自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【三ノ章】闇を奪う者

第三十六話 この手に残ったモノ

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 不思議な虹の出現から数分後。ようやく救援部隊が到着し、負傷者の治療、交通整理その他諸々が行われた。
 治療……というものの、負傷者のほとんどが虹の粒子に触れて完治していたので、軽い診察と処置を受けるだけでかえされていたが。そんなざっくりとした処理でいいのか。
 しかし重傷を負っていた者の傷は治りきっておらず、救急車っぽい魔導車で病院に搬送された。
 ラティアも一度死んでから蘇生した事と、毒による異常が残っていないか詳しい検査をしてもらった方がいいと伝えたが、本人としては身体の調子が絶好調で気力に満ちているらしく、受けなくてもいいと世迷言を返してきた。
 なのでサイネとリオルに両脇からがっしりとホールドして連行してもらう事に。
 ドナドナと連れていかれる劇団トップスターに手を振っていると、ポンッと肩を叩かれた。
 誰だろう? そう思って振り向いた。
 ──そこにいたのは、目に見えるほどに膨らませた怒気のオーラを纏い、にこやかな笑みを浮かべるシルフィ先生。
 一緒に振り返ったエリックが頬に冷や汗を垂らす。実際に触れられている俺は全身から一斉に汗が噴き出してきた。
 なぜここに。どうしてここに。
 口に出さずとも似通った思いを抱いた俺達。そして同時に取った行動はただ一つ。
 速やかに膝を地につけ両手を前に。倒した上半身を支えて額をアスファルトに擦りつける。
 そう、土下座であった。
 だが、それで許してくれるほど甘くはなかったようだ。弁明する暇もなく、俺達は首根っこ掴まれて魔導車に詰められ、先に乗っていたラティアの笑い声を聞きながらその場を後にした。
 道中、先生が放つ無言の威圧と目線にビクビクしながら窓を見る。──先生がなぜ怒っているのかが分かった気がした。
 反射している顔は血に濡れていて、着ている白衣の大部分は赤く染まっている。
 加えて、視線を落とせば制服ごと裂かれて赤黒く変色した左脚と左腕がだらりと下がっていた。
 いま気づいたが、力を入れてもあまり動かない。それどころか感覚が薄い。
 一目見て分かる重傷。さらに毒は中和されたとはいえ俺も一時的にラティアと同じ状況に陥ったのだから、人の事をとやかく言う権利は無かった。
 エリックも虹の粒子を受けたにもかかわらず、魔導人形から襲われた際の傷が塞がっていない。
 色々な疑問はあるとしても、先生目線からすれば俺達はかなりマズい状態だったのだ。
 その上でふらふらと突っ立ってたらそりゃ不審がりますよね。
 ……うん、大人しくじっとしてよう。




 そして、翌日の昼下がり。
 病院に着いて速攻で手術室に運ばれて、全身の打撲、捻挫、擦り傷、切り傷のせいで数週間ぶりのミイラ化。
 幾分か回復したおかげで多少ひびが入った程度で済んだ左脚・左腕にギブスを付けられて。
 魔力が枯渇しても尚、限界まで使い切ったせいで中身がボロボロになった身体を引き摺り。
 諸々の理由によって松葉杖まつばづえ生活を余儀無くされた俺は、病院の屋上に訪れていた。

「……うーん、動きづらい」

 三角巾で吊るした左腕は肘から指先までがっちり固定されており、ほとんどの動作が制限されている。
 ちなみに病院で受けた処置と治癒魔法の他、血液魔法による痛み止めと治癒力を促進させる成分の生成、骨の接合を行っているので痛みは無い。
 しかし無理な動きで捻じれやズレが生じると大変な事になるので大人しくギブスに包まれおくのが吉。
 ひとまず深呼吸し、折れた肋骨と血管を通る魔力の痛みに咽ながらベンチに座る。
 本当はベッドで横になっていた方が良いのだが、軍やらマスコミやらの追及を他の連中に押し付けたかったのでここに逃げてきた。
 とりあえず問い詰められそうな事柄は全部メモ用紙に書き留めて机の上に放置してきたので問題は無いだろう。
 嘘が書いてないか疑われるのも嫌なので血印も押してきたし。

