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 あれからブリジット達は店主に怪我は無いか、町の人達に怪我は無いか、などを確認して回り気付けば空は夕陽で赤く染まっていた。

 ブリジットは、荒くれ者を二人制圧してくれた男性をすぐにニアに追わせたのだが、店の外に出て行った筈の男性は既に姿を消しており、「見つからなかった」としょんぼり肩を落として報告するニアにブリジットは「しょうがないわ」と笑った。



 店主やあの店に居た町の人達にお礼を言われ、護衛が荒くれ者を町の憲兵に引き渡した後、ブリジット達は邸に戻って来ていた。

「町で小さな騒ぎが起きてしまったから、お父様にご報告をしなくちゃだわ……。あの男性のおかげで大事にはならなかったけれど……。もしまたああいった人達が入港する船と一緒に沢山やって来たら大変……。お父様に対処してもらわないと」
「そう、ですね……お嬢様。穏やかな町とは言え、今日のような方達が二度と入って来ないとは言い切れませんもの」

 報告の手紙を認めるブリジットの前に、ニアが淹れたての紅茶が入ったカップを置いてくれて、ブリジットは笑顔でお礼を告げる。

 カップに口を付けて紅茶を飲んでいると、護衛の一人が興奮するように言葉を紡いだ。

「それにしても、あの状況で声を上げるなんてあの男性、凄いですね……!」
「いつの間にか二人の男を倒していたしな。隊長、あの男性の動き見えました?」

 隊長、と話し掛けられたニーガンは自分の顎に手を当てて「うむ」と声を出してから自分の部下達に返答する。

「体の使い方、体重移動の仕方を見るに武術を嗜んでいるようだ。……俺がいた位置からはしっかり見えなかったが、掴みかかって来た男達を体術で無力化していたようだ」
「……」

 ブリジットはこくり、と紅茶を嚥下して「へぇ……」と心の中で呟く。

「我が国では見ないデザインの服装だったから、外国からやって来た渡航者だろう。……運が良ければ滞在中に会えるかもしれんな」
「会えたら話を聞きたいですね……!」
「武器を持っていないのにあれだけ強い人ですから、一度お手合わせしたいです!」

 興奮冷めやらぬ、といった様子で話す護衛達にブリジットも心の中でうんうん、と頷く。

(確かに、私ももう一度お会い出来たらお礼と……お手合わせしてもらいたいわね)

 などとブリジットが考えていると、メイドのニアがじろり、とブリジットを見詰めて来る。

「──お嬢様、今なにか不穏な事を考えていらっしゃいませんか?」
「……何も考えていないわよ? さあ、お父様への報告の続きを書かなくちゃだわ」

 ブリジットはぎくり、と顔を強ばらせたが誤魔化すように輝かんばかりの笑顔で再びペンを手に取った。
 その時──。


 コンコン! と少し強めに邸の玄関扉が叩かれて護衛がさっと顔色を変える。
 メイドのメアもブリジットを庇うようにブリジットの前に移動した。

 邸の玄関から、今ブリジット達が居る居間パーラーは近い。
 この町にある領主の邸はこじんまりとした大きさなので、玄関扉を強く叩かれれば簡単にパーラーまで音が響く。

 まだ、夕食時を少し過ぎた時間帯だ。

 町の人がやって来てもおかしくは無い。
 だが、店での一件があった事からブリジット達は少しだけ警戒した。

 護衛の一人が扉に向かって歩き出した時、扉の奥からか細くて、今にも消え入りそうな慣れ親しんだ声が聞こえて来た──。



「……ブリジット、俺だ。ルーカスだ……、すまない、顔を見たい……っ」
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