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第5章 蠱惑、カマラアサマラ
第41話 闇に蠢く
しおりを挟む時刻は午前11時。
レオン達はホープレイを出て目標の居る暗い樹海へと潜り込み、現在はカマラアサマラが睡眠を取っていると思われる洞窟へと足を踏み入れたのだった。
「ミヤモンくん、あれよろしく。」
洞窟内を進んで数分。そろそろ視界が悪くなってきた頃にアイが慣れた様子で言葉を発する。きっとこのまま進んでいくとすぐにでも真っ暗になるだろう。視力の高い僕ですら、流石に真っ暗ともなると視界は著しく低下する。そんな事を脳裏に掠めている時にアイがミヤモンに向けて言ったのが"あれよろしく"だった。
「はいよ。ちょっと待て」
ミヤモンがそれを了解すると、腰に付けてあるホルスターから大判の書物を一冊取り出す。それは辞典ほどの分厚さがあり聖書ほどの、いや、それ以上の装飾が施されている。縁取る金属は黄金に輝き茶色の表紙版には読めない文字と幾何学的な模様が描かれている。
レントも持っているソレは魔導書と言うものだ。非科学的陣書とも呼ばれ非科学的能力者が能力を発動するために用いられる。
ミヤモンがそれを手にすると瞬く間に魔導書のページが自動的に捲られ全体ページの真ん中でその動きを止めると、淡い緑色の光が発せられた。
「単重魔法陣……視覚広域化…」
魔道書の上に乗るような形で一つの魔法陣が生成される。それは地に堕ちミヤモンを含めた全員が魔法陣のサークルに入るような状態までその姿を膨張させた。
眩しくも目を瞑るような程強くない緑の光は視界を埋め尽くし、やがて光が収まると、皆一斉に声を上げた。
「明るい…」「えっ、明るくなった!」「ミヤモンくんありがとね」「ほう、これが非科学的能力者の力と言うものか」「見えねぇ!!」
………ん?
皆一概に異口同音の句を述べているところに一人だけ違った声が洞窟内に響く。
レオンが視線を声の方向へと向けると、レントが何やらおかしな様子で辺りを見回していた。
レントはレオンと目があっても、まるで見えてないかのように別の方へと視線を移す。最初は自分が消えてしまったのかと不安に陥ったが、次の瞬間にそれは間違いだったという事がわかった。
「ああ、どうやら黒いのは入らなかったみてぇだな。自分でやっとけ。非科学的能力者ならできるだろ。Aランクなら使えるぞ。Aランクならな」
「あん!?ふざけやがって白いの!俺がBだと知っての嫌味かゴラァあぁん?!別にそんなもん使わなくても俺ぁこんなの真っ昼間のように明るく見えるぜ!!」
レントが青筋を浮かべてミヤモンに突っかかる。最も、レントがどれ程の強がりを言ったところでこの暗い洞窟が真っ昼間の様に見えるわけはない。
というか、ミヤモンに言ってるつもりだろうけど、レントが今見てるのは思いきり壁だ。ゴツゴツした岩肌に向かって怒っているのだ。
「勝手にしとけクロゴキブリ。俺らはカマラアサマラ見つけてさっさと倒すんで。」
「上等だコラァ!」
こうしてまた、カマラアサマラを倒すべく皆歩き出した。
ー3分後ー
「まじすんませんミヤモンさん。俺にもその魔術かけてください。」
歩いて3分。いきなりこれだ。
レントはミヤモンの足にすがりつき泣き言を言い始める。が、それ以前の問題がそこにはあった。
「きゃあ!!どこ触ってんのよばかー!!!!」
バシンと勢い良く洞窟内にその音は響きこだまする。声を出した人間は思いきりレントのその頬にビンタをかましたのだ。そしてその足は…アカネの足だった。
「へぶぅ!?アカネのか?!あまりにもゴツくてミヤモ…あ。」
「うるさいバカァ!!固まって死んでよもう!!」
アカネは憤怒と羞恥を絡ませて言葉を放った。
「なに変態衝動起こしてんだゴキブリ野郎。頭沸いてんのか?」
「ぁん!てめっ…ミヤモン様お願いします俺にもその魔術かけてください。」
「仕方ねぇな。ほらよ。」
ミヤモンは2回目の魔術を唱え、レントもレオン達が体験したような光に包まれた。
「おぉ!すげぇ!明るくなった!」
今度は本当にかけられたのか、レントはハイテンションになりオモチャを見つけた子どものように目を輝かせやれ壁の傷だのやれぶら下がってるコウモリだのを指差す。
というか、生物と言ってもコウモリのような一時末時の哺乳類は居るらしい。赤い目を光らせて何十ものコウモリが自分の方を一斉に向いてるのを見つけると恐ろしいものが込み上げてきた。
「ははっ!見ろよ皆!ここの部分の壁だけ色が違うぜ!?イボイボもあっておもしれーよ!」
レントはここ一番と言った表情で壁をつつく。初めて見たイケレントはイボイボの壁を触り喜びが有頂天……ん?壁?
呆れた様子でレオンが歩行を再開しようとすると、ふと違和感に気づく。
何故そこだけ色が違う?何故空気が揺れている?
驚異的なレオンの五感は、僅かな違いすら気づく。視力を駆使すれば、その壁は岩と言うにはあまりにも不自然だ。触覚を駆使すれば、その壁から生み出される僅かな空気の振動が目立った。
なにそれと思い数歩、後退りのような感じで下がると、怖気がレオンの五感を埋め尽くした。
「レ……レント…」
「なんだ?レオンも触るか?!」
「良いから…こっち来てくれ……」
「お…おう?……へ!?」
レントが渋り気味にレオンに近づいて視線を合わせると、あわやその行動がどれだけの間違いだったのかを思い知らされる。
壁だと思い込んでいたそれはカタカタと小刻みに震え、柱のような柱状の物体だった事がわかった。地面についた柱からは二本の鉤爪が見られ、さらに視線を移していき奥を見ると節が見える巨大な柱が見えた。更にそれの先端には湾曲し、禍々しく光る刃……カマが見えた。
そこまで情報を取り込んでやっとこさその姿がある物と一致する。いや、既に正体はわかっていたが、脳が認める事を拒否してしまったのだ。
「こ…これって……」
「あ…あぁ…」
「「カマラアサマラだ……」」
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