは何よりです。……となると、今は休憩中ですか?」
「ですね。ちょうどエリックと交代してきてどこから見て回ろうかなって。ただ、この世界に来て初めての祭りだし、どれもこれも興味が湧いてきちゃって迷ってたんです」
「なるほど、そういうことでしたか」
「せーんせ! やっほー!」
「はい、こんにちは。楽しんでますか?」
「もうサイッコーだよ! 去年よりもめちゃめちゃ楽しい! ヒャッハー!」

 談笑に講じていたらドワーフの小柄な女子生徒に挨拶され、先生に大きく手を振って去っていった。
 やはりガルドとの一件を経て自身の姿を隠さなくなった彼女は、今まで以上に人気が高くなった気がする。
 生徒に対して親身に接する姿勢は変わらず。だが、前よりも柔らかい雰囲気が出てきて男子だけでなく女子生徒からも好かれているらしい。
 苦難を乗り越え一皮剝けた人の成長は良いものだ。そんな彼女の笑顔を守り通せたのだから、命懸けで神話存在とやりあった甲斐があったと胸を張れる。

「先生はこの棟の見回りをしてたんですか?」
「はい。もう一通り見て回り最後の出し物に行く途中でした……ん、です、けど」
「……なんだか、歯切れ悪くないですか?」

 先生が手元のバインダーを覗きながら目線を泳がせる。よく見れば顔色も悪い。
 なんだろう、そこまで動揺するレベルの出し物があるのか? 古き良きエルフの伝統衣装でダンスパーティーとか?
 デールが描いた衣装の原案を見たけど学園の出し物でやれるもんじゃないよ、アレ。捕まるわ。
 先生がモチーフになっていたイラストを想起していると、先生は意を決したかのように目を見開く。

「……もし、もしよければなのですが、最後の出し物だけ一緒に見てくれませんか?」
「んん? 別に時間はありますし問題ないですよ。でも、なんで……?」
「来てくれれば分かります。来てくれれば……」
「え、怖いんですけど。あの、引っ張る力が強いんですけど! ちょっと、ちょっと先生!?」

 困惑も束の間、有無を言わさず手を取られて連れていかれた。
 なんだか周囲の視線が強くなった気がしたが、どんな出し物が待っているか気になって構っていられない。
 しかし。先生が尻込みしてしまうほどの出し物とはいったい……?

 ◆◇◆◇◆

「帰りましょう、先生。無理だよ 諦めよう」
「お願いします、ほんとにお願いします! 私一人では難しいんですっ!」
「イヤだッッッ!!!」
「そこまで強く拒絶しますか!?」

 件の出し物の前で、お互いに両手を握り締めて押し相撲の体勢を取りながら。周囲の目もはばからず大声のやり取りを交わしていた。
 俺がここまで嫌がる出店とは──アンデッド屋敷。別名をお化け屋敷。
 既にアカツキ荘の面子に明かしていた、俺の苦手なモノの一つ。小さい頃からホラー系とか怖いものがずっと嫌いなのだ。
 映画や漫画、アニメにホラーゲームはもちろん行事で強制参加させられた肝試しとか深夜の学校とかマジふざけんな! と駄々をこねるレベルで大っ嫌いなのだ。
 特にホラー系の代名詞であるお化け屋敷とか、ほんと……い、イヤだ……!
 人を脅かすという、故意に集めた人の悪意が渦巻く深淵に乗り込めなんて名指しされても行かんわ!

「先生だってわかるでしょう!? 貴女も心の底から怖いものが苦手で恐怖体験に耳を塞ぐほど嫌いなはずだ、大人しく代役の先生を立てましょう!」
「私もそうしたかったんです……でも他の教師は担当してる出し物の方に集中してしまって、自由に動けるのが私しかいなかったんです。もはや頼れるの貴方だけなんですっ!」
「学園長を呼んでよ、暇でしょアイツッ!」
「彼女は“来賓の方々の対応が面倒だから”という書き置きを学園長室に残して逃亡しました! 現在、教師と生徒会による捜索隊を編成して展開中です!」
「ちくしょう使えねぇな!!」

 感情から飛び出す悪態が止まらない。マジで勘弁してほしい。
 業務上の都合とはいえ、めっちゃ綺麗な女の人と一緒に納涼祭をぶらつくとか。
 これはデートと呼んでも差支さしつかえないのでは? と欠片でも思った純情な心を返して。思い過した無垢な感情を取り戻させて。

「まったく情けないですわね。大の男がみっともない……エルフよりもさらに上位で淑女たるシルフィリア様と共にいるだけでも、凄まじい幸運だというのに」
「やかましいぞ金髪ドリルツインテ! 心のドス黒いヘドロを集めて形にした諸悪の根源の貴様に何が分かる!」
「そこまでけなされる筋合いはありませんわよ!? それとわたくしのことをおかしな名称で呼ばないでくださいまし!」

 おどろおどろしい装飾の出入り口から出てきた、幽鬼──闇属性の魔素が濃厚な迷宮で散見される魔物──の仮装をしたルナ・ミクスが肩を怒らせてツッコんでくる。
 そう、このアンデッド屋敷はこの階の教室を全て借りて迷宮を模した、とてつもなく大規模な出し物であり、その主導者はカグヤのライバルを自称するルナだ。

「もう! こっちはいきなり現れたカグヤさんが一切怖がる素振りを見せず、ニコニコ笑いながら踏破したせいで評判がよろしくないというのに。せっかく気合いの入れた内装も演技も台無しですわ!」
「……先生、今からでもカグヤを呼びに行きませんか? 俺たちにとって救いの女神になってくれますよ」
「カグヤさんは初等部の演劇を観賞中なので呼べません」
「ああ……レインちゃんの所が絵本を題材にした演劇をやるんだっけ……恥ずかしいから見に来ないで、って言われちゃったけど」

 ズルズル、と。入口へ引きずられそうになる体を踏ん張って止める。
 この人、魔力操作で筋力を強化してやがるな……! 凄まじい膂力だ、頭良いのに膨大な魔力の使い道が脳筋過ぎるッ!

「いいですかクロトさん、考えてみてください。私だってこんな所に貴方を付き合わせるのは心苦しい。ですが、この障害を乗り越えた先で得た景色は最高なのだと思いませんか? 私を助けてくれたあの時のように……だから、抵抗は無駄です。行きましょう」
「最早なりふり構っている発言ではないですね?」
「先生の言い分も良く分かりますよ。俺だって苦難の先に向かっていきたい、つまづいてなんかいられないんです。でもソレはソレ、コレはコレ。行きたくない所は行きたくないんだ、心臓が持たないんだ、精神が死ぬんだ! 道連れなんていらないでしょ引き摺らないで助けてぇ誰かぁ男の人ぉ!!」
「清々しいほどの命乞いですわ……とりあえず、二名様ご案内で」
「止めろよルナァ!!」

 潤む視界の中で助けを乞っても意味は無く。
 死地へ赴くような表情の先生に抱きかかえられて。
 大口を開けて待つデストラップだらけの迷宮に入っていった──
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