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【一ノ章】異世界はテンプレが盛り沢山
第十二話 激戦の後は
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全身に、例えようのない謎の浮遊感を感じる。
それでいて、恐ろしいほどに体は冷たい。手先の感覚は鈍く、頼りないものに変わり果てていた。
なんだろう、これ。
うまく言葉が見つからないが……そうだ、これはまるで、死んでいるかのような──。
「…………ああっ!?」
自分が何をして、どうなったかということに気づいて、跳ね起きる。
あのグロいモンスターを倒した後、また不時着して倒れたんだっけ……。
しかも爪で腹を切り裂かれるとか割とシャレにならない。
そう思い、冷静になって身体を確かめる。
ふむ、腕と足は両方あるな。顔はこうして確認してるから当然として。
……あれ、脇腹に傷が無い。
それどころか、下げていたはずの片手剣さえ無くなっている。
どういうことなの……?
「というか、ここどこだ?」
腰に手を当てながら周囲を見渡し、真っ白で地平線も見えない殺風景な空間に、俺は疑問を抱いた。
俺はダンジョンで倒れたはずなのだから、こんな所で起きるなんておかしい。
それにまるで外と中で時間の流れが違う、かの有名なあの部屋のような場所に転がっているというのも訳の分からない話だ。
「……一応、地面はあるのか」
不思議な場所だと思いながらも、もふもふ手触りの地面を触ってみる。
雲にもし触れるなら、こんな感触なのかな?
日干しされたふわふわな布団みたいで、結構気持ちよかったな……。
「…………よし、二度寝するか」
「いや、なんでよ。普通こんな不思議空間にいたら探索くらいするんじゃないの!? 動こうとして! っていうか、私すぐそばにいたのに気づかないふりしてたでしょ!?」
とりあえず落ち着こうと考えて、再び眠りにつこうとすると、隣から怒鳴り声が聞こえた。
それはとても軽々しく、以前にも聞いた覚えがあり、個人的に少し言いたいことがあった人物の声。
「まったくもう……あなたをここに連れてきてから何時間も経ってるけど、結構心配してたわりにはピンピンして……って何? どうして近づいてくるの? あ、あの、その右手は何? なんでパキパキって音鳴らしてるの?」
イレーネはふらりと立ち上がった俺に対し、少し怯えたような声音で白い地面を後ずさった。
「ほ、ほら、とりあえず落ち着いて話し合いましょう? 私そのためにここに来たんだし、クロトくんをちゃんと送りかえええええええぇぇああああ!? ちょ、ちょっと待って! 割れちゃう割れちゃう! 頭割れるっ!」
「心配するな。自慢じゃないが、俺のアイアンクローはリンゴを潰せる。しかしその分、手加減も簡単に出来るから、そんな叫ぶようなことでもないぞ。……まあ、今は全力で締めあげてるけど」
「そそそそそうなの!? だ、だったら手加減とかそういう話じゃなくて、この手を放して! こんなんじゃ話も出来ないし頭も痛いから!」
頭のこめかみを締め付けられ、もがいているイレーネの言葉に耳を傾ける。
「ふむ、なるほど……。大した理由だ、感動的だな」
「そうそう! ほら、クロトくんも言ってたじゃない。“気に食わないヤツは女性と動物以外はズタボロにしてきた”、って! ほら私、女性よ、女性!」
その姿で女性? ……さすがにないわー。
普通こういうのは仮の姿で、元の世界に戻ったらボンキュッボンのナイスバディなお姉さんとかになるんじゃないの?
何で幼女体型のままなんだよ、ガッカリだわ。
「子どもに関しては何も言ってないし、俺にお前を女性として見て欲しいならその身長と平坦な胸板をどうにかしてこい」
「な、なんてことを言うのよ!? 神に外見なんて関係ないし、それに一人前のレディに対して失礼じゃない! これでもお酒は飲めるのよ!」
「その姿で飲酒とか犯罪にしか見えねぇよ」
「くうっ……! いくら顔が平均的だからって技術でイケメンに勝とうとして、でも結局モテなかったからって私に八つ当たりしないでぇぇぇぇああああああああっ!?」
メリメリと。さらに力を込めて握ったら、イレーネの頭蓋から嫌な音が鳴った。
なぜ俺の黒歴史を知ってやがるんだこいつは。
「怒鳴りたいことは多々あるが、まあいい。それより何でこんなとこに俺が居るかを話してもらえるか?」
「話す! 話すからこの手を放してッ!!」
──数分後。
「……つまり、ここはイレーネみたいな超常的存在が活動している場所で、生死の境を無意識に彷徨っていた俺をイレーネが見つけて引っ張ってきた、と」
「大体合ってるけど……、死んだって分かってた割には冷静ね?」
