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ルーカスがブリジットを追って、ミーブルの港町にやって来てから数日。
当初予定していた滞在期間が終了し、王都に戻る日が目前に迫っていた。
「うーん……お父様へ報告すべき所は全部見終わったし……後はどうしようかしら……」
「お嬢様。それならば、残りの二日はラスフィールド卿と町歩きをされては如何でしょう? 当主様と仰ってましたが、この港町を観光して来てはどうですか?」
「え……っ、ルーカス様と?」
ブリジットが悩んでいると、後ろからやって来たメイドのニアが穏やかに微笑んでそう言ってくれる。
確かに、ここに来る前は観光を楽しんでやる! と息巻いてはいたものの、実際着いてからは気になる部分が多々あり、その確認や報告を纏めるのに時間が掛かってしまった。
穏やかな町と言えど、先日のような荒くれ者の対処などを父親に向けて報告を認めていたため、思っていたよりも町の散策を楽しんではいない。
「はい。残りの時間は、ゆっくり過ごされても大丈夫かと思われます」
「そ、そうね……。確かにお父様も楽しんでおいで、と仰っていたし……」
笑顔のニアに、ブリジットも「いいのかな」とそわそわし始める。
実際、町のお店で沢山気になるお店があるのも事実。
今度私用で遊びに来てしまおうか、と考えてしまう程見て回りたい所が沢山あったのだ。
それに、初日に行ったきりの海ももう一度行きたい。
「け、けれど……ルーカス様は一緒に行ってくれるかしら……? 私が当主代理としてこの町に来ているのを知っているから……代理としての視察じゃなくて、遊び目的で町を回る事を伝えたらまた叱られるかもしれないわ……」
「きっと大丈夫ですわ、お嬢様。ラスフィールド卿にお伝えしましょう!」
ニアの言葉に後押しされて、ブリジットもルーカスに話すだけ話してみよう、と決める。
もし共に町歩きをするのが嫌だ、と言うのであれば別行動をすればいいのだから、とブリジットはこの後やって来る予定のルーカスに告げる事にした。
朝食が終わった頃。
ここ数日はこの時間帯にルーカスがやって来る。
ブリジットはいつものようにやって来たルーカスを出迎えて、残りの二日間は町歩きをする事にした、と告げてみた。
「そうか。こんなに早く侯爵家として町を見て回る事が済んだのか……。町歩き、いいな。俺も着いて行っていいのか……?」
「も、勿論です……! 元々、ルーカス様を誘おうとしていたので……。先日のお花のお礼もさせて下さい」
「ありがとう、ブリジット。お礼は気にしなくていい、それよりもブリジットが行きたい所に行って、楽しむ方が大事なんじゃないか?」
あっさりとルーカスから同意を得て、ブリジットはついつい呆気に取られてしまう。
こんなにあっさり町歩きに同意してくれるとは思わなかったのだ。
「……意外か?」
ブリジットの考えが分かったのだろう。
ルーカスが苦笑してブリジットに向かってそう言うと、ブリジットはルーカスを揶揄うようにして言葉を返す。
「──ええ、いままでのルーカス様だったら仕事出来たのだから、最後までしっかりと全うすべきだ! ……って言ってましたもの」
「……それで、ブリジットが俺に息抜きも必要だし、仕事は終わっている、と言い返していたな」
「ええ、ええ……! それでちょっとした言い合いが大喧嘩になって──」
「ブリジットが口を聞いてくれなくなるんだ……」
二人して顔を見合わせ、吹き出してしまう。
少しギクシャクしていたブリジットとルーカスが、今までのようにお互い気兼ねなく言いたい事を言い合う様を見て、少し離れた場所に居たメイドのニアも、護衛達三人も「やっと元に戻ったか」と安心して溜息を吐き出したのだった。
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