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ワンワン初めてのお外
第28話 謎が一つ解けました
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まだ足を踏み入れていない場所の散策を始めて、物珍しさからキョロキョロと忙しなくワンワンは目を動かしていた。おかげでなかなか足を止めなかったのだが、ようやく足を止める。
「あれ、店だよな?」
そう言うナエの視線の先には、他の店と比べて明らかに活気のない店を見つける。隣接する店と比べて客がいるようには見えず、気になりナエは足を止めたのだった。人通りのある道沿いにある店であるから、怪しいものを取り扱っている事はないだろうと入ってみる事にする。
「ここは本屋か? どこもかしこも本だらけだぜ」
「いっぱい本があるよ! 読んだ事ないのがたくさん!」
店の中に入って二人は驚きの声を上げる。右を見ても左を見ても何処を見ても本だった。唯一本がないのは正面の店主の老婆が座っているカウンターくらいだ。
「いらっしゃい。もしかして文字が読めるのかい?」
「読めるぜ。勉強したからな。なあ、ワンワン」
「うんっ!」
「へえ、そうかい、小さいのに貴族の子……ではないね。長く生きてるからね、分かるよ。まあ何処の誰だっていい。大切なのは本が好きなのかって事だよ。どうなんだい?」
「お話を読むのは好きだよ!」
ワンワンの答えを聞いてニヤリと笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと腰を上げて近付いて来た。
「そうかいそうかい。よし、好きに見ていくといい。なんなら一人一冊くらいプレゼントしてもいいよ」
「本当っ!?」
「ああ、いいよ。ゆっくり選ぶといいさ……本はいっぱいあるからねぇ」
「ありがとう! じゃあ、面白そうなの探してみるね! ナエも探そう!」
「あ、ああっ!」
ワンワンとナエは店主の言葉に甘えて、どの本にしようかと選び始めた。そんな本棚に向かう二人の小さな後姿を見て、店主は嬉しそうに笑っている。
「本が好きなのは良い事だ。読めば世界が広がるからねえ」
「そうじゃのう……じゃが、いいのか? 安くても金貨数枚はするもんじゃろう?」
「いいんだよ。別に金が欲しくてやってるんじゃないさ。この店は老後の道楽でやっているんだよ。それに本なんてそんな簡単に手に入るもんじゃないからね。読書家なら一冊や二冊タダでくれてやるよ。本を調度品のように扱う馬鹿には、何百枚と金貨を積まれても売らないけどね」
本は高価なものだ。著名な作家が書き、著名な装丁家が仕上げた本であれば、内容はどうであれかなりの価値がある。また、特にこだわりのない本であっても数があれば、読まなくてもそれだけ知識を備えているというふうに見える。
本には知識を得たりするのではなく、個人の質を高く見せる為の道具の一面もあるのだ。
それを良しとしないこの店主は、確かに商売人ではなく道楽人であり読書家である。
「それとね、ここにある本のほとんどは馬鹿が捨てようとしたところをタダで回収したのさ」
「タダでじゃと? これだけの本を?」
「ある貴族が屋敷が古くなって建て直そうとしたんだよ。そしたら価値が分らんのか、所蔵している本を燃やそうとしてたんだよ。そんな馬鹿な話はないって、慌てて貴族に本を私に寄越せと言ってね。譲って貰ったんだよ」
「その貴族……本の価値を微塵も理解していないのじゃな。売るなら分かるが、燃やすとはのう……」
その貴族はいったい何を考えているのかと呆れ返るレイラ。ここに置かれているほとんどの本がその貴族の所蔵していた本だとしたら、ものにもよるが金貨3,000枚以上はするだろう。
大金を捨てるような行為であり、また下手をすればこの世界から唯一無二の知識や物語を消してしまう可能性もある。そんな貴族とは関わりたくないとレイラは思うのであった。
