自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【五ノ章】納涼祭

第七十五話 災禍の鐘は鳴り止まない

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 緑の魔剣の精神空間。
 上下左右、どこを見ても幾何学模様の世界だ。レオとは色が違う程度で、特におかしな所が無い辺り、この見た目はどの魔剣でも共通しているのだろう。
 精神空間に降り立って速攻、緑の魔剣に飛び掛かり、組み伏せて。
 まず最初に同じ魔剣の意思であるレオから、何故ここに来たのかを説明してもらった。同族からの言葉の方が信じられると思っての提案だ。
 まあ、何かされる前に攻撃しかけたのは早とちりが過ぎたけど。でも相手の土俵に乗り込んでる時点で相当不利なんだから、早計でもやるべきだと思ったんです。他意はないです。
 ……本当に申し訳ないと思っているので、自己反省を込めて精神空間でも正座しておきますね。
 正座しながら二人……二本? の会話が終わるのを待つ。
 それ以外の音は無く、待ちぼうけのまま座っていて。しばらくして話の矛先がこちらに向いた。

粗方あらかた、君達の関係は聞かせてもらった。その上で問うが……レオ、君の適合者は蛮族なのか?』
『違う、とも言い切れん。思考的には限りなく近しい者ではある』
「揃いも揃ってボロクソな評価をくだすんじゃあないよ。……さっきの行動のせいで信じてもらえないかもしれないけどさ」

 眼前に浮遊する二本の魔剣にツッコみながら、居心地の悪さに肩を竦める。

『そこまで自責の念に駆られる必要も無い。先程の行動も、理由を聞けば納得のいくものだった。むしろ我らの精神空間に潜り込み、なおかつ己を失わず自らの判断で動くというのは、適合者としての心構えが備わっており、そして当人の精神が強固かつ堅牢である証拠だ。称賛に値する』
「無機物に優しくさとされて褒められてるぅ……しかも知的ぃ……」
『我の時よりも反応がかんばしいな。何故だ?』
「不法侵入してきたお前とは初期好感度が全く違うからだよ」

 不思議そうな、それでいて不服そうなレオに文句を吐き捨てて正座から立ち上がる。
 緑の魔剣の意思が意外にも友好的で助かった。ひとまず落ち着いて話が出来る段階になった訳だけど、何から聞けばいいかな?

『念の為に言っておく。この場にいるのは勝者である君たちと敗北した私だ。敗者らしく、聞かれた事には正確に答えると約束しよう』
「そっか……なら、はっきりさせておきたいのは襲撃者は単独か複数人か。後者の場合、その中に他の適合者がいるかどうかかな」
『加えて、そちらの異能が予想と合致しているか否か、であるな』

 レオの言葉に続けて指を三本立てる。他にも聞きたい質問は山ほどあるが、それは今でなくともいい。
 ふうむ、と少しだけ間を置いて緑の魔剣が口を開く。

『まず先に、この地におもむいたカラミティの人間は三人。よく聞こえなかったが確実なのは全員男で、互いを番号で呼び合っていた』
「やっぱり徒党を組んでたか。番号って事は“ナンバーズ”なのも確定だ」
『しかし、構成員でなく幹部を三人もこちらに寄越すとはな。人員を多く割いてでも我を手中に収めたいのだろうか?』
「何にせよ、迷惑な事に変わりは無いよ。それで適合者の数は?」

 レオの問い掛けに首を振り、緑の魔剣に話の続きを促す。

『三人の内、一人だけだ。その者が持つ魔剣の異能も既に察しがついているだろうが』
「空間内の固体か液体か気体、または触れた人の意識や思考を誘導する、か?」
『……正解だ。君は観察や洞察に長けた者なのだな……適合者として、素晴らしい素質を持っている。蛮族などと蔑称を用いた己を恥じたいぐらいだ』
『当然だ。なにせ我の適合者であるからな』
「何を自慢げに……というか、他人事みたいに言ってるけどお前の異能だろ?」

 腰に手を当て、呆れを込めて緑の魔剣を見つめる。
 そして。









「…………は?」
『なん、だと』








 思ってもいない、呆気あっけない否定の言葉に体が震えた。同じく動揺しているのか、レオの刀身が揺れ動く。
 襲撃者である、あの男が適合者だと俺たちは思っていた。
 魔剣を身体に埋め込み異能を使えるように、狂気の細工を施してまで戦っていたアイツが適合者なのだと。
 だが、目の前に浮遊する魔剣はそれを否定する。
 決して悪気は無いのだろう。自ら言っていたように、緑の魔剣に宿る意思は正しく情報を開示しているだけに過ぎない。
 俺たちは気づけなかった、見落としていた、分からなかった。魔剣であるレオすらもあざむかれた。

 襲撃者を追い詰めた時、奴がなぜ異能を使わなかったのか。
 あれだけ周到に場を整えるような奴が最後の最後で、わざわざ自分の無様をさらすようなマネをするのか。
 事前に罠を張っておく事も出来ただろう。それこそ異能を用いた罠であれば一網打尽にするのも容易かったはずだ。
 だが、そんな行動も、襲撃者が適合者でないのなら、手段が無ければ出来る訳がない。

 ぐらり、と。
 視界が歪み、頭の中で繋がりかけていた点と点を結ぶ線がほどけて、新たな形を生み出していく。
 もし、履歴が消される前のデバイスで通話し、俺達の状況を襲撃者の仲間に知らされていたら?
 もし、あの場での戦闘を遠くから、まさしく高みの見物でもされていたら?
 もし、学園長も言っていたように俺の交友関係を探られ、誰かがエルノールさんのように利用されて危険な目に遭わされるのだとしたら?
 ありえる可能性がどんどん湧いてくる。だけど、まったく予想してなかった──魔剣すら囮にしてまで、襲撃者を見せかけのスケープゴートにしていたなんて。

『ふむ、どうやら混乱しているようだな。であれば、この際しっかりと自己紹介しておこう』

 グルグルと巡る思考に差し込む、平坦な声。
 レオに似たマイペースっぷりを見せつける緑の魔剣を正面に見据えて。

『私はを携えし、名も無き緑の魔剣。……異能の名前で疑わせてしまうかもしれないが──どうか、私の言葉を信じてほしい』

 真摯な、誠実さの込められた願いとは裏腹に。
 心中をざわつかせる、鳴り響く災禍の鐘は激しさを増していくのだった。
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