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第5章 蠱惑、カマラアサマラ
第37話 無情のギャンブラー
しおりを挟む「マジでどこ行っても白いんだなぁ」
レントが歩きながらそんな感想を呟く。確かにレントの言う通り、自分の思う感想も同じような物である。今まで歩いてきた通り、確かにおかしいくらい白い。
まずは建物だ。建物も当たり前のように白く汚れすら目立たない。家屋が主に白くて四角い物ばかりだからか、安直だが自分の頭の中では豆腐を連想させていた。
次は人だ。今まですれ違った人はみんな肌は色白であり、髪の毛も少しの違いはあるものの、パッと見て皆白髪だった。
白髪といえばカルクス先生も白髪である。まぁこれは大まかな色であり、実際よく見てみると多少の茶色が見て取れた。
「カマラアサマラに関しては先生も付き合うとしよう。まぁ、付き合うと行っても多少だけど、ね。実は帰って来る前、討伐隊の結成を知らせる手紙が届いていてね。その人達と合流して狩りに行けば多少なりとも勝率は上がると思うんだ。」
カルクス先生がふとそんな事を口にする。討伐隊という事は少なからず自分達よりかは強いだろう。
「ホントですか!?やっぱり強い人なんですか?!」
アカネが珍しく声をあげて興味津々と言った様子でカルクス先生に話す。アカネはこういう実力が上の人を見て学ぶのでやはり討伐隊という名を背負っている人と闘うことになると、やはりモチベーション的にも上がるのだろう。
「いや、ね……はは……」
「どうしたんですか?」
カルクス先生は少し躊躇ったあと、苦笑いのまま真実を口にした。
「まだ、というか増えないか。2人しか居ないんだよね。しかも君達と同じ歳の子…」
「「「ええぇ!?」」」
これには流石に一同驚きを隠せない。戦闘経験もろくに積んで無さそうな10代の少年少女がA3ランクモンスターに勝てるのだろうか。
「ふ、2人はどういう人なんすか?」
レントが心配を香らす様子でカルクス先生に縋るように問いかける。無理もない、自分の命がかかっているのだから。自分も今のレントの状況だったら同じ事をするだろう。
「あぁ、男の子と女の子でね、女の子の方は科学的能力者、男の子の方は非科学的能力者だよ。一応二人ともAランクで卒業をしている。」
ホッと、多少ながらだが安堵の息が漏れる。Aランクと言うことは少なからずレオン達よりかは強い。どのような能力なのかを期待しておきたいと心の片隅に置いておく。
「さて、そろそろだよ。みんな」
話しながら歩いていたからか、そこまで時間が経った様な感覚は無くそれなりの距離を歩いていた。
カルクス先生が指を指す先を視線で追い、現れたのは低い天井を持った白い平屋の様な広い建物だった。
「ここがホープレイの集会所さ。ここではグループが儲け話をするための場所…とは表の言い訳であって中は実際はカジノに近い。尤も、自分の依頼を受けて欲しければ金を積めば良い。そんな薄汚い所ではあるが、闇金が流通する程の物でもなくカジノと言うには儲け話ついでの遊戯場という感じだね。」
結局良いとこなのか悪いとこなのかわからないような説明を促してくれたカルクス先生は笑顔でレオン達を招き入れた。
◇
中に入ると想像していた通りガヤガヤと騒がしかった。人が押し込まれるに押し込まれた感じがする。その中に際立つのはやはりスロットマシンや巨大なルーレットと言った賭け道具の音だった。
人も人で何人かに集まって固まっているグループが見て取れる。その人達はダーツやビリヤードを嗜みながら商売話や討伐の話をしていた。
だが、どれもカマラアサマラとは関係の無い話と思えた。
「皆……気付いてないのか…?」
思わずレントの口から言葉が飛び出した。確かに、命の危機に晒されて今にも背筋が凍りそうな状態に陥ってるレントだからこそ言葉が出たのだろう。
自分達は改めて状況の芳しくなさと誰も気付かずに死ぬという、止められない枷が重くのしかかっている事がわかった。
「カマラアサマラは厄介な事にA3ランク。勿論、Aランク以上の人間がゴロゴロ居るなんて事は滅多にない。数字だけ見たら誰もが討伐などしたくはないだろう。だが、問題なのは強さじゃなくアイツの……」
今度はコアン先輩が言葉を紡いだ。
しかし、その語尾は誰かの悲鳴にも、絶叫にも似た怒号で掻き消され耳には届かなかった。
「な、なんだ??」
何事かと思い声のした方向へと首を曲げる。同じ様な行動をとっている人も数多く存在した。が、状況を悟ったのかまた各々元の行動に戻る。
「喧嘩…かな?」
アカネが心配そうに眉を八の字に曲げる。各いう自分もあまり揉め事を放っておくというのも好きではない。
「行こう」
レオンは短くそう言い早足で声の方向へと向かって行った。
◇
足を運ぶとやがてその怒号がしっかりと認識できるようになってくる。その旨を要約すると、賭けにぼろ負けしてる奴が居てそいつがイカサマなのではないのかと周りに当り散らしてる事らしい。
その男は未だに青筋を浮かべて5枚のトランプを強く握る。
「ふざけるな!!イカサマ師!!」
青筋を浮かべた成金よろしく黄金のスーツを身に纏った男は強く怒号するが、それに対して話している男性はどこ吹く風と言った様子でカードをシャフルして落ち着いた様子をみせる。