「死んでるからってぎゃあぎゃあ騒ぐのもみっともないだろ。……それで話を戻すが、俺は引っ張られた衝撃で気絶してしまい、さらによく見ると大ケガをしていたから治した、と……」
「ここは精神的な世界だから、現実ではあまり関係ないんだけどね? でも結構エグい傷だったから……」
「腹の三割ぐらいズバッと切れてたからな。あの局面でよく意識を保ってたと思うよ」
この世界の特性を利用して作り上げた椅子に座り、俺は頭を抱えているイレーネの説明を聞いていた。
説明を聞くからに、ここは人の夢やあの世に似ている、もしくはそれらと同等の空間であるそうだ。
ここで仕事中だったイレーネは、腹をバッサリとカットされ、出血多量など諸々の影響で人体と魂が剥離しかけた俺を発見。
そのままではいずれ死んでしまう、と危惧したイレーネにより、ここに転移された。
だが、魂状態の俺は地面に叩きつけられ、何時間も気絶していたようだ。
「どうりで、ここに来た記憶が無いわけだ……」
「ご、ごめんね?」
「もう気にしてないよ……。ところで、魂が今こうやってここにいるんだけど、俺の身体ってどうなってるんだ?」
「君の友達が持っていたポーションをありったけ使ったおかげで、今は仮死状態になってるわ」
そう言って、イレーネは虚空に手をかざす。
すると何もなかった空間に、監視カメラの映像のようなものが映し出された。
「今は病院で治療を受けて眠ってる最中ね。お友達には感謝しなさいよ? もし君にポーションを使ってくれなかったら、死んでたかもしれないんだからね」
「…………ありがとうエリック、本当に。今度、何か奢るよ……」
俯瞰的に映し出された自分の姿を見て、浮遊霊の気持ちが少し分かった気がした。
色々なことがあって精神的に疲れてはいるが、初めての臨死体験は、どうやら無事に終えることが出来そうだ。
「それでねクロトくん。君を死から遠ざけたから私の仕事量が増えたんだけど、何か言う事があるんじゃないかしら?」
「助けてくれてありがとうございましたっ!!」
「よろしい。……でも、あまり自分の身体を酷使しないであげて。そんな簡単に、自分を犠牲にしようとしないで。…………お願い、だから」
「……うん、悪かった」
目じりに涙を溜めるイレーネの頭を撫でていると、不意に視界が眩んだ。
視界の枠からどんどん黒ずんでいく現象に目を細める。
「もしかして、魂が戻りかけてるのか?」
「たぶん、体と魂の繋がりがずっと強くなってるから、互いに引き合っているのね。体が透けてるのはその前兆よ」
涙を拭うイレーネの言葉に俺は納得した。
つまりは、強制送還されるってことだ。
「んー、それじゃあ戻るか。いつまでもここに居たら迷惑だろうし」
「ああ、待って。……これを」
「? 何これ?」
椅子から立ち上がり、軽く伸びをしているとイレーネが何かを差し出してきた。
反射的に受け取ったそれは、炎のように紅い小さな珠が付けられているペンダント。
鼓動するように明滅を繰り返すペンダントを見つめる。
「それはね、ここと現実の行き来を簡単にする便利アイテムよ」
「俺にまたさっくり死ねと申すか」
「違う違う。もし死んだ時にそれを身に付けていれば、アイテムの効果で天国にも地獄にも逝くことなく、ここに送還されるのよ。つまり死なない可能性が高くなるの。あと、寝る前にここに来たいと強く思えば、この世界に来れるようになるわ。名前は確か……、『冥土返しの宝珠』だったかしら?」
随分と大層な名前だな。
「神としてはダメなんだけど、私個人として、君には死んでほしくないの。私の大切な友達の子を、死なせたくないから……」
「…………そっか」
ペンダントを眺めていた俺は、悲痛なイレーネの願いに深く頷いた。
「……でも、ここで俺が貰っても意味ないよな? というか、こんなの貰っていいのか?」
「現実の体に転送しておくから問題ないわよ。しかもそれ、適当に作った余り物の神器にすっかり渡し忘れてた通信用の神器を混ぜただけだから気にしないで」
「ふーん、そうなん……いや待て、今なんつった?」
聞き間違いじゃなかったら神器って言わなかったか?
しかも渡し忘れた通信用の神器だと?
じゃあやっぱりあんな目に合ったのはこいつのせいじゃないか。
「また会いに来てね? 今は忙しくていないけど、合わせたい子もいるし」
「おいこらちょっと待て。話はまだ終わって──」
言い切る前に視界が暗くなり、イレーネの手を振る姿を最後に意識が途切れた。
「──ハッ!?」
唐突に目が覚めた。
柔らかいベッドの感触と、消毒液の匂いに軽く既視感を覚えたが、保健室とは景色が違う。
ここは、俺が運ばれた病院の一室、
視界の左上には、四袋もの輸血パックがぶら下げられおり、その全てが左腕に突き刺さっている。
他にも得体の知れない色鮮やかな液体──というか、ポーションにしか見えない──なども注入されており、動かせないように完全に固定されていた。
