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一章
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しおりを挟む夜会があった数日後。
リズリットの元には、怪我を心配する手紙と、お見舞いがディオンから贈られて来た。
「ハウィンツお兄様……」
「あー……。お礼の手紙を送ればいいんじゃないか?」
困ったように眉を下げて見上げてくるリズリットに、ハウィンツは苦笑しながら何とかそれだけを言葉にして返す。
手紙と、見舞い。
それ、はいい。あの日、リズリットが怪我をした事をディオンは知っているし、リズリットを抱えて馬車まで運んだのはディオン本人だ。
だから、気遣うような連絡が来るのは分かるのだが、見舞いの対応が少々行き過ぎている。
幸い、リズリットの怪我は骨に異常は無く、重い捻挫程度だったので良かったのだが、見舞いの品では一般的な花束等では無く、公爵家お抱えの医師が派遣され、完治するまでしっかりとその医師に診てもらってくれ、と医師が派遣されてしまった。
診察料も勿論ディオンの公爵家持ちで、リズリットは既に伯爵家がいつも世話になっている医師に診てもらった後だった為、始めはその医師に事情を話して帰ってもらおうとしたのだが、医師から診察を懇願されて応接室へと通したのだ。
普通、医師に診察をしてくれ、と懇願するのは患者では無いのだろうか、とリズリットは混乱しながらその医師に診てもらっている間、先日自分を助け、馬車まで運んでくれたディオンの事を思い出す。
先程、何やらディオンと面識があったようであるハウィンツに、ディオンの事を「お仕事を真面目にされるとても素晴らしい方なのですね」と感心しながら聞いてみたら即座にハウィンツから「そんな訳がない」と否定の声が返って来てしまい、リズリットは首を傾げた。
あの日、恥ずかしい姿でディオンの横を通り過ぎ、挨拶さえままならず失礼な態度をしてしまったと言うのに、怪我をして蹲っている所をわざわざ手助けに来てくれた。
酷い格好をして、迷惑を掛けたと言うのにその事を何一つ気にした風でも無く、逆にこうして気遣ってくれる。
今まで、身内以外にそのように自分を気にしてくれる人が居なかったリズリットはディオンの事を凄く出来た人だ、と感じたのだが兄であるハウィンツはそうは思っていないらしい。
(お兄様とは、仲が宜しいからもっと対等な関係なのかしら……?)
ハウィンツが助言をしてくれた通り、お見舞のお礼に手紙を書こう、とリズリットは決めたのだった。
数日後。
足の怪我も大分良くなり、邸内を一人で歩けるようになった頃。
リズリットは、ディオンのお見舞に対してお礼の手紙に何か贈り物を添えよう、と考え付く。
「男性への贈り物には、何がいいかしら……?」
騎士団の団長だ、と聞いている。
それならば貴族男性が身に付ける煌びやかな装飾品では無く、何か実用的な物の方が喜ばれるだろうか、とリズリットは考える。
「──そうだわ、街に出て男性用の装飾品を扱っている場所に行ってみようかしら」
いい事を思い付いた、とばかりにリズリットは表情を明るくすると早速明日にでも街へ行く為に出掛ける準備に取り掛かった。
「移動は馬車だし、皆にも止められないわよね」
翌日。
リズリットは、昨日考えた通り、街に買い物に行く事にした。
「出涸らし令嬢」と蔑まれる事になってしまう目立つグレーの髪色はつば広の帽子で隠し、表情が分かりにくいように顔の上部を帽子に縫い付けられたレースで隠す。
日傘もプラスすれば、じっくりとリズリットを観察されない限り「マーブヒルの出涸らし令嬢」だとは分からない筈だ、とリズリットは自信満々に考える。
用意してもらった馬車も家紋は付いていない馬車であり、「普通の貴族令嬢が買い物に来た」と言う風を装える。
「……だって、ひそひそと自分の噂話をされていたら集中してお礼の品を選べないものね……」
「お嬢様……、本当にお兄様とご一緒には行かれないのですか?」
リズリットの日傘を持って、後を着いてくるリズリットに幼少から仕えてくれている侍女のメアリーが心配そうにそう話し掛けて来る。
「ええ、大丈夫よ。街中でお店を何件か巡って品物を買うだけだもの。直ぐ邸に戻って来るし、問題ないわ」
にっこり、と笑顔を浮かべて答えるリズリットに、メアリーは未だに不安そうな表情を浮かべているが、リズリットが大丈夫だ、と言うのであれば強く止める事も出来ない。
先を歩くリズリットを、メアリーは慌てて追った。
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