霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第3章 狂いし頂点

第17話 残酷な白

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「ご退出願おうかァ・・・きひっ。」
 目の前に居る白髪の少年はそう言う。その長い前髪から見え隠れする眼光は「殺す」。そういっているかのように思えた。
 こいつは今、この店を自分の店だと言い、僕らに退出しろと、そう言ってきたのだ。出会い頭にこの一言、数にして3対1だというのに・・・コイツはどんな考えでその言葉を発しているのか、僕らはまだ分からなかった。
「ここは店だろ、誰が使おうと問題ねぇ筈だ。」
 この場面において気の強いレントが一言言い放つ。だが、誰もいない店におびえる店員の目つき。この場においてレントのその発言は自殺行為にも等しいものだった。弁解しようと僕は口を開きかけたが、なにか物を言うよりも先に白髪の少年は言葉を発した。
「あぁ・・・何か言ったか?」
 静かに紡がれたその言葉、僕はその言葉よりも男の目つきに気を取られてしまう。その男の目つきは完璧に殺す目だ・・・。何とかして止めなければ・・・
「ぼ、僕らは東の街、カルティーエから来た旅人だ・・・。腹が減っていたからつい何も知らずにこの店に立ち寄ってしまった・・・。僕らが目障りというのなら、今すぐ立ち去ろう・・・」
 僕は今すべき最善策の言葉を詮索しどうにかつなぎ合わせる。これでいい筈だ・・・。
「カルティーエだと・・・?そォんな辺境の場所からここまで来たってのか」
 男の目から殺気は消え、代わりに感心したかのような眼光になる。
「旅人だといったな、お前らは何が目的で旅をしてやがる?」
 男は間近にあった隣の席に腰かけて僕らと会話始める。ここで答えないのも逆に怒らせることになるだろう・・
「世界を変えるためだ。」
「それァ、邪魔する妖怪を殺してこの世界を発展させる、そォ言いてェんだな。」
「簡単に言えば、君の言っている通りだ・・・・」
 男は数秒の間押し黙る。近くにあったメニューリストしばらく眺めた後、高らかな声で笑い始めた。
「はァーーーはっははっはははは!!!」
「な、何が面白いん・・ムグッ!?」
 喧嘩腰になりかけのレントの口をアカネが塞いで制してくれる。アカネは自分の口元にひとさし指を立てると、レントが頬を赤くして黙る。
「どこの世界にも、どんな時代でも、バカはいるもンだな。」
 男はどこか懐かしい風景を見るような目で天井を仰ぐ。またしばらく、そのままでいたかと思うと男は席をたって裂けるほどの笑みを口元に貼りつけて歩き始める。
「お前らがここをでる頃に、お前らが望んだ別の現実が見れるかもなァ?」
 そういって出ていったときに見せた男の顔は僕の脳裏にのっぺりと貼りつき、同時に本能が「あいつとはかかわるな」と教えてくれた。
 
  ◇

「チッ!なんだよアイツ、気に食わねぇ面しやがって!」
 レントがブツブツと文句を垂れながら貪るように料理を平らげていく。僕はその間、あの男が最後に言っていた言葉の意味を考えていた。
「レオンくん、どうしたの?体の調子でも悪いの?」
 アカネが心配そうな眼差しを僕に向けてくる。アカネも少し気になっているのか、運ばれ来ていた海鮮グラタンには少し手をつけたままだった。
「いや、最後に奴が言った言葉が気になってね。」
「あーあの、望んだ現実がなんちゃら~ってやつか、気にすんな。んなもん、嘘に決まってんだろ。」
 そうだ、嘘に決まっている。嘘じゃなかったら素手にこの世界は発展しているかも知れない・・・だが、どうしても最後に見せたあの笑みはどう頑張っても拭いきれない物だった。
「行こう、レント、アカネ。なぜか、放っておいてはいけない気がする。」
 まだ腹が膨れてないのか。不満げな表情のレントを無理矢理椅子から剥がし、店を後にした。

 店を出て数分、宿に戻るために足を運んでいたが、僕の意識は全てあの少年に向けられていた。よほど切羽詰まったような顔になっているからか、アカネが僕に話しかけてきた。
「レオンくん、ほんと大丈夫?顔が青いけど・・・」
「僕は何かの生物かよ・・・青いわけないだろ」
「そ、そういう事じゃなくて・・・!」
 どうにかいつもの自分を装っているつもりだがやはり主な気はあの少年に向けられている。考えこんだまましばらく歩いていると、やがて聞きなれない、もしくは聞きたくもなかった声が聞こえた。
 
 「ぎゃあああああ!!!!!!」

 悲鳴。夜の街の空間に響かせるに充分すぎるほどの悲鳴はただ事ではない様子の声だった。
「な、なんだ!?」
 レントが驚いた様子で声のした方向へ振り向く。僕は何を言うよりも先にその悲鳴がした方向へと走り出す。僕の聴力から割り出した声の発生源へと足を運んだのは、追い風のおかげかそう時間は掛からなかった。
 それは、建物と建物の間、路地裏ともいえる場所だった。その場所について僕は何を語るよりも先に絶句することになった。
 ついで襲うのは残酷な現状を伝えるには十分すぎる赤色。あたり一面に飛び散った血痕は華のように咲き乱れている。
「レ、レオンくんっいきなり走りだしてどうし・・・」
「見るなっ!!!」
 言葉を発したのが遅すぎた・・・あまりにも無残な目の前の光景、そして追い打ちをかけるかのように匂う生臭さが混じった鉄の匂いを含んだ温かい空気。
「うっ・・!!」
 アカネが息苦しそうに涙を目尻に浮かべてえづく。続いてやってきていたレントも顔をしかめていた。
「おやおやァ、ちゃあんとこれたなァ・・・?」
 ツカツカと大きく響く靴底が地面にあたる音。暗い路地裏から現れたのは純白の服に赤黒いものをべっとりとつけた先ほどの少年だった。
「どォだ・・?お前らの目的だ。」
 少年はつま先で二回、足元に転がっているさっきまでは生きていた物えお小突く。その姿を見てアカネが苦悶の表情のまま声を発した。
「どうして・・こんなこと・・」
「あっれェ?子ウサギちゃんにはちぃとばかし刺激が大きすぎたかァ?どうしてこんなことをって、お前らが望んだ現実を此処に来た手土産としてみせてンだよ。」
 男はあの笑みを顔に貼りつけて話す。長すぎる前髪が邪魔でその眼光は見えなかった。
「俺らは、こんなもん望んでねぇ・・っ」
 レントが怒りを声に乗せて話す。その言葉にも男は微動だにせず、男は言葉をつづけた。
「妖怪を殺して世界を変えるんだろ?そのオテツダイだ。」
 狂っている・・・コイツは完璧に狂っている・・・
「こんな理不尽な殺戮は、僕たちは望んでいない。」
「何言ってやがる」

「偽善じャあ世界は救えねンだよ。」
 ヒュゴウッ!!!と風が大きく吹き荒れる。少年はこの風にも微動だにしていないことからこの風は少年が生み出したものだと分かった。
「ち・・・能力者か・・!」

「この世にあンのは理不尽だけだ!!そこに善も悪もねェ!!そこにあンのは絶対的な力!!この世を壊すほどの力だけなンだよォ!!」
 ひときわ強く風が吹く。ドロっとした笑みを浮かべた男の目は、「殺す目」に変わっていた。
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