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閑話
乙女に捧げる恋の花⑤
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「珍しいー。何してるの?ニファ」
驚いた顔で街灯の許に現れたのは、よく知った人物だった。
透明感のある金髪に、エメラルドのような緑色の瞳。見栄えのする整った面。
口を開かなければそれなりに女性受けする、その残念な男は。
「ハリスト、久しぶりですね。
またさぼりですか」
意図せずほっと安堵の息を吐いてしまった私は、鞄の中の短剣から手を離した。
「鎧着てるの見えない?見回りの当番だよ。
ニファこそ酔ってるなんて珍しいな」
「ええまあ。たまには」
「ふうん、俺が知る限り城勤めしてから初めてだと思ったけど。友達できて良かったね。
そちらのご令嬢は大丈夫?」
「えと、ああ。みたことあります。
第六きしだんのへんたいさん」
「兵隊じゃないよ、騎士」
「あなたですよね、イグニシオンさんにぞっこんのへんたいさんて。
イグニシオンさんからきいたこと、あります」
「………聞き間違いじゃないみたいだぞ、ハリスト」
「えっイグニシオンさんが俺の事話したのー?
ほかには?あとどんな風に貶してくれた?」
「何で喜んでるんだよ。
諸々を訂正しないのかお前は」
ハリストの隣に呆れ顔で立つのは、彼と同じ鎧を着こんだひとの良さそうな男性だった。
「ハリストと組まされるとは御愁傷様です。
夜明けまで残り五時間ほどですが耐えて下さいね」
「え?ああ俺は同期で付き合い長いから、もう馴れたよ。
というか随分なこと言うんだね……
知り合い?」
「城勤めのメイドのニファだよ。
俺の幼馴染みで婚約者」
「はっ!?こんな知的美人が!?なんで!?」
「お褒めにあずかり光栄です」
「大分酔ってるねニファ。思ってる事全部出てるよ」
苦笑いする幼なじみから、つんと顎を背ける。
酒を飲んでも顔色も変わらないし、意識もはっきりしている私が酔っていると見抜くのは、悔しいけれど今までハリストしかいなかった。
「こんな遅い時間まで、女性二人で飲んでたのか。大丈夫だった?
酔っ払いにからまれたりとかは」
「へーきですよ、二ファさんがひと睨みでおいはらってくれましたから」
「そ、そうなんだ」
「わたしと違って美人さんですからねぇ。
さすが、追い払いかたも慣れていて」
「マルーセル様めあての不届き者でしたのでつい」
「貴女もじゅうぶん可愛いと思うけど?」
へらりと笑ったマルーセル様に、私ともう一人の騎士が否の声を上げた。
おや、と思い私は改めてもう一人の騎士に向き直る。
「マルーセル様の可愛らしさを理解できるなんて、見る目がありますね。
貴方、お名前は」
「僕?ヤノスと言いますが」
いかにもひとの良さそうな顔立ちの、茶色い瞳が戸惑うように瞬きする。
がっしとその手を取って握手しつつ、私はうんと頷いた。
「ぜひ友人になりましょうヤノスさん。
マルーセル様も。きっとお話が合うと思います」
「へっ?と、友達ですか?構いませんけど……
距離の詰め方凄いな、お前の婚約者さん」
「めっちゃ貴重。こんな二ファ見たことない。
ふうん、自分から知らない男の手を取る事あるんだ」
「なんだ、嫉妬とか止めてくれよ」
「し……え、これ嫉妬?そうなの?」
「僕がわかるかよ」
ぶんぶんと私に手を掴まれながら、何事も無いようにハリストと会話をするヤノスさん。
思ったより肝の座った人物だ。やっぱり見どころがある。
「わたしもですかぁ、じゃあよろしくおねがいしますねー」
マルーセル様はふわふわと笑いながら、空いたヤノスさんの手を掴んで私のようにぶんぶん振り始めた。
「あのぉ手がちぎれますって」
「ふぅーん、よかったねヤノス両手に花で。
自慢してるの俺に」
「そんなわけないだろ……いいから助けてくれ……」
それから私達は、夜道は危ないだろうと騎士二人に城まで送って貰う事になった。
流れで私がハリストの手を取って、なぜか四人並んで手を繋ぎ、小声でつい歌など歌いながらゆっくりと歩いていく。
星の瞬く静かな街中をこんなふうにふざけて歩くのは、子供の時分に戻ったようで、案外楽しかった。
驚いた顔で街灯の許に現れたのは、よく知った人物だった。
透明感のある金髪に、エメラルドのような緑色の瞳。見栄えのする整った面。
口を開かなければそれなりに女性受けする、その残念な男は。
「ハリスト、久しぶりですね。
またさぼりですか」
意図せずほっと安堵の息を吐いてしまった私は、鞄の中の短剣から手を離した。
「鎧着てるの見えない?見回りの当番だよ。
ニファこそ酔ってるなんて珍しいな」
「ええまあ。たまには」
「ふうん、俺が知る限り城勤めしてから初めてだと思ったけど。友達できて良かったね。
そちらのご令嬢は大丈夫?」
「えと、ああ。みたことあります。
第六きしだんのへんたいさん」
「兵隊じゃないよ、騎士」
「あなたですよね、イグニシオンさんにぞっこんのへんたいさんて。
イグニシオンさんからきいたこと、あります」
「………聞き間違いじゃないみたいだぞ、ハリスト」
「えっイグニシオンさんが俺の事話したのー?
