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しおりを挟む「侯爵……! アルテンバーク侯爵……!」
「……ん? ああ……ラスフィールド卿か」
ルーカスの切羽詰まったような声音に、ブリジットの父親が反応してルーカスの声がする方向に顔を向ける。
先程まで、仕事関係の人物と話していたのだろう。だが、ルーカスに話し掛けられた事で話し相手はじゃあまた、と父親に告げてその場を去って行く。
父親は一体どうしたんだ、とルーカスに体の向きを完全に変えてそして。
ルーカスに手を引かれ、頬を酒で赤く染めたブリジットを見て状況を理解したのか、呆れたように自分の額を手で覆った。
「……誤飲したのか」
「そう、なのです……ブリジットがまた……」
「あれだけアルコールは口にするな、と言っていたのにまったく……。苦労を掛けるな、ラスフィールド卿」
「いえ……っ、私は大丈夫なのですが、ブリジットを早く休ませてやりたいと思い……」
ルーカスと父親が話している今も、ブリジットは後ろで何やらむにゃむにゃと話しているが、そのどれもがはっきりとした単語とはなっていない。
「分かった。私が部屋まで連れて行こう。ラスフィールド卿はしこたま水を持ってきてくれ」
「分かりました。……ブリジット、侯爵と一緒にいてくれ」
ルーカスはブリジットに優しく声を掛け、今にも瞼が閉じてしまいそうなブリジットを父親に預けて急いで水を取りに行く。
テーブルに向かいながら、ちらりとブリジットと父親の様子を見て、父親がブリジットの手を掴み部屋に移動して行く姿を見て安心する。
フロアを出て、廊下を少し進めば休憩室がある。
そこでブリジットに水を飲ませ、少しだけ仮眠させてしまえばいつも通りに戻るだろう。
ルーカスは早く水を持っていかないと、と早歩きでテーブルに向かった。
だが、その姿を見ていたのはルーカスだけでは無くて。
少し離れた場所に居たイェルガは、ブリジットが酒に酔った状態でいる事を瞬時に悟り、そわそわとしだした。
「イェルガ……?」
「ブリジット嬢が酒に酔って休憩室に行くみたいだ……。酒に酔っていれば、判断能力が落ちるな……?」
「おいおい、まさか……」
「この会場で使うのは無理だが、狭い休憩室であればバレずに済むかもしれない……!」
「おい……! やめておけイェルガ……! 万が一バレたら国際問題に発展するぞ……!」
友人であるリュリュドの言葉が耳に入っていないような様子で、イェルガはそわそわとしながらその場を離れようと一歩足を踏み出す。
これは無理矢理にでもイェルガを止めた方がいいか、とリュリュドが考えた時。
二人の背後からコツコツ、と軽やかに近付いて来る足音が聞こえた。
「あら、どちらに……? 少しお話させて頂こうと思ったのですが……」
可憐な声が聞こえ、リュリュドはその声の主を見るなりさっと手を胸に当て、礼を取る。
イェルガは何故こんな時に、と舌打ちしてしまいたくなる気持ちを何とか堪え、笑顔を張り付けて振り返る。
リュリュドと同じく礼の姿勢を取ると、ゆったりと口を開いた。
「これは、王女殿下……。光栄でございます」
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