この恋は無双

ぽめた

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五章

ようやく解放されました

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 それから三日が経ち、雨季も明けるのか晴れ間が多くなってきた明るい午前中に、ディルムおじさんがやって来た。勿論クロエも一緒だ。

「嫌ぁねルーナさんてば。仕事から戻った二人を泥棒と間違えて手錠嵌めちゃうなんて」

「はは、ごめんごめん。
 一人で留守番だから過敏になってたんだ」

 いつもの配達の品と一緒に旅行のお土産のお菓子を携えて怒るクロエに、さらりと嘘をついて笑うルーナ。
 繋がれてから定位置になったリビングの椅子に腰掛けた僕とサークの前に、苦笑いしてディルムさんが小さな小箱を置く。

「ほら鍵だ。しかし間が悪かったなあ。
 旅行に行ってなきゃすぐに鍵を渡せたのに。
 不便したろう」

「……ほんとにな」

「僕は馴れたかも」

「なんだか二人とも落ち着いてるな。
 どっかまだ遠慮してた感じが消えてないか?」

 ディルムおじさんが首を傾げている。

 ルーナの言うとおり、片時も離れないで暮らす間にサークとの会話はとても多かったし、気が付かなかったお互いの癖やなんかを改めて知れたのだ。

 数日前にハリスト君が新婚みたいだなんて言っていたのも、こういう風にお互いを深く知る事で滲み出る空気の事を指していたんだと思う。

 本当は離れてしまうのが名残惜しい。
 きっとサークはそんなこと思ってないんだろうけど。
 寂しいなんて感じているのは、きっと僕だけ。

 そう思うと、知らずに小さくため息がこぼれた。

「何日も嫁と二人三脚してみろ。
 そうしたら解るだろうよ」

「……タリュスが、嫁なの……?」

「似たようなもんだ」

 あっさりと言うサークにクロエが後ずさる。

「そうなのタリュス!?」

「え、何?」

 こっそり落ち込んでいたので、会話が耳に入っていなかった。
 首を傾げた僕に、わなわなとクロエは両手を震わせている。
 小箱の横に食料を並べながら、ディルムおじさんが言った。

「……まあうちは間違いなく喧嘩になるだろうから遠慮するよ。
 お前さん達ほど仲が良いわけじゃないからな」

「ちょっと父さん?嘘ついてると母さんに言いつけるわよ。
 毎年のこの旅行だって母さんへの誕生日プレゼントのくせに」

「よ、余計な事を言うな!ほらさっさと帰るぞ」

 慌てて麻袋などを片付け、ディルムおじさんは背を向ける。

 仲良し夫婦なんだなあ。羨ましい。

 不満げに唇を尖らせながらもディルムおじさんの後を追うクロエに、またねと手を振る。

「次はもう少し時間があるときに来るわね。
 旅行の話を聞かせてあげる」

「うん。楽しみにしてるよ」

 クロエ達が帰ったあと、小さな小箱を前に僕とサークは押し黙る。

「さて。やっと自由に動けるな」

「……ん。ルーナの魔術解くの、間に合わなかったね」

「最後の仕掛けさえ解ればな……
 一言なんか宣言すれば外れたんだが」

 ぼやきながらサークが小箱を開けると、確かに中には小さな鍵が納められていた。
 かけられた手錠の鍵穴に鍵を差し込んで回すと、カチリと音をたてて輪が外れテーブルの上に落ちる。

「もう取ったのか。
 つまらないな、サークが解くのを楽しみにしてたのに」

 反対側のテーブルに頬杖をついたルーナは不満そうだ。
 拘束されていた左側の肩を回しながら、サークは半眼で睨んでいる。

「もう外れたんだから教えろ」

「簡単だよ。愛を誓いあえば良かったんだ。
 最後に組み込んだのは、古くから伝わるエルフの結婚の誓いだから」

 僕達は無言で別れを告げた手錠を見つめる。

「お互いの意思に基づく宣言だから定形の言葉じゃないし、確かに難しかったかな」

「……お前なあ……わかるかそんなん!」

 激昂したサークがばんっと拳でテーブルを叩く。僕は脱力してしまい、腕を伸ばしてテーブルに突っ伏した。
 ああ、右手が自由っていいな……

「いや、見たかったから」

「馬鹿抜かせ!よりによってお前がっ……
 息子を男に嫁がせる母親がどこにいるんだよく考えろ!」

「君なら関係ないだろ、そんな些細な壁」

 意味深にルーナは笑みを深くして、じっとサークを見つめる。

「少なくともわたしの息子にはその覚悟がある。
 君はどうだ?尻込みしているのを恥とは感じないか」

「恥とかそういう問題じゃねえ。道理の話だ。
 お前こそ何を焦ってる」

「君にちゃんと託したかっただけだよ」

「……二人とも、何を言ってるの……」

 いつの間にか僕に解らない論点で言い合っている。
 二人は深刻な顔で真っ向から睨み合い、同時にふいっと顔を背けた。

「このわからず屋め」

「お前こそ勝手に決めてんな頑固者」

「何の事かわかんないけど、喧嘩しないで。
 ほら、お土産開けてみよう?王都で売ってた、ランドール国の有名なお菓子だって。
 僕行ったことないけど、二人は知ってる?」

「……大河と大森林のある美しい国だよ。
 よく知ってる」

 どこか懐かしそうにルーナは小さく微笑み、サークに視線を戻す。

「魔術大国名乗ってるのが気に入らねえが、行ったことはある」

「魔術師の塔との違いって何なの?」

「あの国は貴族連中が代々強い魔力を持って産まれる事が多いな。
 だからか上位精霊との契約も代々遺伝して、そういう奴は魔術師団のエリートになるのが約束されてる。
 塔の魔術師は自分で魔力の拡張と知識の研鑽を重ねて契約してくからな。
 生まれつき上位精霊が側にいる奴らにしてみれば、下らない努力してるように感じるんだろ。
 だからかこっちを端から見下してきやがる」

「……もしかして、揉めたことある……?」

「売られた喧嘩は買って叩きのめす主義だ」

 お菓子を頬張りながらサークは事も無げだ。

「昔から変わらないね、そういう所」

 可笑しくなって笑うと、場の空気が和やかになる。お茶を淹れてくるねと立ち上がるルーナも、いつもの様子に戻っていた。
 表面上は僕も何事もないように振る舞うけれど、内心は先程の二人が話していた意味を考える。

 サークに僕をちゃんと託すって……どういう意味なんだろう。







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