ほかには?あとどんな風に貶してくれた?」
「何で喜んでるんだよ。
諸々を訂正しないのかお前は」
ハリストの隣に呆れ顔で立つのは、彼と同じ鎧を着こんだひとの良さそうな男性だった。
「ハリストと組まされるとは御愁傷様です。
夜明けまで残り五時間ほどですが耐えて下さいね」
「え?ああ俺は同期で付き合い長いから、もう馴れたよ。
というか随分なこと言うんだね……
知り合い?」
「城勤めのメイドのニファだよ。
俺の幼馴染みで婚約者」
「はっ!?こんな知的美人が!?なんで!?」
「お褒めにあずかり光栄です」
「大分酔ってるねニファ。思ってる事全部出てるよ」
苦笑いする幼なじみから、つんと顎を背ける。
酒を飲んでも顔色も変わらないし、意識もはっきりしている私が酔っていると見抜くのは、悔しいけれど今までハリストしかいなかった。
「こんな遅い時間まで、女性二人で飲んでたのか。大丈夫だった?
酔っ払いにからまれたりとかは」
「へーきですよ、二ファさんがひと睨みでおいはらってくれましたから」
「そ、そうなんだ」
「わたしと違って美人さんですからねぇ。
さすが、追い払いかたも慣れていて」
「マルーセル様めあての不届き者でしたのでつい」
「貴女もじゅうぶん可愛いと思うけど?」
へらりと笑ったマルーセル様に、私ともう一人の騎士が否の声を上げた。
おや、と思い私は改めてもう一人の騎士に向き直る。
「マルーセル様の可愛らしさを理解できるなんて、見る目がありますね。
貴方、お名前は」
「僕?ヤノスと言いますが」
いかにもひとの良さそうな顔立ちの、茶色い瞳が戸惑うように瞬きする。
がっしとその手を取って握手しつつ、私はうんと頷いた。
「ぜひ友人になりましょうヤノスさん。
マルーセル様も。きっとお話が合うと思います」
「へっ?と、友達ですか?構いませんけど……
距離の詰め方凄いな、お前の婚約者さん」
「めっちゃ貴重。こんな二ファ見たことない。
ふうん、自分から知らない男の手を取る事あるんだ」
「なんだ、嫉妬とか止めてくれよ」
「し……え、これ嫉妬?そうなの?」
「僕がわかるかよ」
ぶんぶんと私に手を掴まれながら、何事も無いようにハリストと会話をするヤノスさん。
思ったより肝の座った人物だ。やっぱり見どころがある。
「わたしもですかぁ、じゃあよろしくおねがいしますねー」
マルーセル様はふわふわと笑いながら、空いたヤノスさんの手を掴んで私のようにぶんぶん振り始めた。
「あのぉ手がちぎれますって」
「ふぅーん、よかったねヤノス両手に花で。
自慢してるの俺に」
「そんなわけないだろ……いいから助けてくれ……」
それから私達は、夜道は危ないだろうと騎士二人に城まで送って貰う事になった。
流れで私がハリストの手を取って、なぜか四人並んで手を繋ぎ、小声でつい歌など歌いながらゆっくりと歩いていく。
星の瞬く静かな街中をこんなふうにふざけて歩くのは、子供の時分に戻ったようで、案外楽しかった。
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