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十一章
夢
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夢を見ていた。
アズヴァルドの宿屋で交わした、ごく最近の会話。
「サークはさ、キスがうまいんだよな」
唐突にルーナが切り出して、オレは眉をしかめる。
今度は一体何を言い出すのか。
「あんまり素直に本心を話さないせいかな。
技術が凄いとかそういう事じゃなくて、その真逆なんだけど。
すごく優しくて丁寧に触れてくるから、その分何倍も感情が伝わってくるんだ」
「……ルーナ、動けなくて暇だからって恋愛小説の読みすぎじゃないの……
大体息子のオレにそんな話するなよ」
「ああごめん。この本の事を話したかったんだ。
主人公の男が、やたら強引にヒロインにキスするんだよ。
女性側も拒否すらせず受け入れるし、回数が増えるほどに好意をもっていくんだけど。
いくら男性が魅力的でも、惑わされっぱなしなのが納得できないんだ。
普通は嫌悪感とか少しはわかないのかなとね。
タリュスも読んでみる?」
サイドテーブルに積んである本を指で示されるけれど、オレは首を横に振った。
「いらない。
……ルーナ、サークのそういうの、他人と比較出来るんだ……?」
「嫌だな、サーク以外とする訳ないだろ気持ち悪い。
あくまで本の知識だよ」
「……ああそう。
あのさ、前から聞きたかったんだけど。
ルーナは他の人とふれるのが嫌でも、サークに他の相手がいるのはいいわけ?
……オレにサークを落とせなんて言っただろ」
「そのことか。
相手を縛り付けたいとか、そういうふうに一人に固執する感覚が、わたしはそもそも薄いんだ。
近親者で子供を設ける悪習の中で育ったせいだろうな。
だからサークが君を好きになって、恋人として扱うのに抵抗なんて無かったよ。
むしろそれでいいとすら思ってた。
わたしがロフィリードに連れ戻されても、サークの側に君がいるなら寂しくならないだろうと打算的に考えたんだ。
まあ……結果、君達を怒らせてしまった。
それで人間の夫婦の在り方を改めて理解したんだ。
サークがわたしだけを愛し抜いてくれるのは確かに、とても嬉しいし幸せだと思えるよ」
「……ふうん」
オレは重くソファーに身を沈める。
完全な勝利宣言を母親にされてしまった。
それでもまだ、諦めの悪い自分が存在し続けている。
ーーだから、今さらルーナの言葉が解ってしまう。
サークが自分をどれだけ愛していたのか。
最期に重ねられた唇から、胸に染み入るように伝わってきた想い。
……どうして、返すことのできない状況になってから伝えてきたんだ。
オレの想いは、サークが消えてしまったら行き場を無くしてしまうのに。
きらいだ。
サークなんて。
だいきらいだ。
アズヴァルドの宿屋で交わした、ごく最近の会話。
「サークはさ、キスがうまいんだよな」
唐突にルーナが切り出して、オレは眉をしかめる。
今度は一体何を言い出すのか。
「あんまり素直に本心を話さないせいかな。
技術が凄いとかそういう事じゃなくて、その真逆なんだけど。
すごく優しくて丁寧に触れてくるから、その分何倍も感情が伝わってくるんだ」
「……ルーナ、動けなくて暇だからって恋愛小説の読みすぎじゃないの……
大体息子のオレにそんな話するなよ」
「ああごめん。この本の事を話したかったんだ。
主人公の男が、やたら強引にヒロインにキスするんだよ。
女性側も拒否すらせず受け入れるし、回数が増えるほどに好意をもっていくんだけど。
いくら男性が魅力的でも、惑わされっぱなしなのが納得できないんだ。
普通は嫌悪感とか少しはわかないのかなとね。
タリュスも読んでみる?」
サイドテーブルに積んである本を指で示されるけれど、オレは首を横に振った。
「いらない。
……ルーナ、サークのそういうの、他人と比較出来るんだ……?」
「嫌だな、サーク以外とする訳ないだろ気持ち悪い。
あくまで本の知識だよ」
「……ああそう。
あのさ、前から聞きたかったんだけど。
ルーナは他の人とふれるのが嫌でも、サークに他の相手がいるのはいいわけ?
……オレにサークを落とせなんて言っただろ」
「そのことか。
相手を縛り付けたいとか、そういうふうに一人に固執する感覚が、わたしはそもそも薄いんだ。
近親者で子供を設ける悪習の中で育ったせいだろうな。
だからサークが君を好きになって、恋人として扱うのに抵抗なんて無かったよ。
むしろそれでいいとすら思ってた。
わたしがロフィリードに連れ戻されても、サークの側に君がいるなら寂しくならないだろうと打算的に考えたんだ。
まあ……結果、君達を怒らせてしまった。
それで人間の夫婦の在り方を改めて理解したんだ。
サークがわたしだけを愛し抜いてくれるのは確かに、とても嬉しいし幸せだと思えるよ」
「……ふうん」
オレは重くソファーに身を沈める。
完全な勝利宣言を母親にされてしまった。
それでもまだ、諦めの悪い自分が存在し続けている。
ーーだから、今さらルーナの言葉が解ってしまう。
サークが自分をどれだけ愛していたのか。
最期に重ねられた唇から、胸に染み入るように伝わってきた想い。
……どうして、返すことのできない状況になってから伝えてきたんだ。
オレの想いは、サークが消えてしまったら行き場を無くしてしまうのに。
きらいだ。
サークなんて。
だいきらいだ。
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