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【五ノ章】納涼祭
第七十一話 手の届く範囲は守りたい《前編》
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食堂での騒動から三日が経ち、納涼祭まで一週間を切った。
あれからナラタはジャンの記事に対抗するべく、あちこちを駆けずり回っている。
“麗しの花園”に入れ込んでいたのも理由があると判断したのか。
偏見を一旦無くすという意味も含めて脅しの写真を目の前で処分し、俺が関わった人々へ聴き取り調査に向かっている。
その関係でアカツキ荘のメンバー、というより取材対象の俺とは別行動を取るようになった。
確か今日は図書館に行っているはずなので、今頃リードは質問攻めされているのだろう。読書したいのに中断されてげっそりしている光景が容易に想像できる。
『適合者よ、のんびりしている暇は無いのでは?』
「っと、そうだった。早く行かないと……」
脳内に響くレオの言葉に頭を振り、手元の地図に目を通す。自警団で配布される、ニルヴァーナ内のパトロール順路を書き記した特別な物だ。
東西南北の地区に付いた、いくつかの赤丸。これは俺が配備される警備場所で、既に自警団が何人か待機しているはずだ。
急な頼みで組み込まれたようなものだから、遅刻しても先方が咎める事は無いと思うが、待たせるのは気分が悪い。
千切れた雲間から差し込む日差しに目を細めながら。
大通りの人混みを掻き分けて、担当する地区を目指して進む。
◆◇◆◇◆
事の発端は今朝。珍しく学園掲示板に自警団の依頼が貼り出されているのを見たのが始まりだ。
どうやら今日は三ヶ月に一度実施する、ニルヴァーナを保護する魔法障壁の調整が行われるらしい。
街を円形に囲む巨大な壁。その内部には魔物の襲来に備えた武器、防具にバリスタなど。様々な防衛設備が蓄えられ、それぞれの方角に一定の間隔で魔法障壁を展開する装置が設置されている。
魔導列車と同等の燃料機関から供給される魔力で、ニルヴァーナ全体を半透明の障壁がドーム状に覆い尽くす。
その強度は上級魔法を何百発撃ち込んでも破壊されないほど。飛行型の大型魔物が突撃してきても逆に負けてしまうくらいだ。
防護という面では効果が凄まじい反面、非常に高値で替えの利かない一品となり、定期整備に専門技師を魔科の国から呼ばなくてはならない。
さらに整備中は障壁が展開されないため防衛力が著しく下がり、魔物による上空からの侵入を許してしまう。まあ、ワイバーンみたいなのが来たらとんでもない被害になるだろうしね。
それを阻止するべく防衛に回るのが自警団──なのだが、暴動事件の影響もあってか人手が足りないそうだ。
ギルドに依頼しても受注する冒険者が少なくて、学生でもいいから防衛に参加してほしい、と。
当日参加有りで報酬が割り増しされる緊急依頼で貼り出してるところを見るに、かなり切羽詰まっている状況みたいだ。
幸いにも女装メイド喫茶の調整も済み、程よく暇を持て余していたアカツキ荘のメンバーで依頼を受ける事にした。
普段から自警団関連の依頼を受けていて、慣れてる俺の手引きで各地区の支部に向かう三人を見送り、自分もこうして現地に赴いたというわけだ。
◆◇◆◇◆
なんとか時間通りに南東地区の支部に着いた。とはいえ最後の一人という事で、息つく暇も無く防衛の説明が始まった。
壁外と壁内に班を分けてパトロールし、壁外班は近づいてきた魔物を討伐。
俺が配属される壁内班は、街中を捜索しつつ倒し切れずに侵入してきた魔物にトドメを刺す。
実力者揃い、かつ人員の多い壁外班であれば大体の魔物は相手にならない。ただし何年か前に飛行型魔物により、一部地区の建物が半壊するなどの被害が出た事もあるそうだ。
