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一章
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しおりを挟む少し重たい展開です
子供が悪意に晒されたり、暴力を振るわれる描写があります
********************
一時的な記憶障害。
「それ」は突然に、唐突に起きたのだ。
当時は、ハウィンツにもローズマリーにも婚約者が居た。
当時からハウィンツもローズマリーも覚えが良く、また整った容姿だった事もあり婚約の申し入れは山のように来ていたのだが、ハウィンツには家格の釣り合う二つ年下の女の子が、ローズマリーには家格が上の侯爵家の嫡男の婚約者が居た。
始めは、ハウィンツの婚約者も、ローズマリーの婚約者もリズリットに優しかった。
将来、義妹になるのだからとリズリットを良く遊びに連れ出したり、ハウィンツやローズマリーに予定がありリズリットの面倒を見れない際には面倒も見てくれていた。
けれど、精霊の祝福を得ず、兄や姉のように秀でた部分のないリズリットを何処か心の中で蔑む気持ちがあったのだろう。
そして、自分達は優れた人物の婚約者に選ばれたと言う驕りがあった。
だからこそ、年月が経つにつれてリズリットへの態度が冷たく変化し、ハウィンツやローズマリー、他の人間が居る前では微塵も態度には出さなかったが、リズリットと二人きり、もしくは婚約者二人とリズリットの三人で過ごしていた時は言葉にするのも、思い出すのも嫌悪してしまう程の態度で幼いリズリットと過ごしていた。
そして、突然にその日は訪れた。
いつものように、ハウィンツとローズマリーの婚約者がマーブヒル伯爵邸に遊びに来た日。
ハウィンツとローズマリーは家庭教師の授業が伸びていて、いつものようにリズリットを見ていると言った婚約者二人にあっさりとリズリットを任せてしまった。
そして、子供部屋で遊んでいるリズリットの元に婚約者を先に行かせ、自分達は後から合流する予定だった。
そして、ハウィンツの授業が終わり、子供部屋に向かって廊下を歩いている時。
突然リズリットの叫び声が子供部屋から響いたのだ。そして、次いで小さな爆発音がした。
「──リズ!」
ハウィンツは、リズリットに何か起きたのかと急いで子供部屋に向かい、扉を開けて中の惨状を目にした瞬間、我が目を疑った。
あろう事か、自分達の婚約者は、幼い妹を相手に精霊と契約した時に得た能力を使用する為の実験台にしていたのだ。
中級精霊から祝福を受けて契約すると、生活魔法を使用出来て、簡単な攻撃魔法を使用出来るようになる。
だから、婚約者達は面白半分で幼いリズリットを相手に攻撃魔法の練習をしたのだ。
そして、暴発してしまった炎魔法がリズリットに当たってしまい、部屋の中で小さな炎が上がり室内は炎と煙が充満していた。
リズリットは直ぐに助け出され、ハウィンツとローズマリーの婚約者達の所業が直ぐに明るみに出た為、婚約破棄と賠償を行わせたがそもそも精霊の力を悪用した罪はこの国では重罪にあたる。
後日、国からの処罰を受けた二つの家はひっそりと表舞台から消え、今では隣国に移り住んだようだが悲惨な末路を辿った事は想像にかたくない。
その時の怪我と、今までのストレスからかリズリットは一時的に記憶を無くし、家族の事を忘れてしまったのだ。
「──あの事件があった後……、数ヶ月でリズリットは家族の事を思い出したけど……あの期間の事は記憶に無いからね……」
ハウィンツは辛そうに俯くローズマリーの頭を慰めるように撫でると、ローズマリーがちらり、と視線を向ける。
「ええ……。ですから……目立つ方とリズリットが懇意になるのは……気が進みません」
「うーん……まあ、それはリズリットの気持ちもあるからなぁ……。俺もリズリットには何の心配も無く、穏やかな人生を送って欲しいから。けれど、リズリットが嫌がっていないのなら、無理矢理ディオンから離れさすのも可哀想でな……」
「──結局、お兄様はリズリットに甘いから……」
ぷうっ、と頬を膨らませて不服そうな表情を浮かべるローズマリーにハウィンツは苦笑してしまう。
ハウィンツ自身も、出来るならディオンとリズリットがこれ以上親しくなるのは反対ではあるのだが、先日リズリットを送ってくれた恩もあるし、リズリットが夜会で足を挫いた時にもディオンに助けられた恩もある。
ディオンと親しくすれば、また要らぬ注目を浴びる危険があるが、久しぶりに家族以外に話せる「友人」のような存在を得た事を喜ぶリズリットを悲しませたく無い気持ちの方が大きい。
「そうだな……。ローズマリーの気持ちも分かる。だが、一番優先すべきなのはリズリットの気持ちだから、俺達がしっかりとリズリットを見ていてあげよう」
「……分かりました」
未だに納得がいかないような表情をしているが、ハウィンツは苦笑いを浮かべながらもう一度ローズマリーの頭を撫でると、「行ってくるよ」と言葉を残してローズマリーが見送る中、馬車へと乗り込み、夜会へと向かった。
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