89 / 93
ワンワン初めてのお外
第40話 希望のスキル
しおりを挟む
大地を揺らしながら近付いて来るユグドラシルゴーレム。
ナエが魔法で足止めしようとしたが、まるで効果はない。地面に大穴を開けても、すぐに新しい足を生やして穴から出てきてしまう。
配下と思われるドラゴンゴーレムなどの魔物がやられて本気になったのだろうか。もはや動きを止める事はできそうにない。
「むう……まいったのう」
「どうするんだ? このままじゃ潰されちまうぜ!」
「とりあえずクロたちの様子を知る事じゃな。上に乗ってる連中がいるから魔法での攻撃は危ないしのう。レイラはひとまず《ゲランタル》を掛け直しておいてくれ」
拘束は諦めて、そろそろ効果が切れる《ゲランタル》をナエは掛け直していく。コアの破壊を進めているメンバーには特にこの魔法は必要不可欠だ。
だが、そのコアの破壊は現在どうなっているのか、状況はまるで分からない。
カーラに状況を確認して貰おうと考えたが、動きだしたユグドラシルゴーレムをよじ登って行くのは至難の業だ。また最初のように自分が行くべきかとレイラが考えていた。
だが、ユグドラシルゴーレムの方から走って来る、ある人物の姿を見て、その考えを一度引っ込める。
その人物はフードを被って顔は見えないものの、背格好からジェノスである事が分かる。
「あっ! ジェノふがぁっ!」
「ワンワン! しっ! 名前を言ったら駄目だぜ!」
「もがもが……ごめんなさい」
こちらに走って来るジェノスの姿を見て、名前を口にしようとしたワンワンの口をナエは塞ぐ。
ジェノスの素性を知る者だけしかいないのであれば問題ないが、今は他にも人がいる。特に街の衛兵や、軍人には顔がよく知られているので注意が必要だ。
「コアはどうなっておる? まだ見つからんのか?」
「いや、見つけはしたんだが……破壊ができないんだ。想像以上に硬くてな。今はクロに頑張って貰っているが……傷一つつかないんだ。ふざけやがって【鑑定】でコアを見たら守備力が8,000もあったぞ」
「それほどの守備力を……それなら強化したクロのステータスでも破壊できないのも頷ける。そうなるとナエの魔法で……いや、8,000となるとさすがに《ヘルフレア》でも難しいか……」
ワンワンの守備力ほどではないが、8,000もの守備力を持つ魔物はレイラでも聞いた事がない。
ジェノスとレイラの会話を聞いていた者からは、街の人の避難誘導を手伝うべきではないかと声が上がる。それは怯えからくるものではなく、冷静に状況を鑑みての声だった。
守備力8,000ものコアを破壊するのは困難だ。それならより希望がある方を取るべきではないか、と……。
レイラも現状打開策は何も思い浮かばなかった。ユグドラシルゴーレムがこのまま進めば、間違いなく街は潰される。ユグドラシルゴーレムの討伐は断念するべきか、そのような考えがレイラやジェノスを含むこの場にいる全員の脳裏を過ぎる。
いや、一人だけ異なる考えを持つ者がいた。
「ねえねえ、コアを弱らせたらいいんじゃない?」
ワンワンだ。苦渋の決断を下すべきかと、悩んでいたジェノスとレイラに尋ねた。
「ワンワン、確かに弱らせる……コアの守備力を下げる事ができれば破壊はできるかもしれぬ。だが、その手段がないのじゃ」
レイラはあらゆるものを柔らかくする【軟化】のスキルを持っているが、生物には効かない。それにコアの場所に目印として剣を突き立てた時に、一度試して確かに生物には効かない事を実証している。
またジェノスとナエの使える魔法の中にも、守備力を下げるようなものはない。
打つ手はないのだとワンワンに言い聞かせるようにレイラは言った。するとワンワンは「これは使えないかな?」と回収可能の一覧を二人だけに見えるように出した。
・【弱体化】
・【不幸】
・【狂化】
・【呪装】
・【嫌悪】
・【隷属契約】
・【魔獣化】
・【暗殺者】
・【蟲毒】
それを見てジェノスとレイラは目を大きく見開いた。
「これは……このスキルは……カーラを助けた時の」
「そ、そうじゃ。【邪神への貢ぎ物】とともに出て来たスキルじゃ……ワンワン、もしやこのスキルを誰かに与える事もできるのかのう?」
「わうっ! できそうだよっ!」
大きく頷いてワンワンは答える。
【弱体化】はこのスキルの保持者のステータスを下げる効果がある。自分の意思に関係なく、効果が発動されるそのスキルは普通こ呪いだとばかりに忌み嫌われるものだ。
だが、今このスキルは、街を、多くの人を救う希望のスキルだった。
「ワンワン、コアへの付与はここからでもできるかのう?」
レイラの問い掛けに対して、ワンワンはユグドラシルゴーレムを見てから首を横に振った。
「わうぅぅぅ……無理そう。手で触れないとあげられないみたい」
「分かったのじゃ。ワンワン、儂が絶対に守る。だから一緒にユグドラシルゴーレムのところへ行ってくれるかのう?」
「行くよ! 街を守りたいもんっ!」
力強く頷くワンワンの目には、普段から感じられる無邪気さ、そして今は言葉通り街を守りたいという強い意志が感じ取れた。
金色の美しい髪に覆われたワンワンの頭を優しくレイラは撫でる。
「よし、それじゃあ一緒に街を守りに行こうかのう!」
「わうっ!」
こうして戦いは最終局面を迎えようとしていた。
