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ワンワン初めてのお外

第40話 希望のスキル

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 大地を揺らしながら近付いて来るユグドラシルゴーレム。

 ナエが魔法で足止めしようとしたが、まるで効果はない。地面に大穴を開けても、すぐに新しい足を生やして穴から出てきてしまう。

 配下と思われるドラゴンゴーレムなどの魔物がやられて本気になったのだろうか。もはや動きを止める事はできそうにない。

「むう……まいったのう」

「どうするんだ? このままじゃ潰されちまうぜ!」

「とりあえずクロたちの様子を知る事じゃな。上に乗ってる連中がいるから魔法での攻撃は危ないしのう。レイラはひとまず《ゲランタル》を掛け直しておいてくれ」

 拘束は諦めて、そろそろ効果が切れる《ゲランタル》をナエは掛け直していく。コアの破壊を進めているメンバーには特にこの魔法は必要不可欠だ。

 だが、そのコアの破壊は現在どうなっているのか、状況はまるで分からない。

 カーラに状況を確認して貰おうと考えたが、動きだしたユグドラシルゴーレムをよじ登って行くのは至難の業だ。また最初のように自分が行くべきかとレイラが考えていた。

 だが、ユグドラシルゴーレムの方から走って来る、ある人物の姿を見て、その考えを一度引っ込める。

 その人物はフードを被って顔は見えないものの、背格好からジェノスである事が分かる。

「あっ! ジェノふがぁっ!」

「ワンワン! しっ! 名前を言ったら駄目だぜ!」

「もがもが……ごめんなさい」

 こちらに走って来るジェノスの姿を見て、名前を口にしようとしたワンワンの口をナエは塞ぐ。

 ジェノスの素性を知る者だけしかいないのであれば問題ないが、今は他にも人がいる。特に街の衛兵や、軍人には顔がよく知られているので注意が必要だ。

「コアはどうなっておる? まだ見つからんのか?」

「いや、見つけはしたんだが……破壊ができないんだ。想像以上に硬くてな。今はクロに頑張って貰っているが……傷一つつかないんだ。ふざけやがって【鑑定】でコアを見たら守備力が8,000もあったぞ」

「それほどの守備力を……それなら強化したクロのステータスでも破壊できないのも頷ける。そうなるとナエの魔法で……いや、8,000となるとさすがに《ヘルフレア》でも難しいか……」

 ワンワンの守備力ほどではないが、8,000もの守備力を持つ魔物はレイラでも聞いた事がない。

 ジェノスとレイラの会話を聞いていた者からは、街の人の避難誘導を手伝うべきではないかと声が上がる。それは怯えからくるものではなく、冷静に状況を鑑みての声だった。

 守備力8,000ものコアを破壊するのは困難だ。それならより希望がある方を取るべきではないか、と……。

 レイラも現状打開策は何も思い浮かばなかった。ユグドラシルゴーレムがこのまま進めば、間違いなく街は潰される。ユグドラシルゴーレムの討伐は断念するべきか、そのような考えがレイラやジェノスを含むこの場にいる全員の脳裏を過ぎる。

 いや、一人だけ異なる考えを持つ者がいた。

「ねえねえ、コアを弱らせたらいいんじゃない?」 

 ワンワンだ。苦渋の決断を下すべきかと、悩んでいたジェノスとレイラに尋ねた。

「ワンワン、確かに弱らせる……コアの守備力を下げる事ができれば破壊はできるかもしれぬ。だが、その手段がないのじゃ」

 レイラはあらゆるものを柔らかくする【軟化】のスキルを持っているが、生物には効かない。それにコアの場所に目印として剣を突き立てた時に、一度試して確かに生物には効かない事を実証している。

 またジェノスとナエの使える魔法の中にも、守備力を下げるようなものはない。

 打つ手はないのだとワンワンに言い聞かせるようにレイラは言った。するとワンワンは「これは使えないかな?」と回収可能の一覧を二人だけに見えるように出した。


・【弱体化】
・【不幸】
・【狂化】
・【呪装】
・【嫌悪】
・【隷属契約】
・【魔獣化】
・【暗殺者】
・【蟲毒】


 それを見てジェノスとレイラは目を大きく見開いた。

「これは……このスキルは……カーラを助けた時の」

「そ、そうじゃ。【邪神への貢ぎ物】とともに出て来たスキルじゃ……ワンワン、もしやこのスキルを誰かに与える事もできるのかのう?」

「わうっ! できそうだよっ!」

 大きく頷いてワンワンは答える。
 【弱体化】はこのスキルの保持者のステータスを下げる効果がある。自分の意思に関係なく、効果が発動されるそのスキルは普通こ呪いだとばかりに忌み嫌われるものだ。

 だが、今このスキルは、街を、多くの人を救う希望のスキルだった。

「ワンワン、コアへの付与はここからでもできるかのう?」

 レイラの問い掛けに対して、ワンワンはユグドラシルゴーレムを見てから首を横に振った。

「わうぅぅぅ……無理そう。手で触れないとあげられないみたい」

「分かったのじゃ。ワンワン、儂が絶対に守る。だから一緒にユグドラシルゴーレムのところへ行ってくれるかのう?」

「行くよ! 街を守りたいもんっ!」

 力強く頷くワンワンの目には、普段から感じられる無邪気さ、そして今は言葉通り街を守りたいという強い意志が感じ取れた。

 金色の美しい髪に覆われたワンワンの頭を優しくレイラは撫でる。

「よし、それじゃあ一緒に街を守りに行こうかのう!」

「わうっ!」

 こうして戦いは最終局面を迎えようとしていた。
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