「とりあえずゆっくり休みたかったんだよなぁ……結構頑張ったんだから、いいよね?」

 誰に聞かれる訳でもない独り言を零して、頭の中をスーパーボールの如く跳ね回る情報をまとめる。
 現在判明しているのは……。


 昨日の依頼で美術館の護衛にはグリモワールのチンピラ共。アーティファクト組には魔導人形をけしかけた組織、そしてカラミティとかいう謎集団の三つが襲撃してきたという事。


 チンピラ共は最近の話題に上がっている美術館を襲撃している犯人で間違いない。裏に潜んでいるのは最新式の魔銃を仕入れる事が出来る個人もしくは組織。
 ルガーの情報が嘘であるとは考えにくいので全面的に信じる方向で。個人は無いとは言い切れないが一旦無視するとして、組織の線を考える。
 企業ではないと答えたので表立って可変兵装や魔銃を生産している企業は元から除外。警察も話を聞く限り可変兵装もデバイスも軍が使い古した旧式の物おさがりを使用しているという話だったので無し。となれば後に残るのは俺の知らない暗部組織、もしくは──ドロッドロの闇が蠢く軍の上層部か。
 俺達が護衛していたという情報が洩れていたようなので後者の疑いが強いが、どっちも有り得そうなのでこれ以上は考えないでおこう。


 次に魔導人形の方。とりあえずぶっ飛ばしたけど何もかも分からん。
 エリックが言うには正規の企業が製造した魔導人形ではないのでこちらも何らかの組織が関係しているのだろう。両親が《ネルガル工業》──魔導人形製造を専門にしている企業の社長であるハレヴィからの情報でもあるので、これは確実だ。
 しかしこちらはチンピラ共と違って目的が不明。積極的に襲ってくる事もあれば立ち止まって観察するようにじっとしている事もあったとか。
 ……戦闘データを記録していた、とか? もしそうだとしても何に使うか想像するのはやめとこう。


 最後にカラミティという組織について。シオンが襲ってくる前に掛かってきた通話の男も同じ組織の仲間だと思うが、どうも協調性を感じられないというか、各々が好き勝手に動き回っているような雰囲気を感じる。シオンも通話の男も。言動から見てセカンドと呼ばれた女性はまとめ役、なのかな。もしくはシオンのお目付け役みたいな。
 こいつらの最終的な目的は紅の大剣──魔剣との接触、及び強奪? でも通話の男の口ぶりからは俺に魔剣を手に取らせたがっていたように感じた。その為にシオンと戦わせて俺を追い詰めた? でも、シオンの態度は言われたから戦ったとかそういうものじゃなくて、心から純粋に戦いを求めていた。闘争の果てにある物を望んでいたような……そんな勢いと覚悟が秘められていた。
 そういえばシオンも女性も羽が生えてたけど、何の種族なんだろう? 大昔の妖精族は心臓以外に魔力を溜め込む器官として半透明な羽が備わっていたらしいけど、時代を重ねるごとに独自の進化を遂げて羽が無くなったんだよな。だから妖精族って訳ではないはず……まあ生物学者でもないからこれ以上の考察に意味は無いだろう。


 情報を整理しようとしてもっと複雑な話になった気がする。これだけ考えておきながら結論として何もまとまってない。
 関係性が有りそうで無くて、散りばめられたパズルのピースが繋がらない。
 そもそも柄の違ういくつものパズルをごちゃ混ぜにされてる感覚すら覚える。

「…………俺もどこぞの探偵みたいに頭が良かったら、もうちょい突き詰められるのかもしれないけど……いいや、めんどくさい。考えるのやーめたっ!」

 長時間の整理の末、若干自棄になりながらベンチに横たわる。見上げれば相変わらずの曇り空が広がっていた。
 そういえばグリモワールに来てからずっと青空を見ていない。昨日の夕方、わずかな雲の切れ目から空を見たくらいだ。
 国の地域ごとに天候の特性があるのか。日本の時期的に言えば現在はゴールデンウィークの真っ只中。
 ニルヴァーナは日本の気候に似ているから多少暖かいが、グリモワールは肌寒さを感じる。山岳地帯だった名残が影響しているのだろうか。