いや、落ち着いた様子と言うのは全くの語弊だ。実際は男が怒鳴り散らしているのをまるで楽しそうに笑っている。
「おいおい言いがかりはよしてくれ。嫌ならゲームから降りたって良いんだぜ?」
嘲笑。白髪の男は分け目を生むために金色に輝くヘアピンをつけており右目は極端に長すぎる前髪で隠れて見えない。両手中三本にはギラギラとシャンデリアを乱反射する宝石が埋め込まれた指輪をはめておりその服装はさながらホスト調だ。切れ長の目をしたその男性は顔が整っており美形だと見て取れる。
「ふざけるな…っ。貴様なんぞに負けるか!」
怒号していた男性はもう一度、真紅に揺れる椅子を引きドカっと座る。手に強く握っていた5枚のトランプを投げつける様に白髪の男に渡すと男はそれをカードに混ぜてシャフルを再開した。
「ほらよ」
やがて一通りのシャフルを終えた白髪の男は上から順に5枚ずつ配る。円卓の上で踊る5枚のトランプは裏向きのまま向かいの男の方へと滑る。男はそれを奪い取ってカードを捲ると、思わず苦虫を潰した様な顔に変貌した。
異様な沈黙。レオンでもわかるこのトランプはポーカーと呼ばれるものだった。5枚のカードのうち、同じ数字のペアが何ペア、または何枚あるかによって勝敗が決まる。2が一番弱くAが一番強い、全ては運に背中を預ける様な委ねゲームだ。
「ワンペア…」
「ワンペアだ。」
同時に卓上に弾き出されたカードは両者共にワンペア。数字が同じところからして引き分けになるのだろう。
「貴様…何故チェンジを使わない…」
再度シャフルを始めた白髪の男に黄金スーツの男は睨みを効かせる。それに対しても、男は煽るような相槌を促した。
「お前なんてチェンジを使うまでもない。」
チェンジとは、揃っていないカードを好きな数だけ山札のボトムに戻しトップから同じカードを引いて手札調整をするものだ。
「私が貴様と同じ数字のワンペアだという事を知っていたのか…ッ」
「勘違いするな。」
男は目を瞑り鮮やかな手付きで山札を2つに分け互いに交差させて一つに合わせる。一般的にショットガンシャフルと呼ばれるそれは耳心地の良い音を立ててカードを交わらせる。
「俺は透視系の能力を持ち合わせていなければ磁力を操りスロットマシーンを7ピタで止める能力も持っていない。その手の能力はカジノやギャンブルにはタブーだ。」
再度上から5枚を配り男は嗤う。
「それに、アンタから金は絞りすぎた。もう用はない。」
両者手札を確認。その瞬間、黄金スーツの男がトランプに隠された口元を酷く歪ませ口角を吊り上げた。
「さぁ、いくらBETする?」
白髪の男は笑う。ただ嗤う。それにつられて黄金スーツの男も笑う。
「私の今持っている全てを賭けてやろう。」
白髪の男は感心した様子で表情を綻ばせる。そして次に放った言葉はとても信じられないものだった。
「へぇ、やるね。なら俺は。……命、賭けようか。」
黄金スーツはその言葉を聞いて椅子を倒すかの勢いで立ち上がる。その顔には正気を疑う目と高揚感、または支配感に打ちのめされた様な顔をしていた。
暫時の沈黙。2人が笑みを含めた眼でにらみ合いその空間に火花を散らせる。
「後悔しろ!!ストレート!!」
バシィッとでも形容しよう音をならせたたきつけられたカードは左から9、10、J、Q、K。階段上がりの最高数字のストレートだ。これには黄金スーツも此処ぞとばかりに笑っている。勝ちは確信したも同然だ。
「さぁ出せ!敗北の5枚をな!!」
「ククッ…クククククッ」
「…なにが、おかしい…」
黄金スーツの5枚を見て、白髪は敗北に打ちのめされる訳でも悔しがる様子も無く、片手で顔を覆って笑った。新底楽しそうに。
「哀れだ。さながらアンタは俺の貼った糸に絡まった蝶だ。踠くだけ踠いて結局は死んじまう。アンタがやってるのはつまり、そういう事だ。」
「何を……なっ!!!」
男が苛立ち気に両手を卓の上に置いた瞬間、その表情が怒りから一変。血が引いていくような青ざめをする。目で追った先、白髪の男がチラつかせていたその5枚は。
左から10、J、Q、K、A……つまり
「ロイヤルストレートフラッシュ」
白髪がそう言ったのと同時に黄金は膝から崩れ落ちて突っ伏した。
「面白くねぇな。さっさと身包み捨てて負けを認めろ。」
白髪がそう言うと、未だ黄金のスーツを身に纏った男は嫌だ嫌だと涙を流して縋り付く。男が縋り付いてきた奴の顔に蹴りを入れようとした、その時だった。
「待ってくれないか?」
「……?」
レオンが、飛び出していた。
「僕とポーカーをやろう。BETは僕の持つ金とその男の末路。如何か?」
「ちょ、レオン…ッ俺たちは!」
「レオンくん!!」
レントとアカネが虚を突かれたような顔になりレオンに声をかける。だが、レオンはそれを特に気にもとめず男を見据えた。
「見かけねぇ顔だな。だが顔が良い。面白い、丁度此奴ばかり相手にして飽きていた所だ。」
白髪の男はもう一度、卓の向こうに立ちトランプをシャフルし始める。やがて打ち出された5枚のカードはレオンの前に滑って届く。
「始めようぜ。」
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