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しおりを挟む使用人が昨日と同じように気を利かせ、ブリジットとルーカスから離れる。
使用人の気遣いにブリジットとルーカスは感謝しつつ、どちらからともなく自然に手を繋ぎ朝の庭園をゆったりと歩いた。
「まさか、ブリジットが庭園に出ているとは思わなかった。知らせも送らず、来てしまったからほんの一時だけ顔を見れたら良いと思っていたんだ」
「──確かに、そうですわね……。部屋にいる時にルーカス様の訪問を知ってから身支度していては時間が掛かってしまって、お話する時間も殆ど無かったかもしれません」
「ブリジットの事だから、学院を休むと聞いてゆっくり朝寝をしていると思ってたんだが」
ルーカスが揶揄うようにブリジットを見詰めて口にした言葉に、ブリジットは繋いでいたルーカスの手の甲を指で軽くつねった。
「まあ、失礼な事を。それならば、ルーカス様が言う通り今から部屋に戻って寝ましょうか?」
「いててっ、悪い」
目を細め、じとっとしたブリジットの視線を受けてルーカスは笑って謝罪を口にする。
痛いと言いながらちっとも痛くなさそうで。反対に嬉しそうに笑うルーカスの姿にブリジットも自然と口端が上がり、笑みを浮かべてしまう。
先程とは違い、指を絡めるようにして手を繋がれて、ブリジットはルーカスの行動に顔を赤くした。
平民の間で流行っている、いわゆる「恋人繋ぎ」と言う手の繋ぎ方だ。
貴族令嬢の間でもその噂は広まっていて。
ブリジットも密かにそれに憧れていたのだが──。
こういった行為が昔から苦手だったルーカスがまさか知っているとは、とブリジットがルーカスを見上げると。
ルーカスはブリジットから顔を逸らしていて、髪の毛の間から覗く耳が赤く染まっている。
ブリジットは昔からこういった、仲睦まじく過ごす夫婦や、恋人達に憧れを抱いていた。
ルーカスとはそんな間柄になれないから、尚更憧れていたのだ。
けれど。
ルーカスはブリジットが憧れている事を知ってくれていて、そして自分が苦手な行為も恥ずかしがりながらブリジットのためにしてくれている。
そんなルーカスを見ていたらブリジットは胸がきゅう、と締め付けられるような感覚がして。
けれどそれは決して辛いとか、苦しいとかマイナスの感情で締め付けられたんじゃない。
(──ああ、愛しいなぁ……)
ブリジットは自然とそんな感情が湧き上がって来て、幸せそうに顔を綻ばせた。
「……ルーカス様」
「ん、何だ……?」
照れているのだろうか。
ルーカスはそっぽを向きながら歩き続けていて。
ブリジットは繋いでいたルーカスの手を引っ張るようにしてその場に立ち止まった。
ブリジットが立ち止まった事と、繋いだ手を引っ張られてルーカスも一歩先で立ち止まり、ブリジットを振り返る。
「ふふっ、ありがとうございますルーカス様。とっても嬉しいですが、ルーカス様が恥ずかしくて、避けたい行動ならば無理をしてしなくてもいいんですよ?」
昔のように拗ねて言っているのでは無い。
ブリジットの表情を見たルーカスはそれが分かる。
嬉しそうに笑いながら、でもルーカスの気持ちも慮るようなブリジットの表情を見て、ルーカスはブリジットに向き直った。
「恥ずかしい、のは……本当だけど……。けれど無理はしていない……。ただ、本当に恥ずかしいんだ……。本当は俺だってブリジットと堂々と手を繋ぎたい……」
ごにょごにょ、と本当に恥ずかしいのだろう。
消え入りそうな程小さな声で呟くルーカスにブリジットは笑ってしまう。
「──ふっ、ふふっ。昨日はあんなにずっと私を抱き上げて下さってたのに?」
「──っ、あっ、あれは……!? やめてくれ、今思い出しても恥ずかしいんだから……。昨日はブリジットが心配だったし、あいつへの怒りで恥ずかしいなんて気持ち吹っ飛んでいたんだよ……」
一晩経って、冷静になったルーカスは猛烈に羞恥心を覚えたのだろう。
王女の前でブリジットを抱き上げていた事を思い出してあいていた方の手で自分の顔を覆っている。
「それに……不安だったしな……」
「不安……?」
「ああ……。ブリジットの様子がおかしかったあの時……俺に一切反応が無かったから。ブリジットに触れていたかった」
ルーカスは覆った手のひらの隙間からブリジットを見詰めていて。
ルーカスの目と視線が合ったブリジットは、ルーカスが口にした言葉を遅れて理解してぶわりと顔を真っ赤にしてしまった。
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