「上着、借りてくればよかったな……風が冷たい」

 学園の制服は上下左側が世紀末仕様に。
 リーク先生から貰った白衣は事前に“修復”のルーン文字が付与されていた為か、気が付いたら汚れも無く痛んでいた箇所が直り始めていた。どうやら魔素を取り込み繊維状に細めて自動で修繕しているらしい。
 高ランクの魔物素材で出来ているからこそ成せる技なのだろうが、俺からしてみれば手を加えずに勝手に衣類が直っていく様子は見ていてかなりホラーだった。
 なんとなく触るのが怖くて制服と一緒に放置してきたので現在は患者衣かんじゃいのみ着用している。

「下に戻って軍の関係者と鉢合わせるのも嫌だし……丸まっておけば寒さも紛れるか」
「いいや、今日は北からの風が強い。昨日よりも一段と冷えるよ。患者が身体を冷やすのはよくない」
「──ふぇ?」

 俺以外に誰もいないはずの屋上。なのに聞こえた声の方を向くと同時に、柔らかな布の感触が顔に触れた。
 白衣だ。真っ白に視界を遮られてしまい、反射的に白衣を取る。
 そして。

「僕の物だからサイズが小さいかもしれないが、羽織るだけでも少しはマシなはずだよ」

 青混じりの黒髪を垂らし、にこやかに微笑む童顔がこちらを覗き込んでいた。
 突然の事にポカンとしていると、俺の反応の薄さが気になったのか左手を目の前で振り始めた。
 ゆっくりと動かされる──その左手の薬指には、指輪が嵌められている。

「えっと、どちら様でしょうか……?」
「ああ、すまない。搬送された患者のカルテを見ていたら君の名前を見つけてね。君の事はから通話でよく聞かされていたから、興味があったんだ。……っと、まずは名乗らなければいけないね」

 幼い外見でありながら、どこか大人びた雰囲気を感じさせる医者は。

「僕の名前はオルレス・サリファ。知っているかもしれないけど、リーク・サリファの夫だよ。普段はニルヴァーナにある自分の診療所で医者をしているが、昔の友人に頼まれて、三か月ほど前からこの病院で働いている。──ここで会ったのも何かの縁だろう、妻ともども仲良くしてもらえると嬉しいな」

 面白そうに口元を緩めて、そう言った。








「ここ、座らせてもらってもいいかな?」
「ああ、すみません、独占しちゃって。どうぞ」
「ありがとう。……ふぅ、ようやく一息つけるね」

 リーク先生の旦那さん──オルレスさんが座れるようにベンチを開けると、彼は礼を言いながら腰を下ろし、背もたれに背中を押し付けた。
 折角の好意を無得にするのも悪いと思い、白衣を肩から羽織る。確かにサイズは小さいが、あまり気にはならなかった。

「えっと、オルレスさんはどうしてここに?」
「さっきも言ったが、妻に君の事を聞かされて興味があったからね。その子がこの病院に搬送されたと聞いて、折角の機会だから挨拶でもしておこうかと思って病室に向かったのだけど……」

 その病室に目的の患者はおらず、どこに行ったのか探していると反対側の病棟から屋上で横になっている俺を見つけたのだと言う。

「──しかし話で聞いた通り、無茶をする子なんだね、君は。処置したのが魔法医学専門の医者だったからよかったとはいえ、その怪我、普通なら後遺症が残ってもおかしくないくらい重傷だよ?」
「それは麻酔から目覚めてすぐにお医者様から言われましたよ。担任の先生にも説教くらいましたし」
「シルフィリア先生か。そうだね、彼女は学園教師の中でも特に生徒思いの教師だ。自分が受け持っている生徒の身を案じるのは当然だろう。──年長者として言わせてもらうが、女性に心配を掛けるのはあまり感心できる事ではないよ?」
「いやほんと、面目ないです。迷惑を掛けているとは分かっているんですけど、咄嗟に身体が動いてしまって……」
「はははっ! その気持ちは分かるよ。僕だって、目の前で傷付いている誰かを見て行動を起こさないなんて、出来る訳がないからね」

