この恋は無双

ぽめた

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六章

SS・今日くらいは素直でいい

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 ※リアタイ便乗第二弾です※
 どこかの時空軸なので、タリュス君の年齢はお好みの大きさでお楽しみ下さい!



 □□□□□□□□


 珍しくリデンの街まで一人で出かけていた俺は、がさがさと嵩張る荷物を片手に家の扉を押し開いた。

「お帰り、遅かったね」

「帰ったぞ。今日もおかみの長話に捕まった」

 部屋にいたはずのタリュスの返事がキッチンの方から返ってきた。ふわりと室内に漂う紅茶の香り。
 タリュスは二人分の紅茶とラスクを盆に載せ、ソファーの前のテーブルに置いた。俺は持っていた荷物を持って二階への階段を上がる。

 少し前に筆記具が壊れたので修理を頼んでいて、出来上がり日に取りに行っていたのだ。
 部屋に荷物を置いて降りて行くと、タリュスが声をかけてきた。

「ちょうど休憩しようと思ってたんだ。
 サークもどう?」

「もらう」

 ソファーに座っていたタリュスに並んで腰を下ろし、俺は「ん」と小さな紙袋を差し出した。

「やるよ」

「なに?これ」

「今日バレンタインだから。店で客に配ってたのを貰ってきた」

「ばれんたいん」

 タリュスは不思議そうに首を傾げる。

「それって特別ななにかがあるの?」

 問いかけられて、紅茶のカップを口許に運ぶ途中で俺は動きを止めた。

「……知らねぇか」

「うん」

「あー……そっか、あんま出かけてねぇもんな……学校にも通ってねえし。
 なんか悪い」

「へ?そんなに当たり前の事なの?
 皆知ってる?」

「命賭ける奴もいるらしい行事な」

「そんなに凄いの!?」

 驚くタリュスを横目に、俺はひとくち紅茶を飲んでカップを下ろし、紙袋からきちんと包装された可愛らしい箱を取り出した。

「バレンタインてのは、好きな奴に贈り物をして告白する日。だいたいはチョコレートを渡す。
 学校に通ってりゃ嫌でも巻き込まれるんだがな」

「……へえー……」

 ざっくり説明してやると、感心したように瞬きしつつ、タリュスは箱を受け取って中身を開け始めた。

「あ、ほんとだ。チョコレート入ってる」

「食べていいぞ」

「これをくれた人は、サークの事、す……好きだって事……なの?」

「そういう訳じゃねえよ。世話になってる奴に、いつものお礼の意味で配られたりもすんだよ。
 義理ってやつ」

「ぎり……これも、義理?」

「当たり前だろ。なんで旦那のいる雑貨屋のおかみから本気のチョコレート来るんだよ」

「そっか。これはいつものお礼なんだね」

 ほっとしたように微笑んで、タリュスは箱をテーブルに戻した。
 ひとくち紅茶を飲んでから、はたとタリュスの大きな瞳がこちらを見る。

「サークって、魔術師の塔で学校に通ってたんだよね」

「ああ」

「……もしかして……本気のチョコレート、もらったことあるんじゃないの」

 動揺に蒼い瞳が揺れている。

「生徒んときも教職のときも、持ってくる奴はいたが受け取った事はねぇな」

「……アーシャさんとか?」

「あいつだけじゃねえけど」

「いっぱい貰ったんだね……」

「受け取ってねえよ。
 あのな、俺が何処にいたと思ってんだ。魔術師しかいねえんだぞ。
 大抵チョコレートの菓子を手作りで持ってくるんだ。中に何が混ぜられてるか分かったもんじゃねえのに、貰うわけねえだろうが」

「異物混入……?」

「惚れ薬だの媚薬だの、下手したらそういう効果の魔術が仕掛けられてたりな。
 全部つっ返すに決まってんだろ」

「それは……怖いね、確かに」

 顔色を悪くするタリュスに、だろ?と俺は肩をすくめた。

 ……まあ、それでなくても。
 欲しいと思う相手以外から、んなもん渡されたくはないが。

「でもそれくらい、皆必死になるんだね。
 学校とかで、どういうふうに渡すのかな」

「まあ普通、こそこそ陰で渡してたな。授業終わってから、人気のない所とかで」

「へえー……なんか、どきどきするかも。
 ねえ、サークだったらどんな風に渡すの?」

「……あ?やった事ねえのにわかるかよ」

「ちょっとだけ。試しにやってみて?」

 なんだか楽しそうなタリュスに促され、はいこれと箱を持たされた俺はしばし考える。

 バレンタインに乗っかる気になった事は一度もない。前述の理由で、なんなら避けたいものですらあったのだ。
 それでも学校にいた間は、運悪く誰かの告白の現場に出くわしてしまった事もあったのを朧気に思い出す。
 その時は、確か男の方から告げていたと思う。
 校舎の裏手で、たまたま通りかかった時に聞こえてしまったのだ。
 真っ赤な顔で、それでも相手をまっすぐ見つめて。
 あの頃は下らないどうでもいいと感じていたが。

 期待に満ちたタリュスのきれいな面を見つめ返せば、どうしてか自然と、その時の男と同じ言葉が口を突いた。

「好きです。俺と付き合って下さい」

 我ながら思ったよりも真剣な声が出た。

 タリュスの反応を待ってじっと見つめる。

 やがてじわじわと、白い面が首から真っ赤に染まって行った。

「なっ、な、そんな、かんじに……!?
 しかもけ、敬語はずるいってば!普段ぜったい言わないのに……!」

「何がだよ。ちゃんと希望に応えてやったろ」

「そうだね、うん、あ、ありがと」

 頬を染めて慌てるさまがあまりにもかわいいので、俺は笑ってタリュスの頭を撫でた。
 乗せられてやったはずなのに、なんだかやたらと気分がすっきりしている。

「で?返事はくれんのかよ」

 からかうつもりで顔を近づけてやると、案の定タリュスは口ごもる。

 まあ何も言い返せないだろう。

 そう思って、冗談だと告げてやろうとした、その時。

「……はい。よろしくお願いします」

 恥じらいながらもはっきりと、上目遣いでそう答えてきた。

 ……今度は俺の方が言葉に詰まる番だった。

 しばらく二人で見つめ合う。

 らしくなくガキみたいに動揺していると、こてんとタリュスは首を傾げた。

「ね、付き合うって、なに?」

 そこからか。

 学校に通うどころか、幼いころからずっと俺と二人きりなのだ。そういう知識を持ち合わせてるはずもない。

 可笑しくなって俺はつい、ふはっと吹き出してしまった。

「後でクロエにでも聞けよ。
 とりあえずこのチョコ食っとけ」

「ええー……教えてくれてもいいのに」

 むうと頬を膨らませながらも、素直にかさかさと箱を開けてタリュスはチョコレートを頬張った。

 なんだか拍子抜けしたような。残念なような。

 ……残念?
 なにがだよ……

 自分の不可解な思考に眉をひそめていると、隣の小さな肩がふらりと揺れてもたれかかって来た。

「どうした?」

「んん、あのね……なんか、このチョコ……変わった味がしてね……ぼーっとしてきちゃった」

 見下ろしたタリュスの顔が、なんだかやけに目元がとろんとしていた。
 嫌な予感がして紙袋を逆さにすると、メッセージカードがぽろりと落ちてくる。

「……ちょっぴりだけときめく刺激を足しておきました。お子様には食べさせないでね……」

 ときめき?
 どんなふざけた真似しやがった、あのおかみ。

 残っているチョコレートをひとつ取り上げて、探知の魔術を試してみる。

「……ざけんなよ……
 なんで媚薬いれてんだ……!」

 ほんの微量なのだが、どうやら俺の相棒には効果がてきめんに出ているらしい。

「……かぜひいたのかも……
 なんか、あついみたい……」

「おい落ち着け。これ飲めとりあえず」

 慌てて紅茶のカップを差し出しながら、俺は過剰に色気を放ち始めた桃色の頬のタリュスを見つめ、盛大なため息をついた。

「……忍耐試されるとか冗談じゃねえぞ……」

 甘いチョコレートに振り回される日は、まだ始まったばかりのようだ。









 □□□□□□□


 はい、リアタイ便乗、第二弾です。

 急に思いついて、ずーーーーっと今日一日、書きたい内容を考えて考えて、しごと終わっていっそいで書き上げました!

 おなかすきました!

 一時間半くらいで、たったいまばーっと書いたのでうみたてほやほやです。

 いつもはずっと前に書いたものを、何度も見返してから投稿してるので、誤字とか足したいところとかありそうでどきどきしております。

 たまにはこういうのもいいよね?

 また気が向いたらなにかやります!

 ありがとうございました!

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