霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第5章 蠱惑、カマラアサマラ

第42話 戦慄の形相

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   「これ…」
   「あ……あぁ」
   「「カマラアサマラだ……」」
   レントが壁だと思い込んで叩いていたのは、壁ではなく、自分達が探していた紛れもないカマラアサマラの姿だった。
   「デカいなこいつは」
   息を飲み込むと同時にコアンが言葉を口にする。確かに、レントが叩いて居たのは身体では無くただの脚に過ぎないのだ。
   今まで見てきた妖怪なんかとは違う。こんなものは妖怪ではなく…
   「ただの怪物じゃないか…」
   蠢く姿は嫌悪感を与え、その呼吸一つ一つが大地を揺らすかと勘違いする程の空振が起きる。
   「待って、ここからは作戦を決行しましょ。」
   アカネがそこで作戦決行を促す。確かに、慄くような姿であるが、今は睡眠中だ。そこはアイさんの情報通りである。それなら今しか無いだろう。
   全てはこの先制の一発にかかる。ここで誰かが足を飛ばす事が出来なかったら、そこまで考えて思考を中断する。自分にプレッシャーをかけてしまうと出来るものも出来なくなりそうだからだ。
   「最低3本は落とすぞ。二本残したら死んだと思え。」
   ミヤモンが最後に言う。ここまで言うのなら、少なくとも切断する自信はあるのだろう。
   「行くぞ。」
   「奏でよ…音よ。」
   「ヤゲン。行くぞ。」
   「キツナ、刀を頼む。」
   ミヤモンは魔道書を開き、アイは首に掛けていたヘッドフォンを着ける。コアンは両手に淡い白の光を宿らせ、レオンは虚空から現れた一振り1メートル50センチに程近い刀を鞘から抜き取った。
   「せーの…」
   アイが放つ掛け声が妙に大きく聞こえた。汗とともに握る柄の感覚が慣れない温度を手に伝える。
   そして、その合図で皆が一斉に最大出力の能力を放った。

   「二重魔法陣・断裁分離!!」
   「音波振動・声刃!!」
   「壊してやろう。」
   「断ち切れ…!」

   四人の攻撃は、狙った通りに足の節目に当たり、カマラアサマラのその四肢を飛ばした。

       ◇

   四人はカマラアサマラの足に攻撃を加え、鉄柱とも思える4本の足を飛ばしたのだが…
   「シャアァァアァア!!!」
   カマラアサマラは四肢を飛ばされたのにも関わらずに起き上がり、猛獣のような奇声をあげて怒りを直に感じ取れる様なプレッシャーを与えてくる。
   千切れた足の付け根からは血が滴って居たがそれも束の間、硬い外殻の中にある筋肉が縮小してその血を止めた。
   「貧血になるまで出せばまだ楽だったな」
   コアンが歯を食いしばり苦笑気味に言う。国周兵と言えど、霊飼い術師のAランクトップのコアンと言えど、この時ばかりは恐怖を露わにした。
   「ただの化け物じゃねぇか…」
   それに続きレントも呆気を取られている。全員が全員、誰一人として動こうとしない。
   いや、動けないんだ。
   「カッ…キシャッ」
   カマラアサマラが攻撃態勢に入る。禍々しく鈍色に光る鎌はまるで殺すと物語っており、それでいてその高さを徐々に上げていく。 
   「やばいっ、避けろ!!」
   自分が声を上げるも時既に遅し、振り下ろされたカマラアサマラの右腕はアカネの数センチ横の地面へと叩き落された。
   「あ……ぁ…」
   振り下ろされた鎌からは爆風が起き、アカネの背中まで伸びるスカーレットの髪はその爆風に煽られ靡く。叩き落された瞬間に舞った粉塵と砕かれた地面の破片は飛び散り皆の頬を叩いた。
   「嘘だろ……」
   やがて粉塵が収まったあとに現れた地面には、皮肉にも綺麗すぎる断ち切られた一直線のヒビが伸びていた。
   アカネは恐怖に蝕まれ膝からへたれ込む。
   だが、そんなのを静かに見ているだけの敵なんて居るはずもない。感情が無い生物は、ただ邪魔された事に怒りを覚え殺そうと、鎌を再度振り上げた。
   そして、それを止めようとする事も、自分には出来なかった。感情が身体を蝕み行動を制限する。
   
   戦場において、感情は邪魔になるんだ…。

   「三重魔法陣!!削ぎ落とし(ドロップ・カット)!!!」
   鎌が振り下ろされると思った刹那、虚空から何本もの白く輝く針状の物が現れ鎌の節に突き刺さる。
   その針が弾け飛ぶや否や、刺さっていた部位に切り傷をつけていくも、切断には程遠いダメージだった。
   「てめぇら!死にてぇのか!レオン、その女を連れて距離を取れ!」
   ミヤモンの怒号でやっと我に帰ることができた。レオンは言われた通りにアカネを抱いて距離をとると、震えるその細い肩を優しくなでた。
   「まさかここまでとは、ヤゲンの刳り貫きでも思ったようにダメージが繰り出せないな。」
   「私の音弾も…あまり通じてない…。」
   「だぁあ!!このクソムシめが!!」
   額に汗を浮かべたレントが地団駄を踏む。刻一刻と近づく、自分にはわからない命の危機に焦っているのだろうか。
   「メイト…紫電を頼む。」
   ここは最大出力で、奴を攻撃するしかない……!
   「いいけど…大丈夫かい?ご主人くん」
   「Bランク程度には下がるけど…多分大丈夫だ。」
   「…OK、頑張ってね。」
   その声と同時に、自分の足元からは淡い紫を宿らせた光が発せられる。能力発動の合図だ。
   「いくぞ……」
   左手をカマラアサマラの頭部へと一直線に向ける。能力を解放するのに比例して、自分の腕からは赤や青といった雷が空気で破裂する。

   「____紫電っ!!」

    瞬間、洞窟内がそれこそに真昼のように感じられるような明るさへと変貌する。レオンの手から射出された紫電は空を裂きカマラアサマラの首に向かってその尾を伸ばす。
    目も瞑るような閃光と煙が収まった後には、カマラアサマラの首から上は消失していた。
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