霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第5章 蠱惑、カマラアサマラ

第39話 身勝手な有能者

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   「久しぶりだね!アカネちゃん元気だった!?」
   「うん!アイちゃんも元気そうね!」
   アカネとアイと呼ばれた少女は向き合ってお互いの指を絡ませてぴょんぴょんと跳ねている。二人ともテンションMAXと言った様子だった。
   「あ、アカネ、その人は?」
   「この子はアイちゃん!学校で知り合って最初に出席番号が一番と二番だったからすぐ仲良くなったの!頭が良くて可愛くてランクも高くて完璧!」
   アカネがここぞとばかりに、惜しみなくアイを褒め称える。そんな言葉を浴びせられたからか、アイの頬はみるみるうちに桃色に染まっていき恥ずかしげに俯いた。
   「そ、そんなことないよ…っ筆記試験とか、アカネちゃんいつも一番だったし…可愛いし……!」
    アイがブツブツと小声でアカネを褒めていると、ふと何かを思い出したかのように顔を上げる。
   「あ、ごめんね、自己紹介してなかったね。私はアイ・クリアー。ランクはAランクなの。」
    「僕はレオン・シャローネ。この街にはカマラアサマラ討伐隊がいるって聞いたからここに来たんだが、何か手がかりとかわかりませんか?」
    レオンも礼儀として一通りの自己紹介を終わらせる。それに続きレントも自己紹介を終わらせると、アイの表情が驚きに変貌する。
   「あ、あなた達…カマラアサマラを?」
   「え、なにか知ってますか?」
   「知ってるも何も、カマラアサマラ討伐隊として今回私とミヤモンくんでグループ作ったんだけど…」
   「…え?!じゃあアイちゃんが…?」
   「うん、カマラアサマラは私とミヤモンくんも同行するつもりよ。あまり時間も許されてないから、早いとこ話でも進める?」
    アイの言葉にレオンが首を縦に振ろうとしたその刹那、ある事を忘れていることに気がつく。いや、ある事というか…人なのだが。
   「そ、そういえばあの二人…どこいったんだ?」
   あの二人…とはもちろんカルクスとコアンの事である。いつも居る仲間が三人だけなので存在をすっかり忘れていたが、よくよく考えたら二人が何処にいるのかがまるでわからない。
   「お連れさん?」
   「あぁ…いや、連れというか…カマラアサマラの研究のために国周兵の人と先生なんだけど…」
   「こ、国周兵!?そ、そんな偉い人と私話せるかなぁ…」
    アイが心配そうな顔付きになり急に笑顔の練習を始める。あの人の前で常識は通じない事を言っておかねば…アイは疲れて疲弊するだろう…
   「大丈夫…あの人国周兵なのか妖怪なのかわからないから…」
    「だれが妖怪だって?」
    「…!?!?」 
    言葉を紡ぎ終えた刹那、背後から怒りを微力含んだ少し男勝りな女性の声が耳に届く。レオンが背中に悪寒を感じバックステップを決行すると、その一瞬後に淡い白に輝いた右手が空を切る。
   「なっ!?何してんですか!!当たったら僕穴開きますよ?!」
   「心配はご無用だ。私は穴の空いた君も愛する自信がある。」
   「それはネクロフィリアと言うんですよ。」
   いきなり出てきてこのデジャヴ感…やはりこの人の相手は疲れるとつくづく思ってしまう。まぁ、当の本人はどこ吹く風と言わんばかりに「おや?」と言葉を発してアイの元へと駆け寄る。
   「やぁ、初めまして。私はコアンだ。僭越ながら国周兵を務めさせてもらってるよ。」
   「は、はじてまして!わ、私…アイです!」
   コアンと一連の自己紹介を終わらせるとアイは両手で顔を隠して唸る。手袋で覆われた両手の指の間から覗く白い肌は先程の様に桃色に染まっていた。
   「ていうかコアン先輩、何やってたんですか?」
   「ああ、現状が一向に変わらなかったからね。暇を持て余してしまってつい君の財布から紙幣を幾つか拝借してスロットマシンで遊んでしまってたよ。」
   「国周兵って国民から財布をスッて娯楽を楽しむんですねよくわかりました。」
   「大丈夫だ。悪かったなと思い少し増やしてあげておいたぞ。」
   瞬間、重い金属音が鳴ったかと思うやいなや、コアンは右手に純白の袋の口を握り徒な笑みを浮かべる。おそるおそるレオンがそれを手に取ると、なんとも言えないような慣れない重みがレオンの手を襲い顔をしかめさせる。中身を確認するとそこには大量と言ってもいいほどの黄金のコインが顔を覗かせていた。
   「少しどころか…倍になっちゃってますよ…」
   「可愛い先輩の嫌がらせとして、換金は全部コインでやってやったよ。愉快だな、笑いが止まらないよファハハハハ。」
   どうしてこの人はまともな事をしてくれないのだろう。もし自分が、いや、自分も含み誰かがこの人を嫁にもらったら胃に穴が空くだろう。と、そんな事を考えていると遠くから強い足音が聞こえてくる。
   ドドドドとでも形容すべきであろうその音は、初めて聞くにも関わらずそれこそ直感的にレオンにはわかってしまった。
   「うぉおおーーーー!!!!」
   「………。」
   レオンの予想は虚しくも当たり、想像通りの姿が目に映る。ごく少量の茶色を溶かしたような短く切られた白髪にコアンとはまた違う細いフレームの眼鏡、慣性の法則に従ってたなびくのは長い白衣だった。
   「もう…カルクス先生なにやって…」
   レオンが呆れ果てた様子で猪突猛進の域を見せる中年のオヤジに言葉をかけようと紡ぐが、その次に放たれた中年のオヤジの声によって掻き消されてしまった。
   「うぉおーー!!!愛しの娘よーーー!パパを抱きしめておくれーー!!!!」
   地面を蹴り笑顔で飛び出すと背後から短い悲鳴のような声が聞こえる。脊髄反射の体で勢い良く振り返ると、アイが顔面蒼白でバックステップをかました。
   「お、お父さん!!?」
   そのままカーペット式の硬い床に顔面からダイヴしたカルクスにアイは近づく。そして2人の言った言葉……レオン達は何度目かわからない驚きに身を震わせ声を揃えた。

   「「「お、お父さんんん!?!!」」」
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