民間、自警団共に死者こそ出なかったものの、対応に当たった団員の何人かは後遺症が残る程の激戦だったらしい。
決して警戒を怠らないように、と最後に念押しされて説明は終わった。
その後、支給された各種ポーションと自警団の身分を示す腕章を着けて東の大通りに出る。
それぞれの目的があって歩く人の波に逆らいながら、周囲を見渡す。
魔導革命によって建設可能となった高層建築物が乱立しているとはいえ、テレビでしか見た事の無い海外の、歴史の名残りが見られるような街並みもある。最初の頃は戸惑ったが、今はもうすっかり慣れてしまった。
石タイル張りの壁は魔力を用いた特殊加工で、見た目以上に硬度がある。
床に敷き詰められた石畳は乱雑なようで凹凸は無く、躓いて転びはしない。
ランタン、ガス灯の代わりとなった魔力結晶を光源とした結晶灯は、大気の魔素を吸収しているのか粒子を漂わせていた。
青空市場で賑わう通りを進み、見えてくるのは東側の各国を繋ぐ魔導列車の停車駅だ。赤レンガ造りの駅舎からは種族問わず大勢の人が流れている。
停車したばかりだろうか、薄くではあるが黒煙の代わりに空へ溶けていく魔素の輝きが見えた。
「……そういえば魔導列車に細工が仕掛けられてるかもしれないって、エルノールさんと話したっけ」
『“麗しの花園”に訪れた後だな。魔科の国方面の村へ調査に向かったはずだ』
「一応、推測で唆した張本人として調査結果は聞いておきたいんだけど……」
防衛は自警団総出で対処する仕事なのでさすがに帰ってきているとは思うが、彼がどこの地区を担当しているかは分からない。
団員に聞こうにも既に散開してしまった。恐らくは最も人の多い北の大通りに居るとは思うが……。
などと巨壁を見上げながら考えていると、水を通して見たような歪んだ空が徐々に鮮明さを取り戻していく。
どうやら装置の整備が始まったようだ。周りの人々も気づいたのか、上を指差しては口々に感嘆の声を上げている。
魔物が襲来する可能性はゼロではないし、念の為に避難誘導でもした方が良いかな? でも、あまり日常の流れを乱したくないからそのままでいい、って言われたんだよなぁ。
整備自体は二時間も掛からない……つまり昼前には終わるし、それくらいなら大丈夫か。
腕を組み、巨壁の上に立って警戒中の団員たちを眺めていると。
「あれ? クロトお兄さんだ」
「あっ、ほんとだ。こんにちは!」
「へっ?」
聞き覚えのある幼い声に振り返れば、そこには親方の孫であるレインちゃん。
色とりどりの花々が押し込められた籠を肩から下げ、嬉しそうに尻尾を揺らす犬人族のミュウちゃんがいた。
二人とも孤児院の子ども達と同じく初等部の生徒。
高等部とは活動範囲がまるで違う為、移動教室などで見かけたら挨拶をする程度の関係性だ。……レインちゃんには鍛冶とか食事でお世話になっているが。
そんな二人とは以前にある一件──この世で最も信仰されているセラス教の女神ことイレーネと、俺の両親と面識のあるシンリという超常存在がやらかした大問題の尻拭いで出会ったのだ。
詳細は省くが命の危機が連続して襲ってくるような冒険を乗り越えた俺達は、それ以降よく顔を会わせる事が多くなった。
その要因となるのが、お揃いで身に着けている鮮やかな虹尾羽のペンダント。
冒険で遭遇した伝承の霊鳥フェネスからの贈り物を、俺の手で装身具にしたのだ。
変に飾らず、虹尾羽が持つ魅力をそのままに。
肌身離さず、着けていられるように丁寧な作業を心掛けた一品だ。
魔力結晶を用いた透明なクリア素材の中で、太陽光を受けて輝くペンダントを揺らし、二人はてくてくとこちらに歩み寄ってくる。
妖精族と犬人族。種族も親も違えど実の兄妹のように仲の良い、微笑ましい光景に頬が緩む。
「おはよう、二人とも。なんでこんな所に居るんだ? 授業は?」
「えっと、レインはお爺さんが受けた武具の納品手伝いで自警団支部に……」
