この恋は無双

ぽめた

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十章

最悪の

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 誰かが叫んでいる声がする。

 それがサークを呼んでいて、必死な響きであることに気がついた僕は、焦りとともに全身に力を込める。

 ……サーク?

 ずるずると這いずり、声のするほうへとようやく身体を向けた僕の視界が、衝撃で狭くなった。

「あ、あ……っ」

 サークが地面に横たわっていた。

 ウィルに頭を抱えられているけれど、全身から力が抜けている。

 魔力を失いすぎて、昏倒したのだろうか。
 いや、でも。

 嫌な予感に突き動かされて、僕は動かない身体を無理やり動かして地面を這う。
 みっともないとかは欠片も思わない。

 早く、早く側に行って無事を確かめなきゃ。その一心で。

「サークス、おい!?」

 ようやく聞こえるようになってきた耳に、ウィルの焦る声が響く。

 いつもより魔力の戻りが遅い事に気付き、胃の腑が灼き切れそうな程腹が立った。

 途中で護衛騎士のひとりが這いずる僕に気がついて、慌てたように抱え起こしてくれた。

「大丈夫か?怪我は」

「な、い。お願いだ、それより僕を早く、サークのところに」

「わ、わかった」

 肩を貸してもらってふらつきながらもサークのもとへ着くと、ウィルが僕を焦燥の顔で見上げてきた。

「少年、君は……なんとか無事のようだな」

 頷いて騎士に身体を放してもらうと、やはり力が入らずがくりとサークの側にうずくまってしまった。

「……っ、これ……なんだよ」

 サークの体から薄い燐光がきらきらと上がり、宙に溶けているのに気がつく。

「体が、透けてる……?」

 かしゃり、とちいさな金属音がした。

 見れば、精巧な細工の懐中時計が落ちていた。

 サークの服から落ちたらしいそれは、まるで火の中に投げ込んだように煤けてひしゃげている。

「あー……ここまで、みたいだな……」

「っ、サーク!」

 弱い声に時計から目を上げると、サークは燐光に包まれながら薄く笑っていた。

「俺にかかってた時の精霊の契約、奪われた……
 さいごの、エクリープスの攻撃……
 防ぎ、切れなか……
 は、さいごまで、情けねー……」

「サーク……嘘だろ、消え、……」

「時を止めてた反動……俺の存在、そのもので代償を、払う契約の解除、失敗した」

「しっぱい、って、じゃあ……?
 だっ駄目だ、サーク、いなくなるなんてダメだ!
 まだ……まだ伝えてないこと、いっぱい、ある…………」

 僕はなんとか半身を起して、ウィルの腕からサークを奪うように抱きついた。

 僕の腕の中で、柔らかくサークは笑う。

「なんで、わらってんだよっ……!
 そうだ、止め方おしえてよ、なにかあるんだろ!?僕だってできるから!」

 ぼろぼろと涙を溢す僕の頬を、両手で包むように触れ、親指で涙を拭う。

 その指も、向こう側が透けて地面が見えていた。

「止めるなら、また、おなじ術、かけ直さなきゃ、なんねーし…………んなの、ごめんだ」

「嘘だ、やだよサーク!僕、僕は、だれより、サークを……まもりたかった、のに」

「タリュス」

 強く名前を呼ばれてはっとする。

 だいすきな金色の瞳は、こんな時でも力強かった。

 ぐっと思いがけず強い力で、頭の後ろを引き寄せられた。



 そっと唇が触れ合う。

 二度、三度と啄むようにキスをして。

 サークが微笑んだ。




「愛してる」




 ーーーいままでみたえがおのなかで、いちばん、きれいだ。

 一際激しい光が全員の視力を奪う。





 そこにはもう、サークの姿は跡形もなかった。




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