9 / 64
9
しおりを挟むルーカスの事を考えないようにと思っていたのに、時間が経って自分の感情が落ち着いてくるとブリジットはあの時のルーカスの顔を思い出してズキズキと良心が痛んだ。
ブリジットはブンブンと頭を振って何とか気持ちを切替えると読書は諦め、さっさとベッドに潜り込んだ。
翌朝。
朝食を食べ終えたブリジットは、昨日護衛達が町を見て回ったので案内してくれると言うのでその提案に頷いた。
お昼過ぎに町にやって来たブリジット達は、護衛の案内の下、町にある店を見て回ったり、宿屋や飲食店を回り、町の人から話も聞く。
皆、活気ある町を嬉しそうに話してくれてブリジットも自然と笑顔になる。
たくさん歩き回り、へとへとになって来た所で町の外れにある飲食店で小休憩をする事になった。
「お嬢様。ここは夕方になると酒を出し始めます。我々がいますので大丈夫だとは思いますが……念の為に夕方になる前に店を出ましょう」
「……治安が良くない、と言う訳ではないのよね?」
「ええ。比較的まともですが、外国からやって来た人間も多く利用しますので念の為、です」
「分かったわ。夕方になる前に出ましょう」
護衛の言葉にブリジットも素直に頷く。
穏やかな港町、気候も良く町の人達も穏やかだ。
この店の雰囲気も穏やかで正午を大分過ぎた今は町の人達が多く和気藹々と話しているが、用心に越したことはない。
ブリジット自身もそれは良く理解している。
護衛を連れ、使用人も連れ、自分の見た目や着ている服を見れば「貴族」と言う事は一目瞭然である。
この世界に善人だけしかいない、なんて事が無いのはブリジットも分かっている。
善人が多い町でも、中にはひと握りの悪人だっている。
そして、貴族に反発心を持つ人が居る事も知っている。
領地の、穏やかな町で変な騒ぎを起こしたくないと思っているブリジットは早々にこの店を退出する事に賛成した。
だが、夕方の時間よりも早く酒を求めてやってくる荒くれ者が居る事までは予測出来なかった。
ブリジット達が小休憩を終え、予定よりも早く店を出ようとしたその時だった。
店の扉が開き、客の入店を知らせるベルが鳴る。
ブリジットは「繁盛しているわね」と思いながら席を立ったのだが、そこで店に野太い男の声が響いた。
「おい! 店主、酒だ酒! 酒をくれ」
その声が響いた瞬間、一瞬で店内に緊張感が走る。
利用していた町の人達は不安そうにざわざわとし始め、酒を求めてやって来た男達──五人の男達の下に店主が向かう。
「申し訳ございません、お客様……。お酒は夕方になってからでないとお出し出来ないのです……、あと二時間程してからもう一度お越し頂いてもよろしいでしょうか?」
申し訳なさそうに、だが丁寧な口調と仕草で告げる店主に、だが男達は納得がいかないようで。
「あぁ!? 二時間後も今も変わらねえだろ! 今持ってこいよ!」
先頭に居た男は声を荒らげて叫び、他の男達がずかずかと店内に入ってくる。
「──……」
ブリジットは男達の振る舞いに眉を顰めたが、ブリジットのその様子を見てすぐに護衛が声を潜めて声を掛けて来る。
「──お嬢様、いけませんよ」
「ええ、分かっている……分かっているわ……」
ここで自分が割って入る事は出来ない。
自分はこの領地の、当主代理としてやって来たのだから騒ぎを大きくしてはいけない。
だからこそブリジットは護衛に声を掛けた。
「──これ以上酷くなるなら、貴方たちが対応してあげて」
「かしこまりました。素人五人ですから、二人だけで制圧出来ます」
ブリジットがほっとして護衛に頷き返そうとした時。
ブリジット達のテーブルから程近い場所にやって来ていた男達の内一人がブリジットを見て下卑た笑みを浮かべた。
「おいおい! 綺麗な姉ちゃんがいるじゃねーか! 酒ついでくれよ、ねーちゃん!」
「──っ!」
ぎゃはは、と笑いながらブリジットに触れようと手を伸ばして来た男に、店内の町人が顔を真っ青にする。
観光客では無い町の人は、ブリジットが誰なのか、を分かっているのだ。
ブリジットの傍にいた護衛が素早く剣を抜こうとした瞬間。
「ここはお前たちの来る場所じゃない、早く出て行け」
店の中から、若い男の低い声が聞こえた。
224
お気に入りに追加
3,172
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人
キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。
だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。
だって婚約者は私なのだから。
いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。
まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。
少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。
そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。
そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。
人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。
☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。
王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。
王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。
☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。
作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。
☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。)
☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。
★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました
柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》
最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。
そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】ハーレム構成員とその婚約者
里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。
彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。
そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。
異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。
わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。
婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。
なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。
周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。
コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
その発言、後悔しないで下さいね?
風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。
一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。
結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。
一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。
「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が!
でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません!
「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」
※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※クズがいますので、ご注意下さい。
※ざまぁは過度なものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる