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憎悪

毎年花束を受け取りに来る人。

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物心ついた時から、私は両親を他人のように扱っていた。頭を撫でられても違和感があったし、食卓を囲んで会話しても弾まなかった。

母と呼んでいた人から愛という愛を貰った記憶も無いし、父と呼びたくない人からは毎晩のように欲を発散されていた。
高校生活を控えたある日、学校から帰宅すると、知らない男の人がリビングにいた。両親と話をしているようだった。
部屋にいた私に、荷物をまとめるよう言った母の後ろには、その人が立っていた。

事情は後から、手を引いてくれたあの温もりは、一生忘れない。

このまま何処かへ連れて行ってほしい。心から思った。
私の本当の両親について話してくれた日。目の前の人が、私の実の兄だと分かった日。死んでもいいと思えた。
なんだ、私は偽の家族と時間を共にし、無駄にしたんだ、と。
でも、これで良かったんだ。
私の本当の両親が、素敵な人達でよかった。
本当の兄が、この人でよかった。
私は、ひとりじゃなかったんだ。
安らぎに浸るのも束の間、次に口にした言葉に、私は目を見開いた。


【両親は既に亡くなった。】


ショックだった。これから、幸せな暮らしが待っていると勝手ながら期待してしまっていた。

そっか、もういないんだ。
会いたかったな。話したかったな。
一緒にしたいこと、たくさん考えたのに。
いっそのこと、私も連れて行ってほしかったのに。


【僕と生きてくれないか。】


父さん、私はどんな娘かな?
母さん、私は幸せになれるのかな?


「お兄ちゃん…、」


私を幸せにしてくれるのは、この人だけかな…?


【僕の傍にいてほしい。】

「…はい。傍に、置いてください。」


どうしてかな。私はこの人と、長く一緒に居れない気がした。
私が傍にいていいのか自身は持てなかったけど、孤独にさせたくなかった。私みたいに、なってほしくなかった。
カタチだけでも家族として見てくれた両親を、悪く言えるほどの口は揃っていない。
そもそも、生まれるかすら分からなかった命。


今生きているだけ、贅沢なのだから。



































兄が亡くなって一年が経つ。私の前に、再び兄が現れた。
私は、幸せなんだよ、きっと。
何も兄に尽くせなかった分、今度はちゃんと尽くすんだ。
目の前の、私の兄だと名乗る人に。


「お兄ちゃん、」

『…っ!』

「私と生きてください。」

『〇〇ちゃん…、』

「私の傍にいてください。」


お兄ちゃんは抱き締めてくれた。
温かくて、花の甘い香りがした。
そっと委ねた体が軽くなっていく。



『…返せ……』

「……?」






























                            『俺の家族を、返せ。』






































                    お兄ちゃん、私、すごく幸せだよ。













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