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 三人が居る場所は庭園のテーブルと椅子が設置されている所で。
 そこは少しだけ奥まった場所にあり、周囲に少しだけ背の高い生垣があって少しだけ隠れてしまう場所。

 三人の会話が終わるのが遅いと使用人が疑問に思い、確認しに来なければ邸の正門の所に居る門番からも生垣が邪魔をして姿が見えない場所になってしまっている。

 そして、そんな場所で言い合いを始めるブリジットとルーカスを見て、イェルガはほくそ笑んだ。

(強い精神干渉の魔法を使用する事は出来ないが……、二人が感情を昂らせる程度の微弱な魔法を掛けるくらいは出来る。このまま苛立ち続けて二人の関係が崩れてしまえば良い)

 イェルガはそっと自分の懐に隠し持っていた記録装置を起動する。
 魔力を流し込むと映像と、音声を記録し始める魔道具。
 イェルガは使節団の大使としてこの国にやって来たため、「万が一」の時のために証拠を撮っておくために帝国の宰相から渡されていた。
 それを、ブリジットとルーカスの仲違いの決定的な瞬間を撮ろうと起動したのだ。

 どちらかの口から決定的な言葉が出れば、それを口実にブリジットをして帝国に連れ帰る。

(感情が昂れば、売り言葉に買い言葉……一時の感情で失言をする事もある。ルーカス・ラスフィールドは騎士でもあると聞いている。女性であるブリジット嬢に怒声を上げられれば騎士としてのプライドが傷付く筈。あの男からブリジット嬢を突き放すような言葉を引き出せればそれで良い)

 きっと、婚約者からそんな事を言われればブリジットもショックを受けるだろう。
 そして婚約者から酷い言葉を言われたブリジットを、自分が慰めて弱っているブリジットに微弱な魅力を掛け続け、慰めれば良い。
 弱っている時に優しい言葉を掛けられれば、人は誰しもそちらに傾く。

 イェルガは余裕の表情で椅子の背に自分の手を置いてブリジットとルーカスを眺め続ける。
 未だにイェルガの目の前ではブリジットとルーカスの口喧嘩は終わらないのだが、イェルガは知らない。
 ブリジットも、ルーカスも幼い頃からの婚約者同士だと言う事も、そして幼い頃から喧嘩ばかりをしていた関係だと言う事も。
 そして、最近は口煩く諌めるルーカスに嫌気がさしたブリジットが彼から逃げた事も。
 そして、ブリジットが大事でブリジットを追ったルーカスが素直に気持ちを口にするようになり、ブリジットも今までの自分の行動を反省してルーカスに寄り添うようになった経緯をイェルガは全く知らないのだ。

 だから、ブリジットに対して凛とした淑女のイメージを持つイェルガは、婚約者から否定的な言葉を言われれば傷付き、悲観すると思っていた。
 自国で自分の周りに居る貴族令嬢達と同じだと思っていたのだ。

 実際はそんな事は全く無いと言うのに。

 ブリジットとルーカスの口喧嘩は見慣れた物で。
 今の二人は以前のように言いたい事をぽんぽんと言い合っているような状況だ。

 だが、以前とは違いお互い以前よりも素直に思っている事を口にするようになっていて。

「──だからっ、俺は! ブリジットがこれ以上あの男に近付いて欲しくないから言っているんだ!」
「近付いていないではありませんか! ルーカス様が何故そこまで気にされるのか分かりません……!」
「そんなの決まってるだろう!? ブリジットが俺以外の男に近付いて欲しくないし、あの時のようにブリジットから認識されなくなるのはもう嫌だ!」
「……っ」

 嫉妬心を丸出しにしたようなルーカスの言葉に、ブリジットは言われた言葉を理解して言葉に詰まり、顔を赤くする。

「そっ、それは……。ルーカス様に辛い思いをさせてしまって……ごめんなさい……」
「いや、いい、あの時は仕方無かったのだから、ブリジットが謝る必要は無いんだから……」

 喧嘩ばかりをしていた二人が突然もじもじしだしたのを見て、イェルガは焦り始める。

(何で急に──!)

 感情の昂りはまだ切れていない筈だ。
 苛立ちも未だ継続している筈だ。

(このままでは……っ)

 ──二人の苛立ちの矛先が変化してしまう。

 そう考えたイェルガの嫌な予感は、しっかりと的中してしまう。
 ブリジットとルーカス二人から視線を向けられてイェルガはごくり、と喉を鳴らした。

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