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しおりを挟む王女とイェルガが話をし始めてどれだけの時間が経ったのだろうか。
体感的にはあっという間だったような気もするが、とても長い時間だったかのような。
ルーカスは緊張に喉がからからに乾いてしまっていて。
(これ程の切り込み方をされる方だったとは……。自国の王族であればどれ程心強い事か……。だが……)
ルーカスは室内で顔色の悪いイェルガを憐れむように見詰める。
(隣国の人間としたらどれ程恐ろしいか……。自分の返答次第でこの国を敵に回す事の恐ろしさを身をもって実感しただろう……)
ブリジット達の住む国、サジュラタナ王国に魔力を持った魔法士は隣国に比べれば少ない。
魔法士の数は即ち、純粋に国の軍事力に直結する。
魔法士の数が多ければ多い程、その国は軍事力が高くなる。
魔力を持たない人間からしたら、魔力によって様々な攻撃手段を持つ魔法士はとても脅威で。他国への牽制にもなるし、魔法士を大勢有している国は他国から侵略される危険に脅かされる事が少ない。
だが、サジュラタナ王国は魔法士の数が少ないと言う事を理解している。
その為、魔法で補えない武力を知識・戦術で補い他国との外交で優位な条約を得る事に長けていた。
(前王妃が外交戦略に長けていたと記録に残っているが……。王女殿下はその血を色濃く受け継いだのだろうか)
とても喜ばしく、この国の騎士として働くルーカスは王女を誇らしく思うが、だが、と視線を床に落とす。
(そんな存在の王女殿下が隣国に──)
「ラスフィールド卿」
ルーカスが考え事をしている時。
凛とした王女の声に名前を呼ばれ、ルーカスは思考を切り替えて背筋を伸ばした。
「はっ」
「会談は終わったわ。……ノーズビート卿。三日後、国王陛下との謁見宜しくお願いするわね?」
「──っ、こちらこそ、宜しくお願い致します……」
これで会談は終了なのだろう。
王女はソファから立ち上がり、イェルガをソファに残したまま部屋の扉に歩いて来る。
王族である王女が退室すると言うのに立ち上がらないとは、とルーカスがイェルガに声をかけようとしたが王女に視線を向けられ、「やめなさい」と口を動かされた為、ルーカスはイェルガに声を掛ける事無く王女に伴い部屋を出た。
退出する寸前、見えたイェルガの横顔は酷く沈んでいるように見えて。
ルーカスは首を傾げながら扉を閉めた。
部屋に一人残されたイェルガは、王女から言われた言葉が頭の中を巡っていて。
「──どうする……、何か解決策を……」
ぐるぐると頭の中にどうしたら、と言う言葉が巡るが何も良い考えが浮かばない。
「俺の、仕出かした事の責任……。我が国の皇帝陛下にあのような要求を……出来る筈が無い……っ」
イェルガ自身の失態に激怒し、イェルガを処刑するような事はしないだろう、と思いたい。
イェルガ程の魔法士を処刑してしまうメリットが帝国には無いのだ。
寧ろ、デメリットの方が大きくなる。
「だが……咎めは受ける……。ただ、好きな女性を連れて帰りたいだけで、その人の精神を破壊していないじゃないか……少しだけ良く見られたい、と思い微弱な魅了を常時発動しておくのは許されて、なぜ昨日の事は許されない……。あれは偶然だ、と説明したはずなのに……っ」
自分だけこのような目に遭うのは不公平だ、とイェルガは不服そうに眉を顰めた。
「どうせ咎められるんだ……どうせならブリジット嬢を帝国に連れ帰ってしまおう……」
どこか開き直ったようにイェルガは歪んだ笑みを浮かべた。
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