霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第7章 夢見た現実の世界

第56話 表と裏のメッセンジャー

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   「失礼…します。
   「汚くてすまないな。ゆっくり休んでくれ。」
   「いや、こちらこそ、見知らぬ奴が急に押しかけたりしてすまない。」
    レオンは現在、見知らぬ土地で出会ったユウタ……霧島雄汰の家にお邪魔しているのだった。部屋の中まで案の定、見た事も無いような物が部屋を蝕むかのように埋め尽くしている。
   「じゃあ、俺ら……いや、俺は昼ご飯がまだなんでな。……と、お前らも腹減ってるか?良かったら出すよ、まぁ、粗雑なもんだけど」
   「い、いや!お構いなく…っ!」

    ぐうぅう~~~~~~……

   「………。」
   「………。」
    ご飯という言葉を聞いてか、いきなり腹の虫が盛大に空腹を知らせに来る。申し訳ないと思い我慢を身体に強要させようとしたのだが……。
   そんな事を考えていると、ユウタが大きく吹き出した。
   「はははっ!腹が減ってるみたいだね。ジャンクフードで申し訳ないが、テキトーに見繕うよ。」
   「す、すまない。こんなとこまで」
   そう言って、ユウタは部屋を出ていく。
   レオンはユウタが出て行ったのを見て、あらためて部屋の中を見回した。そこには、自分の知らないような機械などが彼方此方にある。まず目に入ったのは薄い箱の様なものだった。
   いや、これを箱といっても良いのだろうか?どちらかというとそれは板に近く、表面にはガラスのような物が貼り付けられていて後ろにはコードが伸びている。そして驚いたのはその板に繋げられているのは見た事があるものだった。
   「ヘッドフォン…?」
   それはアイさんが首に掛けていた物だった。デザインや外見こそ違いはあれ、大まかなデザインは同じ物だった。そしてもう一つ、その板の近くに置いてあるものにも注目した。
   「アルファベットが書かれたボタン…?がたくさんあるな…。ひらがなも書いてあるし…うむ、興味深い。」
   なんか…見たことが無いものがたくさんありすぎて頭がこんがらがってきた……。
   「ねーねーご主人~…ここいろんなのあるね。」
   「本当にな、こんなものに囲まれて生活してると考えたらある種恐怖を覚えるな。」
   そんな板とボタンが大量にある機械から目を逸らすと、次に本棚に目を移す。本棚は知識の宝物庫、この土地に付いての手がかりぐらいは拝めるはずだ。
   「えーと、何々?『猫耳彼女と犬耳彼氏』……?『魔導書の中には娘が住む』…?って、なんだこれ…。学書的なものでは…無いな。ていうか、全体的に本というには薄すぎないか?」
   そう言ってレオンはとりあえず一冊、猫耳彼女と犬耳彼氏の本誌を手に取る。なんとまぁ、完美に描かれた猫耳の女と犬耳の男がデカデカと表紙に写っていた。
   「この土地では表紙に絵が描かれているのか。表紙から見て愛猫神と狗神か?この二つの種族の妖怪は犬猿の仲だと聞いていたが…実に不思議だ。」
   しかも手の凝った事に、色付きで描かれている。レオンはそれを適当に開く。そして次の瞬間、レオンは驚愕を飛び越え仰天した。
   そこに描かれていたのは、先程の男女だったのだが、服が描かれておらず、身体を重ね合わせている瞬間だったのだ。
   「んなっ!??なんだこれぁ!?!?」
   思わず声が裏返ってしまう。きっとこれは…この土地の娯楽なのだろう。
   それが例え、人が営んでいる所を描写したものであれ、自分が口出し出来るものではない。
   レオンは心で謝罪し、静かにソレを元あった場所へと戻した。
   そんな風に部屋を見回していると、部屋の主であるユウタが帰ってきた。
   「ん、っと、ほらよ。こんなのしか出せないけど。」
   「あぁ……すまな…ん?」
   礼を言おうとして気付く。お盆に乗せてこられてきたのはお茶……ということはわかるのだが、食べ物が見た事の無いものだった。
   これは聞けば良いのだが、もう一つ驚いた事がある。それは、お盆に乗せられている食べ物と飲み物が4つずつ設けられている事だった。
   そんなレオンの様子に気付いてかユウタは慌てた様子で声を出す。
   「お、俺!二つ食うんだよ!」
   「足りなくないか?」
   「……へ?」
   足りない。ユウタが二つ食べるなら、僕とキツネ……そして…いや、わかったぞ。
   「いや、すまない合っていた。君二つに僕一つ、そして君の隣の金髪の子の分だな?」
   レオンがそう言うと、ユウタは狐につままれたような表情へと変貌する。実は出会った瞬間から、ユウタの隣には金髪の髪を肩まで垂らした少女が居たのだ。金髪碧眼、わざと接しないようにしてるユウタだったが、隣の金髪の子がゴーストだという事にレオンは気付いていたのだ。
   ならば、僕は賭けに出る事にする。
   ゴーストは霊飼い術師を除いて自然に目視することは難しい。触れたら別だが、一般人には拝む事のできない産物なのだ。
   もし…ユウタが、キツネの事を……。
   「なっ…き、金髪?!お、俺二つにレオン一つ、そんでレオンの隣にいる髪の長い子の分だぞ!決して金髪なんて!」
   果たして、レオンは賭けに勝つことになる。ユウタが言った自分の隣の髪の長い子。つまりキツネだ。
   ユウタはキツネが見える。キツネは、ゴーストだ。
   もしかしたら…ユウタは……いや、単刀直入に聞こう。
   「ユウタ、君は霊飼い術師なのか?」
   思い切って口に出す。だが、ユウタの口から出た言葉は予想外だった。いや、ある意味では予想したくない現実が予想通りに起きただけだ。