火傷した身体を、より早く回復させるためだろう。
そして切り裂かれた腹部は未だに熱を持っているが、治療と回復魔法のおかげか、身じろぎしても痛みはない。
「……っ」
寝起きで視界がぼんやりとしていて、しっかりした意識とはいえないが、どうも悪い夢を見ていた気がする。
具体的には、貧乳女神と会話を交わしていた夢だ。
案外夢というものは忘れやすいものだが、目が冴えていくうちに記憶が鮮明になっていく。
夢の最後に渡された物があるかを確認しようと、右手を動かす。
手の中に、感触があった。
包帯に包まれた右手を広げてみると、それはイレーネから渡されたペンダントで、今も変わらず明滅を繰り返している。
「……本当に転送してきたのか」
これ、どうしよう。
もし俺より上の鑑定スキル持ちがこれを見て、神器だと気づいたらどう言い訳すればいいんだ。
しかも能力が持ち主の死を遅らせて、神と交信できるようになるものとか、完全に厄ネタになり得る。
……見つからないようにポケットの奥に押し込んでおくか。
入院着のポケットにペンダントを滑り込ませ、ベッドの上でため息をこぼす。
すると、病室の扉が開かれた。
目を向けると、そこには果物が入った籠を持つエリックとシノノメが立っていて、二人とも俺と目が合うとひどく驚いた表情になり、同時に顔を綻ばせる。
「よっす、二人とも」
「クロト! 目が覚めたんだな!」
「おう。ほら、見ての通りだ」
「……はあ、まったく。なんともないように言いやがって。こっちはお前が治療されてる最中、ずっと気が気じゃなかったんだぜ?」
駆け寄ってきたエリックに肩を叩かれる。
腹、というか傷口に響くから止めてほしいが、目の前であんな光景を見せてしまった手前、止めようとは思わなかった。
「よかったです……。本当に……!」
「もしかしなくても、心配掛けたよな?」
「当たり前じゃないですか……!」
少し潤んだ瞳のシノノメの手を借りて上体を起こす。
包帯が身体中に巻かれていて動かしにくいが、ミイラ状態には慣れてるから問題は無い。
そんな時。
ごぎゅるるる……。
「「「…………」」」
恥ずかしながら、空腹に耐えられない胃袋が悲鳴を上げた。
シノノメもエリックも、動きを止めて静かに俯き始める。
「ぷっ、くくくっ……」
「あ、アカツキさん……っ」
「や、やめろお! その暖かいようで恥ずかしさを倍増させる目つきで俺を見るなぁ!」
俯いて肩を震わせ、横目で見つめてくる二人に、俺はここが病院であることも忘れて叫ぶ。
ちくしょう、揃いも揃って同じような反応しやがって!
「わ、悪い悪い。それならこれ食うか? もう夜飯ぐらいの時間だけど、お前長い時間寝てたからよ。起きた時のためにと思って買ってきたんだ」
エリックは籠を持ち上げ、テーブルの上に置くとニカッと笑う。
空腹なのは間違いないので、俺はそれを見るなり、中に入っているりんごを取り出す。
そしてテーブルに置かれていた皿を膝に乗せ、果物ナイフで皮を剥こうとする。
が、肝心の左腕が動かせないことを忘れていた。
……仕方ない、皮付きのまま食べるか。
「私がやりましょう。ケガ人に無理をさせるわけにはいきませんから」
「なん、だと……」
「いや、なんでそんなに驚いてんだよ」
皿とりんごを奪い取り、慣れた手つきで皮剥きを始めたシノノメに感動する。
この世界に来る前も何度か入院をしたことはあるが、こうして起きている時に見舞いに来てくれた親友は少なかった。
大抵は気を失っている時に訪れて見舞いの品の果物や花束、クラス人数分の『早く退院してね』、『お前がいないと寂しいぜ』、『恋したいので早く復活して』などが書かれた色紙を置いてくだけ。
だから一人で食べる事が多く、骨折で手が使えない時は、いつの間にか現れる母さんに剥いてもらっていた。
なのに、こんな風に美少女が見舞いに来て皮を剥いてくれるとか……、まさしくギャルゲ展開じゃないか。
……あれ、なんだろう。
もしかして俺って、今かなり青春してるんじゃないか?
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
若干キョドりながら、綺麗に切り分けられたりんごに手をつける。
口に入れた瞬間、酸味と甘み、そして瑞々しさが弾けた。
思えばここ最近、りんごを食べた記憶が無い。
久しぶりの味覚を感じながら次々と口に放り込み、シャクシャクと頬張る。
「しかし、タフなヤツだな、お前」
「んぐっ……。そうか?」
「だって普通、寝起きでそんなに食うヤツなんかいねぇぞ? それに大体の傷はポーションの影響で治ってはいるが、身体中が火傷と裂傷でボロボロ、特に内臓がやられてるからポーションを直に注入してるっつーのに、痛がってもいねぇじゃねぇか」
「……マジで?」
俺ってそんなに重症だったの?
