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ワンワン初めてのお外
第31話 作戦会議
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「ボス……お久し振りです。よくぞ、ご無事で……」
「それはこっちの台詞だ。お前もよく生きていてくれた」
クロがジェノスを連れてギルドマスターの執務室に入って来ると、ゲルニドは深々と頭をジェノスに下げていた。
「ワンワン達のおかげです。カーラのスキルも取り除いてくれて……」
「待て。色々と話したい事はあるが、今はあのデカブツをどうするかだ。そっちの対策を話し合おう。話はこれからいつでもできる」
「は、はいっ!」
ジェノスとゲルニドは再会を果たし積もる話もあったが、今はユグドラシルゴーレムの対策を優先する。
「ズバリ聞くが、魔物ギルドで対抗手段はあるか?」
「……正直、月並みの考えしかありません。あいつのコアを見つけて破壊。しかし、あの巨体じゃ……」
「うぬ、職員に聞いたところ岩山のような巨体なのじゃろ? コアを外に露出しとる訳はないじゃろうし、探し出すのは至難の業じゃぞ」
ゴーレム系の魔物は基本はコアが弱点だ。一般的なゴーレムはコアが体の割に大きく、露出している事が多い。しかし体が大きい場合は体内に隠している個体もいる。
今回のユグドラシルゴーレムもまさにその類だろう。それもコアの場所は決まったところにある訳ではない。体が大きいほど見つけるのも一苦労だ。加えてゴーレムには再生能力がある。削り続けなければ、徐々に修復していく。
「実は俺とクロはその魔物を間近で見て来たんだ。少しやり合ってみた」
「っ! それは本当ですか! その、手応えは……」
「正直な話……普通のやり方だと厳しいだろうな。少なくとも攻撃力1,000はないと、あの体に傷はつけられないだろう」
その数値はもはやクロほどの実力者でなければ届かない数値だ。ジェノスも高い方だが700ほど。ゲルニドも魔物を相手している者達でも、滅多に届く事のない数値である事を理解していた。
「1,000……それでは勝ち目なんて……」
「おい、諦めんじゃねえ。お前は今はギルドの代表だろ? しっかりしろ! いいか、普通のやり方では厳しいと言ったんだ。普通じゃないやり方をとれば、たぶん倒せる」
「普通じゃない……やり方、ですか?」
ジェノスがいったい何を考えているのか分からないゲルニドは、目をぱちぱちと瞬く。
「……ところで、ワンワン、ナエ、レイラ。お前達はデカブツと戦ってもいいのか? 逃げるという手もあるぞ。それに戦えば確実に目立つ。この街から出る事も考えないとならねえぞ」
「それは今更じゃろう。クロが出て来た時点でのう」
「うっ……いや、だって、みんな腰が引けちゃってたから」
「ああ、分かっておる。お主なりに考えて顔を出したのじゃろう?」
本当はクロもジェノスのようにフードを被って顔を見られないようにしていた。だが、ギルドの中で多くの人間が戦う事を躊躇しているのを見て、あえて顔を晒したのだ。
それをレイラも理解していた。今は街中が混乱しているので、問題ないが。ユグドラシルゴーレムを倒した後、事態が収束すればクロがチェルノにいる事はあっという間に広がるだろう。
「全員に口止めを……と言いたいところだが、さすがに難しいだろうな……」
「酔っ払った時にでも、勇者と一緒に戦ったと自慢気に喋ってしまうじゃろうな……」
レイラは自分達に絡んで来た酔っ払いを思い出した。
あれほどでないとしても、罰則でもない限り、酒で気が大きくなって思わず口に出してしまう可能性は大いにある。
「まあ、なんとかなるよ…………たぶん。あははは」
「今回は仕方ねえ。あれは必要な事だった……対応は考えておこう。それでワンワンとナエはどうだ?」
