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ワンワン初めてのお外

第43話 魔族の国を楽しみに

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 チェルノに来てから知り合った者と別れを告げ、ワンワンたちは街を出た。

「ふう……予想通り風の羽の店主はしつこかったのう……」

 風の羽の店主のネリオにも世話になったので挨拶に行ったのだが、チェルノにもう少し残らないかと引き止められてしまった。渡した聖域の魔物の死体が相当儲けが出たようだ。

「だけど、聖域の魔物を餞別に幾つか渡したら色々とくれたぜ」

「わうっ! お菓子いっぱい貰ったよ!」

「そうじゃのう。なんやかんやで一番世話になった店じゃった……」

 ジェノスの仲間との出会いやユグドラシルゴーレムの出現など予期していなかった事が起きて、慌ただしい滞在となってしまったが、風の羽のおかげで必要なものを揃える事ができた。

「それに風の羽の店主よりも、クロが目立って大変だったぜ」

「あははは……みんな、ごめんね」

 ユグドラシルゴーレムで活躍した勇者クロの存在は街中に知られていた。街から出る際には、最後にクロを一目でも見ようと見物人が門に押し寄せてきて、慌てて街の外へと出たのだ。

「まあ無事にこうして街を出れたことじゃし、ジェノスたちと合流するかのう。ふむ…………こっちのようじゃな」

「本当にボスたちの居場所が分かるのか……【尋ね人】だったか? 凄いな」

「だいたいの方向くらいしか分からぬがのう。地中や水中、空を飛んでいない限り、この方向に歩いて行けばいずれ会えるじゃろう」

 レイラの【尋ね人】によってジェノスたちがいる方向を探りながら歩いて行く。

 森の中に入り、道なき道を進む。森に入ってから三十分ほど経過するが、かなり森の奥深くにいるのかジェノスたちの姿がまるで見えなかった。

「ふむ……だいぶ奥にいるようじゃな。まあ追手がまったくないというわけじゃないからのう」

「それなりに人数がいるからな。浅いところにいたんじゃ見つかっちまう。だが……あんまり森の深くまで入ると危ない。聖域の魔物が潜んでいるかもしれないぞ」

「わうっ! ジェノスなら大丈夫だよ!」

 ゲルニドの不安を滲ませた呟きにワンワンが反応した。

 ワンワンの笑顔からは微塵も不安を感じられない。ジェノスがいるから大丈夫だと、ワンワンはジェノス信頼していた。

「そうだな……ボスなら大丈夫か」

 ワンワンの言葉に対してゲルニドは静かに頷いた。

 ゲルニドも勿論ジェノスを信頼している。だが、短い期間であったがギルドマスターの立場、そしてゴリンコなどの協力もあったがジェノス不在の盗賊団の代表的な立場を経験し、自分の判断で全員の運命が左右されてしまう危険性を知った。

 その経験から臆病になってしまったようだとゲルニドは内心溜息を吐く。
 また、チェルノの魔物ギルドの現ギルドマスターに復帰したケリー、自分達を引っ張ってくれているジェノスには頭が上がらないと思うのであった。

 それから歩きながら自分の前を歩くワンワンに目を向ける。
 ジェノスと話したのはほんの少しの時間だったが、ワンワン達とは家族のように生活していたと聞いている。実際、ジェノスとワンワンの二人でいた時は、傍から見ると本当の親子のようであった。

 先程の不安をまるで感じさせない笑顔は、家族として過ごしてきたからこそ。過ごして来た時間は、自分が盗賊団でゲルニドと過ごしてきた長い時間よりも短いかもしれない。だが、自分や他の仲間のゲルニドとの絆に匹敵する、家族という繋がりを作ったのだとゲルニドは感じたのであった。

「……むっ、誰かいるようじゃぞ」

 森に入って一時間が経過した頃、人の気配がして自然と足が速くなる。そして開けたところに出ると、そこにはジェノス達の姿があった。

「ジェノスっ!」

「おお、来たか。全部済ませたのか?」

 ジェノスは飛びついて来たワンワンを受け止め、その小さな頭を撫でながらゲルニドに尋ねる。

「はい。ギルドマスターは先代に任せてきました。あとは魔族の奴隷を探している奴等を回収すれば、いつでも魔族の国へ行けます。ボスの方は何も問題ありませんでしたか?」

「こっちも問題ない。ワンワンが怪我を治してくれたおかげで元気が有り余って騒がしいくらいだ。追われる立場だっていうのにな……」

 疲れたようにジェノスは溜息を吐いた。

「それだけボスと再会できた事が嬉しいんですよ。多少は目を瞑ってやりましょう」

「…………」

 ゲルニドの言葉に目を瞑って再び小さく息を吐く。その際、彼の口元が緩んだのをワンワンは見て「ジェノス嬉しそう」と呟き、レイラは「そうじゃのう」と同意した。

「さてと、ジェノスよ。早速じゃが今後の方針を立てていこうかのう。ちと話したい事もあるのじゃ」

「ん? 何だよ、話したい事って?」

「いやいや、そんな警戒しなくてよい。ちと頼みがあるだけじゃ。ワンワン、ナエ、クロは少し休んでいるといい」

 ジェノス、レイラ、ゲルニドの三人は離れたところで、他の者も加えて今後の方針について話し合いを始めた。

 残されたワンワンたちは魔族の国を話題に話をする。

「いったい魔族の国って、どんな国なんだろうな? この前、私とワンワンに絡んできた傭兵が可愛く見えるくらいの強面の魔族がいっぱいいそうだぜ」

「私も最前線で戦ってはいたけど、魔族の国で戦っていたわけじゃないからまったく知らないよ。だけど空が黒い雲に覆われて、雷が常に鳴っているような暗いイメージがある」

「なんか洗濯物が乾きにくそうで嫌だぜ……ん? それってワンワンが読んでた絵本の内容じゃねえか?」

「あれ? そうだっけ?」

「まあ、なんかおどろおどろしいイメージはあるぜ。ワンワンはどんなところだと思う?」 

「わうっ! 僕はとにかく楽しみだよっ!」

 ワンワンはまだ見ぬ魔族の国に対して、ただ期待に胸を膨らませていた。

 チェルノの街で色々なものを見たり、食べたり楽しい思い出を作れたように、きっと魔族の国でもみんなで楽しい思い出をいっぱい作れる。そうワンワンはまだ見ぬ魔族の国に目を輝かせるのであった。
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