自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【三ノ章】闇を奪う者

幕間 不穏な影

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 ──魔科の国グリモワール第五区域、アーティファクト保管施設にて。

『特級アーティファクト『狂騒の魔剣』についてだが、調査はどこまで進んでいる?』
「どうもこうも全く進展してませんよ。同じ研究員が何度も隔離フロアに入って調べていますが、事前調査による精神の異常も起きてませんし。様々な形でアプローチをかけていますが何の反応も無くて、本当にこれが噂の魔剣なのかって、肩透かしをくらってる気分ですよ」
『……輸送事件からずっとその調子だな。危険性も無くなれば見た目はそこらの可変兵装と変わらんが、以前の状態に戻る前に対策を立てねばならない。引き続き、調査を頼む』


 ──願いに対価は絶対だ。些細な物であれ、欲したのであれば払わねばならない負債だ。だが、あの男は我の精神世界から抜け出し、覚悟だ理由だと文句を言って力を捨てた。必要としたから我を手にしたのではなかったのか?
 常人であれば、力に溺れ、破滅への道を進む。だが、何故だ。理解できない。あの男の思考が読めない。“機械のように淡々と戦うことに何の意味がある”……分からない、我は機械ではないからだ。だから捨てたのか?


 が、あの男のことを考えるとこうなる。何度も何度も、次から次へと溢れる疑問が、絶えず湧き出す興味へと変わっていく。
 ──知りたい。あの男は、これまで力を使ってきた者達とは違う。己の芯を見失わず、おごらず、今を乗り切る一心で行動したあの男の──心が知りたい。


「……ん? なんだ、急に計測器が……っ!? こ、これは……」
『どうした!?』
「隔離フロア内に謎の力場が発生! 『狂騒の魔剣』から放たれた衝撃波が、つ、次々と器具を破壊して……う、うわあああああッ!!」

 後日、グリモワール第五区域にある施設の一部がくりぬかれたように消滅し、同様にフロア内にあった特級アーティファクトが消失した。
 一部ではカラミティの仕業ではないかと騒ぎ立てる声もあったが、真偽の程は定かではない。






「驚いたよ。まさかこのプログラムを自力で発動させた個体が現れるとは……イヴのように素体の無い魔導人形には莫大な量のデータが必要になるはずだ。だが、君は既に自身の意思を持ち、対応し、変化している」
『イヴから聞かされてはいました。同時に、この機械の身体が必要としない行為に、命令や組み込まれたデータとは関係なしに、強く惹かれ求めていると自覚しています。──博士、教えてください。私の身に、何が起きているというのですか?』
「……この国に配備された魔導人形の全てに一つの特殊なプログラムを施した。見て学び、蓄積した人々の感情をデータ化させ、魔導ネットワーク上で共有。義務や命令された訳でもなく、人に寄り添い、個人の意思を尊重し、独自の個性を芽生えさせて成長を始めた個体が無意識にデータを読み取り、徐々に身体の組織を作り替え、。……私のエゴで生み出してしまった、神への冒涜とも言えるプログラムだ」


『っ……なぜ、そのようなことを?』
「……現実を認めたくなかったのかもしれん。十年前に家族を失った私は、幸せにしてやれなかったことをずっと悔やんでいた。奇跡的に命を繋いだあの子は不完全な肉体で生きていくことに……いや、あの状態では死んでいると言っても過言ではなかったか。記憶も朧げで、私が親だということも分からない。培養槽の中で生かされていただけだ。だが、たった一人の娘なのだ。人並みの幸せを得るべき資格のある、たった一人の女の子なんだ。傍から見れば狂気そのものである技術だとしても、僅かな可能性にすがるしかなかった。だから私は、あの子に魔導人形の身体を与えてプログラムを施した。君達に組み込んだ理由も、あの子がより確実に人へと近づく為に必要なデータ回収が目的だった。……言葉では我が子のように愛していると言っておきながら、利用するだけの存在として扱っていたのだ。軽蔑してもらっても構わない」