「つっても、治療と回復魔法、最高級のポーションとリジェネポーションを併用してるくらいだ。完治しててもおかしくないんだけどな」
「そうですね。顔色も大分良くなっていますし、固い食べ物も食べられるようになっていますから」
「ごくっ……。いやほら、世の中にはワインとチーズと肉を食って腹の傷を治す人だっているから、珍しくないんじゃない?」
「聞いたことねぇよそんなヤツの話」
そうかな? あの世紀の大泥棒はそれで身体を治してたけど……。
りんごを全て食い尽くし、一息ついているとまた扉が開かれる。
そこには白衣を身に纏い、首から聴診器を下げた、いかにも医者といった装いの男性が立っていた。
側に付き添いの看護婦も付けず、俺に近寄り顔色を確認すると、ほっとしたように……。
…………男、か。
「ふむ、この様子だとほぼ全快まで回復しているようだね。魔法処置が間に合ってよかったよ。ここに運び込まれた時の君は極限まで弱っていたから、起きるまで時間がかかると思っていたが──」
「チェンジで!」
なんで美人ナースじゃねぇんだよ、という思いを込めて叫ぶ。
直後にエリックが履いていたスリッパは弧を描き、俺の脳天を直撃した。
「そういやさ、なんで俺を殴ったの?」
「お前がいきなりわけわからんこと言い出すからだっつの。何がチェンジで! だよ、失礼だろうが」
「なんだって!? エリックだって分かるだろう! ああいう時は美人ナースが訪れて、触診とかしてくれるっているシチュエーションがあるって! なのに来たのが初老間近の男性医師とか舐めてんのか! 治療してくれたのは感謝してるし、今度行った時はお礼の品でも持って行こうと思ってるけどね!」
「なんでそこまで常識的な判断ができるのに、あんなことを言ったのか。俺には理解できそうにねぇわ」
「……ちっ、戦ってる最中ちょこっとシノノメの方を見ては鼻の下伸ばしているお前なら、俺のこの考えに同意してくれると思ったんだがな」
「ななな、なに言ってやがるこの野郎! べべ、別に見てねーし、鼻の下なんか伸ばしてねーし!」
「ハッ! がっつりガン見してる俺とは違い、少し恥じらいながらチラ見するとか男の風上にも置けないヤツだな! 見るなら見るで堂々としてればいいんだよ!」
「お前の方が変態度強めじゃねぇか!」
「んだとコラ、やんのか!?」
「ああん!?」
「──こんな時間に、こんな所で、騒がないでくれる?」
「「すんませんしたっ!」」
病室に訪れた医者の判断により、退院してもいいと言われた俺と見舞いに来てくれた二人は、荷物を持って帰宅していた。
帰宅途中、とりあえず今日の戦利品分配は後日にして、今日の所は解散という話に。
しかし、それでも話すべき事態があったということで、シノノメを女子寮まで送り届けた後、その足取りで俺とエリックは学園長室に乗り込むことにした。
いざ乗り込もうとした手前で、ふとなぜド突かれたかを思い出した俺とエリックは口論になり……。
ついに胸ぐらまで掴み一触即発の空気の中、学園長室からフレンが顔を出した。
冷たい一言で即座に土下座へ移行した俺たちを見下ろすフレンは、中に入るように指示すると執務机の上で手を組む。
「さて、男子寮門限まであと一時間なのに、なんでここに来たのかを話してもらえる? それと、君がなぜ包帯でぐるぐる巻きにされてるかを」
「「う、うす」」
言いながら、フレンは俺を見ると目を細めた。
正直怖いので、隣にいるエリックと交互に話し出す。
ダンジョンに出現した謎のモンスター。
俺のケガの理由。
全部を繋ぎ合わせた、簡潔かつまとまった説明を聞いたフレンは目を瞑り。
「……なるほど、大体分かったわ。ひとまずこの話は他言無用にしてくれる? シノノメさんにも伝えておいて。ボス部屋倒壊については、ギルド側に私が話をつけておくわ。今日はもう帰りなさい」
「「わかりました。お願いしまーす」」
深々と頭を下げ、踵を返した所で。
「あっ、ごめん。クロトくんは残って」
「えっ」
「おっと、早く寝ないと寝坊するなー。じゃあなー」
「ちょちょちょ!?」
ばたん、と。
エリックは足早に退室し、学園長室は俺とフレンの二人だけの空間に。
……背中に刺さるフレンの視線が痛いです。
「えっと、その……」
「別に怒ってるわけじゃないわよ? 君が無茶をする人だっていうのはガルド先生の件ではっきりしてるし、今回の件も結界のせいで逃げられなかったから、仕方なくモンスターを倒したっていうのはよぉく分かる。……でも、まさか病院に運ばれるほど無茶するとは思わなかったわ」
「ひぇ……」
本来笑顔というものは攻撃的なものであり、特に強い威圧感を持つ者がにこっと笑ったとしても、向けられた相手は恐怖を感じる。
それは目の前にいるフレンの笑顔も例外ではない。
ていうか、やっぱり怒ってるじゃないですかやだー!
「だからペナルティとして、一ヶ月ダンジョン攻略禁止、及び期間中は一定数の依頼をこなしてもらうわよ。それと、ちゃんと身体を休めることね」
「…………あ、あれ? 意外と普通?」
もっと無慈悲なペナルティが来るかと思ったのに……。
「どうせこれ以上言ったって聞き入れないでしょ? 私としての妥協点よ。シルフィにバラさないだけありがたいと思いなさい。もしあの子が知ったら、知ったら……!」
「わ、分かった分かった! ちゃんと休むから震えるなって!」
フレンが冷や汗かいて怖がるって一体どんなことされるんだよ!
「つ、つまりそういうことよ。明日からは出来る限り依頼を受けてね? ある程度の実績が無ければ、あなたの地位が危ういんだから。伝えたかったのはそれだけ。……忠告しておくけど、もし一度でもダンジョン系の依頼受けたら──シルフィにバラすからね」
「理解しました失礼します!」
最後の最後に脅され、弾かれたように学園長室から飛び出す。
日も落ちて、薄暗くなった学園はお化け屋敷のようで、思わず置き去りにされた時のトラウマを思い出すほど不気味だった。
こ、こんなところに居られるか! 俺は自分の家に帰るぞ!