「終わってから学園に戻ろうとしたら、ミュウとミュウのお母さんがここでお花を売ってて。人手が足りなそうに見えたから」
「ああ、そこに俺が通りがかったわけか」
大通りに並ぶ出店の一つが多くの花で彩られている。店先ではミュウちゃんのお母さんが次々と来る客の対応をしていた。
特定の店を持たず、自宅で育てた祝花用の物を各大通りで売り渡るのがミュウちゃんの花屋だ。値段の割にとても質が良いので評判も高く、俺もアカツキ荘に飾る花や錬金術に使う触媒をよく購入する。
しかし、言葉通りならしばらくは東の大通りを離れないのか。
「今日が結界装置の整備をする日だってのは知ってるよね?」
「はい、納品の依頼もそれ関係だってお爺ちゃんが言ってました」
「馴染みのお客さんとか見回り中の団員さんに、注意するようにって」
「そうだね。念の為に伝えておくけど、魔物の襲撃があった場合は最寄りの避難所か団員の元に行くこと。命あっての物種だからね」
「「はいっ!」」
元気よく手を挙げて応える二人に頷き、改めて壁上に目線を向けて。
『──適合者よ、何か来るぞ』
『なに?』
脳内に響く警鐘の直後、視界を縦に赤黒い物体が高速で飛来する。
予感も、予兆も、前触れも無かった。レオが声を掛けなければ見逃していたかもしれない。
背筋が冷えるのを感じながら、眼で追って振り向く。
自警団の包囲網を振り切り、街の上空で悠然と滞空する太陽を背にした黒い何かは、鼓膜を劈く悍ましい叫びを轟かせた。
大勢の悲鳴で掻き消されることもなく、体の奥底まで浸透する。あまりの迫力と威圧感に、大多数の人が腰を抜かした。
咄嗟の判断で耳を塞ぎ、耐えてから。
叫びの中心を見据え、腰に下げた片手剣を抜く。
「二人とも、出来るだけここから離れて」
肩を叩いてそう言って、返答を待たずに駆ける。
魔力操作で肉体を強化し、制服の裾から伸びる帯を駆使して空へ。
延びる視界、遠ざかる悲鳴、肉薄した黒い何かに対して。
絞るように捻じり、振り抜いた渾身の一撃で──開戦の狼煙が上がった。
あれからナラタはジャンの記事に対抗するべく、あちこちを駆けずり回っている。
“麗しの花園”に入れ込んでいたのも理由があると判断したのか。
偏見を一旦無くすという意味も含めて脅しの写真を目の前で処分し、俺が関わった人々へ聴き取り調査に向かっている。
その関係でアカツキ荘のメンバー、というより取材対象の俺とは別行動を取るようになった。
確か今日は図書館に行っているはずなので、今頃リードは質問攻めされているのだろう。読書したいのに中断されてげっそりしている光景が容易に想像できる。
『適合者よ、のんびりしている暇は無いのでは?』
「っと、そうだった。早く行かないと……」
脳内に響くレオの言葉に頭を振り、手元の地図に目を通す。自警団で配布される、ニルヴァーナ内のパトロール順路を書き記した特別な物だ。
東西南北の地区に付いた、いくつかの赤丸。これは俺が配備される警備場所で、既に自警団が何人か待機しているはずだ。
急な頼みで組み込まれたようなものだから、遅刻しても先方が咎める事は無いと思うが、待たせるのは気分が悪い。
千切れた雲間から差し込む日差しに目を細めながら。
大通りの人混みを掻き分けて、担当する地区を目指して進む。
◆◇◆◇◆
事の発端は今朝。珍しく学園掲示板に自警団の依頼が貼り出されているのを見たのが始まりだ。
どうやら今日は三ヶ月に一度実施する、ニルヴァーナを保護する魔法障壁の調整が行われるらしい。
街を円形に囲む巨大な壁。その内部には魔物の襲来に備えた武器、防具にバリスタなど。様々な防衛設備が蓄えられ、それぞれの方角に一定の間隔で魔法障壁を展開する装置が設置されている。
魔導列車と同等の燃料機関から供給される魔力で、ニルヴァーナ全体を半透明の障壁がドーム状に覆い尽くす。
