霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第5章 蠱惑、カマラアサマラ

第40話 洞窟内の悪魔

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   「お父さん大丈夫?」
   「はっはっは、心配は無用だ。娘に会えただけで私は幸せだよ。おや?アイ、少し育ったんじゃないか?顔も大人の女性らしくなって胸も膨らんで身体つきも随分と良い感じになってきてるね。うんうん、愛情を込めて私が育てて来てアイは健やかにまっすぐ育ってくれて……私は…うぐっ…ひくっ」
   「う、うん…元気だよ…私」
   カルクスの突然の涙に一行は驚きを隠せない。というか、実の娘にドン引きされているというのにこの人は何も思わないのかとつくづくレオンはため息を吐く。
   「と、とりあえず揃ったな。」
   「さっさと始めろ。腰が痛くなってきた。」
   レントが心配そうに言葉を吐くが、その一瞬後にミヤモンが煽るような言葉を発する。2人の視線の間に稲妻が生まれそうだったが、其処は一番空気を読むことに長けているであろうアカネが鎮めた。
   「アイさん、カマラアサマラに対する具体的な対処法とか、ありますか?」
    居てもたっても全然話が進まないのでここは自分から話を切り出す。レオンの言葉にアイは人差し指を頬に当てて考える。この姿が既に様になっている事から、アイは美人の類だろう。
   「作戦決行は明日を考えてるの。夜行性のカマラアサマラはお昼は寝てるから、そこを攻めようと思う。」
   アイはその後、次々とカマラアサマラについての情報を口にする。体長から始まり攻撃の際に使われる右の鎌と左の鋏の大まかな威力、極め付けはレオンの背筋に悪寒を走らせたカマラアサマラの住む洞窟内は生物は全て食われ何も居ないと言うアイの言葉だった。
   「きっと、苦しい闘いになると思う。」
   一通りの説明を終えるとアイは小さくため息を吐き脱力する。
   「奴はA3ランク。つまりAランクが3人居りゃそれなりの戦いは出来る。俺とアイがAランクだからな。そんでそこの国周兵の女もAランク。それにプラスしてBランクが3人だ。よほどの事でもない限り死者が出る可能性は高くはないはずだ。」
   ミヤモンが気だるげに説明を付け足す。その言葉が少なくともレオンの背中を軽くした事は言うまでもない。
   「時間はもう16時だ。今から行くのは犬死にだろう。作戦決行は明日だ。それでいいか?アイちゃん。」
   「は、はい。わかりました。それでは明日の朝に、この集会所の正面の広場に集まりましょう。」
   コアンの言葉にアイが作戦決行の時間を決めると、各々に覚悟を固め始める。未だ見たことないA3ランクの妖怪だ。
   一体どんな力なのか、未知の領域であるこの敵は、少なくとも楽観視はできない。
   それに、何か嫌なものが自分の中で渦巻いている…それが何かは具体的に表せない、もしかしたら…。
   レオンはそこまで考えて思考を止めた。
   「(やめよう…今は自分の力を信じる時だ。)」
   自己暗示をかけ、レオンは皆とともに解散した。

      ◇

  「カマラアサマラは足を使った多種多様な攻撃をしてくるから、先ずはカマラアサマラの機動力である足を狙おうと思うんだが…みんなどう思う?」
    朝日が傾く午前10時。レオン達は皆時間通りに集会所の正面の広場に集まり歩を進めていた。目指しているのはもちろん、カマラアサマラのいる樹海だ。カマラアサマラは昼間は洞窟内で睡眠を取り、夜な夜な動いて捕食をすると言う情報をアイが口にしていた。
   なら今は、睡眠を取るために洞窟内で身を潜めている頃合いだろう。
   「寝てるカマラアサマラの四肢を飛ばして…動けない間に倒すって事…?」
   「その通りだ。流石に前足の鎌と鋏が理不尽に伸びることは無いだろう。」
   そんな事があったなら、仲良く皆で南無三だ。死んだら天界で神様を捻り倒してやる。
   「でもよぉ、切断系の能力っていたか?」
   レントが苦しい事実を吐き出す。確かに、今思って見れば切断系という能力がいたのか心配になる。レントの能力はアローとか言っている割に打撃系らしいし、アカネの粉塵操作はイマイチ切断という威力には欠ける。先日聞いたカマラアサマラの甲殻は波の剣なら根本から折れるという程の強度と言ったら身震いする他なかった。
   「私は穴を空ける能力だからな。節よりデカい風穴空けちまえば千切れるのと同等だ。」
   「僕はキツナの刀で斬ろうと思う。」
   これで2人の枠は埋まった。あと2人…切断系の能力使いがいれば。
   「俺はパスだ。めんどくせぇ。と言いたい所だが、切断系の能力と言えば俺も切断だからな。」
   「私も能力で切断できると思うから、私もやるね」
    ふと、アイの姿にレオンは違和感を感じた。いや違和感というのは語弊か、見慣れない物が目に映ったのだ。
   「アイさん、その首にかけてる機械は?」
   今更だが、アイが首に機械を引っ掛けていることに気付く。U字状のそれは両先端に円形の機械がくっ付いている。
   「え?あぁ、これはヘッドフォンていうの。私の能力を使う時に使うの。」
   アイの説明を聞き、レオンは能力を使うのに道具を使うんだなと、世界は幅広い能力が闊歩しているなとしみじみ感慨深くなる。
   「アイさんの能力って?」
   レオンに続けてレントが質問すると、アイは素直に答える。どうやら声によって生み出された音波を物理エネルギーに変えて攻撃するような物らしい。
   大きい声になればなるほど威力は比例して上がり、応用も利くようになってしまえば声で貫通力をあげることもできるらしい。
   「それで音の刃を作るってわけか!」
   「ふふ、その通りよ」
   2人が話し合っていると、ふと、地図を見ていたアカネが短く声をあげる。レオン達はその声に釣られ視線の先の追うと、ゴツゴツした岩肌が見える崖の壁に、大きく空洞が出来ているのを見た。
   「あれって……」
   「カマラアサマラの洞窟か…?」
   大きく口を開くその洞窟は、無惨に抉り取られたような歪な形をしており、中は構造もわからないくらい暗い。ただ嫌に涼しい風だけが自分達の肌を優しく撫でた。
   「カマラアサマラ…凄そうね…」
   アカネが呆けた顔で言う。確かに、この洞窟についている切り傷の様な物は…確実に自然に出来たものじゃないことがわかる。
   だからこそ、こんな事をしでかしたカマラアサマラの形相を浮かべると背筋が凍りそうになるのだ。
   「グズグズしてる暇はねぇ、さっさと片付けちまうぞ。」
   「私達が片付けられちゃ負けだがな。」
   「ぁん?国周兵が弱音か?」
   「じょーだん、土手っ腹に風穴開けてやらぁ」
   「流石、国周兵様様。」

   「ははっ」
  
   一言一句引けを取らないミヤモンとコアンのやり取りを見ていると、自然とレオンの口から笑みが溢れた。そんなレオンの姿に皆は驚き視線をレオンに集める。
   「よし、はいろうっ!手土産はカマラアサマラの首だ!」
   
   「「「「「おう!!!」」」」」
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