俺は全速力で廊下を駆け抜け、我が家へと向かった。
「……やれやれ。本当に変わらないわね、君は」
困ったように肘をつき、思わず頬を緩ませる。
彼はいつもそうだ。
たとえどんな困難が襲いかかろうと、たとえどんな無理難題が押し寄せようと、自分の身を犠牲にして、彼は何度も立ち上がってきた。
私は机の引き出しから、一枚の写真を持ち上げる。
それは自らの魔法で加工が施された、色褪せることを忘れた鮮やかな写真。
まだニルヴァーナが建てられていない時代の、長い時を生きた私の、大切な宝物だ。
何十人ものドワーフ、エルフ、妖精族といった多種多様な異種族が並び、全員が豪快に笑っている。
この時代の異種族など、憎みあい、激突しあうだけで、とても友好的とは言えなかった。
なのに──彼らは笑っている。肩を組み、酒の入ったジョッキを片手に、心底愉快そうに。
そして写真の中心に居座る桃色の髪の女。
昔はストレートの長髪で、今は短くしてしまったが、忘れるものか。
これは私だ。
紅い瞳を爛々と輝かせ、頬は酒の影響で赤く上気させながらマントの端を持ち、振り回していた。
……まあ、酒樽を一気飲みすればこうもなるだろう。
というか、昔の私ってこんなに色気無かったっけ……?
どことなく恥ずかしい気持ちになって、思わず目を逸らした。
そして。
視界の隅。その輪の中に、たった一人だけ、人間がいた。
「──忘れるわけない」
黒い髪に黒い瞳。
エルフが見れば鼻で笑うほど普通の顔立ちで、中肉中背の、腰に一振りの剣を下げた若い男だ。
男もまた、ジョッキを掲げて吹っ切れたように笑っていた。
その笑顔は誰よりも輝いている気がして、とても魅力的だ。
彼こそが異種族間の諍いを無くし、その直後に起きた大戦さえも静め、悩んでいた私の為に道を示してくれた大切な人。
出会った最初は確信がなかったけど、間違いなかった。
ああ、今から楽しみだ。
「だから……」
私は彼を慈しむようにそっと撫でると、そのまま机に仕舞い──
「早く、会いに来てね」
──翌日。
穏やかな朝の時間、ホームルーム前の教室にて。
「第一回!」
「チキチキ、ダンジョン攻略戦利品分配!」
「はっじめっるよー!」
「「いやっふぅぅぅうううううううっ!」」
「朝から元気ですね……」
ハイテンションで手を突き上げる俺とエリックを見て、若干テンションの低いシノノメがコメントを残す。
周囲のクラスメイトも目を向けてくるが、俺を見た瞬間、目を逸らしていた。
だがしかし、そんなものは意に介さず、俺は意気揚々とエリックが持ってきたバックパックを開ける。
「まったくすっかり忘れてたぜ。昨日はいろいろ言われて頭に無かったけど、普段はこうして分配するんだったな」
「本当は酒場で打ち上げみたいにしてやるんだが、たまには学園でやったっていいだろ」
「そっちもいずれ経験してみたいけど、当分無理そうだから今はこれで我慢するさ」
「あー、一ヶ月間ダンジョン攻略禁止だっけ? 大変だな」
「はい!?」
「そうそう。だから特待生本来の仕事をこなすことにするよ」
「そうか……。ま、何かあったら俺に言えよ。可能な限りで手助けしてやっから」
「学園長室で何があったんですか? アカツキさんに一体何が!?」
一気に目が覚めたのか、シノノメがまくし立ててくる。
エリックが詳しい説明を話している中、俺は鉱石を取り出し、持ってきておいた袋に放り込む。
二人とも鉱石系は俺が持っていっていいという話をしていたので、遠慮なく頂くことにする。
「よし。純黒鉱石と黒鉱石、鉄鉱石に各属性結晶ゲッツ。あーとーはー……」
「宝石はいいのか?」
「逆に聞くが、二人は?」
「……では、アメジストを頂いてもよろしいですか? 贈り物にしたいので」
「んじゃあ、俺はトパーズとエメラルドをくれ」
「……それだけ?」
過剰に持ってても売るぐらいしか使い道が無いから、別にいいという二人の意見。
欲が無いのか、それともBランクの余裕なのか。
まあ、貰えるならありがたく頂戴しよう
残ったモンスターの素材はほとんど換金で、欲しい物も全部振り分け終わる頃にはホームルーム開始の鐘が鳴った。
「皆さん、おはようございます」
『おはようございます!』
同時に、入室してきた先生に大きな声で挨拶を返す。
さて──今日も一日、元気に過ごそう!
それでいて、恐ろしいほどに体は冷たい。手先の感覚は鈍く、頼りないものに変わり果てていた。
なんだろう、これ。
うまく言葉が見つからないが……そうだ、これはまるで、死んでいるかのような──。
「…………ああっ!?」
自分が何をして、どうなったかということに気づいて、跳ね起きる。
あのグロいモンスターを倒した後、また不時着して倒れたんだっけ……。
しかも爪で腹を切り裂かれるとか割とシャレにならない。
そう思い、冷静になって身体を確かめる。
ふむ、腕と足は両方あるな。顔はこうして確認してるから当然として。
……あれ、脇腹に傷が無い。
それどころか、下げていたはずの片手剣さえ無くなっている。
どういうことなの……?
「というか、ここどこだ?」
腰に手を当てながら周囲を見渡し、真っ白で地平線も見えない殺風景な空間に、俺は疑問を抱いた。
俺はダンジョンで倒れたはずなのだから、こんな所で起きるなんておかしい。
それにまるで外と中で時間の流れが違う、かの有名なあの部屋のような場所に転がっているというのも訳の分からない話だ。
「……一応、地面はあるのか」
不思議な場所だと思いながらも、もふもふ手触りの地面を触ってみる。
雲にもし触れるなら、こんな感触なのかな?