『──分かりません。いきなりそのようなことを言われても、この身体が魔導人形とは別の物になろうとしている事実を知っても、何を言えばよいのか……。ですが、私が抱いてるこの感情が本物であるなら、博士に伝えるべき言葉は感謝だけです』
「……私は、君達を蔑ろにしていたのだぞ?」
『本当にそうでしょうか? 確かにイヴを大切に思う気持ちはあるのでしょう。けれど、魔導人形として生まれた私達に向けられた感情は、一人一人に手を掛けてくれた時間は決して無意味でも無価値でもない。これが本当の意味で、変わり始めた私があえて言語化するならば──愛と呼んでもよいのではないかと思います。それに……この身体であることで、魔導人形のタロスという個として生まれたことで。このように考えさせてくれる行動を示した、良き友人と出会えた。その方が私という可能性を目覚めさせてくれたことが何よりも嬉しい……だから、ありがとうございます、博士』
「……っ、そうか……」


『むぅ。むずかしい話、してる』
「おお、すまないね、イヴ。随分と長く話し込んでしまった……しかし以前に比べて、行動的になって感情を表に出すようになったな。最初の頃は無表情で無関心、気ままにどこかに出かけては知らない内に帰ってきていたものだが……」
『ここ数日、クロトさんと関わっていく内に彼女も変わってきているのでしょう。彼の言葉や行動はとても印象的でしたから、良い刺激になったのだと……博士? 心拍数が急激に上昇しましたが、大丈夫ですか?』
「い、いや、なんでもない…………前にイヴが口にしていた男の名前と同じ……? その子がタロスとイヴに関わった結果、プログラムが引き出された……? そういえば急にイヴが恋愛物の小説を読み漁るようになった……ま、まさか!? いやいやいや、そそそそんな訳がないっ、だって……早過ぎるだろうッ!?」


『博士、バグった? クロトのこと、相談、したかったのに』
『彼についていきたい、という話でしたね。私もそれについては首を縦に振りたい所ですが、それぞれの立場がありますから。学園の皆様は遠征行事でグリモワールに訪れただけで、さらに期限を無理に引き延ばして滞在していました。その間の学習工程の都合を合わせなくてはいけませんし、学園側に帰還を催促されるのも不思議ではないですよ』
『んー、むずかしい?』
『私の所属が軍ではなく博士の元となりましたのでそれなりに自由が利きますが……医療企業トップが崩脚して都市機能が一部麻痺していますから、ある程度回復するまでしばらくは離れられないでしょう。ひとまず、その問題は置いておくとして……出国の際に直接お別れの挨拶を伝えられなかったのも不義理ですし、連絡先は記憶していますから、後で送るメッセージの内容を考えましょう?』
『っ! うんっ』






 ──グリモワール駅構内、プラットフォームのベンチにて。

「はあ……指名依頼ついでに故郷のことを調べてみたけど、何一つ情報は得られなかったなぁ。《大神災》よりも昔にあったのは確かなはずなんだけど……おまけに変な男の人に襲われるし。仲裁に来た怪しい人も盤上の駒だとか何とか言ってたっけ? 変なことにボクを巻き込まないでよ……」


「あっ! っていうか来週中間テストじゃん!? やばいやばい、全然勉強してないよ!? 今から学園に帰って徹夜でやればなんとかなる、かなぁ? 赤点取ったらダンジョン攻略が出来なくなるし……皆に土下座して教えてもらえるように頼もう……」


『──適合者、そろそろ列車の出発時間よ』
「はーい。……そういえばこっちに来てから手入れをする時間が取れなかったね。しばらく手を付けてなかったし、向こうに着いたら念入りにやろっか」
『──私にかまけてばかりで、勉学を疎かにされては困りますよ?』
「少しは現実逃避したいんだよぉ……」
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