   「…は、はぁ?」

      ◇

   「なるほどな……」 
   ずるずるずるずる…
   「そう言う事なのよ」
   ずるずるずるずる…
   「キツネこれ好きかも」
   ずるずるずるずる…
   「お前らうるせぇよ!!もっと静かに食え!」
   3人(レオン、キツネ、金髪の少女)は初めて食べるカップ麺と呼ばれる物を口いっぱいに頬張る。
   ちなみにユウタの隣にいた少女の名前はレイカと言うらしい。
   そして、レイカの口からこの土地について聞くことにした。
   「ごくっ、すまん。で、レイカさん。この土地はなんですか?」
   「ゴクリッ。そうね…どう言えばいい物か…。まぁ、単純に言うと、この世界はあなた達の住む世界ではないのよ。」
   「え……なら、ここは…」
   レオンの言葉に続ける形で、レイカは目を閉じる。そして、しばらくして、ゆっくりとその瞼を開けた。
   「そう、あなた達のが守ってる世界。ここは、表の世界よ。」
   此処が…表の世界……?
   確かに、自分が今まで見てきた世界とはまるで違う。科学技術が発展しているし、ましてや、木で出来た建物が全くと言っていいほどなかった気がする。
   だが、自分達が命を半分捨ててまで、守るべき世界なのだろうか?この世界と裏の世界は…どんな繋がりがあるのだろうか…?
   「この、トウキョウという街は、一体?」
   「表の世界が、幾つもの国に分かれているのは知ってる?」
   「は、はい。確か中心にあるのがアメリカと聞きました…」
    レオンはあの時、霊飼い術師専門学校の時間割(カリキュラム)に組み込まれていた『表裏世界』の授業を思い出す。
   「そう、確かにこの世界の中心はアメリカ。しかしここは残念ながらアメリカと言う国では無いわ。ここは日本。」
   「アメリカとは、どんな国なんですか?」
   「一言で言うならそうね。何を喋ってるのかわからなかった。」
   「へ?」
   「言語が違うの。裏の世界の言語はこの世界で言う日本語として反映してるの。アラン語と日本語は全くもって同じよ。」
   「そ、そうなんですか……」 
   「それでも、あなた達の名前は、アメリカの仕組みと同じ物。レオン・シャローネ。これは名と性の構成だけど、日本ではこれが反対の性と名、霧島雄汰っていう名前の構成はあなたと違うの。」
   「た、たしかに…」
   どうして……表の世界の中心のアメリカじゃなくて、日本を選んだのだ。
   日本と…裏の世界にはどんな関係がある?
   「ねーねー、レイカおねいちゃんの食べてるものってなにー?」
   そんな疑問は、キツネの場違いな質問によって掻き消される。丁度、頭も痛くなってきた頃だ。ここは少し、思考を止めてみよう。
   あまりに、謎が多すぎる。
   「うん?これはね、ユウタが買ってくれた"きつねうどん"よ。」
   「きっ、きつねうどん!?!?キツネ食べられちゃうの!?!?」
   「ち、違うわよっ、ちゃんと何か意味があるわよきっと」
   レイカが小さく吹き出してキツネの頭を撫でる。
   だけど、その笑みには何処か寂しげな表情も伺えた。
   「なぁ……」
   ユウタが不意に声を発した。それは、誰宛に話しかけたものではなく、全員に向かって放つ言葉だっただろう。
   「その…なんだ。平和ボケしてる俺らが言う事でもないんだろうけど…その妖怪ってのを全滅させればいいんじゃないのか?」
   確かに、ユウタが言った事はごもっともな事だ。妖怪を全滅させてしまえば裏の世界にも平和は訪れる。だけど…奴らは消えない。
   「妖怪というのは、言わば人間以外の生物だ。種類も多ければ多種多様な進化を遂げてるのもいるだろう。雷を発するものから火を吹くものまで、妖怪は無限と言わせるほど出てくる。」
   「そんな……」
   「僕ら僕らで、生きる価値を見つけるために戦い続けるのだろう。例えこの身が朽ち果て妖怪の餌になろうとも。一人の人間が死ぬのに10の妖怪を殺すことが出来るのなら、いずれ僕らが勝つ世界が来るのかもしれない。
   それで、表も裏も無くなると言うのならば、それはそれで死んだ価値があるのかもしれないな。」
   「お前……」
   「なぁ、ユウタ。表の世界の事や物、少しでもいい。手土産程度に案内してはくれないか?」
   そう言って、レオンは笑った。決して楽観視出来るような事態じゃないのは百も承知なのだが、どこか、遠いところへ旅しに来たような、そんな高揚感があった。
   「行く場所は限られてるがな……俺でいいなら案内するよ。」
   二人は立ち上がる。裏の世界の住人と、表の世界の住人がこうして出会えるのも、もしかしたら、何処かそんな運命があるのかもしれない。

   ____僕は、表の世界と裏の世界を、一つに繋げたい。
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