 その点では、僕たちは似ているかもしれない。
 オルレスさんはそう言って、ポケットから見覚えのあるラベルの缶を二つ取り出した。
 どうぞ、と。苦笑いを返しながら、手渡された『おしるこソーダ』を開けて口に含む。
 うん、マズい。味覚におかしな所は無いみたいだ。

「僕が君くらいの年の時なんて、ただ毎日を惰性で生き続けていたからね。その想いを抱けているのは立派だと思うよ」
「そう、ですかね」
「……ふむ? なんだか歯切れが悪いね?」

 俺の言葉に疑問を抱いたのか、オルレスさんは首を傾げる。

「オルレスさん。俺はあの時、確かにラティアを救う為に動きました。だけど一つでも順序が変わっていたら、死体が二つ……いや、それ以上に増えてしまう所だった」

 連戦で削り取られていった体力と魔力を振り絞って、救う事が出来た。だが、そもそもの話として、

「きっと、俺の取った行動の全てが肯定される訳ではないんです。でも、咄嗟に動いてしまった。諦めたくなかった。救いたいと思ってしまった」

 他人の目にどう映っていたかは分からない。それでも、俺は決して自分を曲げたくはなかった。

「結果として多くの人を救えたんです。だけど、あれは本当に俺の力だったのか、って。あの虹は何か別の……知らない何かの力なんじゃあないかって思ったんです」

 俺から出現したという虹を、正体不明の力を持つ俺を他人は信頼できるだろうか。
 心の底から安心して使える物なのかも不明なを持つ、俺を。

「自分でも理解していない物を使うってのは……それは救った人達の身に後で何が起きても責任が取れない、って事になるんです。理解しておかなくてはいけないというのに、“救う”なんて大仰な事を言っておいて失敗を考えなかった。その選択が間違っていたと思うと、自分の行動に自信が持てなくて、目を背けたくなって、逃げてしまおうと考えてしまう無責任な臆病者なんです」

 だから。
 ……だから。

「…………俺はきっと、立派な人間なんかじゃあないんです」
「──ふむ」

 オルレスさんは考えるように顎に手を当て、空になった『おしるこソーダ』を脇に置いた。

「傷を癒す虹。噂程度には聞いていたが、なるほど……それは自分だけでなく、他者の肉体にも作用していたんだね?」
「はい」
「そうか。で、あれば──」

 納得したように頷くと、









「……なんですって?」

 静かに、あっさりと。だがはっきりと言って、立ち上がった。

「しかしリークは意地悪だな。君が自力で気付くまで教えるつもりが無かったんだろう」
「し、知ってるんですか? 虹の正体を、俺から出たあの力を!?」
「うん。君が特殊属性の適性を持っているという事を加味すれば、この答えに辿り着くのは必然さ」

 そのまま階段の方へと向かっていくオルレスさんの後ろをついていく。

「君は自らを無責任な人間だと言ったが、それは違う。何故なら君は自分の力について疑問を抱き、答えを得ようとする意志を僕に見せたのだから。救った責任の重みを理解し、苦悩と共に背負っていこうという覚悟を見せてくれたからね」
「……!」
「友の為、仲間の為……きっともっと多くの何かの為に動けるほど、君は誰よりも優しく、そして強い精神を持っている。年甲斐もなく僕の心が騒いでいるよ。どうやら、感化されているみたいだ……」

 思わず息を飲む。横顔から覗かせる瞳は、まっすぐに。
 威厳を感じさせる声音を伴いながら、前を歩く小さな背中がとてつもなく大きく見えた。

「そうだ、シルフィリア先生にも伝えておこうか。君の内に眠る力の正体について、彼女から説明を補足してもらおう。ちょうどいい所に、向こうから来てくれたようだからね」
「……オルレスさん。貴方は、一体……」

