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しおりを挟むブリジットとルーカスが町の散策を堪能し、あっという間に滞在時間が過ぎた。
初日のように海にやって来たブリジットとルーカス達は海で気分が上がりはしゃいでしまったブリジットが海水でびしょ濡れになってしまうような事もあったが、ルーカスは以前であればくどくどと小言を口にしていたが、ブリジットを大層心配し、「頼むから危ない事はしないでくれ」と怒るでも無く本当に心から心配している、といった様子でブリジットを気遣い、「怪我は無いか? 風邪をひいたら大変だ」とすぐにブリジットを邸に連れ戻した。
また、別の日にはちょっとした言い合いのような物をしてしまったがお互いすぐに謝罪し合い、どうしてそんな事を言ってしまったのか、ちゃんと自分の気持ちを伝え合った。
少しづつではあるが、以前のように口喧嘩をしてしまってもすぐに謝罪し合い、険悪な雰囲気にならないようお互い気を付けているようで。
ニアと護衛達は二人が漸く本当に仲直りをしてくれた、と安堵した。
そして、王都に戻る日。
行きは単騎で馬を駆けて来たルーカスだったが、帰りはブリジットと同じ馬車に同乗してゆっくりと王都までの道を戻る事にした。
ニアも馬車に同乗し、二人の会話を邪魔しないように口を噤む。
様々な話をしつつ、王都に到着するのは明日、と言う頃。
「そう言えば」とルーカスがブリジットに向かって話し掛けた。
「ブリジット。そう言えば隣国から使節団が来るらしい」
「使節団が……? この時期に珍しいですね」
「ああ。何でも、交換留学生として貴族学院に魔法士を招くらしい」
「──魔法士を……!?」
「ははっ、ブリジットは魔法学が好きだもんな。普段学院に通っていても、特別科の生徒達と中々話をする機会が無い……隣国は魔法士が多いだろう? だから、国でも魔法学の発展と、魔法士の能力向上のために使節団を招いたらしい」
「そっ、それは……っ魔力が無い私達のような者でもお話する機会があるのでしょうか……!」
「どうだろうな……。だが、使節団を招いたのだから王家主催でパーティーを開催する筈だ。夜会になるだろうが……ブリジットも参加出来る年だろう? もしかしたら夜会で話す機会はあるかもしれない」
ルーカスの言葉を聞いて、ブリジットは嬉しそうにキラキラと瞳を輝かせる。
自分には残念ながら魔力は無かったが、魔法士達が放つ魔法はとても綺麗で、けれどどこか恐ろしさも感じる力で。
魔法と言う物に憧れを持っているブリジットは、交換留学生と言う形でやって来る魔法士達と会えるのをとても楽しみにした。
◇◆◇
室内で、機嫌良さげな男の鼻歌が聞こえる。
彼の友人は、訝しげにその男に声を掛けた。
「イェルガ、随分ご機嫌だな? 出立前はどうして自分が面倒な事を、とぶつくさ文句を言っていたのにどうした?」
「うん? いやぁ……それが楽しみな事が出来て……」
イェルガ、と呼ばれた男は自分の友人に輝かんばかりの笑顔でそう答えた後、再び鼻歌を歌い出す。
「お前がそんなに上機嫌だと何か怖いな……。何かやらかすなよ? お前が何かやらかしたら国際問題になるかもしれないんだからな……?」
「ああ、分かってるよ。問題は起こさないさ」
イェルガは何かを思い出すように瞳を細め、陶酔したようにうっとりと表情を緩める。
「あちらも納得の上であれば何も問題は無い……。まあ、絶対にどうにかして連れて帰りたいが……」
「──え、? 何か言ったか、イェルガ?」
「いいや、何でもないさ」
先に部屋を出て行く友人に、イェルガはにっこりと笑い返して自分の黄緑色の瞳を楽しげに細めた。
交換留学生、として友好国に招待された。
「家ももう分かってる……。待っていてくれ侯爵令嬢……」
イェルガはぽつり、と呟いて友人の後を追って部屋を出て行った。
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