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しおりを挟むブリジット・アルテンバークと、ルーカス・ラスフィールドは幼い頃に婚約を結んだ。
それはお互いの侯爵家が昔から交流があったからだろうか。それとも何か政治的な思惑があったかは分からないが、幼い頃からお互い面識があり、互いに邸を行き来していた程の仲だったので、婚約の話が出る事も当然だろう、と頷ける。
婚約を結んだのはブリジットが七歳、ルーカスが九歳の時で。
それは今から十年も前の事だ。
十年前から交流があり、まるで兄妹のように接して来た二人は度々喧嘩もして来ていた。
それは十年経った今でも頻繁に行われていて。
幼い頃はお互いに取っ組み合いの喧嘩のような物をしてしまう程、ブリジットは活発な女の子で。
走るのが好きなブリジットは度々転んでは怪我をしてしまう。だから行動に気をつけるんだ、とルーカスが言うようになったのはいつ頃からだっただろうか。
正義感が強く、曲がった事が大嫌いなブリジットは、下位の爵位の者を虐める子供がいれば女の子なのにそれを止めようと、虐める貴族の子供に掴みかかる程で。
女の子なのに、怪我をしてしまったら。今はまだ子供同士力の差も無いが、もう少し成長したら男の子の方が力が強くなる。
もしブリジットが顔に傷を負ってしまったら、と心配したルーカスはブリジットを注意するようになった。
けれど、ブリジットは自由奔放な人間で。ルーカスの言葉に納得し、ごめんなさい、と謝ってはくれるものの、誰かが目の前で虐げられていたら自ら飛び込んでしまう。
誰かが困っていたら手を貸してしまう。
それも、身分問わずに、だ。
もし、そんなブリジットを狙って困っている振りをして近寄って来る輩がいたら。
そんな汚い人間だっているのだから、とルーカスはブリジットに対してキツい言葉で注意する事が多くなってしまった。
そして、成長しても変わらないブリジットの行動にルーカスもついつい言葉がキツくなり……の繰り返しで。
「──ブリジットが……先に……?」
使用人の言葉を聞いて、ルーカスは唖然としてしまう。
やはり、昨日のブリジットはいつもと様子が違った。そう感じたのは間違いでは無かったし、あれ程不安感を覚えたのも間違いでは無かった。
申し訳なさそうに頭を下げる使用人に、ルーカスはお礼を告げると慌てて馬車に飛び乗り、ブリジットの後を追う。
ガタガタと馬車の振動に身を任せ、ルーカスは自分の両膝に腕を乗せ手のひらを額に当てて項垂れる。
──最近……いや、ここ数年は顔を合わせればブリジットに口煩く小言を言うばかりだった。
そして、ブリジットと比較するように王女殿下の素晴らしさを何度も何度もブリジットの前で告げた。
「……婚約者の前で、他の女性を褒めるなんて……婚約者と他の女性を比較するなんて……最低だろ……っ」
今になって自分の犯した罪が大きく、重い物だと痛感したルーカスはぎゅっと手のひらを握る。
ブリジットが涙を流した姿など、涙を浮かべていた姿など、子供の頃以来見ていない。
それ程、ブリジットを傷付け続けて来た過去の自分をどれほど後悔してももう遅い。
ルーカスはブリジットの下に早く行かなくては、とそれだけを考えて学院に着くのをまだかまだか、と待ち続けた。
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