日干しされたふわふわな布団みたいで、結構気持ちよかったな……。
「…………よし、二度寝するか」
「いや、なんでよ。普通こんな不思議空間にいたら探索くらいするんじゃないの!? 動こうとして! っていうか、私すぐそばにいたのに気づかないふりしてたでしょ!?」
とりあえず落ち着こうと考えて、再び眠りにつこうとすると、隣から怒鳴り声が聞こえた。
それはとても軽々しく、以前にも聞いた覚えがあり、個人的に少し言いたいことがあった人物の声。
「まったくもう……あなたをここに連れてきてから何時間も経ってるけど、結構心配してたわりにはピンピンして……って何? どうして近づいてくるの? あ、あの、その右手は何? なんでパキパキって音鳴らしてるの?」
イレーネはふらりと立ち上がった俺に対し、少し怯えたような声音で白い地面を後ずさった。
「ほ、ほら、とりあえず落ち着いて話し合いましょう? 私そのためにここに来たんだし、クロトくんをちゃんと送りかえええええええぇぇああああ!? ちょ、ちょっと待って! 割れちゃう割れちゃう! 頭割れるっ!」
「心配するな。自慢じゃないが、俺のアイアンクローはリンゴを潰せる。しかしその分、手加減も簡単に出来るから、そんな叫ぶようなことでもないぞ。……まあ、今は全力で締めあげてるけど」
「そそそそそうなの!? だ、だったら手加減とかそういう話じゃなくて、この手を放して! こんなんじゃ話も出来ないし頭も痛いから!」
頭のこめかみを締め付けられ、もがいているイレーネの言葉に耳を傾ける。
「ふむ、なるほど……。大した理由だ、感動的だな」
「そうそう! ほら、クロトくんも言ってたじゃない。“気に食わないヤツは女性と動物以外はズタボロにしてきた”、って! ほら私、女性よ、女性!」
その姿で女性? ……さすがにないわー。
普通こういうのは仮の姿で、元の世界に戻ったらボンキュッボンのナイスバディなお姉さんとかになるんじゃないの?
何で幼女体型のままなんだよ、ガッカリだわ。
「子どもに関しては何も言ってないし、俺にお前を女性として見て欲しいならその身長と平坦な胸板をどうにかしてこい」
「な、なんてことを言うのよ!? 神に外見なんて関係ないし、それに一人前のレディに対して失礼じゃない! これでもお酒は飲めるのよ!」
「その姿で飲酒とか犯罪にしか見えねぇよ」
「くうっ……! いくら顔が平均的だからって技術でイケメンに勝とうとして、でも結局モテなかったからって私に八つ当たりしないでぇぇぇぇああああああああっ!?」
メリメリと。さらに力を込めて握ったら、イレーネの頭蓋から嫌な音が鳴った。
なぜ俺の黒歴史を知ってやがるんだこいつは。
「怒鳴りたいことは多々あるが、まあいい。それより何でこんなとこに俺が居るかを話してもらえるか?」
「話す! 話すからこの手を放してッ!!」
──数分後。
「……つまり、ここはイレーネみたいな超常的存在が活動している場所で、生死の境を無意識に彷徨っていた俺をイレーネが見つけて引っ張ってきた、と」
「大体合ってるけど……、死んだって分かってた割には冷静ね?」
「死んでるからってぎゃあぎゃあ騒ぐのもみっともないだろ。……それで話を戻すが、俺は引っ張られた衝撃で気絶してしまい、さらによく見ると大ケガをしていたから治した、と……」
「ここは精神的な世界だから、現実ではあまり関係ないんだけどね? でも結構エグい傷だったから……」
「腹の三割ぐらいズバッと切れてたからな。あの局面でよく意識を保ってたと思うよ」
この世界の特性を利用して作り上げた椅子に座り、俺は頭を抱えているイレーネの説明を聞いていた。
説明を聞くからに、ここは人の夢やあの世に似ている、もしくはそれらと同等の空間であるそうだ。
ここで仕事中だったイレーネは、腹をバッサリとカットされ、出血多量など諸々の影響で人体と魂が剥離しかけた俺を発見。
そのままではいずれ死んでしまう、と危惧したイレーネにより、ここに転移された。
だが、魂状態の俺は地面に叩きつけられ、何時間も気絶していたようだ。
「どうりで、ここに来た記憶が無いわけだ……」
「ご、ごめんね?」
「もう気にしてないよ……。ところで、魂が今こうやってここにいるんだけど、俺の身体ってどうなってるんだ?」
「君の友達が持っていたポーションをありったけ使ったおかげで、今は仮死状態になってるわ」
そう言って、イレーネは虚空に手をかざす。
すると何もなかった空間に、監視カメラの映像のようなものが映し出された。
「今は病院で治療を受けて眠ってる最中ね。お友達には感謝しなさいよ? もし君にポーションを使ってくれなかったら、死んでたかもしれないんだからね」
「…………ありがとうエリック、本当に。今度、何か奢るよ……」
俯瞰的に映し出された自分の姿を見て、浮遊霊の気持ちが少し分かった気がした。
色々なことがあって精神的に疲れてはいるが、初めての臨死体験は、どうやら無事に終えることが出来そうだ。
「それでねクロトくん。君を死から遠ざけたから私の仕事量が増えたんだけど、何か言う事があるんじゃないかしら?」
「助けてくれてありがとうございましたっ!!」
「よろしい。……でも、あまり自分の身体を酷使しないであげて。そんな簡単に、自分を犠牲にしようとしないで。…………お願い、だから」
