霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第6章 剣士学校

第52話 ツミ

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   グジュウッという耳につく音と共にライムの手からは血が垂れる。短剣には赤黒い血がべっとりとついている。ライムは今、自分で自分の腕を斬ったのだ。
   「んなっ!?」
   「なにしてやがる?!?」
   ライムは以前、表情に笑みを浮かべて佇んでいる。
   「君達が見たいって言ったんだ。見せてあげようかなって。」
   そして、ライムは血の滴る右手を薙ぐ。飛び散る血飛沫が何故か空中で静止しているように見えた。
   「さぁ、此れがボクの牙であり、爪であり、そして、命であるんだ!!!!」
   ビュッと血が吹き出す。だが、その血が地面に落ちる事はない。そればかりか、ついに血というシステムすらもあやふやになるような現象が目の前で起こった。
   それは、地面に着く一歩手前でビキビキと凝結するかのような音が聞こえ、血が固まっていく。夕日を乱反射させる血塊は何処か宝石のように綺麗で、そして闇の様に黒かった。
   そして血の凝結は留まる事を知らずに吹き出る傷口に向かって一瞬とも言えるスピードで固まった。

   その姿は、さながら一振りの剣のように。

   「血の刀……罪。これがボクの剣だ。」

   既にこの時二人は、あり得ないような物を見ているかのような目でその風景を見ただろう。
   その剣は、2メートル以上に伸びている事も、ソルト達は信じられない。
   悔しいが、自然と足が一歩下がってしまう。足も震える……冗談じゃない。
   「ボクは生憎人間じゃないんでね。もしかしたら妖怪じゃないかも…知れないよ?」
    瞬間、ライムの姿が視界から消える。何処行ったかと視線を張り巡らせてみるも、ライムの姿は見える事はなかった。それもそのはず、だってライムは、ソルトとタイガの背後に居たのだから。
   死角から不意に血で形成された刀がソルトの胴の防具と激突。血で出来ているということを忘れさせるような金属音が火花と共に散らされる。激震の如く揺さぶられた防具はその余波と衝撃を上乗せして腹を抉る勢いで揺さぶる。防具という存在がここまで無意味になったのは初めてかも知れない。
   「く…そ……がぁ!!」
   ソルトは怒号と共に全筋力を乗せての斬撃を放つ。
   「軽い斬撃だ。」
   しかし、その切っ先もライムには届かない。軽々しく血の刀で受け止めたライムは呟いた。
   「いくら、剣が有名鍛冶師のお墨付きだとしても、使用者によって威力は全くと言って良いほど異なる。君は宝の持ち腐れだ。」
   ギィン!!っと耳を劈く剣戟音がソルトの防具に二度目の激震を与える。
   「だがボクは違う!この剣はボクと…一心同体なんだよ!!!」
   時間が静止する。ライムの口の動きまでしっかり見えるが、身体は感じている時間よりも思うように動かない。時間は敵に味方した。
   「血波蓮華…美しく咲く華は血で染められその身を枯らすが如し、喰らった若き咲く身体は血に染められ枯らされる。」
   それは美しい太刀筋だった。全てが正確に、左右対称に、まるで咲いた花のように……血の刀に反射する光粒子は花弁をなぞっているようだ。
   咲く瞬間の花の花弁は残酷にも斬撃になり、雌蕊と雄蕊は突きへと変化する。ソルトはそのすべてを受ける。防具は粉々に砕かれ衝撃によって体内の血液は逆流して口から溢れ出る。
   「一人目は簡単だったな」
   「なに…いってやがる…俺が…最強なんだよ。」
   ソルトの言葉が終わると同時に、見下ろしていたライムがソルトの腹を蹴り飛ばす。
   「ふ……君が最強?笑わせるな。君は地面に寝そべってボクは立っている。絵面的にもボクが強者、君は弱者。そんな奴が自分を強者といって誰が信じる。君は弱者なんだよ。」
   以前、倒れているソルトに向かってライムは剣を振り上げる。
   その太刀はソルトを切り裂く予定だった。
   「なぜ、君が当たるんだい?不明だ。」
   「ぐ……ふぅ…っふぅ…!」
   ライムの振り下ろされた切っ先はソルトには当たらない。何故ならタイガが腕を差し出してライムの剣を止めたからである。
   だが、ライムの剣はタイガが腕に付けている防具、籠手を破壊し肉に食い込む。辛うじて骨までは届かなかったのは不幸中の幸いとも言えよう。
   しかし、受けたこともないような激烈な痛みがタイガの脳を支配。条件反射的に涙が出そうになる。呼吸も荒くなり少し指を動かそうとするだけで焼けそうな痛みが自分を貫く。
   苦しい、もがきたくもなる。叫びたくもなる。
   「ソルトは…やらせねぇよ…!」
   発動している自己軽化のスキルに物質軽化を上乗せ、クレイモアという巨剣を持っているとは思えない。片手で何十キロもの質量があるクレイモアをライムへと叩き付けながらバックステップ。
   「ソルト…だいぶダメージが来てるだろう。休んでいてくれ。」
   「なに言ってやがる!お前の方がっ…っつぁ!」
   実際の事を言えば、ソルトもタイガも此処までのダメージは負ったことがない。
   強さ故に、痛みを知らなかったのだ。
   「まさか…こんなとこでノーダメージスタイルが仇になるとはな。」
   未だ疼き暴れる右手の痛みを堪えて引きつる笑みを見せるタイガ。
   「少し…本気を出させていただこうか……。」
   そう言って、静かに、着けていた眼鏡を外す。よく見てみると、その眼鏡は薄っすらと灰色掛かっていて、それでいてレンズが設けられていない事にライムとソルトは気づく。
   「その眼鏡……」
   「ああ、曇りガラスだ。視力が良すぎてな。こうまでしないと見てる世界が気持ちわりーんだよ」

   タイガはゆっくりと、機能する左手でクレイモアを握り、肩で担ぐような姿勢を取る。

   「斬首斬頭の構え。傷を負い、その身が滅んで行こうとも、敵の首だけは捉える自虐の牙。瞬発超攻撃重視の型」

   そう言ってタイガは、自分の着ている防具を全て、地面に落とした。
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