自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【三ノ章】闇を奪う者

幕間 交差する悪意

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 このルーザー・イル・ファランは貴族である。
 母は幼い頃に亡くなり、男手一つで育ててくれた父は製薬会社《デミウル》のトップとして活躍しており、子息という事で私も良いようにさせてもらった。
 新薬の作製、製薬工場の建設、部下の調達など。
 全てはグリモワールの貴族として、国とファラン家に対し当たり前の行動を取った。
 息抜きとして見聞を広めるという名分を掲げて冒険者を育成する学校に通い、唾棄すべき平民と交友を深めながら生活を続けていた私は、ある日父に呼び出された。






『ルーザー。お前には様々な手を施してきた。そして多くの利益を私と、《デミウル》に与えてくれた。貴族の子として、実に立派な精神と威厳を持って生きている。──故に、頼みがある』





 私には役目がある。
 下賤な者共には理解出来ない崇高な目的がある。
 しかし、本当に、に意味はあるのか。
 いや、そんな自問をするべきではない。貴族としての行為全ては正しい、正しいのだ。
 父から渡された注射器を見る。中には血液にも似た深紅の液体が入っていた。
 あまりの美しさに心を奪われてしまいそうになるほど、綺麗な液体。
 ──命を奪う、美しすぎる毒。






『この毒で、ラティアを殺せ。……安心しろ、解毒剤も開発されていない正真正銘の新薬だ。確実に殺せる。それに、もし作製元が《デミウル》だとバレたとしても、配下の企業に罪をなすり付ければよい。お前は、お前の役目を果たせ』






 私には役目がある。
 ……役目が、あるのだ。












『もどった』
「おかえり、よ。……おや? 今日は随分と機嫌がいいね。何か良い事でもあったのかい?」
『人助けした。ほうしゅう、これ』
「……『おしるこソーダ』? 挑戦的なテイストだ。そんな物を好んで飲む人がいるとは思えないが……その様子を見るに、相当気に入ったみたいだね」
『うん、おいしい』
「そうか。でも、他の魔導人形は君のように何かを食べたり、飲んだりする事は出来ないんだ。不審に思われたり、怪しまれないようにするんだよ?」
『だいじょうぶ。……それは?』
「これは戦闘型の魔導人形さ。これから配備される最新のタイプで、君の妹のようなものだ。……今から最終調整に入るから、晩御飯はもう少し待っていてくれ」
『うん』
「…………あの子の為に、私に出来る事。これはきっと許されない罪だ。万人に認められる正当性も無く、ただ排除されるだけ。──だけど、あの子は彼女との……いや、今は作業に集中しよう。今の私に必要なのは自己満足の果てに得られる結果だけだ。その為なら──私は悪魔になっても構わない」












 埃が舞い、ビルの光を受ける。
 廃工場の中。誰一人として近づこうとも思わないこの場所に、数人の影が伸びる。
 僅かな光が捉えるおぼろげな輪郭の一つが口を開いた。

「──仕事か?」
「うん。どうも軍の方で怪しい動きがあるみたいでね、皆にも動いてもらおうと思う」

 答える声は積まれた廃材の上に腰を下ろした、小さな影。
 影が発した声に各々が反応を示す。
 一つは静かに頷き、一つは軽く身を揺らし、一つは声を隠さず笑った。

「ハハハッ! ようやくか、ようやくか! この時を待っていたんだぜ……いつまで経ってもオマエは動かねェし、そろそろじれったいと思ってたんだ。なあ、オマエが待ち望んでいた相手ってのがここに来たんだろ? そいつとオレを戦わせろよ。オマエが期待してたヤツが相手なら全力で戦えそうだ。……この間、とやりあったが、途中で止められちまったからな。不完全燃焼なんだよ、だから──」
「ファースト、少し静かにして」
「てめェは黙ってろ、セカンド。同族のくせに弱い雑魚がでしゃばってんじゃねェぞ」
「二人とも落ち着きなよ。──セカンドにも思う所はあるだろうけど、今は抑えてほしいな。それに今回はファーストを中心に動いてもらう手筈になっているから、その事を他の皆にも知っててもらいたかったんだ」

 ファーストと呼ばれた影は歓喜の声を上げる。
 周囲の影はやれやれと首を振り、そして闇に消えていった。
 最後に残ったファースト、セカンドを見て、小さな影は小さく微笑んだ。

「仕掛けるタイミングは君に任せる。存分に楽しむといいよ」
「任せろ! ああ、わくわくするぜ。オレもも早速疼いてきやがった……!」

 ファーストは纏っていた外套を払い、腰に携えた二振りの剣を撫でる。
 命の鼓動のように明滅を繰り返し、深蒼の刀身が不気味に輝く。

「……」

 二人のやりとりを聞いていたセカンドは、目深に被ったフードの下から瞳を覗かせる。
 琥珀と紫水晶アメジストを思わせる双眸。
 それぞれの瞳が映す世界に、セカンドは一つ、ため息を吐いた。
 懐から取り出した眼帯を琥珀の瞳に掛け、きびすを返す。
 乾いた靴音が響き、次第に消えていく。
 後に残ったのは、静かな静寂のみだった──。
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