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しおりを挟む突然の王女の入室許可に、ブリジット達が驚いている間に扉が開かれ、数人の男性が入室して来る。
「──えっ、え……?」
アルテンバーク家の使用人では無い。
入室して来た男性達は皆、揃いのローブを着てソファに座る王女に対して礼を取った。
「彼らは我が国の魔法士よ。魔法士には、魔力探知が出来る者も居るの。彼らは魔力探知が可能な魔法士だから、連れて来たわ」
「王女殿下にご挨拶致します」
「ええ。急な依頼にも関わらず引き受けてくれてありがとう」
「とんでもございません」
「じゃあ、最初に話した通り……こちらのご令嬢が解明されていない魅了魔法を受けたわ。魔力を探知して」
「かしこまりました。──ご令嬢、失礼致します」
王女と、魔法士の年長者が会話をする中、ブリジット達はその様子を見守る事しか出来ない。
魅了魔法、解明、魔力探知──。
普段聞き慣れない言葉ばかりがこの空間を飛び交い、魔法に関して明るく無いブリジットとティファは目を白黒させてしまう。
だが、騎士として働き、ブリジットやティファより年上のルーカスは「魔法」と言う物に二人よりも馴染みはある。
「……王女殿下」
「あら、何かしらルーカス・ラスフィールド卿?」
「……誰がブリジットに魅了を発動したのかは明確であるにも関わらず、国の魔法士を動員してまで魔力探知をなさると言う事は……」
ルーカスの言葉に王女は笑みを深めた。
「ええ。そうよ。国同士でお話をしないと……ね?」
◇◆◇
王女と、魔法士が城に戻った後──。
ブリジットは未だ書斎で放心したかのようにソファに背中を預けたまま。
あれから。
ブリジットの体に残る魔力反応を魔法士に探知してもらった。
魔法、と言う物は発動者の魔力が必ず残るらしく、通常は時間と共に発動者の魔力は消失してしまうのだが、魔法に掛かってしまった後、時間が経っていなければその魔力の痕跡を追う事が出来る、らしい。
だが、魔力の痕跡を追う事の出来る魔法士は数が少なく、魔法に卓越した者でなければ不可能だ。
だから王女は魔法士の手配を迅速に行い、アルテンバーク邸に呼び寄せた。
ブリジットの体内からイェルガの魔力が探知成功し、その結果を得た王女は弾けんばかりの笑みを浮かべて城に戻った。
ブリジットの父親は国王への謁見を望む書状を出し終え、ブリジットと同じく執務机の椅子に疲れたように背中を預けている。
ティファは王女が城に戻った後、ブリジットと少しだけ言葉を交わし、自分の邸に戻った。
そして、書斎内に残るのはブリジットと父親、そしてルーカスのみで。
「……頭が痛い」
「──えっ、大丈夫ですかルーカス様?」
ブリジットの隣に座っていたルーカスが疲れたようにぼそりと呟き、ブリジットはルーカスを心配するように声を掛ける。
「いや、うん……これからの事を考えてしまってな……」
「これから……。王女殿下は……正式に隣国に向けて行動を起こされるのですよね……」
「ああ。あの様子だとそうだろうな……あれは確実に怒り心頭といったご様子だった」
仕事で護衛に付いた事があるからこそ、王女の事が分かるのだろう。
そう言う感情はルーカスに無い、と言う事は分かっているが、何だか面白くない、と感じてしまったブリジットは少しだけ拗ねた。
ブリジットの感情の変化に目ざとく気付いたルーカスがソファから背中を離してブリジットの顔を覗き込む。
「ブリジット……?」
「……別に、何でもないですわ」
「何でもない、と言う様子じゃ……。……! ああ、すまん。そう言う事か。悪い、俺が興味あるのはブリジットだけだから」
「……! そっ、そんな事考えてません……! お父様がいらっしゃるのに止めて下さい!」
ぶわっと赤くなったブリジットが覗き込むルーカスから逃れるようにソファの隅に移動する。
そんな様子を見て、幸せそうに目を細めるルーカスとブリジットを離れた所から見ていたブリジットの父親はこほん、と一つ咳払いをした。
「──書斎で勘弁してくれ……。ブリジットの部屋にでも行って話しなさい。……ただし、くれぐれも。くれぐれも部屋の扉は開けて、な」
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