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場所は変わって、夕方のアルテンバーク侯爵邸。
「もうそろそろ、学院の授業が終わる頃ね……」
ブリジットは窓から差し込む陽の光にぐっ、と体を伸ばして呟く。
西日が眩しくて目を細め、開いていた本をぱたりと閉じて棚に戻す。
ブリジットは今日一日、自室でゆっくりしたり、サロンでお茶をしたり、はたまた庭園を散策したりして過ごしていた。
そして、今は邸にある書物室で本を読んでいたのだが夕方になってしまっている程読書に集中していた事に気付き、本を閉じた。
「今日は……朝にルーカス様が来て下さったから……夕方はもういらっしゃらないわよね」
少し残念な気持ちを抱くが、会えないと思っていた朝にああして手を繋いで庭園を歩けたのだ。
それにルーカスも学院生と騎士の仕事の両立で忙しいだろうに時間を作ってくれている。
「毎日会いたいなんて、我儘言ったらまた怒られてしまいそうだわ」
ブリジットはくすくすと笑いながら腰掛けていたソファから立ち上がり、本を棚に戻す。
夕食の時間まで、後は部屋で過ごそうかと考えてブリジットが書物室を出て廊下を歩いている時に、使用人から声を掛けられた。
「お嬢様、ラスフィールド卿が参られましたよ。応接室にお通ししております」
「えっ、ルーカス様が!? い、今行くわ……!」
まだ、学院の授業が終わる時間では無い。
それなのに、既にこの邸にやって来ていると言う事は学院を早めに出て来たと言う事だろうか、とブリジットは首を傾げながらルーカスが案内されていると言う応接室に向かった。
ブリジットが応接室に向かい、歩いていると廊下の先にある応接室の扉が開き、父親が出てくるのが見えた。
「え、お父様?」
ブリジットが驚いて声を上げると、ブリジットに気付いたのだろう。
父親が「ああ、来たのか」と声を上げた。
「ルーカス様は、もしかして少し前から邸に来られていたのですか?」
「ああ。話があってな……。だが、私の話はもう全て終わったから後は二人で過ごしなさい」
「え、ええ。分かりました」
どこか疲れたような様子で、笑みを浮かべる父親にブリジットは疑問を抱くが応接室の扉に向き直る。
扉の向こうにルーカスが居るのだ、とブリジットは緩む口元をそのままに扉の向こうに声を掛けた。
「ルーカス様、入りますわ」
「ブリジット? 今開けるよ」
「──え、? あっ」
ブリジットが扉に向かって声を掛け、ドアノブに手を掛けた所でルーカスの声が返って来たのと同時に扉がガチャ、と開かれた。
ブリジットは突然開いた扉に驚き、自分に向かって開く扉に驚いて一歩、二歩と後ろに下がってしまうが、ルーカスが中から手を伸ばしてブリジットを支えた。
「悪い、ブリジット。まさか同時だったとは……」
「いえ、大丈夫ですわ……。それより……」
ルーカスに手を引かれながら部屋の中に入り、ソファに座る。
ブリジットの隣にルーカスも腰を下ろして「ん?」とブリジットに向き直った。
「どうなさったのですか? まだ、学院の授業も終わっていない時間ですよね?」
何か起きたのですか? と言葉を続けるブリジットに、ルーカスはふるふると首を横に振った。
「──いや、今日は授業に出ていないんだ。……今日、王女殿下が学院に来られた」
「え……!?」
きゅ、とブリジットの手を握りながらルーカスは今日学院で起きた事、そしてブリジットが巻き込まれてしまった事について、王女が話し合いをしてくれたのだ、と言う事をゆっくりと説明したのだった。
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