「呆れるだろう? とりあえず荷馬車に詰め込めるだけ詰め込んで回収して、こうして本が好きな奴に売ってやってる訳さ」
「そんな事があったんじゃのう。それにしても、その貴族の行為にも驚かされたが、お主にも驚かされる。貴族に対して捨てる本を寄越せなんて普通言えないじゃろう?」
「ん? ああ、昔色々とやっててね。そいつには貸しがあって、貸しを三つくらいチャラにしてやるから本を寄越せって言ったのさ」
「いったいどれだけお主に借りがあるんじゃ、その貴族は……」
一般人がそんな貴族にポンポン貸しを作る訳がない。無理に聞くつもりはなかったが、無性にこの店主の正体を知りたくなるレイラだった。だが、意識は次の話に向く。
「儂が死ぬまでに貸しを全部返してくれりゃあいいけどね。ああ、それとこれは話のオマケみたいなもんなんだけど、本を貰った時に不思議な事があったんだよ」
「不思議な事?」
「ああ。一度じゃ馬車に積み切れなかったから、何度か往復しようとしたんだ。だけど戻ってみたら本が全て消えていたんだ。貴族に聞いてみたら誰にも渡してないし、屋敷には私以外誰も来ていないというんだよ。別にいいんだよ、本を持って行くのはさ。大切に読んでくれるならね。だけど煙のように大量の本が消えてしまったのは気になってねえ……」
「…………」
レイラには突然消えた本に関して心当たりがあった。
燃やそうとしていたという事は、捨てるという事になる。そしてまだ店主が引き取っていない本という事は、まだそれらは捨てられた状態だったのかもしれない。そうなると【廃品回収者】の回収対象となる。
ジェノスもどうしてこれほど大量の本が捨てられたのかと首を捻っていたが、おそらくワンワンが回収したのはその貴族の本だろう。
店主には悪い事をしてしまったが、有効活用しているので許してくれとレイラは心の中で謝った。
「しかし、マヤの本があったという事は、その貴族というのは……」
気付いたその可能性を口にしようとしたが、突然聞こえたけたたましい鐘の音で中断させられてしまった。
「あれ、店だよな?」
そう言うナエの視線の先には、他の店と比べて明らかに活気のない店を見つける。隣接する店と比べて客がいるようには見えず、気になりナエは足を止めたのだった。人通りのある道沿いにある店であるから、怪しいものを取り扱っている事はないだろうと入ってみる事にする。
「ここは本屋か? どこもかしこも本だらけだぜ」
「いっぱい本があるよ! 読んだ事ないのがたくさん!」
店の中に入って二人は驚きの声を上げる。右を見ても左を見ても何処を見ても本だった。唯一本がないのは正面の店主の老婆が座っているカウンターくらいだ。
「いらっしゃい。もしかして文字が読めるのかい?」
「読めるぜ。勉強したからな。なあ、ワンワン」
「うんっ!」
「へえ、そうかい、小さいのに貴族の子……ではないね。長く生きてるからね、分かるよ。まあ何処の誰だっていい。大切なのは本が好きなのかって事だよ。どうなんだい?」
「お話を読むのは好きだよ!」
ワンワンの答えを聞いてニヤリと笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと腰を上げて近付いて来た。
「そうかいそうかい。よし、好きに見ていくといい。なんなら一人一冊くらいプレゼントしてもいいよ」
「本当っ!?」
「ああ、いいよ。ゆっくり選ぶといいさ……本はいっぱいあるからねぇ」
「ありがとう! じゃあ、面白そうなの探してみるね! ナエも探そう!」
「あ、ああっ!」
ワンワンとナエは店主の言葉に甘えて、どの本にしようかと選び始めた。そんな本棚に向かう二人の小さな後姿を見て、店主は嬉しそうに笑っている。
「本が好きなのは良い事だ。読めば世界が広がるからねえ」
