霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

文字の大きさ
上 下
49 / 57
第6章 剣士学校

第50話 羅刹一閃

しおりを挟む

   「なぁ、ソルト。本当にやるつもりなのか?…悪い事は言わねぇからやめたほうが…」
   時刻はくだんのお昼から、夕方へと移り変わっている。炎に燃えるような風景は通常なら目を奪うほど完美な物だろう。 
   だが、タイガとソルトはそれすらも見てはいない。
二人は闘技場のそばにある準備室にて剣の手入れを施していた。
   「一度受けた決闘を投げるのは俺がゆるさねぇ。」
   「だけど……っ!」
   そこまで言ってタイガは言葉を飲み込む。それから先は、何故か言いたくない。
   「大丈夫だ。武道場だろうが闘技場だろうが、俺たちは負けねぇ。」
   そんなタイガの心中を察してか、ソルトは口元に笑みを浮かべた。
   「確かに、闘技場での決闘は…下手すれば死を意味する。だがな、タイガ。」

   「剣士は最後の一瞬まで剣を握って死ねたら本望だろうが。」

   その瞬間、タイガの視界がどこか広くなったかのような気がした。
   滅茶苦茶言ってても、ちゃんと筋だけは通っていやがってムカつくな。とタイガは口の中で呟き笑った。
   「ライムは…おそらくあいつは初撃勝利を選ばないだろう。」
   武道場の初撃勝利とは違い、闘技場には二つの勝利方法が選べる。
   一つは武道場での決闘と変わらない初撃勝利だが……もう一つは。
   「「ブザー勝利」」
   二人は声を揃えて口にする。
初撃勝利は名前の通り一撃おみまいしてやる事で勝利をつかむ方法だ。
   だが、ブザー勝利はそれとは別。相手より早くブザーを鳴らせば勝利というものだった。
   それなら敵より早くブザーを鳴らしてしまえば、最悪数秒で決着もつくだろうと考える輩もいるが……この決着方法の嫌なところが、ブザーが出てこないというものだった。
   ならどうすれば決着はつくのか?簡単だ。

   相手を戦闘不能まで追いやればいいのだ。

   そこまでして、初めて闘技場内にブザーが現れる事になる。
   相手より早くブザーを鳴らせば良いなんて生温い考え方ではない。簡単に言えば、"決闘者を殺せば勝ち"なのだ。
   「っと、こーしてる時間もねぇ。さっさとメンテ終わらせねぇと。」
   そう言ってソルトは近くに立てかけてあった一振りの片手剣を鞘から出す。
   「それがお前の相棒か。」
   「おう!名前はリメインズハート、決して折れることのねぇさいっこうの剣だ!確か意味は…真紅の剣??だっけか。タイガ、お前のは?」
   「これだ。」
   ガシャンと重量感のある音が耳につく。
   タイガの鞘から出てきたのは、刃渡りが1メートル以上にもなる巨大な剣だった。巨剣という限り、タイガの剣の分類名はおそらくバスターソード。ハンマーの如くの重量感と剣の如くの切れ味が産み出しているのは力の象徴を感じさせるようだった。
   「セイクリッドバスター。意味は覚えて無いが、俺にとっては馴染みのある剣だ。」
   誇らしそうにタイガは剣を持ち上げるが、ソルトはブッと吹き出し笑った。
   「なんだよ……」
   「ははっ、不恰好だなッ」
   「うるせぇよ…」
   二人はその後も、何語かは言葉を交わしたが、別段作戦のようなものを考えている風ではなかった。
   防具を身体に着け、刀を研いで鞘に収める。幾度か、抜刀する際の速度が一番早くなるようなシミュレーションもするが、実際戦闘が始まってからでは身体の自然な動きが一番早いだろうと高を括りやめた。
   タイガがふと気付く。相変わらず、ソルトの軽装備ぶりには驚くのだが、片手剣だから盾(バックラー)があるだろうと思っていた。
   だが、視線を写してもそれに相応する目ぼしい物は見当たらない。はてと思いタイガは率直に疑問を口にした。
   「お前、バックラーばどこだ?」
   「邪魔だから武具店で売り捌いた。」
   「……は?」
   「あれ片手の動きが制限されるから嫌いなんだよ。俺はスピード特化型なんだ。」
   「何もかも規格外だなお前…」
   普通ならば、片手剣はバックラーを持っての応戦が定石だろう。敵の攻撃をバックラーで流しつつ自分でスイッチ、攻防一体のトリッキーな剣さばきには見惚れるものがある。 
   だが、ソルトはその定石をいとも簡単に破く。攻撃のみを考えた戦闘スタイル。ソルトらしいと言えばソルトらしいのだが、やはり異形には驚いた。
   「さて…と、そろそろ時間だな。」
   「ああ。」
   ふと、ソルトとタイガは目を合わせる。お互いが昨日闘った敵である。だが、今日の日は友だ。何者にも代え難い相棒の姿がそこにあった。
   「タイガ」
   「ソルト」
   二人同時に二人の名を口にする。それがなんとも可笑しくて、二人は互いにイタズラな笑みを浮かべた。
   「こりゃ明日の授業もサボらなきゃだな!!」
   「ああ、全くだ。お前のせいで頭が錆びそうだぜ。」
   二人は拳を作り互いの拳を軽く打ち付ける。さながらその拳は、勝つぞ。と語っているかのようだった。

   二人が闘技場の西門から入場すると、遥かその先の闘技場の真ん中に、1人の男の人影がある事に気付く。
   ソルトは真ん中に佇む男の方へと早足に距離を詰めた。
   「あ、来たんだ。逃げたかと思ってた。」
   男はソルトの接近に気付いたのか、首だけをこちらに向けて脳に張り付くような笑みを見せる。
   「当たり前だ。一度受けた戦闘は投げねぇよ。てかなんだよテメェ。リングの中心に立ちやがって、このステージは俺のもんだっつの。」
   「ご立派な威勢だ。」
   両者、立ち位置に着く。タイガも至って冷静な対応を見せ腰を少しだけ落とす。
   「君達に勝利ルールでも決めさせてあげようか。」
   「ブザー勝利。」
   即答だった。ライムは一瞬目を見開いて、不意に感心したかのような仕草をとる。
   「まさか、君達からブザー勝利を選んでくるなんて。少し侮れなくなってきた。」
   ライムは腰に付けられた線の細い剣の鞘を握る。一瞬にして放たれるように抜刀されたその剣は、白銀とも呼べる美しさをその身に纏い、1つの芸術品のような風貌を持っていた。
   「とある東方の街で鍛え上げられた剣だ。刀と言う名前を持ってその地に絶対的な斬れ味の繁栄を見せた。」
   そして、ライムは静かに構えを取る。それに呼応して、ソルトとタイガも抜刀。敵の眉間を切り裂かんとばかりに構えを取る。
   「長剣、Aランク剣士、ライム・ネペンテス」
   「片手剣、Aランク剣士、ソルト・ブレイクロック」
   「巨剣、Aランク剣士、タイガ・アーガイル。」

   3秒の沈黙が訪れる。
   それぞれの剣は眩い反射光を、様々なところに撒き散らして地面を万華鏡のように照らした。

   「戦闘……開始ッ!!!」

   誰ともなく放った言葉が、一戦の火蓋を切ることになる。



   それが、どれだけ長く続く戦になろうとも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

主人公を助ける実力者を目指して、

漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...