その強度は上級魔法を何百発撃ち込んでも破壊されないほど。飛行型の大型魔物が突撃してきても逆に負けてしまうくらいだ。
防護という面では効果が凄まじい反面、非常に高値で替えの利かない一品となり、定期整備に専門技師を魔科の国から呼ばなくてはならない。
さらに整備中は障壁が展開されないため防衛力が著しく下がり、魔物による上空からの侵入を許してしまう。まあ、ワイバーンみたいなのが来たらとんでもない被害になるだろうしね。
それを阻止するべく防衛に回るのが自警団──なのだが、暴動事件の影響もあってか人手が足りないそうだ。
ギルドに依頼しても受注する冒険者が少なくて、学生でもいいから防衛に参加してほしい、と。
当日参加有りで報酬が割り増しされる緊急依頼で貼り出してるところを見るに、かなり切羽詰まっている状況みたいだ。
幸いにも女装メイド喫茶の調整も済み、程よく暇を持て余していたアカツキ荘のメンバーで依頼を受ける事にした。
普段から自警団関連の依頼を受けていて、慣れてる俺の手引きで各地区の支部に向かう三人を見送り、自分もこうして現地に赴いたというわけだ。
◆◇◆◇◆
なんとか時間通りに南東地区の支部に着いた。とはいえ最後の一人という事で、息つく暇も無く防衛の説明が始まった。
壁外と壁内に班を分けてパトロールし、壁外班は近づいてきた魔物を討伐。
俺が配属される壁内班は、街中を捜索しつつ倒し切れずに侵入してきた魔物にトドメを刺す。
実力者揃い、かつ人員の多い壁外班であれば大体の魔物は相手にならない。ただし何年か前に飛行型魔物により、一部地区の建物が半壊するなどの被害が出た事もあるそうだ。
民間、自警団共に死者こそ出なかったものの、対応に当たった団員の何人かは後遺症が残る程の激戦だったらしい。
決して警戒を怠らないように、と最後に念押しされて説明は終わった。
その後、支給された各種ポーションと自警団の身分を示す腕章を着けて東の大通りに出る。
それぞれの目的があって歩く人の波に逆らいながら、周囲を見渡す。
魔導革命によって建設可能となった高層建築物が乱立しているとはいえ、テレビでしか見た事の無い海外の、歴史の名残りが見られるような街並みもある。最初の頃は戸惑ったが、今はもうすっかり慣れてしまった。
石タイル張りの壁は魔力を用いた特殊加工で、見た目以上に硬度がある。
床に敷き詰められた石畳は乱雑なようで凹凸は無く、躓いて転びはしない。
ランタン、ガス灯の代わりとなった魔力結晶を光源とした結晶灯は、大気の魔素を吸収しているのか粒子を漂わせていた。
青空市場で賑わう通りを進み、見えてくるのは東側の各国を繋ぐ魔導列車の停車駅だ。赤レンガ造りの駅舎からは種族問わず大勢の人が流れている。
停車したばかりだろうか、薄くではあるが黒煙の代わりに空へ溶けていく魔素の輝きが見えた。
「……そういえば魔導列車に細工が仕掛けられてるかもしれないって、エルノールさんと話したっけ」
『“麗しの花園”に訪れた後だな。魔科の国方面の村へ調査に向かったはずだ』
「一応、推測で唆した張本人として調査結果は聞いておきたいんだけど……」
防衛は自警団総出で対処する仕事なのでさすがに帰ってきているとは思うが、彼がどこの地区を担当しているかは分からない。
団員に聞こうにも既に散開してしまった。恐らくは最も人の多い北の大通りに居るとは思うが……。
などと巨壁を見上げながら考えていると、水を通して見たような歪んだ空が徐々に鮮明さを取り戻していく。
どうやら装置の整備が始まったようだ。周りの人々も気づいたのか、上を指差しては口々に感嘆の声を上げている。
魔物が襲来する可能性はゼロではないし、念の為に避難誘導でもした方が良いかな? でも、あまり日常の流れを乱したくないからそのままでいい、って言われたんだよなぁ。
整備自体は二時間も掛からない……つまり昼前には終わるし、それくらいなら大丈夫か。