「そうじゃのう……じゃが、いいのか? 安くても金貨数枚はするもんじゃろう?」
「いいんだよ。別に金が欲しくてやってるんじゃないさ。この店は老後の道楽でやっているんだよ。それに本なんてそんな簡単に手に入るもんじゃないからね。読書家なら一冊や二冊タダでくれてやるよ。本を調度品のように扱う馬鹿には、何百枚と金貨を積まれても売らないけどね」
本は高価なものだ。著名な作家が書き、著名な装丁家が仕上げた本であれば、内容はどうであれかなりの価値がある。また、特にこだわりのない本であっても数があれば、読まなくてもそれだけ知識を備えているというふうに見える。
本には知識を得たりするのではなく、個人の質を高く見せる為の道具の一面もあるのだ。
それを良しとしないこの店主は、確かに商売人ではなく道楽人であり読書家である。
「それとね、ここにある本のほとんどは馬鹿が捨てようとしたところをタダで回収したのさ」
「タダでじゃと? これだけの本を?」
「ある貴族が屋敷が古くなって建て直そうとしたんだよ。そしたら価値が分らんのか、所蔵している本を燃やそうとしてたんだよ。そんな馬鹿な話はないって、慌てて貴族に本を私に寄越せと言ってね。譲って貰ったんだよ」
「その貴族……本の価値を微塵も理解していないのじゃな。売るなら分かるが、燃やすとはのう……」
その貴族はいったい何を考えているのかと呆れ返るレイラ。ここに置かれているほとんどの本がその貴族の所蔵していた本だとしたら、ものにもよるが金貨3,000枚以上はするだろう。
大金を捨てるような行為であり、また下手をすればこの世界から唯一無二の知識や物語を消してしまう可能性もある。そんな貴族とは関わりたくないとレイラは思うのであった。
「呆れるだろう? とりあえず荷馬車に詰め込めるだけ詰め込んで回収して、こうして本が好きな奴に売ってやってる訳さ」
「そんな事があったんじゃのう。それにしても、その貴族の行為にも驚かされたが、お主にも驚かされる。貴族に対して捨てる本を寄越せなんて普通言えないじゃろう?」
「ん? ああ、昔色々とやっててね。そいつには貸しがあって、貸しを三つくらいチャラにしてやるから本を寄越せって言ったのさ」
「いったいどれだけお主に借りがあるんじゃ、その貴族は……」
一般人がそんな貴族にポンポン貸しを作る訳がない。無理に聞くつもりはなかったが、無性にこの店主の正体を知りたくなるレイラだった。だが、意識は次の話に向く。
「儂が死ぬまでに貸しを全部返してくれりゃあいいけどね。ああ、それとこれは話のオマケみたいなもんなんだけど、本を貰った時に不思議な事があったんだよ」
「不思議な事?」
「ああ。一度じゃ馬車に積み切れなかったから、何度か往復しようとしたんだ。だけど戻ってみたら本が全て消えていたんだ。貴族に聞いてみたら誰にも渡してないし、屋敷には私以外誰も来ていないというんだよ。別にいいんだよ、本を持って行くのはさ。大切に読んでくれるならね。だけど煙のように大量の本が消えてしまったのは気になってねえ……」
「…………」
レイラには突然消えた本に関して心当たりがあった。
燃やそうとしていたという事は、捨てるという事になる。そしてまだ店主が引き取っていない本という事は、まだそれらは捨てられた状態だったのかもしれない。そうなると【廃品回収者】の回収対象となる。
ジェノスもどうしてこれほど大量の本が捨てられたのかと首を捻っていたが、おそらくワンワンが回収したのはその貴族の本だろう。
店主には悪い事をしてしまったが、有効活用しているので許してくれとレイラは心の中で謝った。
「しかし、マヤの本があったという事は、その貴族というのは……」
気付いたその可能性を口にしようとしたが、突然聞こえたけたたましい鐘の音で中断させられてしまった。
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