「……うん、悪かった」
目じりに涙を溜めるイレーネの頭を撫でていると、不意に視界が眩んだ。
視界の枠からどんどん黒ずんでいく現象に目を細める。
「もしかして、魂が戻りかけてるのか?」
「たぶん、体と魂の繋がりがずっと強くなってるから、互いに引き合っているのね。体が透けてるのはその前兆よ」
涙を拭うイレーネの言葉に俺は納得した。
つまりは、強制送還されるってことだ。
「んー、それじゃあ戻るか。いつまでもここに居たら迷惑だろうし」
「ああ、待って。……これを」
「? 何これ?」
椅子から立ち上がり、軽く伸びをしているとイレーネが何かを差し出してきた。
反射的に受け取ったそれは、炎のように紅い小さな珠が付けられているペンダント。
鼓動するように明滅を繰り返すペンダントを見つめる。
「それはね、ここと現実の行き来を簡単にする便利アイテムよ」
「俺にまたさっくり死ねと申すか」
「違う違う。もし死んだ時にそれを身に付けていれば、アイテムの効果で天国にも地獄にも逝くことなく、ここに送還されるのよ。つまり死なない可能性が高くなるの。あと、寝る前にここに来たいと強く思えば、この世界に来れるようになるわ。名前は確か……、『冥土返しの宝珠』だったかしら?」
随分と大層な名前だな。
「神としてはダメなんだけど、私個人として、君には死んでほしくないの。私の大切な友達の子を、死なせたくないから……」
「…………そっか」
ペンダントを眺めていた俺は、悲痛なイレーネの願いに深く頷いた。
「……でも、ここで俺が貰っても意味ないよな? というか、こんなの貰っていいのか?」
「現実の体に転送しておくから問題ないわよ。しかもそれ、適当に作った余り物の神器にすっかり渡し忘れてた通信用の神器を混ぜただけだから気にしないで」
「ふーん、そうなん……いや待て、今なんつった?」
聞き間違いじゃなかったら神器って言わなかったか?
しかも渡し忘れた通信用の神器だと?
じゃあやっぱりあんな目に合ったのはこいつのせいじゃないか。
「また会いに来てね? 今は忙しくていないけど、合わせたい子もいるし」
「おいこらちょっと待て。話はまだ終わって──」
言い切る前に視界が暗くなり、イレーネの手を振る姿を最後に意識が途切れた。
「──ハッ!?」
唐突に目が覚めた。
柔らかいベッドの感触と、消毒液の匂いに軽く既視感を覚えたが、保健室とは景色が違う。
ここは、俺が運ばれた病院の一室、
視界の左上には、四袋もの輸血パックがぶら下げられおり、その全てが左腕に突き刺さっている。
他にも得体の知れない色鮮やかな液体──というか、ポーションにしか見えない──なども注入されており、動かせないように完全に固定されていた。
火傷した身体を、より早く回復させるためだろう。
そして切り裂かれた腹部は未だに熱を持っているが、治療と回復魔法のおかげか、身じろぎしても痛みはない。
「……っ」
寝起きで視界がぼんやりとしていて、しっかりした意識とはいえないが、どうも悪い夢を見ていた気がする。
具体的には、貧乳女神と会話を交わしていた夢だ。
案外夢というものは忘れやすいものだが、目が冴えていくうちに記憶が鮮明になっていく。
夢の最後に渡された物があるかを確認しようと、右手を動かす。
手の中に、感触があった。
包帯に包まれた右手を広げてみると、それはイレーネから渡されたペンダントで、今も変わらず明滅を繰り返している。
「……本当に転送してきたのか」
これ、どうしよう。
もし俺より上の鑑定スキル持ちがこれを見て、神器だと気づいたらどう言い訳すればいいんだ。
しかも能力が持ち主の死を遅らせて、神と交信できるようになるものとか、完全に厄ネタになり得る。
……見つからないようにポケットの奥に押し込んでおくか。
入院着のポケットにペンダントを滑り込ませ、ベッドの上でため息をこぼす。
すると、病室の扉が開かれた。
目を向けると、そこには果物が入った籠を持つエリックとシノノメが立っていて、二人とも俺と目が合うとひどく驚いた表情になり、同時に顔を綻ばせる。
「よっす、二人とも」
「クロト! 目が覚めたんだな!」
「おう。ほら、見ての通りだ」
「……はあ、まったく。なんともないように言いやがって。こっちはお前が治療されてる最中、ずっと気が気じゃなかったんだぜ?」
駆け寄ってきたエリックに肩を叩かれる。
腹、というか傷口に響くから止めてほしいが、目の前であんな光景を見せてしまった手前、止めようとは思わなかった。
「よかったです……。本当に……!」
「もしかしなくても、心配掛けたよな?」
「当たり前じゃないですか……!」
少し潤んだ瞳のシノノメの手を借りて上体を起こす。
包帯が身体中に巻かれていて動かしにくいが、ミイラ状態には慣れてるから問題は無い。
そんな時。
ごぎゅるるる……。
「「「…………」」」
恥ずかしながら、空腹に耐えられない胃袋が悲鳴を上げた。
シノノメもエリックも、動きを止めて静かに俯き始める。
「ぷっ、くくくっ……」
「あ、アカツキさん……っ」
「や、やめろお! その暖かいようで恥ずかしさを倍増させる目つきで俺を見るなぁ!」
俯いて肩を震わせ、横目で見つめてくる二人に、俺はここが病院であることも忘れて叫ぶ。
ちくしょう、揃いも揃って同じような反応しやがって!