腕を組み、巨壁の上に立って警戒中の団員たちを眺めていると。
「あれ? クロトお兄さんだ」
「あっ、ほんとだ。こんにちは!」
「へっ?」
聞き覚えのある幼い声に振り返れば、そこには親方の孫であるレインちゃん。
色とりどりの花々が押し込められた籠を肩から下げ、嬉しそうに尻尾を揺らす犬人族のミュウちゃんがいた。
二人とも孤児院の子ども達と同じく初等部の生徒。
高等部とは活動範囲がまるで違う為、移動教室などで見かけたら挨拶をする程度の関係性だ。……レインちゃんには鍛冶とか食事でお世話になっているが。
そんな二人とは以前にある一件──この世で最も信仰されているセラス教の女神ことイレーネと、俺の両親と面識のあるシンリという超常存在がやらかした大問題の尻拭いで出会ったのだ。
詳細は省くが命の危機が連続して襲ってくるような冒険を乗り越えた俺達は、それ以降よく顔を会わせる事が多くなった。
その要因となるのが、お揃いで身に着けている鮮やかな虹尾羽のペンダント。
冒険で遭遇した伝承の霊鳥フェネスからの贈り物を、俺の手で装身具にしたのだ。
変に飾らず、虹尾羽が持つ魅力をそのままに。
肌身離さず、着けていられるように丁寧な作業を心掛けた一品だ。
魔力結晶を用いた透明なクリア素材の中で、太陽光を受けて輝くペンダントを揺らし、二人はてくてくとこちらに歩み寄ってくる。
妖精族と犬人族。種族も親も違えど実の兄妹のように仲の良い、微笑ましい光景に頬が緩む。
「おはよう、二人とも。なんでこんな所に居るんだ? 授業は?」
「えっと、レインはお爺さんが受けた武具の納品手伝いで自警団支部に……」
「終わってから学園に戻ろうとしたら、ミュウとミュウのお母さんがここでお花を売ってて。人手が足りなそうに見えたから」
「ああ、そこに俺が通りがかったわけか」
大通りに並ぶ出店の一つが多くの花で彩られている。店先ではミュウちゃんのお母さんが次々と来る客の対応をしていた。
特定の店を持たず、自宅で育てた祝花用の物を各大通りで売り渡るのがミュウちゃんの花屋だ。値段の割にとても質が良いので評判も高く、俺もアカツキ荘に飾る花や錬金術に使う触媒をよく購入する。
しかし、言葉通りならしばらくは東の大通りを離れないのか。
「今日が結界装置の整備をする日だってのは知ってるよね?」
「はい、納品の依頼もそれ関係だってお爺ちゃんが言ってました」
「馴染みのお客さんとか見回り中の団員さんに、注意するようにって」
「そうだね。念の為に伝えておくけど、魔物の襲撃があった場合は最寄りの避難所か団員の元に行くこと。命あっての物種だからね」
「「はいっ!」」
元気よく手を挙げて応える二人に頷き、改めて壁上に目線を向けて。
『──適合者よ、何か来るぞ』
『なに?』
脳内に響く警鐘の直後、視界を縦に赤黒い物体が高速で飛来する。
予感も、予兆も、前触れも無かった。レオが声を掛けなければ見逃していたかもしれない。
背筋が冷えるのを感じながら、眼で追って振り向く。
自警団の包囲網を振り切り、街の上空で悠然と滞空する太陽を背にした黒い何かは、鼓膜を劈く悍ましい叫びを轟かせた。
大勢の悲鳴で掻き消されることもなく、体の奥底まで浸透する。あまりの迫力と威圧感に、大多数の人が腰を抜かした。
咄嗟の判断で耳を塞ぎ、耐えてから。
叫びの中心を見据え、腰に下げた片手剣を抜く。
「二人とも、出来るだけここから離れて」
肩を叩いてそう言って、返答を待たずに駆ける。
魔力操作で肉体を強化し、制服の裾から伸びる帯を駆使して空へ。
延びる視界、遠ざかる悲鳴、肉薄した黒い何かに対して。
絞るように捻じり、振り抜いた渾身の一撃で──開戦の狼煙が上がった。
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