【完結】婚約者様、嫌気がさしたので逃げさせて頂きます

高瀬船

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 ルーカスの事を考えないようにと思っていたのに、時間が経って自分の感情が落ち着いてくるとブリジットはあの時のルーカスの顔を思い出してズキズキと良心が痛んだ。

 ブリジットはブンブンと頭を振って何とか気持ちを切替えると読書は諦め、さっさとベッドに潜り込んだ。




 翌朝。
 朝食を食べ終えたブリジットは、昨日護衛達が町を見て回ったので案内してくれると言うのでその提案に頷いた。

 お昼過ぎに町にやって来たブリジット達は、護衛の案内の下、町にある店を見て回ったり、宿屋や飲食店を回り、町の人から話も聞く。

 皆、活気ある町を嬉しそうに話してくれてブリジットも自然と笑顔になる。
 たくさん歩き回り、へとへとになって来た所で町の外れにある飲食店で小休憩をする事になった。

「お嬢様。ここは夕方になると酒を出し始めます。我々がいますので大丈夫だとは思いますが……念の為に夕方になる前に店を出ましょう」
「……治安が良くない、と言う訳ではないのよね?」
「ええ。比較的まともですが、外国からやって来た人間も多く利用しますので念の為、です」
「分かったわ。夕方になる前に出ましょう」

 護衛の言葉にブリジットも素直に頷く。

 穏やかな港町、気候も良く町の人達も穏やかだ。
 この店の雰囲気も穏やかで正午を大分過ぎた今は町の人達が多く和気藹々と話しているが、用心に越したことはない。

 ブリジット自身もそれは良く理解している。
 護衛を連れ、使用人も連れ、自分の見た目や着ている服を見れば「貴族」と言う事は一目瞭然である。
 この世界に善人だけしかいない、なんて事が無いのはブリジットも分かっている。
 善人が多い町でも、中にはひと握りの悪人だっている。
 そして、貴族に反発心を持つ人が居る事も知っている。

 領地の、穏やかな町で変な騒ぎを起こしたくないと思っているブリジットは早々にこの店を退出する事に賛成した。



 だが、夕方の時間よりも早く酒を求めてやってくる荒くれ者が居る事までは予測出来なかった。




 ブリジット達が小休憩を終え、予定よりも早く店を出ようとしたその時だった。

 店の扉が開き、客の入店を知らせるベルが鳴る。
 ブリジットは「繁盛しているわね」と思いながら席を立ったのだが、そこで店に野太い男の声が響いた。

「おい! 店主、酒だ酒! 酒をくれ」

 その声が響いた瞬間、一瞬で店内に緊張感が走る。

 利用していた町の人達は不安そうにざわざわとし始め、酒を求めてやって来た男達──五人の男達の下に店主が向かう。

「申し訳ございません、お客様……。お酒は夕方になってからでないとお出し出来ないのです……、あと二時間程してからもう一度お越し頂いてもよろしいでしょうか?」

 申し訳なさそうに、だが丁寧な口調と仕草で告げる店主に、だが男達は納得がいかないようで。

「あぁ!? 二時間後も今も変わらねえだろ! 今持ってこいよ!」

 先頭に居た男は声を荒らげて叫び、他の男達がずかずかと店内に入ってくる。

「──……」

 ブリジットは男達の振る舞いに眉を顰めたが、ブリジットのその様子を見てすぐに護衛が声を潜めて声を掛けて来る。

「──お嬢様、いけませんよ」
「ええ、分かっている……分かっているわ……」

 ここで自分が割って入る事は出来ない。
 自分はこの領地の、当主代理としてやって来たのだから騒ぎを大きくしてはいけない。

 だからこそブリジットは護衛に声を掛けた。

「──これ以上酷くなるなら、貴方たちが対応してあげて」
「かしこまりました。素人五人ですから、二人だけで制圧出来ます」

 ブリジットがほっとして護衛に頷き返そうとした時。
 ブリジット達のテーブルから程近い場所にやって来ていた男達の内一人がブリジットを見て下卑た笑みを浮かべた。

「おいおい! 綺麗な姉ちゃんがいるじゃねーか! 酒ついでくれよ、ねーちゃん!」
「──っ!」

 ぎゃはは、と笑いながらブリジットに触れようと手を伸ばして来た男に、店内の町人が顔を真っ青にする。
 観光客では無い町の人は、ブリジットが誰なのか、を分かっているのだ。

 ブリジットの傍にいた護衛が素早く剣を抜こうとした瞬間。

「ここはお前たちの来る場所じゃない、早く出て行け」

 店の中から、若い男の低い声が聞こえた。
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