魔物ギルドの戦力を減らさない為の行為であったので、クロに対してジェノスは叱りつけるような事はしなかった。そして戦うか、逃げるか、ワンワンとナエにも問いかける。
「私は、とりあえず戦うぜ。色々とこの街は楽しかったからな。危険だと思ったら逃げればいいだろ?」
「ああ。命を賭けてまで戦う必要はない。危険と判断したら逃げるつもりだ。ワンワンは?」
「わうっ! 僕も戦うよ! モンモの屋台とか、服を買ったお店とか、なくなったら嫌だもん!」
ワンワンの言葉を聞いてジェノスは、「そうか……」と呟きながら思わず頬を緩める。チェルノの街を守りたいと思えるほど、初めての街を満喫できたのかと嬉しく思ったのだ。
「よし、それなら考えていた作戦が使えるな。実は幾つかあいつに関しての情報が載った資料があるんだ」
ジェノスは格納鞄から一冊の本を取り出した。それはレイラの生きていた時代の文字に書かれたもの。
「そのような本が……聖域の魔物の生態について、か。今の状況にぴったりの本じゃのう」
「聖域にいた時に読んでて、全ての魔物を頭に叩き込んどいたんだ。おかげですぐにユグドラシルゴーレムだと分かった。資料で読んだよりもかなり巨体だが、ナエとワンワンがいればなんとかなる」
「私とワンワン?」
「わうっ?」
突然名指しされてビクッと体を震わせるナエとワンワン。
「てっきりクロが一番の戦力になるかと思ったけどな……どうして私とワンワンなんだ?」
「あれを倒すにはな、膨大な魔力と強力な魔法が必要なんだよ。今からどうするか説明する」
それからこの場にいる全員に作戦を共有した。特に反対する者はいなかったので、各自は準備をする為に動いた。ゲルニドは各ギルドへの協力体制の構築、そしてクロは魔物ギルドの会員の指揮を執る為に作戦の役目を伝えた。
そしてワンワン、ナエ、レイラ、ジェノスはゴリンコの店へと向かい――。
「「「ボスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」」」
ジェノスは仲間達に暑苦しく迎えられた。
「それはこっちの台詞だ。お前もよく生きていてくれた」
クロがジェノスを連れてギルドマスターの執務室に入って来ると、ゲルニドは深々と頭をジェノスに下げていた。
「ワンワン達のおかげです。カーラのスキルも取り除いてくれて……」
「待て。色々と話したい事はあるが、今はあのデカブツをどうするかだ。そっちの対策を話し合おう。話はこれからいつでもできる」
「は、はいっ!」
ジェノスとゲルニドは再会を果たし積もる話もあったが、今はユグドラシルゴーレムの対策を優先する。
「ズバリ聞くが、魔物ギルドで対抗手段はあるか?」
「……正直、月並みの考えしかありません。あいつのコアを見つけて破壊。しかし、あの巨体じゃ……」
「うぬ、職員に聞いたところ岩山のような巨体なのじゃろ? コアを外に露出しとる訳はないじゃろうし、探し出すのは至難の業じゃぞ」
ゴーレム系の魔物は基本はコアが弱点だ。一般的なゴーレムはコアが体の割に大きく、露出している事が多い。しかし体が大きい場合は体内に隠している個体もいる。
今回のユグドラシルゴーレムもまさにその類だろう。それもコアの場所は決まったところにある訳ではない。体が大きいほど見つけるのも一苦労だ。加えてゴーレムには再生能力がある。削り続けなければ、徐々に修復していく。
「実は俺とクロはその魔物を間近で見て来たんだ。少しやり合ってみた」
「っ! それは本当ですか! その、手応えは……」
「正直な話……普通のやり方だと厳しいだろうな。少なくとも攻撃力1,000はないと、あの体に傷はつけられないだろう」
その数値はもはやクロほどの実力者でなければ届かない数値だ。ジェノスも高い方だが700ほど。ゲルニドも魔物を相手している者達でも、滅多に届く事のない数値である事を理解していた。
「1,000……それでは勝ち目なんて……」