ナエが魔法で足止めしようとしたが、まるで効果はない。地面に大穴を開けても、すぐに新しい足を生やして穴から出てきてしまう。
配下と思われるドラゴンゴーレムなどの魔物がやられて本気になったのだろうか。もはや動きを止める事はできそうにない。
「むう……まいったのう」
「どうするんだ? このままじゃ潰されちまうぜ!」
「とりあえずクロたちの様子を知る事じゃな。上に乗ってる連中がいるから魔法での攻撃は危ないしのう。レイラはひとまず《ゲランタル》を掛け直しておいてくれ」
拘束は諦めて、そろそろ効果が切れる《ゲランタル》をナエは掛け直していく。コアの破壊を進めているメンバーには特にこの魔法は必要不可欠だ。
だが、そのコアの破壊は現在どうなっているのか、状況はまるで分からない。
カーラに状況を確認して貰おうと考えたが、動きだしたユグドラシルゴーレムをよじ登って行くのは至難の業だ。また最初のように自分が行くべきかとレイラが考えていた。
だが、ユグドラシルゴーレムの方から走って来る、ある人物の姿を見て、その考えを一度引っ込める。
その人物はフードを被って顔は見えないものの、背格好からジェノスである事が分かる。
「あっ! ジェノふがぁっ!」
「ワンワン! しっ! 名前を言ったら駄目だぜ!」
「もがもが……ごめんなさい」
こちらに走って来るジェノスの姿を見て、名前を口にしようとしたワンワンの口をナエは塞ぐ。
ジェノスの素性を知る者だけしかいないのであれば問題ないが、今は他にも人がいる。特に街の衛兵や、軍人には顔がよく知られているので注意が必要だ。
「コアはどうなっておる? まだ見つからんのか?」
「いや、見つけはしたんだが……破壊ができないんだ。想像以上に硬くてな。今はクロに頑張って貰っているが……傷一つつかないんだ。ふざけやがって【鑑定】でコアを見たら守備力が8,000もあったぞ」
「それほどの守備力を……それなら強化したクロのステータスでも破壊できないのも頷ける。そうなるとナエの魔法で……いや、8,000となるとさすがに《ヘルフレア》でも難しいか……」
ワンワンの守備力ほどではないが、8,000もの守備力を持つ魔物はレイラでも聞いた事がない。
ジェノスとレイラの会話を聞いていた者からは、街の人の避難誘導を手伝うべきではないかと声が上がる。それは怯えからくるものではなく、冷静に状況を鑑みての声だった。
守備力8,000ものコアを破壊するのは困難だ。それならより希望がある方を取るべきではないか、と……。
レイラも現状打開策は何も思い浮かばなかった。ユグドラシルゴーレムがこのまま進めば、間違いなく街は潰される。ユグドラシルゴーレムの討伐は断念するべきか、そのような考えがレイラやジェノスを含むこの場にいる全員の脳裏を過ぎる。
いや、一人だけ異なる考えを持つ者がいた。
「ねえねえ、コアを弱らせたらいいんじゃない?」
ワンワンだ。苦渋の決断を下すべきかと、悩んでいたジェノスとレイラに尋ねた。
「ワンワン、確かに弱らせる……コアの守備力を下げる事ができれば破壊はできるかもしれぬ。だが、その手段がないのじゃ」
レイラはあらゆるものを柔らかくする【軟化】のスキルを持っているが、生物には効かない。それにコアの場所に目印として剣を突き立てた時に、一度試して確かに生物には効かない事を実証している。
またジェノスとナエの使える魔法の中にも、守備力を下げるようなものはない。
打つ手はないのだとワンワンに言い聞かせるようにレイラは言った。するとワンワンは「これは使えないかな?」と回収可能の一覧を二人だけに見えるように出した。
・【弱体化】
・【不幸】
・【狂化】
・【呪装】
・【嫌悪】
・【隷属契約】
・【魔獣化】
・【暗殺者】
・【蟲毒】
それを見てジェノスとレイラは目を大きく見開いた。
「これは……このスキルは……カーラを助けた時の」
「そ、そうじゃ。【邪神への貢ぎ物】とともに出て来たスキルじゃ……ワンワン、もしやこのスキルを誰かに与える事もできるのかのう?」
「わうっ! できそうだよっ!」
大きく頷いてワンワンは答える。
【弱体化】はこのスキルの保持者のステータスを下げる効果がある。自分の意思に関係なく、効果が発動されるそのスキルは普通こ呪いだとばかりに忌み嫌われるものだ。
だが、今このスキルは、街を、多くの人を救う希望のスキルだった。
「ワンワン、コアへの付与はここからでもできるかのう?」
レイラの問い掛けに対して、ワンワンはユグドラシルゴーレムを見てから首を横に振った。
「わうぅぅぅ……無理そう。手で触れないとあげられないみたい」
「分かったのじゃ。ワンワン、儂が絶対に守る。だから一緒にユグドラシルゴーレムのところへ行ってくれるかのう?」
「行くよ! 街を守りたいもんっ!」
力強く頷くワンワンの目には、普段から感じられる無邪気さ、そして今は言葉通り街を守りたいという強い意志が感じ取れた。
金色の美しい髪に覆われたワンワンの頭を優しくレイラは撫でる。
「よし、それじゃあ一緒に街を守りに行こうかのう!」
「わうっ!」
こうして戦いは最終局面を迎えようとしていた。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる