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しおりを挟むアルテンバーク侯爵邸に馬車が到着した。
あれから馬車の中ではブリジットとルーカスの見慣れた言い合い──もとい、痴話喧嘩のような物が勃発した。
ブリジットの体調面を心配しているルーカスが馬車から降りる時も、降りた後も、邸内を歩く時もブリジットを抱えたままの状態で歩く、と言い。
そんな恥ずかしい事は絶対に出来ないと言うブリジットの言葉にまた更にルーカスが頑なに首を縦に振らず──。
と言った調子で言い合いはヒートアップしていて。
その様子を生暖かい目で見ていたティファはいつもの日常が戻ったようだわ、とどこか安堵していた。
だが、邸に到着したと言うのに痴話喧嘩が終わる気配が無い。
このままではブリジットの父親が待ちぼうけに合ってしまう、とティファはぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を置いて馬車の扉を開いた。
外には困ったように眉を下げて待っていた御者がいて。
ティファは苦笑しつつ、御者の手を借りて馬車のステップを一段降りた。
そして一段降りた所でくるりと振り向き、中に居る二人に向かって朗らかな笑顔で言ってのける。
「ラスフィールド卿。このままでは埒が開きませんわ。嫌がっていてもブリジットを抱えてしまえばよろしいのよ」
あっさりとそれだけを言い終えたティファは、軽やかな足取りで馬車から降りた。
ティファの言葉に、ブリジットとルーカスの表情は真逆で。
ブリジットは親友に「裏切ったわね!」と言うような表情を浮かべ、ルーカスは自分の味方をしてくれたティファにぱあっと表情を輝かせた。
「そうだな……! 侯爵をお待たせするのは不味い……! 早く行って、ご説明をしなければ!」
「──えっ、あっ、ちょっとルーカス様!」
ルーカスは言うが早いか、ひょいとブリジットを抱き抱え、馬車の扉からブリジットを抱えたままステップを降り切る。
視界の高さにびっくりしたブリジットは咄嗟にルーカスに抱き着き、情けない声を上げる事しか出来ない。
上機嫌のルーカスとは逆にブリジットは恥ずかしさを隠すように口を尖らせてふんっとルーカスから顔を背けた。
邸内に入り、案内される間、ブリジットは俯いた顔を上げる事が出来ない。
きっと今上げてしまえば真っ赤に染まった顔を使用人達に見られてしまう。
この家の一員として、そんな情けない姿は見せられないとブリジットはルーカスの胸元に顔を埋めていたのだが、邸内を移動する所を大勢の使用人達は微笑ましく思いながらブリジットとルーカスを見ている。
「……書斎に着いたわよ、ブリジット」
「……分かったわ……」
目的の書斎に到着したのだろう。
ぴたり、と動きが止まりティファに声を掛けられたブリジットは、のそりと顔を上げて扉に向かって声を掛ける。
「お父様、ただ今戻りました」
「ああ、待っていたよ。入りなさい」
ブリジットが声を掛けると、間髪入れずに父親から返答が返る。
学院での騒動の報告を受けて、当人達が戻るのを本当に待ち侘びていたのだろう。
父親の返答を受けたブリジット達は書斎の扉を開けて中に入室した。
「──えっ」
そして、ブリジット達が入室して一番に目に入った人物は。
こんな場所に居る筈が無い人で。
書斎内に居たブリジットの父親と、その人物も入って来たブリジットとルーカスの姿を見て目を丸くした。
「──ふっ、うふふっ、やだ……っ、まさかその状態で帰って来たのかしら!」
くすくすと楽しげに笑うその人──王女が何故ここに居るのか、と慌ててルーカスはブリジットを抱き上げていた体勢から床に下ろし、ブリジットとティファ、ルーカスは王族に対する礼をした。
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