黒く嗤う

きぃすけ

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バスに揺られて

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 数時間前から乗り物に揺られ続けて、正直俺は吐きそうだ。蹲って耐えていると、横から薬が差し出された。

「ほらこれ飲んで。京は酔いやすいんだな」

 笑って水も受け渡してきた彼にむっとしながら、勢いよく薬を飲みこんだ。彼は長時間乗り物に乗ってきたのに涼しげな顔をしている。俺が酔いやすいんじゃなくて、こいつが頑丈なだけだと思う。

「杏一は酔わないのか?」

「んー、酔ったことないな。それより、まだ着くまでにしばらくかかるから眠ってなよ。起きていても辛いだけだろう?俺が起こしてやるから。眠いって顔に書いているぞ」

 確かに今日は朝早くに起きたから、少し眠い。

「じゃあ、お言葉に甘えて。着いたらちゃんと起こしてくれよ」






「京、けーい。起きて、着いたぞ」

 聴き馴染みのある声で揺さぶられ、目を開けると杏一の顔面が間近にあった。

「うわっ」

「そんなに驚くことないだろ。ここ終点だから、降りて歩くよ」

 スタスタと歩いてバスを降りようとする杏一を見て、慌てて俺も起き上がった。

 リュックを背負い、スーツケースを引きずる俺を、杏一はなんだか可笑しそうに笑って見てくる。

「なんだよ、いい加減俺の荷物を見て笑うな」

「いや、だってさ。いくら何でも多すぎでしょ。何が入ってるんだ」
はははっと笑って、俺のリュックを叩いてくる。

「服だって洗濯できるし、俺の貸すよって言ったのに」

「服以外にもいろいろ入ってるんだよ。いいだろ別に」

「あーあ、俺の服着て欲しかったのにな」

「そんなに着て欲しいなら着てやるから、早くお前の家行くぞ。ここ暑いんだよ」

 何がそんなに嬉しいのか、急に目を輝かせて「こっちだよ」と家に案内し始めた杏一。
早くエアコンの冷風に当たりたい。

 八月の盆地は想像以上に暑かった。
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