「おい、諦めんじゃねえ。お前は今はギルドの代表だろ? しっかりしろ! いいか、普通のやり方では厳しいと言ったんだ。普通じゃないやり方をとれば、たぶん倒せる」
「普通じゃない……やり方、ですか?」
ジェノスがいったい何を考えているのか分からないゲルニドは、目をぱちぱちと瞬く。
「……ところで、ワンワン、ナエ、レイラ。お前達はデカブツと戦ってもいいのか? 逃げるという手もあるぞ。それに戦えば確実に目立つ。この街から出る事も考えないとならねえぞ」
「それは今更じゃろう。クロが出て来た時点でのう」
「うっ……いや、だって、みんな腰が引けちゃってたから」
「ああ、分かっておる。お主なりに考えて顔を出したのじゃろう?」
本当はクロもジェノスのようにフードを被って顔を見られないようにしていた。だが、ギルドの中で多くの人間が戦う事を躊躇しているのを見て、あえて顔を晒したのだ。
それをレイラも理解していた。今は街中が混乱しているので、問題ないが。ユグドラシルゴーレムを倒した後、事態が収束すればクロがチェルノにいる事はあっという間に広がるだろう。
「全員に口止めを……と言いたいところだが、さすがに難しいだろうな……」
「酔っ払った時にでも、勇者と一緒に戦ったと自慢気に喋ってしまうじゃろうな……」
レイラは自分達に絡んで来た酔っ払いを思い出した。
あれほどでないとしても、罰則でもない限り、酒で気が大きくなって思わず口に出してしまう可能性は大いにある。
「まあ、なんとかなるよ…………たぶん。あははは」
「今回は仕方ねえ。あれは必要な事だった……対応は考えておこう。それでワンワンとナエはどうだ?」
魔物ギルドの戦力を減らさない為の行為であったので、クロに対してジェノスは叱りつけるような事はしなかった。そして戦うか、逃げるか、ワンワンとナエにも問いかける。
「私は、とりあえず戦うぜ。色々とこの街は楽しかったからな。危険だと思ったら逃げればいいだろ?」
「ああ。命を賭けてまで戦う必要はない。危険と判断したら逃げるつもりだ。ワンワンは?」
「わうっ! 僕も戦うよ! モンモの屋台とか、服を買ったお店とか、なくなったら嫌だもん!」
ワンワンの言葉を聞いてジェノスは、「そうか……」と呟きながら思わず頬を緩める。チェルノの街を守りたいと思えるほど、初めての街を満喫できたのかと嬉しく思ったのだ。
「よし、それなら考えていた作戦が使えるな。実は幾つかあいつに関しての情報が載った資料があるんだ」
ジェノスは格納鞄から一冊の本を取り出した。それはレイラの生きていた時代の文字に書かれたもの。
「そのような本が……聖域の魔物の生態について、か。今の状況にぴったりの本じゃのう」
「聖域にいた時に読んでて、全ての魔物を頭に叩き込んどいたんだ。おかげですぐにユグドラシルゴーレムだと分かった。資料で読んだよりもかなり巨体だが、ナエとワンワンがいればなんとかなる」
「私とワンワン?」
「わうっ?」
突然名指しされてビクッと体を震わせるナエとワンワン。
「てっきりクロが一番の戦力になるかと思ったけどな……どうして私とワンワンなんだ?」
「あれを倒すにはな、膨大な魔力と強力な魔法が必要なんだよ。今からどうするか説明する」
それからこの場にいる全員に作戦を共有した。特に反対する者はいなかったので、各自は準備をする為に動いた。ゲルニドは各ギルドへの協力体制の構築、そしてクロは魔物ギルドの会員の指揮を執る為に作戦の役目を伝えた。
そしてワンワン、ナエ、レイラ、ジェノスはゴリンコの店へと向かい――。
「「「ボスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」」」
ジェノスは仲間達に暑苦しく迎えられた。
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