「わ、悪い悪い。それならこれ食うか? もう夜飯ぐらいの時間だけど、お前長い時間寝てたからよ。起きた時のためにと思って買ってきたんだ」
エリックは籠を持ち上げ、テーブルの上に置くとニカッと笑う。
空腹なのは間違いないので、俺はそれを見るなり、中に入っているりんごを取り出す。
そしてテーブルに置かれていた皿を膝に乗せ、果物ナイフで皮を剥こうとする。
が、肝心の左腕が動かせないことを忘れていた。
……仕方ない、皮付きのまま食べるか。
「私がやりましょう。ケガ人に無理をさせるわけにはいきませんから」
「なん、だと……」
「いや、なんでそんなに驚いてんだよ」
皿とりんごを奪い取り、慣れた手つきで皮剥きを始めたシノノメに感動する。
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大抵は気を失っている時に訪れて見舞いの品の果物や花束、クラス人数分の『早く退院してね』、『お前がいないと寂しいぜ』、『恋したいので早く復活して』などが書かれた色紙を置いてくだけ。
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「しかし、タフなヤツだな、お前」
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「別に怒ってるわけじゃないわよ? 君が無茶をする人だっていうのはガルド先生の件ではっきりしてるし、今回の件も結界のせいで逃げられなかったから、仕方なくモンスターを倒したっていうのはよぉく分かる。……でも、まさか病院に運ばれるほど無茶するとは思わなかったわ」
「ひぇ……」
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ていうか、やっぱり怒ってるじゃないですかやだー!
「だからペナルティとして、一ヶ月ダンジョン攻略禁止、及び期間中は一定数の依頼をこなしてもらうわよ。それと、ちゃんと身体を休めることね」
「…………あ、あれ? 意外と普通?」
もっと無慈悲なペナルティが来るかと思ったのに……。
「どうせこれ以上言ったって聞き入れないでしょ? 私としての妥協点よ。シルフィにバラさないだけありがたいと思いなさい。もしあの子が知ったら、知ったら……!」
「わ、分かった分かった! ちゃんと休むから震えるなって!」
フレンが冷や汗かいて怖がるって一体どんなことされるんだよ!
「つ、つまりそういうことよ。明日からは出来る限り依頼を受けてね? ある程度の実績が無ければ、あなたの地位が危ういんだから。伝えたかったのはそれだけ。……忠告しておくけど、もし一度でもダンジョン系の依頼受けたら──シルフィにバラすからね」
「理解しました失礼します!」
最後の最後に脅され、弾かれたように学園長室から飛び出す。
日も落ちて、薄暗くなった学園はお化け屋敷のようで、思わず置き去りにされた時のトラウマを思い出すほど不気味だった。
こ、こんなところに居られるか! 俺は自分の家に帰るぞ!
俺は全速力で廊下を駆け抜け、我が家へと向かった。
「……やれやれ。本当に変わらないわね、君は」
困ったように肘をつき、思わず頬を緩ませる。
彼はいつもそうだ。
たとえどんな困難が襲いかかろうと、たとえどんな無理難題が押し寄せようと、自分の身を犠牲にして、彼は何度も立ち上がってきた。
私は机の引き出しから、一枚の写真を持ち上げる。
それは自らの魔法で加工が施された、色褪せることを忘れた鮮やかな写真。
まだニルヴァーナが建てられていない時代の、長い時を生きた私の、大切な宝物だ。
何十人ものドワーフ、エルフ、妖精族といった多種多様な異種族が並び、全員が豪快に笑っている。
この時代の異種族など、憎みあい、激突しあうだけで、とても友好的とは言えなかった。
なのに──彼らは笑っている。肩を組み、酒の入ったジョッキを片手に、心底愉快そうに。
そして写真の中心に居座る桃色の髪の女。
昔はストレートの長髪で、今は短くしてしまったが、忘れるものか。
これは私だ。
紅い瞳を爛々と輝かせ、頬は酒の影響で赤く上気させながらマントの端を持ち、振り回していた。
……まあ、酒樽を一気飲みすればこうもなるだろう。
というか、昔の私ってこんなに色気無かったっけ……?
どことなく恥ずかしい気持ちになって、思わず目を逸らした。
そして。
視界の隅。その輪の中に、たった一人だけ、人間がいた。
「──忘れるわけない」
黒い髪に黒い瞳。
エルフが見れば鼻で笑うほど普通の顔立ちで、中肉中背の、腰に一振りの剣を下げた若い男だ。
男もまた、ジョッキを掲げて吹っ切れたように笑っていた。
その笑顔は誰よりも輝いている気がして、とても魅力的だ。
彼こそが異種族間の諍いを無くし、その直後に起きた大戦さえも静め、悩んでいた私の為に道を示してくれた大切な人。
出会った最初は確信がなかったけど、間違いなかった。
ああ、今から楽しみだ。
「だから……」
私は彼を慈しむようにそっと撫でると、そのまま机に仕舞い──
「早く、会いに来てね」
──翌日。
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『おはようございます!』
同時に、入室してきた先生に大きな声で挨拶を返す。
さて──今日も一日、元気に過ごそう!
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