 廊下の奥から走ってくるシルフィ先生を視界に納めながら、振り返ったオルレスさんはふっと笑い。

「僕はただの医者さ。どこにでもいる、普通の……ね?」










 シルフィ先生とオルレスさんによる特別勉強会を終えた俺は、内容をまとめたメモ用紙を休憩室のテーブルの上に広げていた。
 魔法の原理、肉体の構造、魔力が肉体に及ぼす影響、特殊属性の特異性。
 “医療”と“魔法”に精通したスペシャリストからもたらされた知識だ。たった少しの時間であの虹についていくつかの謎が解けたのだから、疑う余地なんて一つも無い。
 色々と試行錯誤していかないと──。

「何と睨めっこしてんだ、クロト」
「ぅん? ああ、エリック。実は先生から今回の依頼について課題を提出するように言われてさ。それで今まで別の部屋で缶詰めにされてたんだ」
「なんだ。俺らが軍の聴取を受けてる間も、そっちはそっちで忙しかったのか」

 声を掛けてきたエリックはため息をつきながら椅子に深く座った。しかしかなり疲れているのか、すぐに机に突っ伏したが。
 俺も十分重傷だが、エリックも全身に包帯を巻いていてお互いに痛々しい外見をしている。

「エリックの方はどうだった?」
「ああ、どうやら軍の連中にも常識ってのはあるらしいぜ」

 エリックが言うには、俺は昨日の命令違反や独断行動などその他諸々の事情で軍の上層部より厳しい処罰が下される事になっていたらしい。
 しかし学園や分校、まさかの警察、そしてなんと軍の中からもサウスさんを筆頭に異議を申し立てる者が現れた。
 彼の行動は一般的に見れば称賛に値するとか。
 違反したのは事実なのだから相応の罰を与えるべきだとか。
 様々な議論が交わされていたそうだが、最終的に俺の動向をよく知っている二つの班に詳細を聞き、正しい処罰を下す事に。
 その証拠集め、と言えばいいのか。怪我人の事も配慮し、二つの班を病院で聴取する話になっていたのだ。
 ……なんだか昨日の今日で多方面に迷惑を掛けてるような気がする。

「他の連中も聴取が終わって、後で本人からも聴取するとか言ってたから、近い内に呼び出されるんじゃねぇか?」
「マジか、何を聞かれるんだろ? 救助に向かった動機とか理由とか、移動手段とか? 移動に関してはビル群の間をパルクールしてきたとしか言いようが無いしなぁ……」
「改めて聞くとやっぱお前バカだよな。普通そんな事しようと思っても出来ねぇぞ」
「出来ない事をやらなきゃ間に合わなかったんだよ。仲間が危険な目に遭ってると言われて動けないほど、俺は腰抜けじゃあない」
「……そういうとこだよな、お前」
「なに? どういう意味だよ?」
「何でもねぇよ」
「えー、気になるよ。何を言い掛けたんだ? なあなあ、おーしーえーろーよー!」
「いいから課題に集中しろって。……おい肩を掴むな揺さぶるなうっとおしいっつぅの!」
「ちっ、言ってくれれば『おしるこソーダ』を奢ってやろうと思ったのに」
「なんだその味ゲテモノすぎんだろ! 日輪の国アマテラスとコラボしてんのか!?」
「そうなんじゃない? そこの自販機に売ってるよ、ほら」
「うわ、マジだ。……どこの企業が製造しやがったんだ。絶対飲みたくねぇ」
「意外と飲んでる人いっぱいいるよ。俺もさっき飲んでたし」

 他愛の無い会話だ。だからこそ、お互いに笑えている。実感できる。
 この関係を守れたのだと。手を伸ばして掴めたのだと。
 助ける事が──救う事ができたのだと。
 自分勝手に巻き込んでしまって、きっとこれからも多くの人に迷惑を掛けてしまうだろう。
 それでも、こうして笑顔を守れたなら。

「……悪くない、よね」
「ん? なんか言ったか、クロト?」
「いや、エリックにどうやって『おしるこソーダ』を飲ませようかと思って」
「おい、やめろふざけるな。俺は絶対に嫌だからな!?」

 顔を引きつらせたエリックが自販機に対してバリケードを作り始めた。
 必死過ぎる抵抗に頬が吊り上がる。
 国外遠征から三日目の夜が、静かに訪れようとしていた──。
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