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しおりを挟むそうして、書斎から追い出されたブリジットとルーカスはブリジットの私室で話をして、体調に問題の無いと分かったブリジットをルーカスは庭園に連れ出して夕食の時間までゆったりと散歩をした。
使用人達の目を気にしてか、手を繋ごうとするルーカスと恥ずかしがるブリジットの攻防が行われていたが、使用人達が気を利かせて二人から離れるとブリジットは嬉しそうにルーカスと手を繋いで庭園を散歩した。
ブリジットの家で夕食を共にしたルーカスが邸を出て、ブリジットは自室でベッドに潜り込む。
「明日は……学院を休むようにと言われてしまったわ」
今日、こんな事があったのだから一日休むように。と、父親からも、ルーカスからも言われてしまった。
「体調は全然大丈夫だし、元気なのに……」
意識が混濁していた時の記憶は、断片的にだが薄らとある。
ルーカスが傍に居てくれていて、それをとても嬉しい、と感じた。
「──っ、待って? でもそれも違った、と言う事なのよね……。あれも、相手はノーズビート卿だった、と聞いたわ……」
その事を自分で口にした瞬間、ブリジットはゾッとした。
頭がふわふわとして、意識が混濁していて。
全然違う人物をルーカスだと思い込んで。
「これ、が……魅了……」
ぞっとする。
イェルガの魔法がもっと強い、強力な効果がある物だったら。
もっと効果時間が長い物だったり、一生解けないような魔法だったら。
そして、そんな魔法を自ら開発出来る人物が今、同じ学院に通っているのだ、と言う事を実感してブリジットは嫌な汗をかいた。
交換留学生だからといって、無警戒で接していた自分の行動を恥じる。
友好的だとしても、それは本当にその人の本心からくるものでは無いのかもしれない。
ブリジットは、港町ミーブルで助けてくれた人だから親切で、優しい人なのだろう。と、そう思いイェルガを信頼してしまっていた。
時折ぞわりとした変な感覚を覚えたが、一時の感覚だったので重要視していなかった。
「もしかしたら……あれが、魅了の感覚だったと言う事……?」
王女が言っていた言葉を思い出す。
軽微な魅了は、自分自身に心に決めた相手がいれば殆ど効かないと。
ルーカスを想っているから、軽微な魅了にブリジットは惑わされなかったのだと言う事に気が付き、ブリジットはぐっと拳を握り締める。
もしルーカスがミーブルの港町に追い掛けて来てくれていなかったら。
もし、ルーカスがブリジットに愛想がついてしまっていたら。
二人で話す機会が無いまま、交換留学生を迎え入れていたら。
「──……っ」
もっと大変な事になっていたのかもしれない、ブリジットはぞっとして自分の体を抱き締めた。
翌朝。
ブリジットは色々な事を考えている内に眠ってしまっていたのだろう。
窓から差し込む太陽の光にブリジットは目を覚ました。
「もう、朝なのね……」
もぞり、とベッドに起き上がりブリジットは自分の目元を指で擦る。
色々と考え込んでしまっていたせいで、ぐっすり眠れていない。
何だかすっきりとしない目覚めで、ブリジットは小さく溜息を吐き出した。
「──あ、いつものように起きちゃったけど……、今日学院をお休みするのよね……」
ちりん、とベルを鳴らして使用人を呼ぶ。
身支度も軽くする程度で良いだろう。
ブリジットのベルの音に、使用人が部屋にやって来て。ブリジットは身支度の手伝いを頼んだ。
朝食の時間まではまだ早い。
その為、ブリジットは身支度を終えて朝早くに庭園の散歩をする事にした。
使用人が二人、ブリジットの少し後ろをついてくる。
ブリジットは朝露に濡れた花々の前でしゃがみこみ、綺麗に咲き誇る花々に頬を緩めた。
「普段は、学院に向かう準備をするから朝にこうしてゆっくり庭園を歩く事が無いから……何だか新鮮ね」
「朝の澄んだ空気と、朝露に濡れた花々が美しいですよね」
ブリジットの後ろに居た使用人の一人がブリジットに言葉を返してくれ、ブリジットも使用人に向かって笑顔で頷く。
「今日の朝は、ルーカス様もいらっしゃらないわね……」
「お嬢様……」
少し残念そうにブリジットが呟き、使用人が言葉を返した後。
「──ブリジット!?」
邸の正門の方から聞こえる筈の無いルーカスの声が聞こえて、ブリジットは驚きに目を見開いた。
門を開けてもらったのだろう。
ルーカスは嬉しそうに笑顔を浮かべながらブリジットに向かって歩いて来ていて。
ブリジットもその場に立ち上がり、ルーカスの下に向かっていく。
「ブリジット、おはよう。学院に向かう前に少しだけブリジットの顔を見れたら良いと思って来てしまったのだが……まさか会えるとは……!」
「おはようございます、ルーカス様。私もちょうどルーカス様の事を考えていました」
ルーカスの言葉が、会いたいと思い行動してくれた気持ちが嬉しくて。
ブリジットも素直にするり、と自分の気持ちを照れながら伝える。
すると、いつもは素直に自分の気持ちを伝えてくれないブリジットが「ルーカスの事を考えていた」と素直に気持ちを告げてくれて。
ルーカスはとても嬉しそうに笑った。
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